効果意思

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テンプレート:Ambox 効果意思(こうかいし)とは、民法学の用語であり、法律効果を発生させようという意思をいう。大ざっぱにいえば、世の中に存在する権利や法律関係を変動させる効力(法律効果)を認められた行為(法律行為)をしようとする意思をいう。

ただ、効果意思には、意思表示を行う表意者の側において法律効果を発生させようという意思(この意思を内心的効果意思あるいは真意という)と、意思表示を受け取る相手方の側からみて表示行為から推測される表意者の法律効果を発生させようという意思(この意思を表示上の効果意思という)の二つがあり両者は区別される。

伝統的な意思表示理論は、ある動機(例えば「ある商品が欲しい」)から効果意思(「その商品を買おう」)が発生し、表示意思(「店に行き、その商品を頼もう」)に基づいて効果意思を外部に表明する(表示行為。例えば「あの商品をください」)という段階を踏んで、意思表示が完成するとしてきた。

意思の欠缺の問題

表示上の効果意思に常に内心的効果意思が伴っているとは限らない。例えば、表意者Aがある絵画を売るという虚偽の表示行為をした場合、その相手方Bはその表示行為からAにはその絵画を売る意思(表示上の効果意思)があると推測できるが、表意者Aの表示行為は虚偽であるからAにはその絵画を売る意思(内心的効果意思)は存在しないことになる。表示上の効果意思に対応した内心的効果意思が存在しないことを意思の欠缺(意思の不存在)という。

意思主義と表示主義

伝統的な見解は、意思表示による法律効果の発生、平たくいえば契約に拘束されること(法的責任の発生)の根拠を内心的効果意思の存在に置いており、人間は合理的意思に規律されて行為するという近代的人間観を背景とするものといえる。そこで、伝統的見解を徹底すれば、内心的効果意思が欠ければ意思表示は成立しないと考えるのが自然(意思主義)である。

しかし、このような考え方を貫けば、例えば、不心得者が契約に基づく義務を免れようとして「契約書の記載事項をよく読まないで署名した」などと主張したときに、それだけで契約の効力を否定せざるを得ないといった事態が生じ、取引の安全を害することになる。そこで、現在では、当事者双方の表示行為による表現そのものを客観的に観察して、そこに表現されていると見られる意思(表示上の効果意思)が合致していれば、内心の意思がどうあれ、契約(意思表示)自体は成立するとする、表示主義の考え方が優勢となっている。

意思の欠缺における民法上の規定

  • 心裡留保(単独虚偽表示)の場合
    • 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする(民法第93条本文)。
  • 虚偽表示(通謀虚偽表示)の場合
    • 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする(民法第94条1項)。
    • 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない(民法第94条2項)。
  • 錯誤の場合
    • 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない(民法第95条)。

関連項目