植物工場

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植物工場(しょくぶつこうじょう)とは、内部環境をコントロールした閉鎖的または半閉鎖的な空間で植物を計画的に生産するシステムである。植物工場による栽培方法を工場栽培と呼ぶ。

概要

植物工場は、安全な食料供給食材周年供給を目的とした、環境保全型の生産システムである。

一般に、養液栽培を利用し、自然光または人工光を光源として植物を生育させる。また、温度・湿度の制御や二酸化炭素施用による二酸化炭素飢餓の防止なども行われる。これらの技術により、植物の周年・計画生産が可能になる。

一概に植物工場と言っても、ビル内などに完全に環境を制御した閉鎖環境をつくる「完全制御型」の施設から、温室等の半閉鎖環境で太陽光の利用を基本として、雨天・曇天時の補光や夏季の高温抑制などを行う「太陽光利用型」の施設などがある。簡易的なものはガラスハウスなどとも呼ばれ、ビニールハウスとの違いも少ないが、実際にはどの程度までの施設が植物工場と言いうるか、その定義は明確ではない。

日本では、農地法の影響により、企業による農地の取得が極めて困難であったため、通常の土地に植物工場を建設し、農作物を栽培をするというケースがあった[1]

2009年に始まる植物工場の第三次ブームのきっかけを作ったのは、2008年に農水省と経産省が共同で立ち上げた「農商工連携植物工場ワーキンググループ」の発足による。2009年4月に報告書が出され、ほどなく100億円を越す補正予算が組まれた。その後、多くの企業が植物工場に関心を持ち、また開発に携わるようになった。

完全制御型の植物工場

完全制御型の植物工場とは、外部と切り離された閉鎖的空間において、完全に制御された環境、すなわち人工的光源、各種空調設備、養液培養による生産を行う植物工場のことを言う。

いま日産株数によって大型からミニまで、さまざまな規模のシステムが開発されている。大型といわれるのは普通、レタス換算で日産1000株以上のもので、中型は日産数百株が目安になる。小型植物工場の多くはレストランなどに設置されて「店産店消」(飲食店などで野菜を作って店で消費する)を実現している。ミニ植物工場はもっぱら展示用あるいは家庭用である。

一般に露地栽培と比較して、以下のような利点・欠点があるとされる。

利点

安定供給
冷夏暖冬台風などの気象変動の影響を受けることがなく、病原菌害虫の被害にあうこともないため、凶作がなく、一定の量、形や味、栄養素などの品質、そして安定した価格での供給が可能である。
高い安全性
病原菌や害虫の侵入がないため、それらを予防・駆除するための農薬の散布も不要であり、無農薬による安全な生産が可能となる。加えて、細菌数が少なく、土等の付着もないため、洗浄せずに、あるいは簡易な洗浄のみで食べることができ、手間や水道費を削減することもできる。これらにより、外食産業においても利用されている。実際、植物工場産のレタスは、コンビニエンス・ストアなどで販売されているサンドウィッチに、サンチュは高級焼肉店の手巻き用野菜として定着している。最近では、定食専門店「大戸屋ごはん処」を展開する大戸屋が植物工場「大戸屋 GREEN」を建設すると発表した(平成21年5月14日)。
高速生産
土壌によらず、養液栽培することにより、連作障害を起こさずに連作が可能である。また、光の強さや日長、温度や湿度、培養液成分や二酸化炭素濃度をコントロールすることで、その植物の生育にとって最適な環境を作り出すことができ、成長を促進させることができる。そのため、短期間で出荷可能な状態まで育てられ、年十数作することも行われている。
土地の高度利用
その時々の植物の大きさにあわせて苗を移動させることにより、最大限の密度での栽培が可能であり、更には、棚状に複数段配置する・斜めに配置する、などによって、土地の利用効率を一層高めることが可能である。
労務上のメリット
栽培技術を標準化することができ、農業知識が乏しいパート・アルバイトでも作業が出来る。また、労働環境が苛酷ではないので、高齢者や障害者による作業が可能である(実際に障害者の授産施設として植物工場が運営されているケースがある)。

欠点

高額の生産費用
工場を設置するためには、各種設備をそろえる必要があり、高額の初期投資が必要である。また、生産に要する光熱費などの費用も相当額に上る。植物の育成のための光源(高圧ナトリウムランプ蛍光灯発光ダイオードなど)の電力費、光源から発生する熱の冷却、その他適温の維持のための空調費、など。
少ない栽培品目
上述の高額な生産費用により、採算の合うものは限られており、養液栽培が可能となっている品種の中でも、現在商品として生産されているものは、リーフレタスなどの葉菜類や、一部のハーブ類のみである。

太陽光利用型の植物工場

太陽光利用型の植物工場とは、温室等の半閉鎖環境において、太陽光の利用を基本として、雨天・曇天時の補光や夏季の高温抑制技術等により、周年・計画生産を行う「太陽光利用型」の施設の2種類がある。 太陽光利用型の植物工場とは、植物工場のうち、太陽光を利用するものである。もっともガラスハウスなどと呼ばれ、ビニールハウスとの違いも難しく、実際にはどの程度までの施設が植物工場と言いうるか、その定義は明確ではない。

光源を主として太陽光とすることから、完全制御型の植物工場ほどの高効率、周年生産は不可能となるが、一方で設備費用や光熱費を低く抑えることができる。また、そのため完全制御型の植物工場では採算の合わないものについても生産が可能である。

  • 施設により、人工光による補光を行うものがある。
  • 施設により、半閉鎖的なものもある。これは太陽光による温度の上昇に対処するため、外気を導入するためである。その場合には、細菌等の侵入もあるため、農薬も必要となる。
  • 施設により、部分冷却等も行われる。これは、施設の上部を開閉し、温度上昇に対して、空調費を抑えるため、植物体や、あるいはその一部に対して、冷却を行う方法である。

歴史

1957年スプラウトの一貫生産を行ったデンマークのクリステンセン農場が植物工場の起源だと言われている。北欧では季節によって日照時間が非常に短くなるため、補光型の植物生産が以前から行われており、これを基礎として、オランダ等の欧州各地で高度な園芸が発展してきた経緯がある。

日本での研究開発は1974年に日立製作所中央研究所で開始された。日立ではその基礎付けをするために、レタスの一種であるサラダ菜を実験資料に選び、工場生産に必要と思われる環境条件と成長の関係について定量的で精密な成長データを蓄積した。こうして工場生産の原理である大量生産と規格化が実証された。

脚注

  1. 第171回国会(常会)で農地法改正が行われ、一般の株式会社、NPO法人など、農業生産法人以外の法人であってもリース方式で農地の権利が取得できるようになるようになったため、その点では、農業への参入ハードルは下がっている

関連項目

外部リンク

  • 植物工場の普及拡大(経済産業省HP)[1]
  • 植物工場の普及拡大に向けて(農林水産省HP)[2]
  • 植物工場の利点と課題 PDF
  • 植物工場研究センター - 大阪府立大学

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