内輪差

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テンプレート:出典の明記 内輪差(ないりんさ)とは、4輪ないしそれ以上の車輪を持つ車両がカーブを曲がる際に、回転中心側(=内輪)の前輪と後輪が描く円弧の半径に生じる差のこと。または、そのような差が生じる現象のことも指す。

概要

4輪以上の車輪を持つ自動車は、一般に2つの前輪に舵角を与えてカーブを曲がる。この際、回転運動に伴って前輪が描く円弧に比べて、後輪が描く円弧は半径が短くなる。回転中心側の車輪(内輪)に着目すると、後内輪は前内輪よりカーブの内側を移動することになる。これが一般に内輪差として知られる現象である。一部の特殊車両のように後輪で操舵する場合は、前輪より後輪の方が外側を回ることになり、これも内輪差と呼ぶ。

回転中心の逆側(外輪)でも同様に半径の差が現れ、これは外輪差(がいりんさ)と呼ばれる。内輪差は外輪差よりも大きい。

内輪差は回転半径を小さくすると相対的に大きくなり、また自動車のホイールベース(前後輪の車軸間の距離)が長くなるほど大きくなることが知られている。

問題点

乗用車やトラックは一般に前輪操舵を採用しているが、運転者は前輪に近い位置で操舵を行うため、体感的には前輪の回転半径を基準としてカーブを曲がる傾向にある。しかし、後輪はそれより内側を回ることになるため、前輪の位置では避けられたものが後輪の位置で避けられず衝突してしまうということが起こりうる。あるいは、カーブ内側に排水溝などがある場合、予期せぬ脱輪を起こすこともある。

特に交差点においては、左折時(日本・イギリスなど左側通行の国)または右折時(右側通行の国)において、歩道や歩道よりにいる歩行者軽車両自動二輪車等に、後輪またはその周辺が衝突してしまう巻き込み事故がしばしば起きる。特に、トレーラー連節バスは内輪差が通常の車両よりも大きいため、旋回時に内側に入る場合は注意を要する。

対策

内輪差によって生じる問題は、ドライバーの意識的な操作による回避策に加えて、様々な対策が提案されている。

  • 安全窓(セーフティウィンドウ)。トラックの助手席側ドアの窓ガラスを横引き開閉にして、下部に安全窓を設けることにより、運転席から左折時の視認性を確保する。
  • バスの前扉ガラス拡大化。1970年代までバスの前扉はガラス窓がついているだけだったが、1980年代以降のバスは前扉そのものが窓枠で一面ガラス張りとなり、視認性が向上した。
  • ステアリングを操作するタイミングを遅らせる方法。前輪が交差点に差し掛かったときにステアリングを操作すると内輪差により後輪が内側のものと接触してしまう。そこで前輪が交差点を幾分か通過してからステアリングを操作することによりこれを回避する。
  • サイドミラー。ドライバーが後方内側を確認しつつ操舵することにより、後輪と人・物との接触を予防する。
  • 方向指示器。主に灯火の点滅により周囲の歩行者等に転回を通知し、対人事故を予防する助けとする。近年では、点滅に加えて合成音声によって周囲の歩行者等に右左折を通知する機器が、主に業務用の大型車両に搭載されつつある。
  • 四輪操舵。逆位相式の四輪操舵は内輪差を低減する効果がある。ただしコストや重量面の問題があり、採用している自動車は少ない。
  • 歩行者教育。巻き込み事故の原因はもっぱら自動車側にあるものの、歩行者側が積極的に自衛策を講じることで対人事故を予防することもできる。例としては歩道の端に立たない、転回しようとする車両に近づかない、などが挙げられる。上述の方向指示器も、歩行者のこうした自衛手段を助ける機能を持つものと考えられる。

誤った対策

前輪を大回りさせる方法。ドライバーがハンドル操作を行う際、前輪をカーブの内側ぎりぎりではなくやや外を回るように操舵し、後輪がカーブ内側の人や物に衝突しないようにする。道路交通法の「車両は、左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左側端に沿つて徐行しなければならない」との定めに反する、違法な通行方法である。違法であるだけでなく、内側を空けるような動作になり巻き込み事故を誘発する可能性もあるので、非常に危険でもある。途中で歩行者を発見するなどして一時停止すれば道を大きく塞いでしまい、後続直進車に迷惑でもある。「できる限り」との定めなので、狭い路地へ入るときなど、この方法によらなければ内輪差の回避が不可能な場合は止むを得ないが、別段狭くない交差点でもこの方法で左折するドライバーが見られる。

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