正準量子化

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正準量子化(せいじゅんりょうしか、テンプレート:Lang-en-short)とは、古典力学的な理論から量子力学的な理論を推測する手法(量子化)の一種である。具体的には、ハミルトン力学(ハミルトン形式の古典力学)での正準変数を、正準交換関係をみたすようなエルミート演算子に置き換える。この方法では、ハミルトン力学におけるポアソン括弧が、量子力学での交換関係に対応している。正準量子化により、古典力学では可換であった力学量(c-数)のなす代数は、量子力学では非可換な力学量(q-数)のなす代数に移行する。

解説

正準量子化とは、量子力学的な系を扱う際に、古典力学から量子力学での対応則を構成する手法である。その具体的な手続きは、以下のようにまとめられる。

正準量子化の手続き

  1. 対象とする系をハミルトン力学(正準形式)で記述する。
  2. 正準形式における正準変数<math>(q,\,p)</math>を、正準交換関係を満たす演算子 <math>(\hat{q},\hat{p})</math>に置き換える。
  3. 正準変数<math>(q,\,p)</math>の関数である古典的力学量<math>A(q, \,p)</math>について、正準変数の項を2で定めた演算子<math>(\hat{q},\hat{p})</math>に置き換える。この操作によって、古典的力学量<math>A=A(q, \,p)</math>の量子力学的対応物<math>\hat{A}=\hat{A}(\hat{q}, \hat{p})</math>を定める。


2の操作を、より詳細に述べると以下のようになる。

1自由度の場合

古典的な正準変数 <math>(q,\,p)</math>を、正準交換関係 テンプレート:Indent をみたす演算子 <math>(\hat{q},\hat{p})</math>に置き換える。

N自由度の場合

古典的な正準変数 <math>(q_1,p_1;q_2,p_2;\cdots ;q_N,p_N)</math>を、正準交換関係 テンプレート:Indent をみたす演算子に置き換える。

正準量子化における演算子の不定性などの問題については、正準量子化における諸問題の項を参照のこと。

具体例

1自由度の場合

1次元デカルト座標の場合の例

1次元の量子系を考え、波動関数の状態空間として、座標表示したものを選ぶ。すなわち、座標xと時間tの関数<math>\psi(x,\,t)</math>のうち、自乗可積分なもの(座標表示の波動関数)全体が、系のヒルベルト空間をなす。ここで、座標<math>\,x</math>と正準共役運動量<math>\,p_x</math>を、 テンプレート:Indent で定義される演算子<math>\hat{x}</math>、<math>\hat{p}_x</math>で置き換える。このとき、 テンプレート:Indent となり、<math>\hat{x}</math>、<math>\hat{p}_x</math>が正準交換関係をみたしていることがわかる。 つまり、座標表示では掛け算演算子としての<math>\hat{x}</math>と微分演算子としての<math>\hat{p}_x</math>が、正準変数<math>x,\, p_x</math>の正準量子化による量子力学的表現となる。 系の古典力学的なハミルトニアンが テンプレート:Indent{2m}+V(x)</math>}} で与えられるとすると、正準量子化により、量子力学的なハミルトニアンは テンプレート:Indent{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}+V(x)</math>}} となる。

古典力学との対応

交換関係とポアソン括弧

正準量子化の操作は、古典力学での「ポアソン括弧」と量子力学における「交換関係」の対応原理を考えると、より明確になる。 テンプレート:Indent\frac{\partial{}B}{\partial{}p_{\alpha}}-\frac{\partial{}B}{\partial{}q_{\alpha}}\frac{\partial{}A}{\partial{}p_{\alpha}}\right)\Leftrightarrow \frac{1}{i\hbar}[\hat{A}, \hat{B}]=\frac{1}{i\hbar}\left( \hat{A}\hat{B}-\hat{B}\hat{A}\right)</math>}}

実際、正準変数については、 テンプレート:Indent の関係が成り立つ。力学量の時間発展についても、この対応原理から テンプレート:Indent{dt}=\frac{1}{i\hbar}[\hat{A}, \hat{H}]+\frac{\partial \hat{A}}{\partial t}</math>}} とハイゼンベルクの運動方程式が現れる。 言い換えれば、正準量子化では、ハミルトン力学における2つのc-数の力学量<math>A, \,B</math>の満たすポアソン括弧を、q-数(演算子)の力学量<math>\hat{A}, \,\hat{B}</math>の満たす交換関係に対応させ、その関係を通じて量子力学的表現を得ているともいえる。これらの対応原理は1925年にディラックによって明らかにされた[1]

正準量子化における諸問題

正準量子化は、量子系に移行する一定の規則を与えるが、古典系におけるc-数は可換であるのに対し、量子系のq-数は一般に非可換となり、演算子の積については順序の不定性が残る。また、量子化後にエルミート演算子同士の積はエルミート演算子にはならない。こうした問題を回避する方法として、ワイルの対称化法(Weyl Calculus)や経路積分量子化等の方法が知られている。

第二量子化

テンプレート:Main 量子力学における正準量子化の方法は粒子に対する量子化を与えるが、場の量についても、正準量子化を適用することができる。場の量に対する正準量子化(第二量子化)では、場の演算子φ(t, x)と対応する正準運動量π(t, x)に対し、同時刻での正準交換関係

<math>

[ \phi(t, \mathbf{x}), \pi(t, \mathbf{y}) ] =i \hbar \delta(\mathbf{x}-\mathbf{y}) </math>

を課すことで行われる。

脚注

テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

uk:Вторинне квантування ферміонів
  1. P. A. M. Dirac, "The Fundamental Equations of Quantum Mechanics," Proc. R. Soc. Lond. A, 109, p.642 (1925). テンプレート:Doi