南海9000系電車

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テンプレート:鉄道車両 南海9000系電車(なんかい9000けいでんしゃ)は、南海電気鉄道通勤形電車の一系列である。

概要

本系列は、南海本線系統向けとしては初の採用例となる、オールステンレス製車体を備える20m級両開き4扉通勤車である。

長年に渡る特急・急行を中心とする優等列車の運用で車体の老朽化が目立ち始めていた旧1000系の淘汰を名目[1]として、1985年から1988年にかけて高野線8200系を基本として32両が東急車輛製造で製造された。

車種構成

本系列は以下の2形式3種[2]で構成される。

  • モハ9001形(奇数) 中間電動車(M)
  • モハ9001形(偶数) 中間電動車(M')
  • クハ9501形 制御付随車(Tc)

また、編成は以下の通り。

  • 第1編成(9501F) - 第5編成(9509F)
    • クハ9501(奇数)-モハ9001(奇数)-モハ9001(偶数)-クハ9501(偶数)
  • 第6編成(9511F)・第7編成(9513F)
    • クハ9501(奇数)-モハ9001(奇数)-モハ9001(偶数)-モハ9001(奇数)-モハ9001(偶数)-クハ9501(偶数)

車体

8200系で初採用された有限要素法による軽量ステンレス構造車体を備える。但し、同系列と同様に一般的な軽量ステンレス構造車体を備える車両とは異なり、従来通り側板にコルゲーションが施されている。窓配置も従来通りクハがd1D2D2D2D1、モハが2D2D2D2D1(d:乗務員扉、D:客用扉)で、モハは車端部の窓が1枚の方が難波寄りとなる。

前面デザインについては、同系列と同様外周部にFRP製の縁飾りが設けられたが、同時期に設計された10000系のデザインに呼応して左右の妻窓の高さが屋根近くまで拡大され、いわゆる額縁スタイルとなっている。車両番号は運転台上部の窓内部にバックがダークグリーンに塗装された上で表記された。もっとも、左右の腰板部に配されたシールドビームによる前照灯や尾灯、それに貫通路上部に設置された行先表示幕などの形状・配置は8200系から何ら変更されていない。また、踏切事故対策としてスカートが装着された。

高野線用ステンレス車が無塗装であったのに対し、本系列は南海本線用であり、誤乗防止の観点から一般車の腰板部に塗られていたのと同じグリーンの着色フィルムによる識別帯が前面と側面の窓下に貼付された。これは1993年関西国際空港開港に伴う新CI戦略による塗装変更でオレンジとブルーの色帯を貼付するように改められ、比較的短期間に終わっている。側面では帯が入る位置が下がったことにより旧帯の剥離跡が目立つ。この際に「NANKAI」のロゴ文字のフォントが変更され、前面窓内の緑色も黒色に変更された。

側面の車両番号のプレートは高野線用のステンレス車両とは異なり、銀色の地にブルーの文字である。

接客設備

8200系の設計を踏襲する一般的なロングシート車であるが、全体のカラースキームが暖色系に変更され、座席の仕切りがパイプ製から木目模様の入った仕切り板に変更されている。車椅子スペースは設置されていない。

冷房装置は冷凍能力10500kcal/hの三菱電機CU-191を各車4基ずつ搭載し、同系列と同様天井に横流ファンが設置されている。

主要機器

主電動機

8200系用MB-3280-ACの実績を基に改良が施された三菱電機MB-3280-BC[3]直流複巻式電動機をモハに各4基ずつ装架する。駆動システムは南海本線系通勤車標準のWNドライブ、歯数比は85:16(5.31)である。

主制御器

日立製作所VMC-HTR-20B界磁チョッパ制御器を、モハの奇数車に2基の東洋電機製造PT-4803-A下枠交差式パンタグラフと共に搭載する。

この制御器は、型番のVMCが示す通り日立製作所特有のバーニア制御器をベースに界磁制御器をチョッパ制御器で置き換えたものであり、使用線区の線形の相違などもあって、同じ界磁チョッパ制御ながら三菱電機製の制御器を搭載した8200系とは機能や特性がやや異なっている。

もっとも、チョッパ制御器の搭載スペースを確保するために主回路構成を簡略化する必要があったことから、バーニアは2組を交互に使用することで緻密且つスムーズな加速を実現していた6000系などのものとは異なり1組のみの搭載となっており、ノッチ進段に伴う衝動を完全に打ち消し切れておらず、やや衝動が目立つ。

1986年10月竣工の9507Fからは制御装置に故障記憶モニタが付加され、故障内容のみならず、発生時刻まで記憶できる様にした(1次車も後に付加)。

台車

従来通り2枚の板ばねで軸箱を支持する平行支持板式(SU式)のダイレクトマウント空気ばね台車である、住友金属工業FS-392B(モハ)・092(クハ)を装着する。

ブレーキ

8200系までのHSC系電磁直通空気ブレーキに代えて、本系列では三菱電機MBS-R回生制動併用電気指令式ブレーキ[4]に変更された。これにより直通管とブレーキ管の2本の空気管引き通しが不要となり、元空気溜管1本で済むようになったため、空制系の保守作業が大幅に簡素化されている。また、南海線の車両としては初の回生ブレーキ付きの車両であった[5]

また、この変更に伴い運転台のレイアウトも大幅に変更され、マスコンとブレーキを分けた横軸2ハンドル形とされ、デスク上に速度計などの計器を埋め込んだ洗練されたデザインとなった。

もっとも、ブレーキ指令の読替装置を搭載していないため、従来のHSC系電磁直通ブレーキを搭載する7000系・7100系や10000系との併結は不可能となっている。

運用

  • 4両編成は、運用の都合上1編成が予備となっている。新造直後は普通運用を中心に充当されていたが[6]、7000系と同様に編成に補助電源装置が1基しか搭載されていないため、現在は故障時のシステムの冗長性確保を考慮して2編成を併結した8両で主にラッシュ時急行空港急行運用に充当されている。また、運用の都合上から特急[7]に使用されることもある。運用の都合がつかない場合は羽倉崎検車区で留置されることが多いが、ごく稀に単独で普通運用に入ることがある。
  • 6両編成は、南海線では旧1000系以来[8]の貫通固定編成で、運用上の制限はないため、6両編成車が充当されるすべての種別の運用に区別なく充当される。なお、この6両編成は女性専用車の設定対象外である。
  • ブレーキ方式が共通の2代目1000系12000系とは形式上併結可能であり、実際に両系列とも併結試運転が行われたことがある。しかし、本系列はこれらと搭載冷房機のメーカーが異なり空調制御シーケンスも異なるため、併結して営業運転を行うには温度調節に不都合があり、これまでのところ営業運転における併結実績は確認されていない。

その他

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

テンプレート:南海電気鉄道の車両

  1. 旧1000系の淘汰に当たっては、座席指定車を旧1000系からの機器流用車である10000系で置き換え、一般車を旧1000系とシステムを同じくする7000系・7100系で置き換える措置がとられた。これは次世代通勤車として新技術を盛り込んだ本系列は、システムの相違から10000系と併結運転できず、単独運用とする必要があるためである。
  2. モハ9001形は奇数車と偶数車でペアを組む1C8M制御車で、難波寄りの奇数車にパンタグラフと主制御器を、和歌山市寄りの偶数車に140kVA級静止形インバータ電源と空気圧縮機、それにバッテリーをそれぞれ搭載する。
  3. 端子電圧375V時定格出力160kW。
  4. 制御器の回路簡略化のため、回生失効時にはそのまま空制が動作するように構成されている。
  5. テンプレート:Cite book
  6. 本系列は新造当時は普通運用が中心であるが、かつて早朝のみ運用されていた4連の急行・準急にも本系列が使用された実績がある。また、暫定期間ではあるが、7000系の冷房化改造工事や7100系の局部更新工事による車両不足を補うため、通常の6連ユニット編成の他、4連ユニットに中間車2連を増結して6連に組み替えた編成を急行・準急運用に使用していた。
  7. この場合、10000系と併結できないため、全車自由席の列車にのみ充当される。ただし2012年4月1日のダイヤ改正で全車自由席の特急は消滅している。
  8. 旧1000系は2扉クロスシート車であり、4扉ロングシート車では初となる。