自書式投票

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自書式投票(じしょしきとうひょう)とは、有権者自身が投票用紙に、候補者の氏名、もしくは政党名を自書する投票方式である。

自書式の特徴

自書式には以下の特徴があると考えられている。

メリット

  • 不正を行った場合、証拠が残りやすい。
  • 記号式では候補者名の並び順が結果に影響することがあるが、そのようなことが少ない。
  • 追加立候補(補充立候補)への対応が容易。

デメリット

  • 被投票者や票の有効性の判定が開票者の判断に委ねられるところが大きい。
  • 開票作業に時間が掛かり、また投票における費用が大きい。
  • 非識字者の投票権が奪われる。また身体障害により自書できない者は代筆者に依頼して投票するしかなく、投票の秘密が守られない。
  • 他事記載規制[1]に触れない範囲での特徴的な記入による不正の余地が排除しきれない。
  • 同姓同名候補の取扱いが難しい。
  • 複数の候補のいずれを示すか決められない票は按分されるなど、投票先が一意に決まらない票が発生する可能性がある。

その他

明確なメリット、デメリットとは言いがたいが、自書式には以下の特徴があるとする主張がある。

  • 有権者に強い責任感が伴う。
  • 今まで書いた事の無い氏名には抵抗感が強いため、現職(前職)有利の傾向が見られる。

日本での有効票の基準

選挙における投票の有効性の判定は各開票所の開票管理者が開票立会人の意見を聴いた上で判断する。自書式では立候補者の名前を書く方式であるため、疑問票が存在してくる。

名字だけ又は名前だけでも、同名の候補が存在せず、他に該当しそうな候補が存在しない場合は有効票と扱われる。

同姓の候補があるときその名字のみが記されているような、複数の候補のいずれを示すか決められない票は按分される。按分票は、対象候補に均等に配分されるのではなく、各候補の得票率に比例して配分される。

また、候補者の他に無意味な記述やイラストなどの他事記載は無効票扱いになる。広く知られている愛称、職業、住所、敬称などは有効票とされる場合が多い。ただし、同姓同名の候補があるときは、例外的に名前以外の属性を記入することにより投票先を区別することが求められる(記事「北村徳太郎」を参照)。

単記制の投票(日本では一時期の国政選挙を除いて単記制の投票)では、複数の候補者又は政党を記載した場合は無効票扱いになる。

選挙管理委員会では投票日数日前に予想される疑問票に対して、有効か無効かの見解を示すことがある。

選挙管理委員会は政党に投票する比例代表制での投票においては、「本部の所在地、代表者の氏名又は敬称の類」の他事記載は有効票とする規定により、党首の名前をミックスした記載はその政党への有効票とされる見解を示すことがある(例、「小泉党」は自由民主党票扱い。「綿貫新党」は国民新党票扱い)。

他にも似たような政党名が存在する場合も見解を示すことがある。なお、有効性の判断は前述したとおり開票管理者が判断するのであり。選挙管理委員会の見解は判断の混乱を避けるための見解にすぎない。

なお、時には選挙戦が大激戦でこうした疑問票の取扱次第で当選する候補が変わる場合があり(特に市町村議会の議員選挙でこうした事態は起こりやすい)、最終的には裁判所における当選訴訟で判断されることになる。

誤記による疑問票

自書式は紛らわしい記載が多くなる傾向がある。例えば、「河田」候補に対して投票したつもりが誤って「川田」と投票した場合などである。その選挙における立候補者に「川田」という人物が存在しない場合、河田票と扱うか無効票と扱うかの疑問票となる。その場合、選挙管理委員会は有効か無効か判断する。少しの誤記であり、他に該当者と推定される人物が存在しない場合は、有効と判断される場合が多い。

自書式投票の採用

国政レベルでの大規模な選挙で、自書式を採用しているのは、先進国の中では日本が唯一である。そのため、日本でも国政選挙において記号式を採用するべきであるとする意見がある。

アメリカ合衆国の一部の州などでは、届出のある候補は記号式投票のリストに載せられているが、それ以外の候補の名前を書き込み投票することも可能とするWrite in方式を採用している。

脚注

  1. 他事記載が問題とされるのはあらかじめ言い含められたメッセージを記入することによって、秘密投票制度の穴をついて買収や強要に従って投票したことを買収者や強要者に示すことが起こりうるからである。

関連項目