鞭打ち
鞭打ち(むちうち)は、刑罰の1種で、鞭で打って苦痛を与え、これにより悔悟や自白を強要する罰。東洋では笞刑(ちけい)とも称する。世界中で刑罰、拷問として広く行われ、現在でもシンガポール、マレーシア、イスラム諸国などで行われている。鞭打ち刑の対象になるのは国によって様々であるが、主として窃盗、秤のごまかしなどの軽罪の犯人である。病人には鞭打ちを科さない(治癒後に科する)と決めている国、東南アジアのシャムポックやイギリスの九尾の猫鞭(en:Cat_o'_nine_tails)など、連打して死に至らしめる威力のある鞭を使う国などその執行方法も国によってさまざまである。
鞭
シャムポックは水牛の皮を用いた丈夫な鞭で、五十打もすると外傷性ショックから死に至る危険がある。九尾の猫は、丈夫な組紐を九つに分け、それぞれの先端に石や粒状物を括り付けたもので、兵士の懲罰に使われている。しかし、現代ではこのような致死性のある鞭の使用は禁止されており、鞭打ち刑で死亡したり重傷を負わないように規則が定められている。
懲罰性
鞭打ちは公開で行われることもある。羞恥心と痛みの感覚を刺激するので、再犯防止には効果的であるという意見がある。また鞭打ちにより死ぬ事は少ないので、安全で苦痛の多い体刑として古代から行われてきた。
また刑罰以外にも、若年者への懲罰としても多く用いられた。イギリスの寄宿制の学校などでは、伝統的に鞭打ちが行われてきた。この場合の鞭は、刑罰や拷問に用いられるような特殊な形状の鞭ではなく、木の枝といった棒であるが、それなりの苦痛を伴うため、しばしば教育方法として適切かどうかという議論がなされてきた。
シンガポール
シンガポールでは、籐の鞭による鞭打ちが犯罪に対する体罰として採用されている。刑事罰としてだけではなく学校における生徒への体罰としても合法で行われている。学校において鞭打ちを執行できるのは学校長だけであり、一般教員が行うことは禁止されている。刑罰としては毎年千人以上の犯罪者に執行されている。
執行手順
刑事訴訟法325条から332条で鞭打ち刑の手順が定められている。鞭打ち刑の対象者は16から50歳の男性で、医師が執行可能と判断した者である。女性および51歳以上の男性には、代わりに12か月以下の懲役が付加される。死刑判決を受けた者には、鞭打ち刑は課されない。受刑者が受ける鞭打ちは、最大24打(18歳以下の少年の場合は最大10打)とする。籐の鞭は、直径1.27センチメートル未満の物を用いる。18歳以下の少年には軽い鞭を用いる。刑務所内の規則を破った受刑者は、鞭打ち刑を受けていなくても鞭打たれることがある。
適用される犯罪
- 不法入国 - 3打以上
- 90日以上のオーバーステイ - 3打以上
- 武器の不法所持 - 6打以上
- 武器の不正取引 - 6打以上
- 不穏当な行為
- 男性同士の同性愛行為
- 強姦 - 12打以上
- 暴力行為 - 3から8打
- 海賊 - 12打以上
- ハイジャック
- 暴動
- 殺人未遂
執行例
1993年、シンガポールで地域住民の自動車への落書きを含む破壊行為が起こっていた。逮捕された容疑者の供述から、シンガポールのアメリカンスクールに通うアメリカ人生徒マイケル・フェイ (Michael P. Fay) が浮かびあがり、自動車の破損や道路標識の盗みを含む複数の犯行を認め、鞭打ち刑の判決を受ける。1994年、国際的な注目が集まる中でこの刑は執行され話題になった。
バングラデシュ
バングラデシュの裁判所では、2010年7月にファトワーによる刑罰を違憲とする判断を示しているが徹底されておらず、しばしば姦通罪などを理由とした私刑で女性が鞭打ちを受け、死亡する例が見られる[1]。