時間外労働

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時間外労働(じかんがいろうどう)とは、労働基準法等において、法定労働時間を超える労働のことをいう[1]。同じ意味の言葉に、残業(ざんぎょう)、超過勤務(ちょうかきんむ)、超勤(ちょうきん)がある。

時間外労働が許される場合

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  • 以下労働基準法は条数のみ、または法と記す。

日本の法令において、時間外労働が許されるのは以下の3つのうちのいずれかに当てはまる場合に限られる。

  • 災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合において、使用者が行政官庁(所轄労働基準監督署長)の許可を受けて、その必要の限度において労働させる場合(事態急迫の場合は、事後に届け出る)(労働基準法第33条1項)。
  • 官公署の事業(一部の事業を除く)に従事する国家公務員及び地方公務員が、公務のために臨時の必要がある場合(第33条3項)。1項と異なり、事前許可・事後届出は不要である。
  • 同法第36条に基づき、労使協定を書面で締結し、これを行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出た場合(いわゆる三六協定(さぶろくきょうてい))。

「災害」等には、急病や、ボイラー破裂その他人命又は公益を保護するため必要な場合や、突発的な機械故障で事業運営が不可能となるような場合は該当する。いっぽう、単なる業務の繁忙や、通常予見される機械の部分的修理等は該当しない。

第33条1項による事後届出があった場合において、行政官庁がその労働時間の延長又は休日の労働を不適当と認めるときは、その後にその時間に相当する休憩又は休日を与えるべきことを、命ずることができる(第33条2項)。なお、派遣労働者については、事前許可・事後届出を行う義務を負うのは、派遣先の使用者である。

労働者の自発的な時間外労働は、使用者の指示・命令によってなされたものとはいえないので、労働基準法上の時間外労働とは認められない(東京地判昭和58年8月5日)。ただし、使用者の指示した仕事が客観的にみて正規の時間内ではなされえないと認められる場合のように、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を超えた場合には時間外労働となる(昭和25年9月14日基収2983号)。

三六協定

三六協定には、以下の事項を定めなければならない。

  1. 時間外または休日の労働をさせる必要のある具体的事由
    時間外・休日労働は臨時的の場合に限定されるとする法の趣旨から、できるだけ具体的であることが望ましい(昭和23年9月13日基発第17号)。
  2. 業務の種類
  3. 労働者の数
  4. 1日及び1日を超える一定の期間(「1日を超え3ヶ月以内の期間」及び「1年間」)についての延長することができる時間又は労働させることができる休日
    1日についてのみ、又は一定期間についてのみの協定は要件を満たさないので、双方を協定しなければならない。但し1日協定及びフレックスタイム制の協定はこの限りでない。
  5. 協定の有効期間(労働協約による場合を除く)
    「1年間」についての延長時間を定めなければならないため、協定の有効期間は最低1年となる。ただし、協定の中で定められる3ヶ月以内の期間の延長時間については、別個に1年未満の有効期間を定めることができる。

三六協定は労使協定であるので、使用者と、その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は事業場の労働者の過半数の代表者)とが時間外労働、休日労働について書面で締結しなければならない。また、労使協定は一般に締結した段階で効力が発生するものであるが、三六協定については行政官庁に届出なければ効力は発生しない。法定の協定項目について協定されている限り、労使が合意すれば任意の事項を付け加えることも可能である。

「過半数代表者」については、管理監督者以外の者から投票・挙手・話し合い・持ち回り決議等の民主的な方法により選出しなければならない。また「過半数」の算定には、パートやアルバイト、さらには時間外労働が制限される年少者等も含むが(昭和46年1月18日基収第6206号)、派遣された労働者は含まない。事業場に管理監督者しかいない場合は、そもそも三六協定の締結の必要はない。使用者は、労働者が過半数代表者であることもしくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取り扱いをしないようにしなければならない(労働基準法施行規則第6条の2)。

事業場に2以上の労働組合がある場合、一の労働組合が労働者の過半数を組織していればその労働組合と三六協定を締結することで、他の組合員や組合員でない者に対しても効力は及ぶ。また、協定の締結相手の要件は協定の成立要件であって、存続要件ではないと解される。したがって、三六協定の締結当事者が過半数代表者でなかった場合、その協定は無効であるが、いったん有効に締結した過半数代表者がその後過半数割れを起こしたり、異動で管理監督者になったとしてもその協定は有効のままである。更新も可能であり、その旨の協定を届出ることで三六協定の届出に代えることができる。協定に自動更新規定がある場合は、労使双方から異議の申し出がなかった旨の書面を届出れば足りる。

三六協定を締結していても、それだけでは監督官庁からの免罰効果しかなく、時間外労働をさせるには、就業規則等に、所定労働時間を超えて働かせる旨の合理的な内容の記述があって初めて業務指揮の根拠となる(労働契約法第7条、最判平成3年11月28日)。さらに、三六協定を締結していない場合には、第33条第1項・第3項に該当する場合にのみ時間外労働が許される。したがって、三六協定に定めた限度を超えて時間外労働をさせることは労働者の同意にかかわらず法違反となる。恒常的に時間外労働をさせることは法律違反ではないし、法律の趣旨が恒常的な残業を防ぐという趣旨はないので、恒常的な残業を協定した三六協定を締結し所轄労働基準監督署長に届出をすれば、労働基準監督署から助言・指導が行われることはあるが、協定が無効となることはなく、恒常的な残業であっても法違反にはならない。尚、超過勤務手当てが支給されないのに超過勤務を強要することは、サービス残業に該当する。こういった諸要件を具備した上で、指揮命令をうけた労働者が正当な事由なく時間外労働を拒否した場合、懲戒処分の対象となることがある。なお派遣労働者を三六協定によって時間外・休日労働させるには、派遣元の事業場においてその旨の協定を締結しておかなければならない。

また、三六協定は厚生労働大臣が告示した時間外労働の限度に関する基準[2]に基づいたものでなければならない(第36条3項)。よって、時間外労働の限度に関する基準に反している時間外労働は告示に違反するというだけで、刑事的な罰則はない。ただし、基準等に規定する時間を超える時間外労働が離職の日の属する月の前3月間において行われたことにより離職した労働者は、雇用保険における基本手当の受給において「特定受給資格者」(倒産・解雇等により離職した者)として扱われ、一般の受給資格者よりも所定給付日数が多くなる(雇用保険法第23条、雇用保険法施行規則第36条5号イ)。

行政官庁への届出は、所定の様式(様式第9号)が用意されていて、届出時に必要事項を記入する。実際には様式第9号をそのまま三六協定書面として使用することが多い。

時間外労働の制限

時間外労働は、無制限にできるものではなく、以下の制限がある。

  • 坑内労働等厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は1日において2時間以内とされている(第36条第1項但書)。
  • 満18歳未満の年少者には三六協定は適用されないため、協定による時間外労働は認められていない(第60条)。災害等・公務等の場合においては年少者であっても時間外労働をさせることができる(第60条の適用は第33条については除外されている)。ただし、公務等の場合においては、年少者に深夜業をさせることはできないので、午後10時(厚生労働大臣が必要と認める地域・期間においては午後11時)を超えて時間外労働をさせることはできない(第61条2項・4項)。年少者が管理監督者等の第41条該当者である場合(後述)は時間外労働・休日労働をさせることができる(災害等の場合を除き深夜業は不可)。
  • 妊産婦が請求した場合は、災害等・公務等・三六協定いずれの場合においても時間外労働をさせることはできない(第66条)が、妊産婦が第41条該当者である場合は時間外労働・休日労働をさせることができる(深夜業は不可)。またフレックスタイム制を採用する場合は、妊産婦が請求した場合であっても、1日又は1週間の法定労働時間を超える労働が認められる。
  • 3歳に満たない子を養育する労働者(日々雇用される者を除く)が当該子を養育するために請求した場合、事業主は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き所定労働時間を超えて労働させてはならない育児介護休業法第16条の8)。ただし、事業主は、労使協定に定めることにより以下の労働者については請求を認めないことができる。
    • 当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
    • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
  • 小学校就学の始期に達するまでの子を養育、又は要介護状態にある対象家族を介護する労働者(日々雇用される者を除く)であって以下のいずれにも該当しないものが当該子の養育又は当該対象家族を介護するために請求したときは、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、制限時間(月24時間、年150時間)を超えて三六協定による時間外労働をさせてはならない(育児介護休業法第17条、18条)。この請求は、開始予定日および終了予定日を明らかにして開始予定日の1月前までにしなければならない。
    • 当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
    • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
  • 労働者が上記育児介護休業法による請求をし、又はこれらの所定労働時間超労働・時間外労働をしなかったことを理由として、事業主は当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(育児介護休業法第16条の9、18条の2)。
  • 自動車運転者の労働時間等の改善のための基準告示で1日や1月などの拘束時間を制限することで時間外労働の上眼の制約があるが、所詮告示なので法的強制力はないが法的強制力があるかのように信じられている。

上記以外には日において制限はなく、労使が協定で折り合えば翌日の始業時刻までの15時間が理論的に可能である。しかし、以下に示す一定期間ごとの限度時間[2](カッコ内は1年単位の変形労働時間制(対象期間が3ヶ月を超えるものに限る)により労働する労働者についての限度時間[2])を超えてはならず、ゆえに、週に一度連続32時間勤務(8時間+休憩1時間+時間外労働15時間+翌日勤務8時間)を行えば、それ以外の日は時間外労働ができないことになるし、毎週一回連続32時間勤務を行うことも不可能である。1年の間では32時間連続勤務ができるのは月2回という計算になる。

  • 1週間・・15時間(14時間)
  • 2週間・・27時間(25時間)
  • 4週間・・43時間(40時間)
  • 1ヶ月・・45時間(42時間)
  • 2ヶ月・・81時間(75時間)
  • 3ヶ月・・120時間(110時間)
  • 1年・・360時間(320時間)

しかし、次項の特別条項があるため、ざる法であるとの批判もある。

特別条項

三六協定の締結にあたり、労使が合意すれば、上述の制限時間を越えた時間数を設定することができる。ただし、具体的に臨時の事情が生じた場合に限り、日を超えて3か月以内の期間、1年、それぞれの上限を伸張できる。日においてはそもそも上限がない(一週間においては15時間以内)。時間外労働は臨時的に行うものという法律の趣旨から回数も半数回に限ると行政指導が行われている(例:月単位に制限時間を設けていれば、年12回のうち6回に限る)[2]。しかし、法律上の明記はなく、半数回を超える協定を届けられても、行政指導は行われるものの最終的には届出を拒否することができず、協定が無効となることもない。適用も個人単位(事業所単位でない)であるので、人を交代して配置すれば事業場としては1年を通じて上述の制限時間を超えた労働者を配置することができる。この条項は、労働基準監督署への協定届に盛り込んでおく必要がある。 また、三六協定は協定期間中に労使の合意でいつでも破棄できるので、破棄したところから再度協定を行えば協定期間中の半数回を数える期間がリセットされるので、半年おきに三六協定の破棄と再締結を繰り返せば一年を通じて特別条項の時間数の残業をさせることも可能である。

平成22年4月施行改正法においては、時間外労働が三六協定で定めるところの限度時間超となった場合の割増率の記載が義務付けられ、2割5分を超える率を定めることが努力義務となる。なお60時間超の場合と異なり中小事業主への猶予はなく、前述の除外業務などの一部例外を除きすべての特別条項に適用される。

日本では、労使協定さえ届け出れば、前述の除外業務などの一部例外を除き時間外労働を制約する絶対的な法律上の上限はない。

労働時間等に関する事項の適用除外

法第41条では、労働時間等に関する事項について適用除外とするものがある。これらの者については、法定労働時間を超えて労働させることができ、時間外労働に対する割増賃金の支払義務もない。

  • 別表第一第6号又は第7号に掲げる事業に従事する者
    • 別表第一第6号:土地の耕作若しくは開墾又は植物の採植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業(林業を除く)
    • 別表第一第7号:動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
  • 事業の種類のかかわらず監督若しくは管理の地位にあるもの又は機密の事務を取り扱う者
  • 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

所定労働時間の時間外労働

就業規則、労働協約で定められた各事業所の労働時間(法定労働時間を超えない所定労働時間)を超えて行われる時間外労働は、法定労働時間を超える時間外労働と一致しないことがあり、そのうち法定労働時間の枠内で行われる時間外労働については、同法上、三六協定を必要とせず、また、割増賃金の支払いも義務付けられていない。しかし、日において超えていなくても、週において、あるいは、変形労働時間制にあっては変形期間において、法定労働時間を超過していないか、確認する必要がある。割増義務のない所定時間外労働における賃金の支払い根拠は就業規則他に定めるところによる。

労働者が遅刻をした場合に、その時間だけ通常の終業時刻を繰り下げて労働させる場合には、時間外労働は発生しない。また交通機関のストライキ等のために始終業時刻を繰上げ・繰下げすることは、実働8時間の範囲内であれば時間外労働の問題は生じない。

休日労働との兼ね合い

所定休日のうち、週1回または4週4日(変形週休制)の法定休日における労働時間は時間外労働に含まれず休日割増賃金の対象となる。法定以上に付与する法定外休日における労働時間は、休日割増賃金相当の額が支払われても休日労働とはならず、法定労働時間内か時間外労働にあたるかの判断の対象となる。

法定休日が就業規則等に特定されていなくとも、所定休日労働における3割5分増し以上の賃金を払うとした対象日のうち、週の最後の1回または4週の最後の4日をもって法定休日と定めたものとして扱われる(平成6年1月4日労働省基発第1号)。

立入調査

労働基準監督官による臨検(強制立入調査、第101条以下)が行われた場合、概ね月に100時間以上の時間外労働をしている場合や、直近の6ヶ月間の平均で80時間を超える時間外労働をしていると過労死の危険性が高くなるとされ、時間外労働を減らすよう指導される。世間の求めに応じ、近年監督実施件数は増加傾向にある。原則として臨検を拒否することは出来ず、監督官の臨検を拒んだり、妨げたり、尋問に答えなかったり、虚偽の陳述をしたり、帳簿書類を提出しなかったり、虚偽の帳簿書類を提出した場合は、30万円以下の罰金に処せられる(第120条)。但し、臨検は主に書類上のチェックであり、労働記録が残らないサービス残業を含めたチェックは困難である。時間外の記録を厳正につけている企業が摘発され、サービス残業のため時間外労働の証拠がない企業が摘発を免れることもある。そのため、ビルの入退出時間をビル警備会社に確認したり、職場のパソコンやサーバの使用ログから実質的な労働時間を調べることもあるが、法令で定められた書類以外の書類(ビルの入退出の記録やパソコンやサーバの使用ログなど)の提出は任意であり、これらの書類まで法律上労働基準監督署に提出を義務付ける法令はない。このため、法令の帳簿の提出だけでは、実際の時間外労働の実態はわからず、関連する書類の提出を拒否されれば、事実上調査は形式的なもので終わってしまうこととなる。また、管理監督者が最終残業者であるとその記録にはほとんど意味がない。

なお、三六協定やその特別条項の範囲内での残業であれば、100時間を超える時間外労働をさせていても法違反ではないため勧告されることはない。

割増賃金

時間外労働を行った場合、通常の労働時間(休日労働の場合は、労働日)の賃金の2割5分以上5割以下の範囲内で政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない(第37条第1項)。政令において定める率の最低限度として、時間外労働は2割5分、休日労働は3割5分ととしている[3]。第33条・第36条に定める手続を取らずに時間外・休日労働をさせたとしても、割増賃金の支払い義務は生じる。第37条は強行規定であるので、割増賃金を支払わない旨の労使合意は無効である(昭和24年1月10日基収68号)。

また、使用者が午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域または期間については午後11時から午前6時まで)の間に労働させた場合においては、通常の労働時間における賃金の計算額の2割5分以上(時間外労働が深夜に及ぶ場合は5割以上、休日労働が深夜に及ぶ場合は6割以上)の率で計算した割増賃金を支払わなければならない(第37条第3項、労働基準法施行規則第20条)。なお、休日労働とされる日に時間外労働という考えはなく、何時間労働しても休日労働の範疇である。

時間外労働が継続して翌日の所定労働時間に及んだ場合、たとえ暦日を異にする場合であっても一勤務として取り扱い、その勤務は始業時刻の属する日の「1日」の労働とされる。したがって、時間外労働の割増賃金は、翌日の所定労働時間の始期までの超過時間に対して支払えばよい。一方、翌日が法定休日であった場合は、翌日の午前0時以降の部分は休日労働としての割増賃金を支払わなければならない。どちらの場合においても、深夜時間帯については、深夜労働に対する割増賃金を合わせて支払わなければならない。

平成22年4月施行改正法においては、時間外労働が月間60時間超となった場合、上の率は5割(時間外労働が深夜に及ぶ場合は7割5分)となる。なお中小事業主への適用は当面猶予され(第138条)、施行3年後に改正後の施行状況を勘案し、検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講じることとされる(附則第3条)。平成25年4月以降に厚生労働省が全国規模の施行状況の調査を開始している。

第41条による適用除外者については、時間外・休日労働の割増賃金を支払う必要はないが、深夜業の割増賃金は支払わなければならない(労働協約・就業規則等により深夜の割増賃金を含めて所定賃金が定められている場合を除く)。派遣労働者については、派遣先の使用者に時間外労働をさせる権限があるかどうかにか関わらず、派遣先の使用者が派遣労働者に法定時間外労働をさせた場合は、派遣元の使用者に割増賃金の支払い義務が生じる。

1ヶ月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることとすることは、事務を簡便にするという考えから第24条・第37条違反として取扱わない。また1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合や、1ヶ月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げることも同様に第24条・第37条違反とはしない(昭和63年3月14日基発第150号)。

割増賃金の算定

原則として、時給制であれば、その時給の金額、日給制であれば、その日給を1日の所定労働時間で除した金額、月給制であれば、その月給を月における所定労働時間数で除した金額が、割増賃金の算定に用いる時間給となる。請負制であれば、その賃金算定期間の賃金の総額をその賃金算定期間における総労働時間数で除した金額になる。こうして求めた時間給に、所定の割増率を乗じて求めた額を支払わなければならない。

割増賃金の基礎となる賃金には、以下のものは算入しない(第37条第4項)。これらは限定列挙であって、これにあてはまらない賃金は、労働に付帯するものとしてすべて計算の基礎に含まれる(例えば、危険な作業が時間外・休日に行われた場合における危険作業手当は、割増賃金の基礎となる賃金に算入しなければならない)。またこれらに該当するか否かは、名称にとらわれず実質で判断しなければならない。

  1. 家族手当(家族数にかかわらず一律に支給されるものは算入しなければならない)
  2. 通勤手当(一定額が最低額として距離にかかわらず支給される場合の当該一定額は算入しなければならない)
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当(住宅に要する費用にかかわらず一律に定額で支給されるものや、住宅に要する費用以外の費用に応じて算定されるものは算定しなければならない)
  6. 臨時に支払われた賃金(支給額があらかじめ確定しているものを除く)
  7. 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

なお、時間帯ごとに時間給が異なる場合は、就業規則等に特段の定めがなければ、その超えた時間帯における時間給に対して割増を行えば良い。例えば業務の繁閑により8時~17時(休憩1時間)の時間給が1,000円で、17時~22時は時間給800円である場合、所定労働時間が8時~17時の者については17時以降は原則として1日8時間超えの時間外労働となり、800円を25%割増した1,000円を支払う必要がある。結果、事実上の割り増しがない場合もある。 また、住宅手当を住宅の要する費用の3倍などとして高額にしておけば、割増賃金の単価を最低賃金以下にすることも可能である(例えば、基本給1か月1万円、住宅手当を住宅の要する費用5万円の場合、住宅手当は15万円となり、支払総額は16万円で最低賃金上問題ない。そして、1万円を法定労働時間の171時間とかで除せば1時間の単価は59円で1.25倍しても1時間74円ほどの単価で支払えば、法律上問題ないこととなる。そもそも住宅手当が高額であれば基本給を0円としても最低賃金額を満たすので、割増賃金の単価を0円にすることも理論的には可能である)。

年俸制による時間外労働

年俸制の場合でも同法では時間外労働をした場合には年俸とは別に時間外手当を支給しなければならなことになっている。しかし、あらかじめ時間外の割増賃金を年俸に含めて支給することもできる(例:1ヶ月に45時間の時間外労働を含めて年俸制で支給する)。実際に時間外労働が発生しなくても支払われるこの割増賃金を「みなし残業手当」などと呼ぶこともある。この場合でも、その決定明記した時間外労働時数を超えて時間外労働をした場合については、毎月払いの原則があるため、その差額をその月の給与に加算して支払わなければならない。

年俸制において、毎月払い部分と賞与部分とを合計して、あらかじめ年俸額が確定している場合の賞与部分は、割増賃金の基礎となる賃金に算入しなければならない。

代替休暇

時間外労働が月60時間超となったために、5割以上の割増賃金を支払わなければならない労働者に対しては、労使協定の定めにより、当該労働者が代替休暇を取得したときは、その時間分の労働については割増賃金を支払わなくてもよい(第37条3項)。なお、割増賃金と代替休暇のどちらを選択するかは労働者の判断により、使用者が代替休暇の取得を強制することはできない。代替休暇を取得した日・時間については、通常の労働時間の賃金が支払われる。

労使協定には以下の事項を定めなくてはならない。なおこの労使協定は行政官庁に届出る必要はない。

  1. 代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法
  2. 代替休暇の単位(1日または半日)
  3. 代替休暇を与えることができる期間(60時間超となった当該1ヶ月の末日の翌日から2ヶ月以内)

代替休暇を取得して終日出勤しなかった日は、年次有給休暇の算定基礎となる「全労働日」に含まないものとして取り扱うこととされる(平成21年5月29日基発0529001号)。

国際労働機関

国際労働機関の第1号条約(日本は未批准)では、例外規定はあるが「家内労働者を除いた工業におけるすべての労働者の労働時間は1日8時間、1週48時間を超えてはならない」と決められている[4]。 主な批准国は、オーストリア、ベルギー、カナダ、フランス、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルグ、ポルトガル、スペイン、ニュージーランド、スロバキア、チリ、イスラエル[5]

脚注

  1. 通常は、就業規則等で定められた所定労働時間を超えて労働することの意味で用いられるが、法的には、所定労働時間を超えても、法定労働時間を超えなければ「時間外労働」とはならない。
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年12月28日労働省告示第154号)
  3. 労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令
  4. テンプレート:Cite web
  5. テンプレート:Cite web

関連項目

外部リンク