代用刑事施設

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代用刑事施設(だいようけいじしせつ)いわゆる代用監獄(だいようかんごく)とは、刑事訴訟法の規定により勾留される者(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号(以下「刑事収容施設法」という。)第3条第3号)を、刑事施設に収容することに代えて、留置施設(留置場)に留置することができる(刑事収容施設法第15条)制度をいう。

代用刑事施設は、もっぱら代用監獄と呼称されてきた。しかし、監獄に関して定めていた監獄法(明治41年法律第28号)が廃止され、刑事収容施設法が立法されたことにより、法律上の正式な名称は、「代用監獄」から「代用刑事施設」へと改められた。学界や実務では、引き続き、代用監獄や在監者といった名称が使用されることもある。

概要

日本の刑事訴訟法勾留刑事施設においてすることと定め(第64条など)、同時に、刑事収容施設法第15条には「刑事施設に収容することに代えて、留置することができる」(都道府県警察に設置する留置施設を刑事施設の代わりに用いることができる)という定めがあることから、被逮捕者や被勾留者は留置施設に収容することができる。

被疑者は、経済等被疑事件の検察庁による独自捜査事件の被疑者を除き、ほとんどが、刑事施設ではなく留置施設に拘禁されている。

これには、留置施設は、警察署に近い・内部にあり捜査に際しての利点が多い、という捜査機関の事情がある一方、刑事施設は数、収容力が限界にあるため、全ての被疑者・被告人を刑事施設に収容することは不可能であるという事情もある。

刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律による「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」への改正により、留置施設制度が改めて法定された。

指摘される問題点

国 名 警察が
容疑者を拘束出来る
期間の上限[1]
カナダ 1 日
フィリピン 1.5 日
アメリカ合衆国 2 日
ドイツ 2 日
ニュージーランド 2 日
南アフリカ 2 日
ウクライナ 3 日
デンマーク 3 日
ノルウェー 3 日
イタリア 4 日
ロシア 5 日
スペイン 5 日
フランス 6 日
アイルランド 7 日
トルコ 7.5 日
オーストラリア 12 日
イギリス 28 日
(テロ事件のみ。通常は4日。)
日本 28 日
(内乱罪等のみ。通常は23日。)

警察機関の施設内部で容疑者を拘束して、取調べを行うこと自体は、諸外国でも行われている。ただし、先進国の中では警察署の施設内部で日本とイギリスの容疑者が拘束されうる期間は、際立って長い。もっとも、イギリスによる拘束期間はテロ事件においてのみ28日であり、それ以外は4日(96時間)が上限である。

さらに、例えばアメリカなどでは黙秘権を尊重するため、取調べにおいて容疑者が弁護士を同伴させる権利があり、容疑者が弁護士を要求すればその時点で取り調べを即停止しなければならないと決まっている。よって、同じ質問を黙秘する被告に何度も繰り返す、あるいは長時間に連続した取調べを行い、容疑者の意思を挫くという尋問に法的に規制がかかっている。一方で、日本の場合は、勾留期間が通常の事件の被疑者でも20日間(内乱罪等は25日間)まで延長でき、取調受忍義務も拡大解釈されている。そのため、被疑者が警察官の直接管理する代用刑事施設に収容されることにより、自白獲得のための長時間の取調べが連日にわたって行われるだけでなく、自白しない容疑者の待遇を変化させるなどの人権の侵害によって、虚偽の自白の誘発、ひいては冤罪の原因となっているとの批判が古くからなされてきた。自白の強要を行うことは日本国憲法第38条1項2項や人権条約に違反する行為である。日本で代用刑事施設(代用監獄)という言葉が批判的に使われる際には、容疑者を拘束して取調べを行う場所が警察機関施設の内部であるか否かだけでなく、警察以外を含めた捜査機関が容疑者を20日間身柄拘束して尋問をする際に容疑者の権利を保護する措置が行われていないことへの批判であることが多い。

これらを裏付けるように、1970年代には長時間の連続した取調べを理由に自白の証拠能力を否定する裁判例が出されていた。裁判官の寺西和史は被疑者を代用監獄に送るべきではないという考えから全ての令状審査で被疑者を拘置所に送る決定をしたが、検察官の準抗告で殆ど覆されたため、やむなく被疑者が被疑を否認した事件に限って拘置所に送る決定を出すようにしたが、それでも大半が準抗告によって寺西の決定は覆された。拘置所への送致が例外となり、留置所での拘禁が標準となっている一例である。

さらに、国際連合の人権小委員会や規約人権委員会では日本に関する人権問題として代用刑事施設問題が取り上げられることが多い。多くの場合、人権小委員会はこの問題に対して懸念を表明しており、規約人権委員会は対日審査・最終見解にて代用監獄制度の廃止を勧告[2]している。

一方で公訴の是非を判断しないまま身柄拘束が可能な制度については日本より外国が拘束期間が長いとされる。外国では公訴を判断する政府機関(予審など)が捜査機関から送致された被疑者に関する公訴の是非を判断しないまま数ヶ月以上拘束することが可能な未決勾留制度を設けている国もある。例えばドイツでは原則6ヶ月間(重大事件等では1年間)、フランスでは微罪の場合で原則4ヶ月間(重罪の場合では原則1年間)も公訴の是非を判断をしないまま被疑者の身柄拘束を可能とし、再延長が制度上認められている。一方で日本は原則23日間(内乱罪等では28日間)の捜査で検察が起訴を判断しないと(別件容疑での再逮捕や精神鑑定等を除けば)被疑者の身柄を釈放しなければならず、国際的にも極めて珍しい制度といわれている[3]

代用刑事施設の利点

以上のような批判に対し、被疑者の側にも代用刑事施設で拘禁されることによるメリットもあると主張する者もいる。一般に弁護人は刑事弁護だけでは生計を立てることが不可能であるため、他の業務と並行して弁護活動も行っている。代用刑事施設は拘置所よりも場所・時間的に便利な面があるため、廃止された場合には接見に行くことが難しくなるか不可能になるなど、刑事弁護活動に障害が生ずる可能性もある。

  • 代用刑事施設のある警察署は、一般に拘置所に比べて主要な街の中心にあるなど交通の便の良いところにあるうえ、拘置所は各都道府県に1~2箇所しかないのが通常である。

なお、警察官によって接見交通の時刻制限が発動されれば、この利点は消滅される。また、問題の本質はあくまでも拘束中の容疑者の取り扱いであるため、場所や時間などの利点はテレビ電話等の代替措置で解決できるとの反論も存在する。

対策

対策としては、1980年に警察内部の措置として留置場を管理する部署と捜査を担当する部署とを分離した。これは、捜査担当者が被疑者を管理するために、被疑者の管理が捜査優先になっているという面が多かったためである。この分離によって、一応は管理が適正に行われるようになった、という評価がある一方、主に日弁連からは内部的な職掌分担にとどまっているために人権保障の点からは不十分との批判がなされている。

刑事裁判実務においても代用刑事施設を利用した長時間の取調べは問題視されており、たとえば身柄の出し入れの時間を記録させその提出を求めるなど、捜査の実態を可視化させた上で個別の証拠の証明力評価の際の資料とするといった取り組みが裁判所において始まっている。

脚注

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関連項目

外部リンク

  • テンプレート:Citation
  • 「日本は死刑廃止検討を――国連人権委改めて勧告 慰安婦問題にも言及」『朝日新聞』2008年10月31日付夕刊、第3版、第2面。
  • 第1回未決拘禁者の処遇等に関する有識者会議 平成17年12月6日