マッコウクジラ
マッコウクジラ(抹香鯨、学名:Physeter macrocephalus、英語名:Sperm Whale)は、クジラ目- ハクジラ亜目- マッコウクジラ科に属する海生哺乳類(最新分類法については「#系統分類」参照)。
マッコウクジラ科は絶滅した7属と現生のマッコウクジラ属からなり、マッコウクジラ属はマッコウクジラの1種のみで形成されている。
ハクジラ類の中で最も大きく、歯のある動物[1]では世界最大で、巨大な頭部形状が特徴。
目次
呼称
学名
属名 Physeter は、「鯨の潮吹き」を意味する テンプレート:Lang-grc (physētēr; ピュセーテール) に由来[2]。 とりわけマックウクジラは前方に吹き出す潮がよく目立つためか、後にその属名に冠されることとなった。 英語では「ファイシター」のごとく発音する[3]。日本語では慣用的に「フィセテル」「フィセター」などと呼ぶことが多い。
種小名 macrocephalus はテンプレート:Lang-grc (makros) 「長い、大きい」 + κεφαλή (kephalē) 「頭」の合成語。
和名と香料
和名「マッコウクジラ」の漢字表記は「抹香鯨」である。古代からアラビア商人が取り扱い、洋の東西を問わず珍重されてきた品に、香料であり医薬でも媚薬でもある龍涎香というものがあったが、それは海岸に打ち寄せられたり海に漂っているものを偶然に頼って見つけ出す以外、手に入れる方法が無かった。 しかしその実、この香料の正体はマッコウクジラの腸内でごくまれに形成されることがあり、自然に排泄されることもあった結石であり、捕鯨が盛んに行われる時代に入ると狩ったマッコウクジラから直接採り出すことが可能になった。 この、マッコウクジラの「龍涎香」が、抹香(まっこう)に似た香りを持っていることから、近代日本の博物学では中国語名「抹香鯨」に倣(なら)って「抹香(のような龍涎香を体内に持つ)鯨」との意味合いで呼ばれ、そのまま生物学名として定着した。
英語名と油脂
英語名 sperm whale の原義は、「精液くじら」あるいは「精液(のような液体である鯨蝋が採れる)鯨」である(「#脳油(鯨蝋)」の節を参照)。別名に Cachalot (キャシャロット)があり、これはアメリカ海軍の艦名にもなっている(別項「潜水艦カシャロット」を参照)。
系統分類
分子系統学的知見を入れた最新の分類法では、クジラ類(クジラ目、鯨目)は偶蹄類(偶蹄目)とともに鯨偶蹄目の下位分類となるが、目下のところ鯨偶蹄目は再構成の過渡期にあって煩雑さは否めない。 よって、本項では難読性と混乱を避ける意図をもって伝統的分類に基づいた記述をしている。 本項の分類に関する内容は鯨偶蹄目の再構成が整い次第改訂されるものである。
なお、右上に表示のテンプレートでは、未整理の状況をそのままに最新の分類法による階級区分を可能な限り(クジラ目の前後を重点的に)書き表した。
マッコウクジラは、コマッコウ科コマッコウ属のコマッコウ (Kogia breviceps) 、オガワコマッコウ (Kogia sima) とは近縁であり、様々な分類法がある。
1998年以降よく知られている分類としては以下が挙げられる。
- 全3種(マッコウクジラ、コマッコウ、オガワコマッコウ)を一つの科 Kogiidae とする[Mead]。
- Physeteridae を科とし、Kogiinae を Physeteridae に属する亜科とする[Mann]。
- Physeteroidea を上科とし、Kogiidaeを科とする。
- Physeteridae と Kogiidae との独立した2科とする[Rice(1998)]。ウィキペディア日本語版はこの分類法に従っている。
マッコウクジラ科 Physeteridae
表記は左から順に、和名(標準和名)、学名、英語名。
- マッコウクジラ科 テンプレート:Sname sperm whale family
- マッコウクジラ属 テンプレート:Snamei sperm whales
- マッコウクジラ Physeter macrocephalus Sperm Whale
- マッコウクジラ属 テンプレート:Snamei sperm whales
- ITIS(統合分類学情報システム)データベース
- マッコウクジラ科 Physeteridae Gray, 1821 ※外部リンク
- マッコウクジラ属 Physeter Linnaeus, 1758 ※外部リンク
- マッコウクジラ Physeter macrocephalus Linnaeus, 1758 ※外部リンク
- マッコウクジラ属 Physeter Linnaeus, 1758 ※外部リンク
- マッコウクジラ科 Physeteridae Gray, 1821 ※外部リンク
シノニム
Physeter macrocephalus のシノニム(異名)を示す。
- Physeter catodon テンプレート:AUY
- Physeter australasianus テンプレート:AUY
形態
本種は全てのクジラ類の中で最も大きな性差をもつ。標準的なオスの体長は約16- 18mであり(長さの比較資料:1 E1 m)、メスの約12- 14mと比べて30-50%も大きく、体重はオス50t に対しメス25t と、ほぼ 2倍の差異がある。なお、誕生時は雌雄いずれも体長約4m、体重 1t 程度である。ハクジラの中では最大種であり、成長したオスには体長が20mを越えるものもいる。
本種を特徴づける著しく肥大化した頭部は、その長さがオスで体長の3分の1に達する。これは、クジラ類の中でも例外的に巨大である。脳は、おそらく全ての動物の中でも最大・最重量であり、成体のオスでは平均 7kg に達するが、身体サイズに比べれば決して大きな脳ではない。
背中の色は一様に灰色だが、日光の下では褐色に見えるかもしれない。背中の皮膚は通常凸凹(でこぼこ)で、他の大きなクジラのほとんどが滑らかな皮膚をしているのとは対照的。
噴気孔(呼吸孔、鼻孔)の位置は頭部正面に集中しており、遊泳方向に向かって左側にずれている。そのため、潮吹きは前方に向かった特徴的なものとなる。背鰭(せびれ)は背骨に沿って前から3分の2の場所に位置し、通常は短い二等辺三角形の形状をしている。尾は三角形で非常に厚い。クジラが深い潜水を始める前には、尾は水面から非常に高く引き上げられる。
生態
分布
北極から南極まで世界規模で分布しており、深海沖に最も多くが生息している。社会的単位は安定していて、雌と子は部分的に母系の集団で暮らす。雄は高緯度の寒流域にも進出するが、メスと子が暖流域の外に出ることは滅多にない。
日本では小笠原諸島近海に雌と子供の群れが定住し、知床半島近海には雄が見られる(成熟に近い雄が群れを成し、ツチクジラ、オウギハクジラ等深海性の種類が陸上からの観察が可能なほど陸に接近するという点で特有である)。カイコウラ沖やイオニア海など地中海にも完全なあるいは季節的定住群が存在する。通常マッコウクジラは回遊することが多いので、これは特異な事例である。
世界規模で多く生息している個体群には不明確なものもあり、地中海にてクリック音の観測や目撃情報などの分析から、詳細は不明ながらも、想定以上に多く生息しているであろう事実が確認された事もある(詳細は「深海への適応」参照)。ただし、北米西海岸沖やイギリス周辺、オーストラリア南西部やニュージーランド周辺(フィヨルドランド沿岸など)など、捕鯨の影響から回復が遅れ、個体数の低い海域も存在する。
歯と食性
下顎(したあご)に20-26対の円錐形の歯を有する。それぞれの歯は約1kgもの重量を持っている。ヤリイカやダイオウイカなど主な食性はイカ類であり、スケソウダラやメヌケ、フリソデウオ科やツノザメ科のような大型の深海魚類も餌となる。
丸呑みが可能なイカ類を食べるために歯は不要と考えられており、本種が歯を備えている理由ははっきりとは分かっていない。歯を持たないにもかかわらず健康に太った野生の個体も、実際に観察されている。現在では、同種のオス同士で争う際に歯が使用されるのではないかと考えられている。この仮説は、成熟したオス個体の頭部に見つかる傷の形状が歯形にあっていたり、歯が円錐形で広い間隔を空けて配置されている理由も説明できる。上顎の中にも未発達の歯が存在するが、口腔内まで出てくることはまれである。似た食性を持つハナゴンドウが、マッコウクジラと同じく下顎にのみ歯が有していることに、紐解くべき糸口があるかもしれない(この種はマイルカ科に属すが、多くの部分でマッコウクジラと酷似している)。
近年の研究により、子を海面に残したまま深海へ獲物を獲りにいった親が、捕らえた獲物を子の餌としてくわえたまま持ち帰る姿が確認されている。映像に収められているものはダイオウイカで、一匹丸ごとではなく、一部だけを持ち帰ってきた。これにより、歯の存在理由が獲物をかみ切ること、深海から海面へ運ぶときの滑り止めなどとしての仮説も出てきた。
食事量
試算では、マッコウクジラの摂餌量は年間で9千万トン - 2億2千8百万トンと推計される[4]。この95%がイカとすれば、およそ8千万トン - 2億トンのイカがマッコウクジラに食べられ、それは世界中の年間漁獲量の30倍 - 66倍になるという[4]。もっとも、マッコウクジラが食するイカは、主に中深層に生息する大型イカと考えられ、それらのイカは人間の食用には用いられない[4]。
子育てと社会形成
本種は家族の絆がとても強い。子は生まれてすぐには深海に潜ることができない。母親は子が深海へ潜ることができるようにするため、しばしば訓練をするが、子がなかなか潜ろうとしない場合は母乳を飲ませながら潜る。最近の研究では頻繁に深海と海面を行き来することが分かっている。
成獣した雄は、通常は独り立ちし、雌や子供が進出しない極海に至るまで広範囲を回遊する。若い雄同士で独自のグループを形成する。また、雌や子供の群れがシャチや捕鯨船などに襲われた際に救出にくる事もある[5]。捕鯨船(大型帆船)を雄が撃沈させた例も存在する。
その他の行動
近年、ホエールウォッチング業務が世界中に盛んになり、比較的個体数の多い本種も観察の対象とされる事も非常に多い。特にカイコウラなど、様々な地域がマッコウクジラを対象としたホエールウォッチングで発展してきた事は特筆すべき事である。また、捕鯨を知らない若い世代が増えてきた事もあって、人間や船舶などに対する警戒心が薄れ、より人懐っこくなりつつある[6]。
他の中~大型種(ザトウクジラやナガスクジラ、ミンククジラ、シャチなど)と行動を共にする事もある。日本では、根室海峡[7]や伊豆諸島等でこれらの交流が観察された事がある。
マッコウクジラは基本的には深海性だが、たとえばアジア圏では千島列島やコマンドルスキー諸島、知床半島や金華山沖、東京湾や房総半島周辺(館山湾、三浦半島[8]、白浜沖[9]、千倉町[10]など)、伊豆半島周辺[11][12]から伊豆諸島、火山列島、屋久島・奄美諸島から南西諸島[13][14]、台湾、マリアナ諸島[15]など、沿岸近くに見られる海域も数多く存在する。これらの海域では積極的な観察の対象になることも多い。特に成熟雄などは満足な遊泳ができないほどの浅い湾などに入り込み、しばらく休息してから外洋に出ていくこともある。スコットランド沖やフィリピン沿岸になど、沿岸性の特殊な個体群なども存在する[16]。
潜水
また、その生涯の3分の2を深海で過ごす。軽く2,000mは潜ることができ、集団で狩りをすると考えられている。光の届かない深海においてはイルカ等に代表される反響定位(エコーロケーション)を用いている。家族同士での会話にも音を利用していると考えられている。
本種の潜水能力はクジラの中で群を抜いている。ヒゲクジラ類の潜水深度は200- 300m程度とされる。マッコウクジラの場合は、全身の筋肉に大量のミオグロビンを保有し、これに大量の酸素を蓄えることが可能である。このため、1時間もの間を呼吸することなく潜っていられることが可能で、さらに、これによって肺を空にして深海の水圧を受けないことも明らかとなった。通常では、約1,000m近くの深海に潜ってから息継ぎをするために水面に上がり始めるまでの20分ほどの間、深海にて捕食などの活動を行っていることが分かっている。 また、3,000mを潜ったとする記録もあり(長さの比較資料:1 E3 m)、深海層での原子力潜水艦との衝突事故や、海底ケーブルに引っかかって溺死したと見られる死骸の発見などの実例が、この記録を裏づける。しかし2,000m以上の深さまで潜ると捕食すべきイカなどの数も少なくなるため、それ以上はあまり積極的に潜ろうとするとは考えにくいとも言われている。マッコウクジラと衝突した場合、大型船は船体を破損させることはないが、ヨットや木造船であった場合には多大な損傷をこうむることが予想される。
深海への適応
マッコウクジラは、ハクジラの中でも特殊な深海潜行型として高度に進化適応を遂げた種である。この進化がどのような条件下で引き起こされたものであるかについては未だ詳らかにされないものの、彼らの祖先にあたるクジラが、他の大小多様なハクジラ類や大型サメ類との浅海域での生存競争に敗れ、食いはぐれての結果的選択であるとの推論は成り立つ[17]。そのような動物も他所に活路を見出して、その上で新たな環境への的確な適応を遂げられた場合に限って、新しい種として子孫を残し、進化を次の段階へ進めていくことが可能となる。しかしまた、優勢種であるがためにその一部が分布域を拡大していくうちに、異なる形質を獲得していき、遂には別の種として分化した、との考え方もあり得る。いずれにしても、彼らの祖先は、何らかの条件の下でクジラ類にとっては未踏の海域であった深海という環境に挑み、長い時間をかけて現在の高度に適応したマッコウクジラの形質を獲得していったと考えられ、ダイオウイカ等の巨大無脊椎動物の生息によって深海という環境の生物量が決して貧しくはないことが、彼らの祖先の進化を下支えしつつ促したといえる。ハクジラ類が持っている反響定位の能力も深海にあって大いに威力を発揮し、彼らを優勢種に押し上げている。
ハイドロフォン(Hydrophone)によるニュートリノ検出を目的とした海洋ノイズ検出実験において、カターニア東方にある深度2000メートルのテスト海域でマッコウクジラのクリック音が観測された。また目撃情報や海面近くの音響記録に基づいた調査によって、分布は稀だと思われていた海域においても予想以上にマッコウクジラが棲息していることが明らかになった。観測されたクリック音のパターンが二種類あることから、地中海海盆の外から一時的に入ってくる通りすがりのクジラの存在が示唆されたが、地中海のマッコウクジラが1つの閉鎖個体群なのか、それとも外海の個体群とのやりとりがあるのかは判明しておらず、生態には未知な部分が残されている[18]。
繁殖と寿命
本種は低い出生率と遅い成熟と長命を獲得している。メスは4歳から6歳で成熟し、メスの妊娠期間は少なくとも12か月、最長で18か月。そして、子育ては2-3年続く。マッコウクジラの家族は、母系家族でメスが中心となる。オスは単独行動、もしくは若い雄同士が小さな群れを造る。オスの繁殖適齢期は10歳ごろから20歳ごろまでの約10年間続き、40歳を超えても成長は止まらず、約50歳で最大に達する。また、出産は5年に一度しか行わない。
雄は一体で複数の雌を獲得するハーレムによって子孫を残す性質で、複数の雌と交尾した後には子育てには参加しない。成熟した雄のペニスの長さは1mを軽く超す程のものとなる。
群れを造る雌と子供達は結束が強く、弱って傷ついた仲間を囲って天敵であるシャチやサメなどの攻撃から守ったり、その囲いを解かずにそのままの姿勢で安全地帯へと押しやるような行動も観察されている。
大型の老熟したマッコウクジラの体表には多くの傷が見受けられる。特に雄個体には頭部に前述の歯によって噛み合った傷が多く、これは繁殖期で雌をめぐって雄同士争う後によく見られるといわれる。なお傷は時間と共に白く変色していって体表にそのまま残るか、皮膚に埋もれていく。
成熟した個体には、リング状の傷が帯状に付いていて、特に口と顔周りに多いが、これはダイオウイカの必死の抵抗により、強力な触腕にしがみつかれ、皮膚に傷を負ったものである。南極近くに住む個体には、ダイオウホウズキイカによって付けられたと思われる鉤爪が刺さったままのものも見受けられた。
泳ぎが遅く、深海性の為に、暖かい海にいる個体はダルマザメの標的にもされている。
天敵
人間のほかには、シャチを自然界唯一の(狭義の)天敵としており、若い個体とメスはしばしばシャチの餌食になる。シャチの存在に気づくと近接されないうちに高速で逃げ去ったり深海に潜ったりして回避するマッコウクジラであるが、子育て中の群れはそれができずに危険な状態に追い込まれる。メスでも成体であればその尾鰭の一撃には相当な破壊力があり、シャチにおいても容易く仕留められる相手ではない。そのため、メスは子供をかばうように泳ぎつつ反撃を試みるが、それでも守りきれないことがある。また、大きなシャチであればメスとの体格差は少なくメス自体が獲物にされてしまうこともある。
一方でオスの成体については、クジラ類の中でも性的二形が顕著で、メスに比べ著しく体が大きな上に攻撃的で、オス同士の争いにも用いられる歯を武器として持っており、尾の一撃だけでもシャチを返り討ちにできるため健康な個体が襲われることは殆どない。ただし深海からの浮上の瞬間を集団で襲撃され、窒息に追い込まれ殺される場合がある。
また、通常クジラの舌部分を好んで食すシャチにとって、マッコウクジラの舌は身が少なく引き締まっていて、いわば不味なものであるために食べないという。
脳油(鯨蝋)
鯨蝋(げいろう)とは頭部から採取される白濁色の脳油の別名である。脳油は精液に似ているため、精液と誤解されていたことがあり、英語では spermaceti (原義:「鯨-精液」)と呼ばれている。英名の sperm whale はこのことに由来する。
脳油はイルカやシャチなどのハクジラ類にみられる反響定位(エコーロケーション)の際に音波を集中するメロンと呼ばれる器官である。尚、一部で脳漿油と呼ぶ向きもあるが、脳漿は脳の髄液を指す為、全く無関係である。反響定位による音波は他のハクジラ類同様に、遊泳時の障害物の探知や獲物の捜索に使われるが、マッコウクジラの脳油であれば、獲物に対して高い指向性を持った強力な音波を放つことで失神あるいは麻痺に陥らせ、捕らえる事が可能であるという説もある、実際には確認されていない。
脳油は他のハクジラ類のメロンと異なり、マッコウクジラの体温下では液状であるが、約25℃で凝固することが知られている。鯨類学者クラークはこの性質に着目し、潜水の際には鼻から海水を吸い込み冷やすことで脳油を固化させ比重を高め、浮上の際には海水を吐き出し血液を流し温めることで液化させ比重を小さくすることで、急速な潜水および浮上を可能にしているという説を唱えている。潜水・浮上はほぼ垂直に、かつ、急速に行われることが確認されているが、潜水病に陥ることが無いことも確認されている。
捕鯨
鯨蝋は高級蝋燭や石鹸の原料、灯油、機械油として利用された。特に精密機械の潤滑油としては代替品が無く、1970年代まで需要があった。かつてはこの鯨蝋を目的に大量のマッコウクジラが乱獲された。 特に米国では18世紀から19世紀にかけて盛んにマッコウクジラを捕獲した。米国が日本に開国を迫った理由の一つに捕鯨船の中継基地の設置が挙げられるが、アメリカ大陸近海のマッコウクジラを捕り尽くし、日本に近い西太平洋地域に同じマッコウクジラの大規模な群れがあるのを発見してのことである。今でも同海域には数万頭のマッコウクジラがいるといわれる。
マッコウクジラは肉にも蝋を含むため、食用の際に油抜きをする。日本では主に大和煮に用いられたり、大阪では油抜きをした皮(コロ)をおでん(関東煮)で食すのが一般的である[19]。鮎川や小スンダ列島のレンパタ島では干物にする(鯨肉#鯨種と食味も参照)。油抜きをしないで大量に食べると下痢をする恐れがあり、アメリカ人捕鯨船員の鯨肉には毒があるという迷信もあり肉は捨てられたというのは、この様に食用に不向きであった点もある。またこのマッコウクジラを最高の目標としたアメリカ式捕鯨の時代において、冷蔵技術もない当時、3年以上が標準であった捕鯨航海の間、肉を商品価値のある状態で保管するのは不可能である。
あくまで小説中の話ではあるものの(しかし作者は捕鯨船員のキャリアを持つ)白鯨によれば欧米においてもそこまで強く鯨食をタブーとしていなかったため、同時代人から見ても「船員の食肉とすらしない」というのは疑問であったようである。これに対して「眼の前の数十トンの肉塊を見て食欲を催すことはない」「(捕鯨船では商品にならない絞り粕を油として使うが)鯨の肉を鯨自身の油で焼くのはさすがに縁起が悪い」と言った主旨のことが述べられている。一方無価値と見られた故に食べたいという船員に対して止めることもなかったようであり、マッコウの尾のステーキなども紹介されている。
尚、前述の鮎川においても余剰鯨肉が捨てられており、後に鯨肥に活用するようになった(クジラ#鯨の利用のその他、残滓の利用も参照)。
食料として見た場合、マッコウクジラの体内に含まれる微量の水銀に注意する必要がある。 厚生労働省は、マッコウクジラを妊婦が摂食量を注意すべき魚介類の一つとして挙げており、2005年11月2日の発表では、1回に食べる量を約80gとした場合、マッコウクジラの摂食は週に1回まで(1週間当たり80g程度)を目安としている[20]。
文化的側面
フィクション
- 白鯨 モビー=ディック
- マッコウクジラを題材とした創作物として最も著名なものはハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』であり、そこに登場するクジラ「モビー=ディック」であろう。
- また、この白鯨としてのマッコウクジラは、二次創作物的なかたちをとって多くの娯楽作品(映画、漫画、アニメ、ゲーム等)に登場している(それについては「白鯨」本項が詳しいので参照のこと)。
- 白鯨以外のマッコウクジラ
- 白鯨ではないマッコウクジラは、それほど多くの創作物で大きく[21]扱われてこなかったようであるが、それでも以下の作品を挙げられよう。一つは生物としての本種と人間の関わりを描き、一つは発想の原点として本種の存在感を活かそうとしている。
- アニメ『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』 - マッコウクジラ型の敵戦艦「ドラコルル」が出演する。なお、原作でも「スーちゃん」という愛称を付けたマッコウクジラが登場。
- 小説『海底二万里』 - 別種の鯨を集団で襲うどう猛な生物として登場し、ネモ船長に虐殺される。姿の描写は確かにマッコウクジラだが、行動はシャチに近い。
- 漫画『海獣の子供』 - 五十嵐大介 作。マッコウクジラに対する信仰が残る島が登場する。
- 漫画『ぎゅわんぶらあ自己中心派』 - 片山まさゆき作。麻雀を打つマッコウクジラモチーフキャラクターの「マッコウ」が登場。
- ビデオゲーム『ダライアス』シリーズ - 歴代の作品の大半において、本種をモチーフとした敵方の最強キャラクター、「グレートシング」が登場する。
- ビデオゲーム『ロックマンX5』 - ステージボスキャラクターとして、本種をモチーフとした「タイダル・マッコイーン」が登場する。
- ゾイドシリーズ - マッコウクジラ型超巨大ゾイドのホエールキングが登場。ゾイドバトルストーリーや、アニメなど、様々な媒体で出演。
愛称
脚注
- ↑ 『クジラは昔陸を歩いていた』 大隅清治 ISBN4-569-53353-1
- ↑ アリストテレスが著書『動物誌』において用いた用語で、本来は「ふいご」を意味する言葉であった。
- ↑ 音声資料:Physeter - howjsay.com:当該文字にカーソルを合わせれば繰り返し聴取可能)。
- ↑ 4.0 4.1 4.2 イカと日本人 - 2. イカの資源と漁場 全国いか加工業協同組合
- ↑ 栗田壽男, 2010, 『シャチに襲われたマッコウクジラの行動』, 日本セトロジー研究会ニューズレター25号
- ↑ https://www.youtube.com/watch?v=c0FzLZnah1o
- ↑ 知床ネイチャークルーズ. 2008. http://plaza.rakuten.co.jp/shiretokorausu/diary/200806300001/. 羅臼町観光協会
- ↑ https://www.youtube.com/watch?v=t5xVIc5zCts&feature=player_embedded
- ↑ https://www.youtube.com/watch?v=6JZaXzhfK4s
- ↑ http://www.asahi-net.or.jp/~it6m-sbym/marine/9509kuji.html
- ↑ https://sv361.xserver.jp/~tes-sev/kohkaimaru.com/?photo_gallery&l=1
- ↑ https://www.youtube.com/watch?v=purfxbOkkk0
- ↑ http://monodon.jimdo.com/ryukyu-islands/
- ↑ http://blogs.yahoo.co.jp/kujirabaka/48480791.htmlAnimal
- ↑ https://www.youtube.com/watch?v=YJw6xwNueYY
- ↑ http://www.wildlifeextra.com/go/news/scotland-sperm-whales.html#cr
- ↑ NHK 『ダーウィンがきた!』より
- ↑ テンプレート:Cite journal News Features: ニュートリノとクジラ
- ↑ マッコウクジラ 市場魚貝類図鑑
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 目立つ外観などの特徴からアニメや漫画などの短編で眼にすることはある。ただし、下顎にしかない歯が上下に生えていたり、マッコウクジラの形態を忠実に再現したものですらない場合も多い。
参考文献
- Mead and Brownell, "Order Cetacea" in Mammal Species of the World, Wilson and Reeder (eds), Smithsonian Institute Press.
- Cetacean Societies Field Studies of Dolphins and Whales, Mann, Connor, Tyack and Whitehead (eds). ISBN 0226503410
- Dale W. Rice,"Marine mammals of the world: systematics and distribution," Society of Marine Mammalogy Special Publication Number 4. 231 pp. (1998).
関連項目
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- クジラ学 - 古代ギリシア自然学の流れを汲みつつも近代的・現代的な、海生哺乳類学の一分野。
- 生物に関する世界一の一覧 - 世界一(質量の)大きい肉食動物(約50t)。世界一大きい脳を持つ動物(平均約7kg)。世界一の潜水能力を持つ(最大深度約3,000m)。
- 長さの比較資料