引き伸ばし機

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引き伸ばし機(カラーモノクロ両用/集散光・散光切り替え可能タイプ)

引き伸ばし機(ひきのばしき)とは、写真フィルムの像を拡大・投影し、印画紙に焼き付けるための機械である。

引き伸ばし機がいつ頃発明されたのかははっきりとはわかっていない。しかし一般的になったのはライカの発売によるとされている。それまでのカメラはフィルムないし乾板を印画紙に密着させポジ像を得ていたが、35mmフィルムはそのままでは鑑賞が難しい大きさなので、エルンスト・ライツはライカのシステムの一環として引き伸ばし機を用意していた。

引き伸ばし機の構成

光源

初期の引き伸ばし機は太陽光を使うものもあったが、現在では専用の電球コールドライトを使うものが主流である。ただし、プラチナプリントなど露光に紫外線を使う場合、紫外線蛍光灯を使う場合もある。

引き伸ばし用電球は一見普通の電球に見えるが、点灯スイッチを入れてから明るくなるのが早い仕様である。普通の電球はスイッチを入れると最初暗く点灯し、だんだん明るくなり、しばらく経って一定の明るさとなる。それでは露光時間を倍にしても露光量が正確な倍にならず、一種の相反則不規が発生する。プリントさえできれば良いのであれば代用できると言えなくもないが、露出をコントロールするためには引き伸ばし用電球を使用する必要がある。

照明方式

集散光式、散光式などがある。

集散光式
光量が大きく、シャープなプリントを作ることができるというメリットがある反面、フィルムのホコリや傷が目立つというデメリットがある。モノクロでは散光式より0.5号程度硬調になる。
散光式
フィルムのホコリや傷が目立ちにくいというメリットがある反面、光量の大きな引き伸ばし機を作ることが難しいため露光時間が長めになるというデメリットがある。モノクロではネガによってはコントラストの低いプリントになることがある。

モノクロ引き伸ばし機では集散光式、カラー引き伸ばし機では散光式を採用していることが多い。機種によっては、ヘッドの部分を変えることにより集散光式、散光式のどちらでも使うことができるようになっている。

引き伸ばしレンズ

引き伸ばしレンズはフィルムの像を拡大・投影するために用いられる。

カメラレンズの互換性が低いのとは異なり、ほとんどの引き伸ばしレンズはマウントにライカLマウントを使っているため、さまざまなレンズメーカーのレンズを使うことが可能である。 ブランドとしてはローデンシュトックのロダゴンやロゴナー、シュナイダー・クロイツナッハのコンポノンやコンポナー、ライカのフォコター、コダックのエンラージング・エクター、富士フイルムのフジノンEXやフジノンESやフジナーE、ニコンのELニッコール、ミノルタのCEロッコールやEロッコール等が知られる。ただしカラー化、さらにはデジタル化に伴い引き伸ばし市場は縮小しており、上に挙げた中でも撤退したメーカーが多い。

大きいプリントを作る際にはヘッドの位置を上げなければならず小さいプリントを作る際にはヘッドの位置を下げなければならない。あまりにヘッドの位置が高いとピント合わせが大変であり、あまりにヘッドの位置が低いとイーゼルの開閉や覆い焼き等に支障が出るので、作るプリントの大きさとネガの大きさに合った焦点距離のレンズを選択する必要がある。使用する引き伸ばしレンズの焦点距離は撮影時に標準レンズと呼ばれる焦点距離を基本とし、大きいプリントを作る際には短め、小さなプリントを作る際には長めの焦点距離のレンズを選ぶ。具体的には

  • 24×36mm(ライカ)判 40mm-63mm
  • 6×4.5cm判 75mm-80mm
  • 6×6cm判 75mm-80mm
  • 6×7cm判 80mm-90mm
  • 6×9cm判 90mm-105mm
  • 4×5in判 130mm-150mm

が目安である。

フィルムキャリア

フィルムキャリアとは、フィルムを挟んで引き伸ばし機にセットするためのホルダーである。

各種フォーマット専用のもの、ユニバーサルキャリアという様々なフォーマットに対応できるものまで様々である。ユニバーサルキャリアにはフィルムの四辺を囲む羽根がついており、これをスライドさせることにより開口部の面積を変えることができる。

またガラスなし、片面ガラス付、両面ガラス付などのタイプに分かれる。

ガラスなし
値段が手頃なうえ取り扱いが容易である。ただし面積の大きいフィルムを使う場合、フィルムの平面性が問題になることがある。
両面ガラス付き
フィルムの平面性を保つことができる。ただし、ガラス面にホコリが付着したりニュートンリングを生じることがある。また価格が高い。
片面ガラス付き
ガラスなし、両面ガラス付きの双方の利点を得ようとするものである。

簡易にはアンチニュートンガラス2枚でネガを挟むことで代用でき、面倒ではあるが平面性も高く保持できる。

フィルター

カラー引き伸ばし機は、色調整用CPフィルター(イエロー・マゼンタ・シアン)を入れることによって色補正ができるようになっている。現在はダイヤルを回すことによって値を簡単に変えることができるダイクロイックフィルターを装備する製品が大半である。作業は若干煩雑になるが、モノクロ引き伸ばし機であっても撮影用のCCフィルタをフィルターポケットや引き伸ばしレンズの下に挿入することでカラー引き伸ばし機として使うことが可能である。

多階調印画紙を使う場合は専用のフィルターをフィルターポケットに挿入するのが一般的であるが、カラー引き伸ばし機の色調整機能を使っても可能である。

その他オプション機材

引き伸ばし機とセットで使うことができるオプション機材としては以下のようなものがある。

タイマー
印画紙に露光する時間を調整するものである。×10秒、×1秒、×0.1秒などの桁に分かれた露光時間調整ダイヤルがついており、スタートボタンを押すとセットした合計時間だけ出力がオンになる。時間の表示形式はアナログ式の物とデジタル式の物がある。引き伸ばし機によってはタイマーを内蔵している機種もある。また、露光と連動してセーフライトを消灯・点灯できるものもある。
フットスイッチ
足で踏むことにより露光させることができる。セーフライトも制御できるものもある。

引き伸ばし機の分類

フィルムフォーマットによる分類

使うフィルムのフォーマットにより

  • 135フィルム用 - 各社のラインナップで入門用として位置づけられていることが多い。
  • 135フィルム~120フィルム用 - 6×6cm判以下、6×7cm判以下、6×9cm判以下に対応する製品があり、使用する最大のフォーマットにより選択する。
  • 4×5in判以上用 - 小さいフィルム用に使うと光量損失が大きく、引き伸ばし機自体が巨大であり取り回しがしづらいため、プロや写真学校、レンタル暗室などでは事実上そのフォーマット専用としていることが多い。

の大きく3つに分けられる。

またこれらの引き伸ばし機以外にもミノックス判専用、16mmフィルム専用の引き伸ばし機なども存在する。

大伸ばし

多くの引き伸ばし機ではヘッドの部分を支柱を中心に180度回転させて床面投影、もしくは90度回転させて壁面投影させることができる。こうすることで全紙やロール紙などの大サイズの印画紙への引き伸ばしが可能となる。この場合イーゼルマスクを使用することができないため、粘着テープなどで壁面もしくは床面に直接印画紙を固定して使用する。

デジタル化の影響

自動的に焼き増しをするミニラボ装置が普及したことに加え、デジタルカメラの普及でフィルムカメラの需要が少なくなったため、2010年現在、引き伸ばし機単体の需要は少なくなりつつある。

主な引き伸ばし機メーカー

  • 富士フイルム - 日本のメーカーで引き伸ばし機など暗室用品などを扱い、現在は引き伸ばし機については販売終了している。
  • LPL - 日本のメーカーで引き伸ばし機など暗室用品などを扱う。
  • ラッキー(LUCKY ) - 日本の引き伸ばし機メーカーで、現在は、藤本写真工業の事業を継承したケンコーが扱っている。
  • ダーストDURST ) - イタリアの引き伸ばし機メーカーで小型、中型引き伸ばし機を得意とする。以前はペンタックスが輸入代理店をしていた。
  • チャールズ ベセラーCharles Beseler ) - アメリカの引き伸ばし機メーカーで、大型引き伸ばし機を得意とする。
  • オメガ(Omega ) - アメリカの引き伸ばし機メーカーで、大型引き伸ばし機を得意とする。

関連項目

外部リンク

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