黒体

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黒体(こくたい、テンプレート:Lang-en-short)あるいは完全放射体(かんぜんほうしゃたい)とは、外部から入射する電磁波を、あらゆる波長にわたって完全に吸収し、また熱放射できる物体のこと。

概要

物体の色というのは、その物体が反射する可視光線の波長に由来する。特定の波長の可視光線を吸収し、残りを反射する物質は、その波長に応じて色を持つ。一方で全ての可視光線を反射する物体は白であり、逆に全ての可視光を吸収する物体は黒という事になる。そしてそこから発展して、可視光線に限らず、あらゆる波長の電磁波を吸収する物質の事を、黒体と呼ぶ。

しかしながら黒い物体であっても、全く可視光線を反射しない物質は存在しない。したがって完全な意味での黒体(完全黒体)は、現実には存在しないと言われている。ブラックホールなど近似的にそうみなせる物質、物体はある。現在、工業的に作り出された最も黒体に近い物質は、紫外線 (UV-C) から可視光線遠赤外線(F-IR)200 nm -200 µm までの広い波長域で 99 % の光(電磁波)を吸収するカーボンナノチューブ黒体である。

黒体からの熱などの放射を黒体放射と言う(以前は黒体輻射ともいった)。ある温度の黒体から放射される電磁波のスペクトルは一定である。温度 T において、波長 λ の電磁波の黒体放射強度 B (λ) は、

<math>B(\lambda) = \frac{2hc^2}{\lambda^5}\frac{1}{e^{hc/\lambda kT}-1}</math>

で表される。これをプランク分布という。プランク分布を全波長領域で積分することで、黒体放射の全エネルギーが T4 に比例する(E = σT4σシュテファン=ボルツマン定数)というシュテファン=ボルツマンの法則を得る。また微分して B (λ) が極大となる λ を求めることで、放射強度最大の波長が T に 反比例するというウィーンの変位則を得る。

空洞放射

十分に大きな空洞を考え、空洞を囲む壁は光を含む一切の電磁波を遮断するものとする。この空洞に、その大きさに対し十分に小さな孔を開ける。孔を開けることによる空洞内部の状態の変化は無視できるとする。外部からその孔を通して入った電磁波(ある特定の波長のものが光)が、空洞内部で反射するなどして再び出てくることは、孔が十分に小さければ無視することができる。つまりこの空洞は、外部から入射する電磁波を(ほぼ)完全に吸収する黒体とみなすことができる。

この空洞からの熱などの放射を空洞放射という。

空洞放射に近い身近な例は、ガラス工房などでガラスを熱する炉である。産業革命以降、製鉄業等で炉内の温度測定をする需要があったため、空洞放射の理論が用いられた背景がある[1]

黒体放射と量子力学

黒体放射(テンプレート:Lang-en-short)とは黒体から放射される光。温度が低いときは赤っぽく、温度が高いほど青白くなる。夜空に輝く星々も青白い星ほど温度が高い。温度はK(ケルビン)で表示される(右図参照)。

理想的な黒体放射をもっとも再現するとされる空洞放射が温度のみに依存するという法則は、1859年グスターブ・キルヒホッフにより発見された。以来、空洞放射のスペクトルを説明する理論が研究され、最終的に1900年マックス・プランクによりプランク分布が発見されたことで、その理論が完成された。

物理的に黒体放射をプランク分布で説明するためには、黒体が電磁波を放出する(電気双極子が振動する)ときの振動子の量子化を仮定する必要がある(プランクの法則)。つまり、振動子が持ちうるエネルギー (E) は振動数 (ν) の整数倍に比例しなければならない。

E = nhν (n = 0, 1, 2, ...)

この比例定数 h = 6.626×10-34 [J・s] は、後にプランク定数とよばれ物理学の基本定数となった。これは物理量は連続な値をとり、量子化されないとする古典力学と反する仮定であったが、1905年アルベルト・アインシュタインがこのプランクの量子化の仮定と、光子の概念を用いて光電効果を説明したことにより、この量子化の仮定に基づいた量子力学が築かれることとなった。

灰色体

工業製品などでの設計では、対象の温度範囲が限られていることから、しばしば放射率が周波数に依存しない理想的な物体として灰色体(かいしょくたい)を用いる。灰色体は、黒体の放射率を 1 より小さい定数としたものと等価であり、黒体よりも現実的なモデルを与える。

応用例

脚注

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関連項目

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