帰化
テンプレート:Otheruseslist テンプレート:国際化 帰化(きか)は、ある国家の国籍を有しない外国人が、国籍の取得を申請して、ある国家がその外国人に対して新たに国籍を認めること。
目次
概念
帰化とは、本人の希望により他国の国籍を取得しその国の国民となることをいう。
日本の場合、古くとも大和朝廷という政権が成立した後に本邦の住民となったことを指し、いわゆる弥生人の渡来はもちろん、天孫降臨が他国からの渡来または侵略であったとしても、大和朝廷成立前のことであるので帰化とは言わない。
古代における語義・用法
「帰化」という語句の本来の意味は、「君主の徳に教化・感化されて、そのもとに服して従うこと」(後漢書童恢伝)で、歴史学的な定義としては、以下のものがある[1]。
- 1.化外(けがい)の国々から、その国の王の徳治を慕い、自ら王法の圏内に投じ、王化に帰附すること
- 2.その国の王も、一定の政治的意思にもとづいて、これを受け入れ、衣料供給・国郡安置・編貫戸籍という内民化の手続きを経て、その国の礼・法の秩序に帰属させる一連の行為ないし現象のこと
史書における用法
歴史学者平野邦雄によれば、『日本書紀』の用法において、「帰化」「来帰」「投下」「化来」はいずれもオノヅカラモウク、マウクと読み、概念に違いはない[2]。また古事記では三例とも「参渡来」と記し、マイワタリツ、マウクと訓む[3]。
これに対して、「貢」「献」「上送」「貢献」「遣」はタテマツル、オクルとメス、モトムと読み、一般に朝鮮三国の王が、倭王に対して、救軍援助などの政治的な理由によって、物品や知識人や職人また他国の俘虜などを「贈与」したという意味で使用されている[4]。つまり、「貢」「献」等の語が、当該王の政治的意思または命令強制によって他律的に贈与される意味であるのに対して、「帰化」は、同族集団の意思または勧誘などによって自律的に渡来(来倭)したことを指す語である。
古代朝鮮の史書『三国史記』における用法は、「来投」「亡人」が多く、「投亡」「流入」「亡人」「走人」などと記されている[5]。これらは戦乱または飢饉などによって緊急避難的な人々の流出、つまり他律的な移動を指す。
「帰化人」と「渡来人」
日本史の歴史用語としては、「帰化人」という呼び名が学会の主流であったが、第二次世界大戦後、戦前の皇国史観への反省と植民地統治の是非をめぐる政治的な論争を背景に、「帰化人」という語には、日本中心的な意味合いを含むなどとされから不適切な用語であるとされ、上田正昭らにより「渡来人」の呼称が提唱され、学界の主流となった[6]。しかし、歴史家中野高行はこの問題に関して、古代史研究の上では帰化人という用語の使用については価値自由を要求している[7]。さらに朴昔順や田中史生らはやはり厳密に区分されるべきとし[8]、関晃や平野邦雄らは「渡来」には単に渡ってやって来たという語義しかなく、倭国王(大王)に帰属したという意味合いを持たないため、やはり「帰化」を用いた方が適切だとする見解もあり、学術研究上の議論は現在も続いている。
現代における用法
今日の日本では「帰化」という用語は、法曹関係者間や法務省をはじめとする役所の手続きなどで、法律用語として使われる。なお、「帰化植物」「帰化動物」については「外来種」[9]「移入種」[10]の用語で表現することが、公的機関をも含めて多くなっている。
また、本人の能動的な意思であることをより反映するものとして、「国籍取得」という表現も用いられている。
法律で定められた条件を満たす場合は当然帰化できる立法例(アメリカ)と、定められた条件を満たす場合でもなお帰化の決定について行政機関に一定の裁量が認められる立法例(日本、イギリス)がある。
現代の日本における帰化
- 国籍法[11]では、帰化を許可する権限は法務大臣にあり、普通帰化、特別帰化(簡易帰化)、大帰化の3種類(この区分名はいずれも通称)が認められている。帰化を望む者は各地の法務局[12]へ帰化の申請手続を行う。
- 許否の結果が出るまでの期間は個々人で異なるがおおむね半年から1年程度を要するとされる。帰化申請の内容が認められた場合は、法務大臣による許可行為として官報に日本国内の現住所・帰化前の氏名・生年月日(元号表記)が告示掲載され、告示の日からその効力を生じることとなる。
- 告示における氏名表記に外国文字(アルファベット・ハングル等)は用いられず、すべて日本語(漢字・平仮名・片仮名)に置き換えて表記される。過去においては、当該告示には帰化前の氏名に加え帰化後の日本名(帰化前に日本的通称名を複数使用していた者についてはそれら全て)が括弧付きで原則併記されていたが、1995年(平成7年)3月以降は帰化前の氏名だけが記載されるようになっている。
- なお、国籍法には、届出による国籍の取得の規定(第3条:認知された子の国籍取得、第17条:国籍留保届の未提出により国籍を喪失した者の再取得)があり、この場合、要件を満たしていれば法務大臣の許可によらず届出のみによって国籍を取得することができる。これを「帰化」と区別して「(届出による)国籍取得」といっている。
- 1998年(平成10年)以降の年ごとの帰化許可申請者数は、約1万3000人から1万7000人の間で推移している[13]。帰化許可申請者のうち、不許可者数は約100人から270人の間で推移しており、ほぼ99%の割合で帰化が許可されている。帰化許可者のうち、およそ6割は韓国・朝鮮籍からの帰化で占められており、およそ3割が中国籍からの帰化で占められている。2008年の許可帰化申請者数は15,440人で、帰化許可者数は13,218人(うち、韓国・朝鮮籍は7,412人、中国籍は4,322人、その他は1,484人)、不許可者数は269人である。
帰化申請の専門家と帰化の費用
帰化申請は行政書士や司法書士などが業として扱うことができる。帰化申請の報酬額は、申請者1名につき被雇用者最頻値25万円/平均値203,133円、会社役員・自営業者最頻値30万円/平均値254,287円となっている[14]。[15]なお、法務局への手数料はかからない。
普通帰化
普通帰化とは、次の要件を満たす外国人に対して許可される帰化の通称である。婚姻等による日本人とのつながりがない外国人の場合などがこれに相当する。
- 引き続き5年以上日本に住所を有すること
- 20歳以上で、本国法(帰化前の母国の法令)によって行為能力を有すること
- 素行が善良であること
- 自己又は生計を一にする配偶者、その他の親族の資産又は技能によって生計を営むことができること
- 国籍を有さず、または日本の国籍取得によって元の国籍を失うべきこと
- 日本国憲法施行下において、日本政府を暴力で破壊したり、それを主張する政治活動等に参加を企てたり、それを行なった経験が無い者であること
- ただし、自国民の自由意思による国籍の離脱を認めない国が存在する可能性を考慮して、そのような国の国籍を有する者からの帰化申請については、状況により上記5.の母国籍喪失の可能性を問わない場合もある。
特別帰化(簡易帰化)
特別帰化(簡易帰化)とは、婚姻等により一定の要件(日本人とのつながり)を満たす外国人などに対して許可される帰化の通称である。広義では普通帰化に含まれる。具体的には、次のような緩和措置がある。
- 日本人の配偶者である場合、居住要件は5年以上から3年以上に緩和される。また、婚姻後3年が経過していれば、居住要件は1年以上に緩和される。また、20歳未満でも帰化が可能である。
大帰化
大帰化とは、普通帰化や特別帰化の要件を満たさない(あるいは満たすが本人が積極的に帰化を申し出ない)が、日本に特別の功労のある外国人に対して国会の承認を得て行う帰化の通称である。国籍法第9条に規定があるが、現行の国籍法施行下(1950年7月1日以降)で認められた例はない。他の帰化のように本人の意思による自発的な帰化でなく、日本が国家として一方的に許可するものであるため、本来の国籍を離脱する義務は課されない。いわば「法的効力を持つ名誉市民権」である。
帰化申請書類
提出するもの
- 帰化申請書、帰化動機書、宣誓書、履歴書
- 生計概要を説明する書類、親族概要を説明する書類
- 事業主の場合、事業概要を説明する書類・財務諸表・確定申告書(控え可)
- 会社役員の場合、法人登記簿謄本(登記事項証明書)
- 社員の場合、在職を証明する書類・給与証明書
- 納税証明書(コピー可)
- 自宅・勤務先付近の略図
- 国籍証明書、もしくは国籍を有しないか帰化により現在の国籍を失うことを証明できる書類
- 外国人登録原票記載事項証明書・自動車運転免許証
- その他、法務局から追加提出指示を受けた書類
呈示するもの
- 卒業証明書
- 技能証明・有資格証明書
- 事業主の場合、事業における許認可証明書
- 預貯金残高証明・有価証券証明・不動産登記簿謄本(登記事項証明書)
- その他、法務局から呈示指示を受けた書類
上記書類は例示列挙であり、実際には添付書類の少ない者でも副本を合わせて申請書類は1cm程度の厚さとなる。事業所得者の場合や世帯内で複数の帰化申請者が居る場合、親族状況の確定が簡単でない場合などは、申請書類はその厚さが4~5cmもある膨大なものとなる。
帰化申請における添付書類は、国籍・所得の内容・出生地・家族の状況・住居の状態などによってひとりひとり個別に違い、取得のタイミングが大変重要である。また、国籍証明書などは帰化できることがある程度定まってから取らないと大変な事態となるので注意しなければならない。
単独日本国籍保持者の他国への帰化
他の国籍を同時に有しない純然たる日本国籍保持者(日本人)が、自らの志望により外国の国籍を取得した場合(つまり帰化した場合)には、国籍法第11条第1項の規定により当該帰化と同時に自動的に日本国籍を喪失する。しかし、当該事実を日本国政府として自動的に把握する制度・機構がない(他国籍への帰化者には帰化完了時に日本の市町村へ届け出る義務はあるが、日本の当局と外国政府とが直接的に国籍情報を交換する制度はない)ため、本人からの届出がない場合は形式的には日本人としての戸籍はそのまま存置することとなる。このため、法律の建前上は日本国籍喪失状態であるにもかかわらず、(本来は無効である)当該戸籍謄本を用いて日本国旅券を取得したり住民登録するなどして、事実上多重国籍状態を継続する者もあるとされる。
なお、同法第11条第1項の「日本国籍自動喪失」規定はあくまで「自らの志望によって」他国籍を取得した場合という限定条件が冠されており、つまりは手続を踏んで自ら他国へ帰化した場合に適用されるものであり、片親が外国人であるため自動的に二重国籍であったり、外国人との婚姻によりその配偶者の国籍が自動的に付与されたり(妻に付与される場合がほとんど)、当該他国における貢献などが認められて、前述の「大帰化」に相当する措置(その国における国会決議や大統領指令など)により当該他国籍を一方的又は恩恵的に付与された場合には、日本国籍を自動的に失うことはないと解される。
日本国籍を有する多重国籍者の国籍選択の実情
前節のような単独の日本国籍者として出生・生育した後に自主的に他国へ帰化した者とは異なり、出生時点で合法的に多重国籍を有する状態になった者、または外国人との婚姻などにより自動的に多重国籍を有する状態になった者については、少なくとも日本国側の見解では22歳になるまで(20歳になってから多重国籍者になった者については外国籍の取得から3年間)は多重国籍の保持が認められている(日本側で容認していても、外国側のほうでより若年齢での国籍選択を求める例があり、絶対的に22歳まで全ての多重国籍を保持することが担保される訳ではない)。国籍法上の規定では22歳までにいずれか一つの国籍を選択し、その旨を日本の市町村に届け出ることとなっているが、仮に「日本国籍を選択する」と宣言した場合でも、残る他国籍を離脱するのは義務でなくあくまで努力規定である(離脱成就時の届出は義務であるがその前段階の離脱自体は義務でなく、またそもそも他国籍の離脱手続は日本国政府が関与できる事項でない)ため、日本国籍選択の宣言をしながら実際には他国籍をそのまま保持したり、日本を含む複数国の旅券を取得し使い分けたりする者もあるとされる。
戸籍編成と転籍について
日本では、帰化により編成した戸籍(本籍)には、帰化の事実がそのまま記される。テンプレート:要出典範囲 。
ただし、除籍簿(転籍前の本籍)に関しては戸籍法により150年間の保存が義務付けられ、転籍前の本籍も記載されているため、本人は転籍後150年まで帰化の証明が可能である。
脚注
関連項目
外部リンク
de:Staatsbürgerschaft#Erwerb durch Einbürgerung (Naturalisation)- ↑ 平野邦雄『帰化人と古代国家』吉川弘文館、2007年、pp.1-10
- ↑ 平野邦雄『帰化人と古代国家』吉川弘文館、2007年、p.2
- ↑ 平野前掲書、p.2
- ↑ 平野前掲書、p.2
- ↑ 平野前掲書、p.4
- ↑ 森公章「『帰化人と古代国家を読む』、平野前掲書解説pp.312
- ↑ 森公章「『帰化人と古代国家を読む』、平野前掲書解説pp.313
- ↑ 森公章「『帰化人と古代国家を読む』、平野前掲書解説pp.313
- ↑ 環境省・農林水産省
- ↑ 国土交通省
- ↑ 昭和25年法律147号
- ↑ 一部の支局、全ての出張所を除く。
- ↑ 帰化許可申請者数等の推移、法務省民事局。
- ↑ 平成18年度日本行政書士会連合会調査の標準報酬額。帰化申請の報酬額はかつて、被雇用者(サラリーマン)23万円程度、会社役員・自営業28万円程度を中心とした5~10万円程度の幅で決定するよう規程されていた。
- ↑ インターネットにおいては、1名の金額が20万円(地方により異なる。東京圏はやや高めの設定)を切る事務所も現れ始めたが、インターネットサイトは自分で好きなように作成できるため、帰化申請の経験のない開業したばかりで事務所を持たない者が15万円程度の安価で客を募っている場合も多いので依頼の際には信用のできそうな事務所を慎重に選ぶ必要がある。テンプレート:要出典