消費貸借

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消費貸借(しょうひたいしゃく、テンプレート:Lang-en-shortテンプレート:Lang-de-shortテンプレート:Lang-fr-short)とは、当事者の一方(借主)が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方(貸主)から金銭その他の物を受け取ることを内容とする契約。金銭の貸し借り(金銭消費貸借)のように、借りた物それ自体は借主が消費し、後日これと同種・同質・同量の物を貸主に返還することになる。日本民法では典型契約の一種とされる(民法第587条)。

  • 日本の民法は、以下で条数のみ記載する。

概説

消費貸借の意義

民法に規定される消費貸借は当事者の一方(借主)が種類、品等及び数量が同じ物をもって返還をなすことを約して相手方(貸主)より金銭その他の物を受け取ることを内容とする要物・無償・片務契約である(第587条)。

消費貸借の目的物は消費物である(物の分類(消費物と非消費物)については物 (法律)#消費物と非消費物も参照)。目的物としては米や酒などでもよいが、実際には金銭を目的物とする金銭消費貸借がほとんどである[1]貸株は、株式を目的物とする消費貸借である(株式は民法上の物(85条)には当たらないが、証券業問屋営業の代表例とされているように、株式・株券を物のように見ることも一般的である。)。レンタカー契約のうち、自動車の燃料に関する部分は、燃料を目的物とする消費貸借といえる(使った分の燃料を補充して返却するので。自動車自体に関する部分は賃貸借。)。かつて行われた出挙は、種籾(イネの種子)を目的物とする消費貸借であるといえる。

消費貸借は使用貸借賃貸借と同じく貸借型契約(使用許与契約)に分類される[2][3]。また、消費寄託には消費貸借との類似性があることから原則として消費貸借の規定が準用される(666条)。ただし、類型的には以下のような相違点がある。

  • 使用貸借・賃貸借との相違点
    消費貸借は借りた物それ自体は借主が消費することが予定され、返還するのはこれと同種の物とされているのに対し、使用貸借賃貸借は借りた物それ自体を返還することが予定されている点が異なる。
    なお、賃貸借の場合には目的物の所有権の移転はなく、貸主には目的物を使用収益をさせる義務が生じる。これに対して、消費貸借の場合には目的物の所有権が移転し、消費貸借契約が成立して借主の下に所有権が移転した以上、もはや貸主に目的物を使用収益させる義務を認める余地はない[4]
  • 消費寄託との相違点
    消費貸借は借りた物を利用するという借主(目的物返還義務者)の必要性が契約締結の主たる動因であるのに対して、寄託は寄託物を保管させるという寄託者(目的物返還権利者)の必要性が契約締結の主たる動因である点が異なる。このため、返還の時期を定めない消費貸借では貸主は相当の期間を定めて返還の催告をなさないと返還を請求することができないのに対して(591条)、返還の時期を定めない消費寄託では寄託者はいつでも返還を請求することができる(666条2項)。
    例えば、請求すればいつでも払い戻しを受けられる普通預金は消費寄託の一種として、満期まで払い戻しを受けられないのが原則の定期預金は消費貸借の一種として理解することができる。

消費貸借の性質

  • 無償契約
    消費貸借契約は原則として無償契約である(無償消費貸借)。特約により貸主が利息を受け取る場合(利息付消費貸借)には有償契約となり(有償消費貸借)、現実に利用されるのは利息付消費貸借契約(有償消費貸借)がほとんどである[5]。金銭消費貸借に伴う利息の利率については利息制限法貸金業規制法出資法臨時金利調整法などの規制を受ける[6]
    なお、商人間の消費貸借では常に有償契約となる(商法513条第1項)[4]
  • 片務契約
    消費貸借は片務契約である。貸主は一定の担保責任(590条)を負うにすぎない。なお、後に述べる諾成的消費貸借では双務契約となる(貸主は目的物を交付する(貸す)債務を負う)が、この場合にも通常の消費貸借と同様に貸主の貸す債務と借主の返済債務が同時履行の関係に立つわけではないため典型的な双務契約とは異質な側面を有するとされる[4]
  • 要物契約
    消費貸借は使用貸借寄託と同じく要物契約である(民法第587条の「物を受け取ることによって」の文言)。消費貸借が要物契約であることはローマ法以来の沿革的な理由による[1][7]。消費貸借が要物契約とされる現代的な意義として、諾成契約とすると目的物の交付を受け取っていない借主側に返還義務のみが生ずることになるという点を挙げる学説もあるが、このような場合には借主側に抗弁権を認めて返還請求を排除することで足りるとする批判ある[8]。少なくとも有償消費貸借については諾成的消費貸借を認めてよいとされ、その場合には双務契約となる[4]

消費貸借の成立

要物契約

消費貸借は、当事者の合意だけでは成立せず、貸主から借主に対し金銭等が実際に交付されなければ成立しない。簡易の引渡し占有改定でもよい[9]

要物性の緩和

消費貸借の要物性は一定の範囲で緩和されている。

  • 目的物の交付
    金銭消費貸借契約において現金の交付と同視しうる利益が借主に与えられたとみられる場合には消費貸借契約は成立する(通説・判例)[10]。判例によれば国庫債券(大判明44・11・9民録17輯648頁)、預金通帳と届出印鑑(大判大11・10・25民集1巻621頁)、約束手形(大判大14・9・24民集4巻470頁)の交付があった場合にも消費貸借契約を成立させる[10][11]
  • 抵当権の設定
    金銭消費貸借契約の現金授受前に担保として抵当権が設定されることがあり、消費貸借が要物契約であること、また、抵当権の付従性の点から問題となる。判例によれば、このような場合にも消費貸借契約は成立する(判例として大判明38・12・6民録11輯1653頁、大判大2・5・8民録19輯312頁)。この点は一般には抵当権の付従性の緩和として捉えられる[10][12]
  • 公正証書の成立
    金銭消費貸借契約の公正証書が現金授受前に作成されることがあり、消費貸借が要物契約であることから問題となる。判例によれば、このような場合にも実際の消費貸借契約は成立するとし、金銭授受のあった時点から公正証書の効力は生じ、記載については金銭授受時に生じた債務関係を示したものと解される(判例。大決昭8・3・6民集12巻3250号、大判昭11・6・16民集15巻1125頁)[10][11]
  • 交付の相手方
    消費貸借は貸主が借主ではなく借主の債権者に金銭を交付して成立することがあり(大判昭11・6・16民集15巻1125頁)、このような形式は住宅ローンで取られる(金融機関が住宅購入者の債権者となる住宅販売者に金銭を交付する場合)[1][13]
  • 消費貸借の予約
    消費貸借の予約は民法上において認められている(589条は消費貸借の予約を前提とする)[4]

消費貸借の効力

貸主の義務

  • 担保責任(590条
    利息付きの消費貸借において、物に隠れた瑕疵があったときは、貸主は、瑕疵がない物をもってこれに代えなければならない。この場合においては、損害賠償の請求もできる。
    無利息の消費貸借においては、借主は、瑕疵がある物の価額を返還することができる。この場合において、貸主がその瑕疵を知りながら借主に告げなかったときは、利息付きの消費貸借と同じである。

借主の義務

  • 目的物返還義務
    • 返還時期を定めた場合
    借主側からは期限の利益の放棄によりいつでも返還しうるが(136条1項・2項本文)、利息付消費貸借の場合には期限までの利息を支払う必要がある(136条2項但書)。貸主側からは借主が期限の利益を放棄あるいは喪失しない限り返還請求できない(136条1項)。
    • 返還時期を定めなかった場合
    借主側からはいつでも返還しうるが(591条2項)、この場合にも利息付消費貸借の場合には期限までの利息を支払う必要がある(136条2項但書が適用される)[14]。貸主側からは相当期間を定めて返還の催告をすることができる(591条)。相当期間を定めずに催告した場合でも、支払準備に必要な相当期間が経過したとみられる時から遅滞の責任を負う(大判昭5・1・29民集9巻97頁)[15]
    • 価額償還義務
    借主が貸主から受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもっての返還が不能となったときは、その時における物の価額を償還しなければならない(592条本文)。ただし、402条第2項に規定する場合すなわち金銭(通貨)を目的物としている場合に当該通貨が強制通用力を失った場合には他の通貨による(592条但書)。
  • 利息支払義務
    有償消費貸借においては利息支払義務を負う。なお、前述のように商人間の金銭消費貸借は特約がない場合であっても法定利息を請求できることとされている(513条)。

準消費貸借

金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物をもって消費貸借の目的となすことを約したときは、消費貸借が成立したものとみなされる(588条)。これを準消費貸借(じゅんしょうひたいしゃく)という。例えば、商品の代金は貸し付けたことにする、横領した金は貸し付けたことにする、といった準消費貸借が考えられる。

準消費貸借は、当事者間で従前の契約による義務の内容が不明確になったり、複数の契約がなされて債権債務関係が複雑になったような場合に、債権債務関係を整理して明確にするために行われることが多い。

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、249頁
  2. 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、109頁
  3. 柚木馨・高木多喜男編著 『新版 注釈民法〈14〉債権5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1993年3月、2頁
  4. 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、251頁
  5. 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、185頁
  6. 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、186-187頁
  7. 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、188頁
  8. 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、188-189頁
  9. 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、191頁
  10. 10.0 10.1 10.2 10.3 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、250頁
  11. 11.0 11.1 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、190頁
  12. 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、189頁
  13. 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、191-193頁
  14. 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、193頁
  15. 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、252頁

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