コウジカビ

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ファイル:Ascomycetes.jpg
アオカビコウジカビを含む様々な無菌培養された菌類

コウジカビ(麹黴)は麹菌(きくきん)ともいい、アスペルギルス (Aspergillus) 属に分類されるごく普通の不完全菌の一群である。このうち一部のものが、として味噌醤油日本酒を作るために用いられてきたことからこの名が付いた。コウジカビは、増殖するために菌糸の先端からデンプンタンパク質などを分解する様々な酵素を生産・放出し、培地である蒸米や蒸麦のデンプンやタンパク質を分解し、生成するグルコースアミノ酸を栄養源として増殖する[1]テンプレート:信頼性要検証発酵食品の製造に利用される一方で、コウジカビの仲間にはヒトに感染して病気を起こすものや、食品に生えたときにマイコトキシン(カビ毒)を産生するものがあり、医学上も重要視されているカビである。

学名は、分生子がカトリックにおいて聖水を振りかける道具であるアスペルギルム(Aspergillum)に似ていることから命名された。

2004年一島英治東北大学名誉教授日本醸造協会誌第99巻第2号巻頭随想において「麹菌は国菌である」と提唱。2006年10月12日日本醸造学会大会で麹菌(Aspergillus oryzae)が国菌に認定された。

生物学的特徴

コウジカビは、日本では身近なところにごく普通にみられる不完全菌である。アオカビと同様、放置されたパンなどの上によく姿を見せる。空中から基質上に胞子が落ちると、胞子は発芽して、菌糸は基質に伸びて、コロニーを形成する。コロニーはすぐに胞子形成による無性生殖を始める。コウジカビの胞子は、分生子と呼ばれる外生胞子である。

ファイル:Aspergillus illust.png
コウジカビの構造

分生子柄は、大型のものでは1mmくらいまで伸び、基質から立ち上がる。柄の先端は丸くふくらみ、頂のうとよばれる。その表面に分生子形成細胞である紡錘形のフィアライドを一面につける。フィアライドの先端からは分生子が出芽状に形成される。分生子は成熟すると、分生子を押し出すように、新しい分生子がフィアライドから作られ始める。その結果、フィアライドの先に、新しいものから古いものへと続く分生子の鎖ができる。頂のう表面のフィアライド全てから分生子の数珠ができるので、分生子柄全体としては、頂のうを中心に針山のように分生子の数珠がつき、古くなると、それが崩れて何だか分からなくなる。古くならないうちは、分生子の塊は柄の先端に丸くついているので、肉眼で見ると、ごく小さな毛玉か何かが並んでいるように見える。分生子は黄色、深緑、褐色、黒などの色をしている。緑っぽいものはアオカビと間違えられることがある。黒っぽいものはクロカビと呼ばれる場合がある。

なお、このような分生子形成型はアオカビと共通であり、両者の類縁関係が近いことを示すとも言える。特に頂のうが小さいコウジカビは、アオカビと紛らわしい場合がある。

分類上の位置

有性生殖が知られているものは、いくつかの属に分かれるが、いずれも閉子のう殻という、球形で0.2mm程度の大きさの子実体を作るものである。それらは子のう菌門不整子嚢菌綱ユーロチウム目に分類されている。有性生殖が知られていないものについても、リボソームRNAの相同性から子のう菌に属すると考えられているものが多い。

生態

野外の様々な基質から広く分離される。落ち葉や、動物のからは必ずといってよいほど出現する。土壌からも出ることが多い。また、室内に放置した食品などにも頻繁に出現する。パンや餅に生えるカビはこれかアオカビのことが多い。空中雑菌としても普通である。下記のように病原体として働くものもある。

産業利用

コウジカビは自然界の常在真菌であり、食品を腐敗させる代表的なカビの一つである。しかし同時に、コウジカビはデンプンブドウ糖に、タンパク質アミノ酸に分解する性質が強く、また種によっては効果的に脂肪を分解吸収するので、古くから味噌醤油鰹節などの発酵を利用した食品(発酵食品)の製造に利用されている。このとき、コウジカビを米、米ぬか、麦、大豆などに生やして継代培養したものが利用されており、これを種麹(たねこうじ)と呼び、製造に利用される。

A. oryzae (Ahlburg) Cohn ニホンコウジカビ:
デンプンをブドウ糖に分解する性質が日本酒や甘酒味醂の、タンパク質をアミノ酸に分解する性質が味噌、醤油の製造に使われる。
2005年12月、醸造協会、酒類総合研究所、産業技術総合研究所、東京農工大学など国内16機関で組織される「麹菌ゲノム解析コンソーシアム」と製品評価技術基盤機構がニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae RIB40株)のゲノム解読に成功している。ニホンコウジカビが生産する酵素は、タカジアスターゼなどとして消化剤にも使用されている。
A. sojae Sakaguchi & Yamada ショウユコウジカビ:
タンパク質をアミノ酸に分解する性質が特に強く、味噌、醤油の製造に使われる。たまりの製造に使われるのはA. tamarii
A. awamori Nakazawa アワモリコウジカビ:
胞子は黒く、これで作られた麹を黒麹という。デンプンをブドウ糖に分解するだけではなく、クエン酸を作り出す性質が強い。このクエン酸が雑菌の繁殖を抑え、もろみの腐敗を防ぐので、気温の高いところでの醸造を可能にする。泡盛焼酎の製造に使われる。
A. glaucus (L.) Link
低水分・高塩分でも増殖できる。鰹節のカビ付けに利用され、これにより水分が抜けると共に余分な脂肪が分解され、独特の芳香、光沢が出る。

コウジカビと病気

アスペルギルス症(カビ性肺炎)

Aspergillus属のうち、A. fumigatusA. flavusA. nigerなどの一部のものはヒトに対する病原性を持ち、肺や外耳道、鼻腔など体の内部に感染(深在性感染)することがある。これらの一連のカビによる感染症アスペルギルス症あるいはカビ性肺炎と呼ぶ。 なかでも肺に感染したものは、肺アスペルギルス症と呼ばれ、治療が困難であるため医学上重要である。これには肺結核患者の肺に生じた空洞内で菌塊を形成するアスペルギローマや、白血病末期などに肺実質内で菌糸が増殖するアスペルギルス肺炎が含まれる。この他、本菌は皮膚に感染(表在性感染)することもあるが、多くの場合これらアスペルギルスによる感染は日和見感染であり、健常者が発病することは比較的少ない。 また、A. oryzae は職業性アレルギー原因菌であり、JISの抗カビ効果規格試験において指定菌となっている。

A. fumigatusは鳥類では気嚢、ウマでは喉囊に感染しやすい。

この他、ある種のコウジカビの胞子はアレルゲンになり、アレルギー性気管支炎の原因の一つであることも知られている。また、食品中でマイコトキシン(カビ毒)を作ることも医学上の問題である(詳しくはマイコトキシンを参照)。

ヒトの感染症については、

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ウシの感染症については、

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コウジカビ属の種によるアフラトキシン産生の有無

コウジカビは、アスペルギルス (Aspergillus) 属に分類されるごく普通の不完全菌の一群である。コウジカビの仲間にはヒトに感染して病気を起こすものや、食品に生えたときにマイコトキシン(カビ毒)を産生するものがあり、医学上も重要視されているカビである。熱帯から亜熱帯地域にかけて生息するアスペルギルス・フラバス (Aspergillus flavus) などのカビによりアフラトキシンが生成される。アフラトキシンは、紫外線の照射により強い蛍光を発する。1960年にイギリス七面鳥が大量死した際の分析中にアフラトキシンが発見された[2]

なお、コウジカビのうち一部のものがとして味噌醤油日本酒を作るために用いられてきた。発酵食品の製造に利用される一方で、1960年代に菌のA. oryzaeニホンコウジカビ)やA. sojaeショウユコウジカビ)でアフラトキシン生成が疑われたが、アフラトキシンを生成する機能は失われている事が判明している[3]

コウジ酸による発癌の可能性と安全性

コウジ酸麹菌グルコース等のを発酵させることによって生成されることが知られているが、その詳しい生合成経路は不明である。メラノサイトに作用し、チロシナーゼの活性や合成を阻害し、メラニンの生成を抑えるという活性を持つ。日本では美白化粧品(医薬部外品)の有効成分として使用されていたが、動物実験で肝がんを引き起こす可能性を示唆する報告がなされたため、2003年3月厚生労働省通達により医薬部外品(薬用化粧品)への使用が一旦中止された。なお、マウスにおいても、ラットにおいても肝臓への影響は高い用量(1-3%混餌投与)でみられた知見である。

その後、化粧品メーカーがコウジ酸の安全性を確認する追加試験を実施し、コウジ酸の化粧品としての使用は安全性上なんら問題がないことを証明した。このため2005年11月2日、厚生労働省は薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会において「医薬部外品において適正に使用される場合にあっては、安全性に特段の懸念はないものと考えられる。」との見解を発表した。これに伴い前述の使用中止の通知が撤回されたと同時に、コウジ酸配合化粧品(医薬部外品)の製造販売の再開が認められた[4]

コウジカビによる植物の病気

Aspergillus属のうち、いくつかの種は植物病原菌としても知られる。代表的なものとしては、A. chevalieriA. nidulansA. restricutusA. candidusは、コメに感染し病変米の原因となる。また、A. nigerモモリンゴこうじかび病や、タマネギチューリップの貯蔵中の鱗茎黒かび病を引き起こす。

コウジカビ属に属する種

コウジカビ属に属する種は以下を含む数百種である[5]

脚注

  1. 醸造の知識あれこれ 参考書「改定醸造学」と書いてある。
  2. 七面鳥X病の発生からアフラトキシンの発見まで 山脇学園短期大学紀要 35 pp.37-61 19971221
  3. アフラトキシン非生産の証明キッコーマンHP
  4. 資料No.1-3 コウジ酸を含有する医薬部外品 (厚生労働省)
  5. テンプレート:Cite pmid

関連項目