安楽椅子探偵
安楽椅子探偵(あんらくいすたんてい、アームチェア・ディテクティブ、Armchair-Detective)とは、ミステリの分野で用いられる呼称で、部屋から出ることなく、あるいは現場に赴くことなく事件を推理する探偵、あるいはそのような趣旨の作品を指す。狭義では、その語の通り、安楽椅子(語意通りなら肘掛け椅子だが)に腰をおろしたままで事件の謎を解く者を指すが、実際にはもっと広く曖昧な範囲を含む。
概要
書斎の安楽椅子に深々と埋まりパイプをゆらしながら推理を巡らすというステレオタイプの作品も存在するが、実際に安楽椅子に座っていなくても、寝たきり(寝たきり探偵、ベッド・ディテクティヴ)などの理由で行動が制限されている作品も含まれる。一般に「安楽椅子」の語は現場へ出向くことなく頭の中で推理するという意味合いでしかなく、データ(関係者の話や新聞記事、調書など)を基にして推理を展開するタイプの探偵は該当すると見なせる。
安楽椅子探偵は原則として事件現場に向かわないため、視覚的観点から現場の空間把握や新証拠発見可能性などが著しく減少することになり、通常の推理と比べ著しく不利な立場にある。また、安楽椅子探偵の傾向として、自分の推理の正しさを自分から立証しようとしないという物があり、場合によっては探偵自身が「これはひとつの推論に過ぎない」などとして、真相はどうであったかは曖昧にしてしまうケースもままある。よって作品の出来映えには、論理的な破綻を読者に感じさせず、なおかつ予想外の驚きを与えるという相反する構成を要求される。
シャーロック・ホームズのように、本来行動型の探偵が作品によって安楽椅子探偵を務めるということも少なくない。一方で、隅の老人のような安楽椅子型の探偵[1][2][3]が自ら証拠集めを行うこともある。実際にシリーズを通して主人公が安楽椅子探偵を貫徹している作品は少なく、安楽椅子探偵かどうかは、多分に読者の印象や、作者のプロットに影響される傾向がある。安楽椅子探偵でない主人公によるものであっても、安楽椅子探偵形式の作品については「安楽椅子探偵もの」とジャンル分けされることもある。
なお、変り種として、安楽椅子そのものが探偵という作品もある(『安楽椅子探偵アーチー』、松尾由美)。
代表的な安楽椅子探偵
ベッド・ディテクティヴも参照のこと。
日本国外
- ジェーン・マープル:『火曜クラブ』など(アガサ・クリスティ)
- 老給仕ヘンリー:「黒後家蜘蛛の会」シリーズ(アイザック・アシモフ)
- 隅の老人[1][2][3]:「隅の老人」シリーズ(バロネス・オルツィ(=オルツィ・エンムシュカ))
- ネロ・ウルフ:『毒蛇』など(レックス・スタウト)
- リンカーン・ライム:『ボーン・コレクター』など(ジェフリー・ディーヴァー)
- ニッキイ・ウェルト教授:「九マイルは遠すぎる」(ハリイ・ケメルマン)
- プリンス・ザレスキー:「プリンス・ザレスキー」シリーズ(マシュー・フィリップス・シール)
日本
- 三番館のバーテン:『三番館』シリーズ(鮎川哲也)
- 滝沢:『退職刑事』シリーズ(都筑道夫)
- 山下奉文:『シベリア超特急』シリーズ(水野晴郎)
- 春桜亭円紫:『円紫さんと私』シリーズ(北村薫)
- 『安楽椅子探偵アーチー』シリーズ(松尾由美)