地域猫

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テンプレート:出典の明記 地域猫(ちいきねこ)とは、特定の所有者(飼い主)がいないで、かつその猫が住みつく地域の猫好きな複数の住民たちの協力によって世話され、管理されている猫のこと。

この中には、特定個人や不特定多数によって、ただ給餌されるだけの猫は含まれない。特定個人によってのみ給餌されるだけの猫は当該個人の飼い猫であり、特定個人に養われていない(管理責任を持つ者がいない)猫は野良猫である。

概要

餌・水をやる場所が決められ、カバーで覆った出入り口を設けたプラスチックや発泡スチロール箱、蜜柑箱などの簡易型の塒(ねぐら)の設置、などの排泄物の処理や周辺環境の掃除、本来飼い主が受けるべき苦情の処理や、野良猫が繁殖しないように去勢手術を行って身体の特定の箇所に目印をつけられるなどの管理・保護がなされているため、法律上管理責任者が存在しない野良猫とは区別される。

1997年(平成9年)に神奈川県横浜市磯子区の猫好きな住民たちが野良猫たちを自分たちで共同で世話をし、野良猫を増やさないようにする運動をはじめたことから全国に地域猫運動、地域猫制度として普及した。

これは、地域に増加する野良猫に対してむやみに餌を与えない様に行政側が提言を行い、餌を与える側に自主的な協力を呼びかけたり、餌を与えて養うにしても、以下の活動を推奨している。

  • 不快感を催させるほどに増えないよう不妊・去勢手術を行う
  • 健康管理を行って伝染病寄生虫の蔓延を防ぐ
  • 公共の場所や他人の敷地に放置された糞を、ネコを世話する側が掃除する
  • 入って来てほしくない場所には侵入防止用の措置を行う
  • 個体の把握と管理のため、管理されたネコには耳先カットや首輪・ピアスといった目印をつける
  • 餌を与える場所を定め、給餌行為で他人に迷惑を掛けないよう配慮する

以上、さまざまな対応をとることで、地域に住みつく飼い主のいない猫と地域住民の共存を図る地域猫制度を推進する自治体ボランティア団体が現れ始めている。

実施と問題点

住民との協力と対立

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地域猫の避妊費用支援を募る募金箱。(江の島にて撮影)

この活動には、周辺住民が一丸となっての協力体制が欠かせないと考えられている。特に、猫が好きな人・無関心な人・嫌いだったり苦手な人(動物アレルギー等の体質的な問題も含む)のいずれもが、満足できる状況を維持できなければ、この活動を継続させる事は難しい。周辺住民との関係においては、双方の間で十分な同意を得ないままに運動を開始したために、野良猫(地域猫)への餌やりを巡り、賛成派と反対派が対立する事態が発生している[1]

野良猫に給餌するだけの活動とも誤解を受け易いが、地域猫活動は本来猫の健康面でのケアや、猫と近隣住民とのトラブルの抑制、個体の管理を通して捨て猫の防止(飼育動物の遺棄も動物虐待である)を図るなどの活動を含めての地域猫活動であり、幾ら地域猫活動を自称しても関係者が問題のケアを行わなければ、それらの猫は地域猫とは呼べず、野良猫ないしそれら給餌者のペットに過ぎない点に、注意が必要である。

しかし同活動が2000年代になって急速に名前だけが知られるようになると、無造作に餌を与えるだけの活動を地域猫活動だと自称して住民間の摩擦を生むケースも相次ぐようになった。例えば、プロ将棋棋士の加藤一二三が1993年頃から集合住宅の自宅庭で野良猫に餌やりをしていたケースでは、最大で18匹にもなった猫の糞や騒音・生ゴミの食い散らかしが問題となった。2002年頃より集合住宅の住民17人が、管理組合と共に餌やり行為に反対し抗議していたが、加藤側は地域猫活動だとした上で、猫に避妊手術を受けさせたなどとも主張して、2008年より係争関係となった。住人側と管理組合は、加藤が餌やりを中止することと慰謝料など645万円を賠償することを求めていた。2010年5月13日、東京地方裁判所立川支部は、加藤に餌やり中止と204万円の支払いを命じる判決を言い渡した[2][3]

同活動はこれら猫の数を住民らが容認できるレベル以下に統制するという趣旨がなかなか理解されず、近隣都県より深夜などに、猫を捨てに来るケースもあり、地域猫活動そのものが崩壊してしまう事例も報告されている。

こういった地域に対する捨て猫は随時、管理者等の有志が里親を探すなどもして、不用意に猫が増えないようして居るケースも見られるが、これにしても関係者のボランティアに拠っているために必然的に限界が存在し、止む無く保健所などで処分される可能性が指摘される。保健所では、一定期間預かった動物を保護して、里親説明会などで受け入れ家庭を探しているが、新たに飼い主となる人が出るのは、全体の0.1%程度に過ぎず、それ以外は殺処分される。

地域猫への迫害

一方で、地域猫を迫害するケースも発生している。

本来、地域猫に対する苦情は、管理者と協議の上で、それらに対する方策を検討し、敷地内に入って来て欲しくない人は、管理側の助けを得て、地域猫が入ってこないようにしつけを行ったり、侵入防止用の対策を行う。

しかしこの管理者への相談を行わずに、独自に敷地内にを仕掛けたり虐待しているケースがあるとされ、関係者の敷地内に虐待を受けたと思われる猫の死骸が投げ込まれる等の事件も発生している。地域猫活動では先駆とされる磯子区でも2001年頃より、毒殺されたものや、禁止猟具(トラバサミ等)で負傷と思われる、足を怪我した個体が保護されたとする報告が度々挙がっている。むろん程度に関係なくこうした動物虐待は「犯罪」であり、実行者は刑法に抵触している。

同種の殺傷・毒殺を含む動物虐待事件に関しては、地域猫活動とは別の問題ではあるが、これら動物虐待事件では、地域住民の安全や治安に対する不安や事件(及び犯人)に対する不快感も発生する。管理対象となっている猫の負傷ないし死亡は管理者への連絡も必要であるが、動物虐待事件の場合では犯罪であることから警察への通報も必要となる。

動物虐待か否かに関しては、その程度問題と受け取る側の主観的な部分もあるが、概ね過去の動物虐待事件判例などでは殺害ないし負傷させることが問題とされるため、個体が怪我をしない程度の追い出し方に関しては特に事件とされた例はみられない。

地域猫の効果

以下に地域猫運動が野良猫個体数(および処分数)の増減や被害抑止になるかの、関連性のある調査の例を挙げる。

日本において地域猫運動を条例の制定や飼い主のいない猫の不妊化手術費用の援助・捕獲器の貸し出し・講習会などで支援している行政を対象に行ったアンケート調査(2008年度)では、地域猫の定義自体に関する意見もあった一方、「住民間の親密度が増した」(23.1%)や「猫に関する苦情が減った」(20.1%)とする一方で「(保健所などにおける)猫の処分数が減った」と解答した行政は13.2%に過ぎなかった。なお猫の引き取り数や殺処分数の増減において、自治体の地域猫活動への支援が影響したかに関して4分の1の自治体が「効果は不明」と回答しているが、地域猫運動の支援を行っている自治体の多くが2004年度よりと経過年数が浅く、行政が地域猫活動に取り組んだ時期の影響も考慮する必要があると報告されている。この調査に関連しては、欧米における野生動物の保護を目的とし野良猫(または野生化したイエネコ)の数量削減を目指したTNRtrap-neuter-return:罠で捕獲し不妊化手術の後に再び元の場所に放し管理する)活動において、アメリカ連邦政府野生動物生物庁(U.S Fish and Wildlife Service)は「TNRの成功事例はひとつもなく、去勢しても野生動物減少に対し即効性がない。」と結論付けている[4]など、問題が示されている。 TNR活動に関連しては「野良猫の増減にはペットである猫の飼い主の教育も必要」などの意見や、「肯定的にとらえた調査は信頼性に欠き狭い地域に限定されたもので精査が必要」とする意見も寄せられている。[5]

日本における野生動物保護を目的とする野良猫のTNR活動に関しては、北海道の天売島におけるケースが報じられている。絶滅危惧種ウミガラスをはじめウトウウミネコなど野鳥保護を目的として野良猫の数を減らす運動が1992年から展開され、野良猫の去勢・避妊手術が行われたが、次第に同じ猫ばかりが捕獲のための罠に掛かるようになり5年で中止、野良猫の問題は依然続いている。2012年4月には地元羽幌町でペットとしての飼い猫は登録をし個体識別用マイクロチップ埋め込みを行い、放し飼いにする際には去勢を義務化する条例が制定され、2013年5月現在では25頭が登録され、17頭が去勢され、7頭は元々不妊化済み、1頭は行方知れずだという。なお同条例では住民や来島者がみだりに水や餌を与えることも禁じている。しかし羽幌町によれば同島には2-300頭の野良猫がいるとみられており、これらの削減には至っていない。このため野良猫を捕獲し獣医師が飼い人間に慣らした上で島外の希望者に飼い猫として斡旋できないか検討中だという。[6]

脚注

  1. [1](2007年、北九州市における事例 - Asahi.com 2007年11月6日掲載記事。同8日閲覧確認)
    同記事インターネットアーカイブキャッシュ
  2. 毎日jp: 野良猫餌付け:将棋の加藤九段に中止などを命じる判決 毎日新聞 2010年5月13日 13時23分(最終更新 5月14日 1時02分)
  3. YOMIURI ONLINE: 将棋の加藤九段に野良猫への餌やり禁止命令 (2010年5月13日13時33分 読売新聞)
  4. U.S Fish and Wildlife Service
  5. 土田あさみ・秋田真菜美・増田宏司・大石孝雄、2012. 『行政による地域猫の支援状況およびその効果について』. 東京農大農学集報 57:119-125CiNiiデータベース
  6. 朝日新聞デジタル:海鳥、猫から守れ 天売島 (2013年05月27日)

外部リンク

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