対レーダーミサイル

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ファイル:AGM-88 HARM on FA-18C.jpg
AGM-88 HARM対レーダーミサイル

対レーダーミサイルARMテンプレート:Lang-en-short)は、レーダーサイトなどのレーダーを攻撃するために使われるミサイルである。

概説

目標となるレーダーサイトより発信されるレーダー波を受信し、その発信源に向かって自らを誘導するパッシブ・レーダー・ホーミング(PRH)誘導のミサイルである。対レーダーミサイルが開発された当初の目的は、地対空ミサイル(SAM)サイトの追跡/誘導レーダーを破壊することであったが、現在では警戒監視レーダー、GCIレーダー、航空交通管制(ATC)一次/二次レーダー気象レーダーなどあらゆるレーダーを目標とすることができ、無線通信や妨害電波でさえその誘導に用いることができる。

パッシブ・レーダー誘導は目標からのレーダー波を受信、誘導するため、目標が途中でレーダー波の送信を止めた場合、目標への誘導が行えなくなり、結果として命中精度が大きく下がってしまうという弱点を持つ。そのため、他の誘導方法と併用して誘導を行う事により、その弱点を克服しようと改良を行ったタイプのミサイルも開発されている。

対空火器管制用レーダー装置などに対して使用する場合には、その対空ミサイルの射程外から攻撃できるよう、射程が長いことが望ましい。目標となるレーダー装置そのものは非装甲で脆弱であるため必ずしも弾頭は大きい必要がなく、小型軽量な弾頭で目的を達成できるために本体重量を節減でき、射程の長距離化が実現している。

評価基準

対レーダーミサイルを評価するうえで次のような要素が評価対象となる。これを高いレベルで達成することが研究開発上の目標となる。また、対レーダーミサイルを導入しようとする軍隊も性能がよければ価格は高くなるので、自国の予算と要求する性能とのバランスをとりつつ選択しなければならず、容易ではない。

最大射程

所定の高度で飛行する航空機がどれだけ遠くのレーダーと交戦できるか。

目標がSAMである場合は、SAMの射程よりARMの射程が長ければ長いほど発射母機は安全ということになる。また、目標に近寄ってからでないと発射できないのであれば、発射可能地点に到達するまでに敵の警戒レーダーに捉えられ、レーダー波の発信を停められてしまったり、敵戦闘機に迎撃の準備をされてしまうことも考えられる。

速度

ミサイルがどれだけ速く目標に達することができるか。

ミサイルの速度が遅くて目標に達するまでに時間がかかりすぎてしまうとレーダーに電波の発信を停止する時間を与えてしまう。また、目標がSAMであれば、SAMが発射したミサイルより遅いとARMが敵のレーダーに着弾する前に航空機のほうが撃墜されてしまう。

周波数覆域

広帯域の周波数の電波を探知することができるか。

これはすなわち、どのくらい多くの種類のレーダーミサイルが特定し、追跡し、攻撃することができるかということを意味する。早期警戒レーダー及びGCIレーダーと交戦するためには、低帯域の電波を探知できることが重要であるし、SAM射撃管制レーダー及びイルミネーターと交戦するためには、高帯域の電波を探知することが重要である。

パルス密度限界

シーカーが高密度の脅威環境で特定のレーダーを識別できるか。

シーカーは、特定の目標を選択するために多くのレーダーからのパルス・トレインを分離することができなければならない。これには、レーダー・パルスの特徴を見分けることのできるプロセッサが必要であり、分析したデータと照合するための大量のデータを含むデータベースが必要となる。

対電子対抗策(ECCM)能力

ダミーの電波源による誘惑に抵抗する能力があるかどうか。

発射母機から指示されたレーダーと異なる位置にある電波源を無視するような仕組みや、妨害電波源そのものを目標として攻撃できる能力などもECCM能力と言える。また、通常のARH(対レーダー誘導)シーカーの他に画像認識などによって目標以外の形状をした物体を無視できるシーカーを搭載する方法もある。

致死性

目標を確実に撃破できるかどうか。

ARMの致死性が乏しければ、1つの目標に対してより多くのミサイルを発射しなければならず、航空機の危険も高まる上に不経済である。致死性はミサイルの精度と弾頭の効果によって決まる。弾頭がどんなに大きくて破壊力があっても、ミサイルの精度が悪ければ目標にほとんど損害を与えることができないし、逆にミサイルの命中精度がどんなに良くても、弾頭が小さければ目標に致命的な損害を与えることができない。AGM-45 シュライクを例にとれば、弾頭が小さかったためにせっかく命中してもSAMレーダーを完全に破壊することができず、アンテナその他の部品を交換されて再び戦列に復帰されてしまって元の木阿弥という事態が起こった。また、この要素は信管の信頼性にも影響される。

電波停止対抗性

レーダーの電波発信の停止に対応できるか。

ARMは基本的にパッシブ・レーダー誘導であるため、発信源からの電波が停止してしまうと目標を見失ってしまって命中しない可能性が高くなる。これを補うために、電波停止直前の発信源の位置を記憶してそこへ向かって飛行を続ける仕組み、INSによって目標の位置をあらかじめ記憶したうえでそこへ誘導する仕組み、GPSによってINSの平面位置誤差を修正するだけでなく、高度までも修正し、命中精度を向上させる仕組みが実用化されている。INSの場合、ECMに強い反面、誤差が蓄積してしまう欠点がある上に、平面でしか誘導できないため、目標とするレーダーが高台にあると命中しないことがあった。

搭載可能数

航空機に何発搭載することができるか。

ARM本体の重量と大きさに左右される。弾体が大きいと内部兵器倉に武装を搭載するタイプの航空機(例えばF-22)の場合は兵器倉にARMが入らないという事態も起こりうる(現在ワイルド・ウィーゼルに使われているF-162017年までに退役することが検討されている[1]ため、F-22をワイルド・ウィーゼルとして使う可能性も否定できない)SEAD任務を実行するワイルド・ウィーゼル機の数は少なければ少ないほどよく、ミサイルが重かったり大きかったりすることで搭載量が少なければそれだけたくさんの航空機を飛ばさなければならず、敵に発見されやすくなる。また、攻撃本隊の航空機の数もそれだけ減らされることになり、敵に決定的な打撃を与えられなくなる。

柔軟性

複数の発射モードがあるか。

いつも同じような飛行経路をたどってミサイルがやってくれば、敵に攻撃を予想されやすくなり、防衛しやすくさせてしまう。飛行経路が異なる発射モードが複数あれば、敵が防衛戦術を考案するのがより難しくなる。また、戦闘中に発生した不測の事態に対応するために航空機が飛行中にでも目標を変更してプログラムを切り替えることができれば、臨機応変に任務を実行できる。

隠蔽性

飛行している痕跡を残さずに目標に到達することができるか。

大量の煙を吐きながら飛行していれば、目標から離れた敵部隊にそれを目撃されてしまうと目標にミサイルの接近を知らされて対策を講じる時間を与えてしまう。また、目標から見て判別しやすければ、対空砲などでも応戦することができてしまう。したがって、ミサイルのロケット・モーターから噴射する煙の量は少なければ少ないほどよい。

コスト・パフォーマンス

単位金額あたり何発購入できるか。

使える戦費が限られているとすれば、同じ金額でできるだけたくさんのミサイルを購入できるほうが望ましい。AGM-88 HARMを例にとれば、1発あたり284,000USドルもするため、湾岸戦争で2,000発のAGM-88を使用したというから、1991年当時の為替レートを1ドル=134とすると1発約3,800万円、2,000発で716億1,200万円かかったことになる。AGM-88はコスト削減が大きな課題になっており、1割削減することができるだけでも相当な戦費の削減につながる。

航空機搭載電子機器

発射母機がどんな搭載電子機器を搭載しているか。

RHAWS(テンプレート:Lang-en-short)やELS(emitter locating system)のようなより高性能の電子機器を搭載していれば、より正確に目標の位置と種類を特定することができ、命中精度がそれだけ上がる。RWR(radar warning receiver)のような限定的な能力しか持たない電子機器であれば、ミサイル本体がどんなに性能が良くても命中しないこともあり得る。

信頼性

ミサイル有効性と維持経費のバランス。

使えば確実に壊れてしまうミサイルといえど機械であるので使う前に故障する可能性はあるが、戦闘で使用するときに頻繁に故障するようではどんなに高性能なミサイルも宝の持ち腐れである。中東のような過酷な環境でも確実に動作することが望ましい。また、その性能を維持するためのメンテナンスにかかる費用も少なければ少ないほどよい。

主な対レーダーミサイル

テンプレート:Col

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ

  1. 軍事研究 2007年3月号 p.132

関連項目

テンプレート:ミサイルの分類

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