量子条件
量子条件(りょうしじょうけん、quantum condition)とは、
物理学の中でも様々存在する「量子力学的な考え方」その系統のひとつとして、「実現することが可能な物理状態」を定める為の条件・その考え方である。
デンマークの物理学者ニールス・ボーア(Niels Bohr)が唱えた、水素原子内の電子が安定したままで存在するための条件(ボーアの量子条件)や、アーノルド・ゾンマーフェルトがより一般的な形式にまとめたボーア・ゾンマーフェルトの量子条件が知られる。
ボーアの量子条件
解説
ボーアの条件が提唱される前の古典電磁気学の法則としては、
「加速度運動する荷電粒子は電磁波を放射する」とされていた。
原子核の周囲を回る電子は、
電荷間に働くクーロン力によって原子核からの引力を受けて加速度運動をしている。
電磁気学の法則によれば、
「電子は自身の運動エネルギーを連続的に電磁波として放射後、失った運動エネルギーの分だけ急速に原子核に引き寄せられる」はずだった。
しかし、現実には原子核の周囲を回る電子は電磁波も放射せず、原子核に落ち込むことなく運動を続けていた。
その現実から、「どのようなメカニズムが電子を安定させているか」が古典電磁気学及び、物理学の大きな問題だった。
1913年 ニールス・ボーアはこの矛盾を解決する為、
いくつかの仮説を立て、この電子の運動を説明する原子模型を提示した。
(詳細はボーアの原子模型の項目を参照)
ボーアの条件により、
「電子は原子核の周囲を回るときには、特定の軌道しかとることが出来ない」と結論づけられる。
これを原子軌道という。
「最も内側の原子軌道を回る電子はそれ以上原子核に近づけない」
その為、
原子核にそれ以上吸い寄せられる・近付くこともなく安定した軌道を回ることが出来る。
また、 軌道に応じて電子のエネルギーの値が決まるとすると、電子は特定の離散的なエネルギー準位しか実現出来ないことになると考えた。
電子が別の軌道に移るときは、
エネルギー準位の差と同じエネルギーを与えられるか放出しなければならない。
これは、「原子はなぜ特定の波長の電磁波だけを放出したり吸収したりするのか」
という疑問をうまく説明するものであった。
しかし、ボーアの量子条件では説明できないこともあった。
水素原子以外の原子では、原子核の周囲を複数の電子が回っている。
長い時間には全ての電子は電磁波を放出して最も内側の軌道を回るようになるはずであるが、実際には特定の軌道を回る電子の数は限られていた。
この問題はパウリの排他原理によって解決された。
物質波による解釈
後にド・ブロイの唱えた物質波の理論の観点では、
ボーアの量子条件は「原子核の周囲を回る電子の物質波が定常波であるための条件」と解釈出来た。
これは「原子核の周囲を運動する電子軌道の長さ=物質波の波長の整数倍でなければならない」
ということを意味した。
もし整数倍でなければ、
干渉効果によって物質波は自分自身を打ち消してしまうのだ。
ボーア・ゾンマーフェルトの量子条件
ゾンマーフェルトは1自由度(円運動)に限られていたボーアの量子条件を多自由度の場合まで拡張して次の形にまとめた。
- <math>J_i=\oint p_i dq_i = nh \quad (n=1,2,\dots)</math>
ここにhはプランク定数、 <math>\, p_i</math>は一般化運動量、 <math>\, q_i</math>は一般化座標であり、 積分は<math>\, q_i</math>の1周期にわたる。
これをボーア・ゾンマーフェルトの量子条件またはゾンマーフェルト・ウイルソンの量子条件と呼ぶ。
同様の結果は、W.Wilsonや石原純によって得られている。
ゾンマーフェルトはこの条件を再び水素原子の問題に適用することで、
ボーアの理論で1つの量子数nで指定された電子軌道がさらにいくつかの電子軌道に分かれることを示した。