変分法
変分法 (へんぶんほう、Variational method, Calculus of variations)は、関数を取り値を返す関数である汎関数(functional)の微分に関する手法である。解析力学における重要な方程式は最小作用の原理を元に変分法を用いて導出される。
変分法を使った原理
変分法を使った計算例
例えば、物性物理学について考えてみよう。多体問題において多体の波動関数を使って固有値問題を解析的かつ厳密に解くことは困難であり、何らかの近似法を用いて解かれる。その近似手法の一つに変分法がある。
ある多体系において、規格化、直交性などの条件の下で任意に選んだ試行関数(変分関数とも言う。ここでは多体の波動関数)を、Ψtrialとする。試行関数はいろいろな選び方があるがここでは、Ψtrialは、系を記述する厳密な固有関数(波動関数)Ψiの展開で記述できるとする。
- <math> \Psi_{trial} = \alpha_0 \Psi_0 + \alpha_1 \Psi_1 + \alpha_2 \Psi_2 + \cdots </math>
ここで、Ψ0を基底状態の固有関数とする。Ψ1、Ψ2・・・は励起状態の固有関数。系のハミルトニアンをHとして、Hに対するΨiに対応する固有値をEiとすると、試行関数Ψtrialの固有値Etrialは、
- <math> \left\langle \Psi_{trial} | H | \Psi_{trial} \right\rangle = E_{trial} </math>
であり、
- <math> \begin{matrix} E_{trial} & = & \left\langle \alpha_0 \Psi_0 + \alpha_1 \Psi_1 + \alpha_2 \Psi_2 + \cdots | H | \alpha_0 \Psi_0 + \alpha_1 \Psi_1 + \alpha_2 \Psi_2 + \cdots \right\rangle \\ \ & = & | \alpha_0 |^2 E_0 + | \alpha_1 |^2 E_1 + | \alpha_2 |^2 E_2 + \cdots \ge E_0 \end{matrix} </math>
となる。この時、試行関数の固有値は、必ず基底状態の固有値E0(これがこの場合の厳密の解)に等しいかエネルギー的により高い値となる。そして、展開係数であるαiを調節してEtrialの最小値(最適値)Eoptを求める。これが試行関数を使った変分法の手順である。この場合の最適値Eoptも、真の固有値Eexact(=E0)に対し、
- <math> E_{opt} \ge E_{exact} </math>
となる。これが満たされない場合、その変分計算は正しくない。以上では、試行関数は厳密な解としてのΨ0を含むという特殊な場合である。実際の計算では厳密な解が存在しない場合がほとんどである。尚、以上に出てくる固有値は、系の全エネルギーと置き換えて考えても良い。変分法の結果の良し悪しが、試行関数の選び方に強く依存する場合がある。
試行関数の具体例としては、スレーター行列式を使い、個々の一粒子波動関数を最適化するものや、試行関数にジャストロウ型波動関数を使い量子モンテカルロ法を使って最適値を求めたりする。量子化学的手法やバンド計算も変分法が使われており、様々な場面で利用されている。
試行関数を使用しない変分法も存在する。
参考文献
- 日本数学会 『岩波数学辞典(第3版)』 岩波書店、1985年。ISBN 4000800167
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