ミスター・ルーキー

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テンプレート:Infobox Filmミスター・ルーキー』(Mr.Rookie)は、プロ野球球団・阪神タイガースを題材にした2002年(平成14年)公開の日本映画である。監督は井坂聡

読売ジャイアンツ(巨人)などでプレーした元プロ野球選手長嶋一茂が主演し、しかも彼の役柄が巨人のライバルである阪神の選手という設定で話題を集めた。

東京大学野球部出身の井坂監督のこだわりによるスピード感のあるリアルな試合シーン、阪神球団の全面協力のもと球場スタッフや応援団に至るまで本物を揃え、最大3,000人ものエキストラを動員した阪神甲子園球場の迫力ある映像が見どころ。

全編、ソニーが開発したデジタルハイビジョンカメラ「CineAlta」で撮影された。

解説

本作では、桧山進次郎広澤克実八木裕矢野燿大藪恵壹ら当時の阪神タイガース現役選手、OBのランディ・バースらが選手役で出演しているほか、本拠地球場阪神甲子園球場でのロケーションも実施されるなどタイガースとの全面協力体制によって製作された。また、阪神戦中継で実績のある朝日放送(ABC)の協力も得て、道上洋三などのABCアナウンサーも出演し、OBの田淵幸一吉田義男がABCの解説者役で登場した(現実では、田淵はラジオのゲスト解説、吉田は専属解説としてABCの阪神戦中継に登場している)。

さらに、大阪ガス硬式野球部NTT西日本硬式野球部三菱自動車京都硬式野球部の社会人野球選手が、阪神・広島東洋カープ横浜ベイスターズヤクルトスワローズの各球団の選手、コーチらを演じ、リアルな試合シーンを演出した。各選手の背番号は基本的に全て本来の所属チームでの背番号である。なお、当時大阪ガスに所属していた能見篤史は、背番号14の阪神中継ぎ投手を演じたが、後に現実の阪神に入団した際も背番号14が与えられた。ただし、背番号の上の英字名はプロ入団後の「NOHMI」ではなく「NOUMI」であった。

しかし、掛布雅之など一部の阪神OBは、阪神に在籍していなかった選手が阪神のユニフォームを着ることに対して強く反発し、この映画への出演要請を断っている。とりわけ、主役を務めたのが阪神のライバル・巨人のOBである長嶋一茂であることが更に強い反発をよんだといわれている。劇中、バースが登場するシーンで「阪神が優勝した時の4番」というセリフがあるが、バースは優勝した1985年(昭和60年)はほぼ全ての試合で3番を打っており、このセリフはバースではなく掛布が登場する予定だった名残である。

読売ジャイアンツと中日ドラゴンズの名称使用許可がおりなかったため、映画では巨人によく似た球団名「東京ガリバーズ」を使用している(ユニフォームなどが似ている)。中日の類似チームは登場していない。その他の球団については「撮影協力」としてスタッフロールにヤクルト・広島・横浜の各チームがクレジットされている。

原案は井坂監督の友人で、『東京ゾンビ』の監督や『殺し屋1』などの脚本を手がけた佐藤佐吉によるものだが、当初は「最後には阪神が負ける」という設定だった。しかし、井坂監督は「日本的な負けの美学ではなく、ハリウッド式に気持ちよく勝って終わるようにしたい」と、全く違うエンディングにした[1]

映画の最後には、やはりタイガースの映画にふさわしく「六甲おろし」がフルコーラスで歌われた。

劇場公開中、阪神が勝利した翌日の初回上映は、入場料金が1,800円から1,000円になった。

2003年(平成15年)の夏以降、阪神の優勝が現実味を帯びてくると、本作DVDへの追加注文が増加した。同年8月25日には地上波でテレビ朝日 (ANN) 系列・朝日放送製作キーステーションで「夏休み特別企画・阪神タイガース優勝祈念特番」として「月曜時代劇」と「テレビのチカラ」を休止して本作が放映された。阪神タイガースの特番がテレビ朝日系列でゴールデンタイムに放送されるのは極めて異例。2007年(平成19年)12月31日には、TBSBSデジタル局のBS-iにて、朝日放送・テレビ朝日でカットされた部分も含めて放映された。

なお、実際のルールである野球協約では出自不明のままプロ野球選手になることや、プロ野球選手の兼業(昼は会社員などとして働くこと)は禁止されている。(現在は支配下登録=1軍でプレーする選手は100番台の背番号を背負うことはできないが、この映画の上映期間中のルールでは100番台を登録選手がつけることができた)

あらすじ

時は200X年夏。阪神タイガースは、突如登場したリリーフ投手「ミスター・ルーキー」の活躍で快進撃を続けていた。虎柄の覆面をかぶったミスター・ルーキーは甲子園でのホームゲームにだけ登板し、彼が投げるとチームは連戦連勝を重ね、優勝にあと一歩と迫るのだった。

ミスター・ルーキーの正体は公式には一切謎とされており、瀬川監督も「甲子園の主や」とだけ語る。しかし、覆面を取ったその正体は、酒造メーカーの営業マン、大原幸嗣であった。大原は自分がミスター・ルーキーであることを同僚にも家族にも告げず、「二足のわらじ」を続けているのだった。

大原は若い頃はプロ間違いなしと言われるほどの実力であったが、甲子園出場を目前にした東東京大会の決勝戦で肩を故障し、プロへの道を諦めていた。ある日、大原は淀川の河川敷での父兄野球でピッチャーとして登板する。しかし立派な体格の割に、かつて痛めた肩のせいで球威は全くなく、簡単にヒットを打たれる。ムキになって本気を出そうとした大原だったが、球を投げた瞬間肩に激痛が走りうずくまる。しかし一瞬見せた素人離れした身のこなしが、ピッチングフォームを観ていた謎の中国人整体師・楊の目に留まった。彼の薦める薬「神獣霊虎膏」を塗り、彼の指示に従ってマッサージとリハビリを受けると、10年以上治らなかった肩の痛みが次第に消えて剛速球が復活する。その噂を聞きつけた瀬川監督が、会社帰りに登板できるホームゲーム限定の覆面投手として獲得を申し入れてきたのだった。

大活躍を続けるミスター・ルーキーにあやかり、大原の会社では新商品として「ルーキービール」の企画が持ち上がった。その承認を受けるため、大原が交渉役を務めることに。瀬川監督に相談した大原は、条件として「ミスター・ルーキーが甲子園以外でも登板すること」を言い渡される。会社のためにその条件を呑んだ大原だが、過酷な二重生活がたたり、ミスター・ルーキーの成績は急降下。チームメイトとも喧嘩を起こし、ついに二軍降格となってしまった。失意のうちに帰宅した大原は、事情に気付いていた妻・優子から問いつめられ、これまでの経緯を話すことになった。

「もう野球は止める」という大原だが、優子からは逆に「せっかくかなった夢を捨てるのか」と鼓舞激励され、さらに少年野球に打ち込む息子・俊介の姿を見て一念発起。覆面を脱いで東京ガリバーズとの最終決戦に臨み、見事優勝を果たすのだった。

キャスト

大原幸嗣:長嶋一茂
東京出身。33歳。高校時代は都立校所属ながら強豪ひしめく東東京大会でチームを決勝まで導くが、チームのために無理して投げ続けたために肩を故障、野球の道を諦めることになる。大学卒業後大手ビール会社に就職、現在は大阪のマンションで妻子と共に暮らす。
ミスター・ルーキー
甲子園球場のバックスクリーン下のフェンス開閉部(本来は試合中使われることはない)から花火と共に出現する、ホームゲーム限定の守護神。背番号119、ユニフォーム上のネーム表記は「MR. ROOKIE」。最速150km/hオーバーの剛速球とフォークを武器に活躍し、シーズンが進むにつれ甲子園以外にも登場するようになるが、次第に疲れを見せるようになる。
甲子園のスコアボードには、
MR
と表記される。
大原優子:鶴田真由
ケアマネージャーを目指し、夫と息子に尽くす普通の妻だが性格は男勝り。若い頃は歌手を夢見ていた。
楊:國村隼
逆立った金髪、黒づくめ、丸サングラスの謎の中国人。六甲スポーツという甲子園に出入りの用品会社の社員だが中国整体師でもある。
小嶋典子:山本未來
幸嗣の同僚。
椎橋純子:さとう珠緒
ワイドショーのリポーター。カメラマンの矢部とのコンビでルーキーの正体を探る。
矢部:吹越満
平松コーチ:中原丈雄
強面のピッチングコーチ。存在感はあるがあまりしゃべらない。
多田:嶋尾康史
現在のタイガースの4番打者。前年までは5番だった。4番ではあるが前年までの不動の4番だった武藤と比べると幾分頼りない。背番号1。ヒッティングマーチは和田豊のものである。演じている嶋尾は現実でも阪神に投手として在籍していた。
大原俊介:米田良
幸嗣と優子の一人息子。9歳。物心ついた頃から大阪に住んでいるので両親と違い大阪弁で話す。勘が鋭く、野球少年である。
成田社長:神山繁
武藤秀吾:駒田徳広
東京ガリバーズの4番打者。ミスター・ルーキー最大のライバル。背番号42。前年に阪神からFA移籍し日本中の阪神ファンを敵に回したが、それに全く動じない剛胆ぶり、あまりに強気な放言・パフォーマンスなど『ドカベン』の岩鬼正美のような豪快なキャラクターである。夏頃の時点で36本ものホームランを放っていること、阪神との決戦前の新聞に「武藤、三冠王へ前進」との記事があることから、作中の日本プロ野球界におけるずば抜けた強打者であることが分かる。高校時代唯一自分から三振を奪った投手・大原幸嗣のことをプロ入り10年以上を経た現在でも強烈に記憶しており、ルーキーの球筋に何かを感じる。東京の高校出身だが終始一貫して関西弁である。
江川常務:宅麻伸
大阪支社の責任者。ガリバーズファンであり、古賀ら大阪営業部が推すタイガースがらみの企画に全く理解がない。苗字が江川卓と同じ所以か。
古賀和男:竹中直人
大阪支社の営業部長。根っからの阪神ファンであり、常に黄色い物を身につけている。若干怪しい関西弁でしゃべる。
瀬川監督:橋爪功
阪神タイガース監督。背番号83。スケベで貴金属好きだが策士であり、吉田義男野村克也を足して2で割ったようなキャラクター。かなり小柄。
矢作:矢作公一
幸嗣の入団テストの際、球を受けた大柄な捕手。背番号50。
ホステス:木内あきら村田和美
古賀と幸嗣が瀬川監督をクラブで接待する際、監督に付いたホステス。

現実のプロ関係者たち

広澤克実
現役選手として登場。試合シーンはなかったが記者からのインタビューに答える。
藪恵壹
東京ガリバーズとの最終決戦に先発投手として登板。
矢野燿大
最終決戦で先発マスクをかぶる。だがルーキー登場の時にはすでに交代していた。
八木裕
最終決戦で大声援に応え代打ヒットを放つ。
桧山進次郎
3番左翼手として試合に出場するが凡退。しかし最後の打者・武藤のライトフライを背走してウイニングボールをキャッチする。
ランディ・バース
瀬川監督の切り札、「もう一人のミスター」。劇中では本人の「44」を背負っている。実際と違うのはネーム表記が「M.R.BASS」となっていること。
吉田義男
中邨雄二アナとのコンビで解説に登場する。
中西清起
伊藤史隆アナとのコンビで解説に登場する。
田淵幸一
最終決戦で楠淳生アナとのコンビで解説に登場。
太田房江
大阪府知事として最終決戦の応援に訪れる。
道上洋三國定浩一仲田幸司福間納
最終決戦で声援を送る阪神ファンとして登場。

※甲子園球場のボールボーイ、球場スタッフ、球場警備員、売り子、阪神タイガース私設応援団員は全て本物である。劇中では阪神のマスコットのトラッキーラッキー、ガリバーズファン役の巨人応援団及び巨人ファンも登場する。

受賞

小説・漫画版

  • 『ダンカン・オリジナル ミスター・ルーキー』ダンカン角川書店 ISBN 4-04-873356-7
    • ダンカンによるサスペンス仕立ての小説。映画の公開と前後して発表された。映画との共通点は「覆面投手がタイガースに入団し活躍する」というところだけで、ストーリーはまったく異なる。
  • 『阪神タイガース救世主伝説 ミスター・ルーキー』漫画:桑沢篤夫、脚本:井坂聡・鈴木崇、角川コミックス・エース ISBN 4-04-713576-3

脚注

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外部リンク

  • 星野阪神を追う「虎劇場」- ハリウッドさながら…ヒーロー・ドラマ 日刊スポーツ、2002年(平成14年)7月4日