鋏角亜門

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鋏角亜門(きょうかくあもん、Chelicerata)は、節足動物門を大きく分けた亜門のひとつである。クモサソリカブトガニなどを含む。


概要

鋏角亜門に含まれる節足動物は以下のような基本的体制の違いによって、それ以外の節足動物(甲殻類昆虫類多足類三葉虫類)から区別される。

  1. 頭部胸部は融合して頭胸部を形成することが多い。
  2. 体は頭胸部と腹部からなり、腹部の後方は尾部として区別できることがある。
  3. 頭部には触角が存在しない。
  4. 頭部の口の前の体節鋏角があるほかは、独立した顎のような構造がない。
  5. 胸部には五対の歩脚型付属肢があり、そのうち最初の一対は触肢としてやや異なった構造を持つ場合がある。
  6. 腹部付属肢は退化している場合が多いが、あれば普通は鰭状である。

下位分類

以下の分類群がここに含まれる。

他に、化石でのみ知られる群としてウミサソリ類と光楯類(Aglaspida)があり、カブトガニ綱に含めることもある。また、ウミグモについては、鋏角亜門に含めないとする説もある。

系統関係

系統については、三葉虫類から派生したものとの見解がかつてはあった。これは、光楯類が両者の中間的な形態を持つものとして存在したことが大きな理由である。光楯類は三葉虫に似た体型に短い剣尾を持ち、附属肢も鋏角類的だが触角があるとされた。ただし、現在では触角はなかったと考えられるようになり、三葉虫類と鋏角類のこのような関係は現在では疑問視されている。バージェス動物群のひとつ、サンクタカリスが、知られている範囲ではこの仲間では最も古いメンバーであるとの説もある。

いずれにしても、触角がなく、口より前に口器をなす附属肢由来の構造がある点で、他の節足動物の群とはかけ離れており、それらの関係の判断は難しい。ただし、アノマロカリス類が節足動物であると考えれば、その触手も口より前にあるため、これと鋏角を相同と見なすことが可能である。そこから、原始的節足動物の中からアノマロカリス類と鋏角類がまず分化し、鋏角の分枝が触角化したことからそれ以外の節足動物が分化した、という説も出ている(小野(2009))。

歴史と進化

鋏角類は古生代の初期に出現し、常に節足動物相の一翼を担ってきた。特に古生代前期には非常に繁栄し、ウミサソリはシルル紀にほぼ食物連鎖の頂点に位置し、史上最大の節足動物の一つになっている。また生物の陸上進出が始まったときにも早い時期に陸生種を出し、肉食者としての地位を築いた。しかし、次第に多くは衰退し、現在ではクモ類・ダニ類以外はごく種数も少なく、生きた化石的なものが多い。

この理由として、一つにはこの類の頭部を構成する体節が少なく、複雑で多様な口器を発達させる余地がなかったことが挙げられる。このため、その歴史のはじめから強力な肉食者として存在したが、それ以降に食性についての幅広い適応を行うことができなかった。また、陸上種に関しては呼吸器としての書肺をもっていたが、そのために気管の発達が遅れ、そのために運動能力において後れを取ったとの説もある。

いずれにせよ、海では甲殻類に、陸上では昆虫類に押されて衰退したと見られる。この類で大きな発展を遂げたのはクモ目とダニ目のみで、前者は糸と、それによる網の活用で広範囲な昆虫を捕食する能力を発達させたこと、後者では小さな体を利してニッチを拡大し、食性の幅を広げた(肉食・草食・吸血・腐植食など、あるいは捕食者、草食者・寄生者など)ことによると思われる。それ以外の類はほとんど古生代の姿を残した遺存的な群である。

参考文献

  • 内田亨監修『動物系統分類学(全10巻)第7巻(中A) 節足動物(IIa)』,(1966),中山書店
  • 石川良輔編『節足動物の多様性と系統』,(2008),バイオディバーシティ・シリーズ6(裳華房)
  • 小野展嗣編著、『日本産クモ類』、(2009)、東海大学出版会テンプレート:Link GA