ポリプテルス

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ポリプテルスPolypterus、英: Bichir)は、ポリプテルス目ポリプテルス科に属する魚類の総称。多鰭魚(たきぎょ)という古称もある。条鰭類で最も古く分岐したグループとされるが、ハイギョシーラカンスといった肉鰭類に近縁とする見解もある。

概要

現生のポリプテルス目は1科・2属・11種と6亜種の計17種ほどが知られているのみで、すべてがザイールスーダンセネガルなどの熱帯アフリカに分布する淡水魚

形態

Polypterus は「多くの(Poly)ひれ(pterus)」という意味で、名のとおり背中に小離鰭(しょうりき)と呼ばれる菱形の背びれが10枚前後ある。これは、尾びれに当たる位置にまで並び、尾びれに該当する鰭はない。

細長い円筒形の体と腹背にやや扁平な頭部をもち、体長は30cmほどのものから1m近くになるものまで、種類によって異なる。鼻孔は細い突起となって前方に突き出しており鼻管と呼ばれる。「ガノイン鱗」と呼ばれる象牙質とエナメル質に覆われた菱形のをもち、それらが皮のように連なって硬く体を覆っている。

胸びれはつけ根に筋肉が発達し、四肢動物のようになっている。うきぶくろは2つに分かれ、のようにガス交換を行い、鰓呼吸と並行して空気呼吸をする。

稚魚には両生類幼生のように1対の外鰓があるが、成長すると消失する。これらの特徴から、ポリプテルスは魚類両生類進化する分岐点にある動物と考えられている。古生代から中生代にかけて栄えた硬鱗魚と同じような特徴をもち、現生魚のアミアガーなどとも共通する。ポリプテルス自体も約4億年前のダンクルオステウス(ダンクレオレステス)[1]のような大型の魚類進化の時代であるデボン紀に現れたといわれ、多くの生物が絶滅[2]する中、現代まで姿形をあまり変化させずに生き残ってきた。このため「古代魚の生き残り」「生きている化石」などといわれる。2006年にはチャドで中新世後期の地層から全身化石が発見され、Polypterus faraouと命名された。

習性

などの淡水域に生息する。昼は物陰に潜むが、夜になると泳ぎ出す。泳ぐ際は長い体をくねらせながら、胸びれをパタパタとはばたかせてゆっくりと泳ぐ。食性は肉食性昆虫類甲殻類小魚カエルなどを捕食する。

口に入らないサイズの魚には無関心だが、口に入る大きさの動物は食べられてしまうので一緒に飼う動物の大きさには注意する必要がある。逆に稚魚期にはひらひらと揺れる外鰓が他の個体の興味を惹くためにかじられることがある。成長に伴って消失するものであるので飼育上も美観上も大きな問題はないとされているが、気になるならば混泳は避けたほうがよい。また、丈夫なガノイン鱗で体が覆われているため白点病などにはかかりにくいが、ポリプテルスのみに寄生するマクロギロダクティルス・ポリプティという寄生虫が知られている。野生採集の個体にはほぼ100%これが寄生しており、新たなポリプテルスを水槽に導入する際は注意が必要である。

分類

ポリプテルス目Polypteriformes)は、ポリプテルス科Polypteridae)1科のみを含み、その下にはポリプテルス属Polypterus)およびアミメウナギ属Erpetoichthys)の2属がある。後者は体が細長く、腹びれがない。

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ポリプテルス属

ポリプテルス属は下顎が突出し大型になるビッチャー(bichir)タイプと上あごが突出するパルマス(palmas)タイプとに分けられる。背びれの小離鰭の数も種類を判別するポイントとなる。

ビッチャータイプ

ビキール・ビキール Polypterus bichir bichir Lacépède, 1803
体長は70cm-90cmと大型で、不確定ながら120cmという記録もあり、ポリプテルスの最大種とされている。1802年学術発表された最初の種である。小離鰭は17-19本とこちらも最多である。2003年に初めて日本に商業輸入された。
ラプラディー P. bichir lapradei Steindachner, 1869
ビキール・ビキールの亜種。全長は70cmほど。小離鰭は13-15本。セネガルやニジェールなど西アフリカに広く分布。ビキールと比較すると幼魚は目が若干大きめ。

ちなみにP. sp. koliba と呼ばれる種はビキール、またはラプラディーの亜種か地域変種と思われるが未分類である。

カタンガエ P. bichir katangae poll, 1941
おそらく未輸入だと思われる。
アンソルギーP. ansorgii Boulenger,1910
平均的に巨大サイズになり、いかつい顔つきをしている。80cmサイズが多く見られるポリプ。眼は上部につく。
エンドリケリー・エンドリケリー P. endlicheri endlicheri Heckel, 1847
全長60cm以上になる。ニジェールやスーダンに生息。小離鰭は11-14本。黄土色か褐色の地に不規則な黒いくらかけ模様がある。顔つきや模様など個体差の激しい種でもある。各ヒレが大きい印象を受ける。表皮も見た目がざらついた感じで他の種とはややことなり眼が上部に飛び出している。
エンドリケリー・コンギクス P. endlicheri congicus Boulenger, 1898
エンドリケリー・エンドリケリーの亜種。ザイールやタンガニーカ湖に生息。観賞魚での通称名は「ビチャー」。ガッチリとした体格をしていて巨大である。骨太なため80cmサイズは迫力がある。大型個体になりやすい。
ファイル:Polypterus senegalus.jpg
ポリプテルス・セネガルス P. senegalus

パルマスタイプ

ポリプテルス・オルナティピンニス P. ornatipinnis Boulenger, 1902
パルマスタイプにおける最大種であり、体長60cm程度まで成長する。コンゴ川流域およびタンガニーカ湖周辺に生息。黒褐色の地に多数の細かい黄白色の斑点が入る。オルナティピンニスは「綺麗な羽飾り」の意。色彩の派手なものは「ファンシーポリプ」と呼ばれた。
ポリプテルス・ウィークシー P. weeksii Boulenger, 1899
コンゴ川中流域に分布。40cmオーバになると言われる。頭部が大きく尾が小さめ。背にはバンド模様の出るタイプも知られる。若いときから雌雄差が現れオスは細長く華奢で模様が濃く神経質。メスは貪欲で寸胴である。尻ビレによる性差はかなり大きくならないと現れない。
ポリプテルス・ザイールグリーン P. retropinnis Vaillant, 1899
「ザイールグリーン」の名で2001年からアクアリウムシーンでは知られており、別名のとおり、一部の個体に緑色が強く出るのが特徴。
ポリプテルス・パルマスP. palmas palmas Ayres, 1850
体長30cmほどの小型種。小離鰭は7-9本。ほとんど流通しないが過去に入荷したと思われる個体も存在する。
ポリプテルス・ブティコフェリーP. palmas buettikoferi Steindachner, 1891
体長30cm-40cm。旧学名のローウェイの名称で呼ばれることもある。模様が濃く、黄色がかったものと茶色がかったものの2種類のタイプがいる。背ビレには黒いスポットが入る。産地差と思われる差はあるが個体差は比較的少なくバランスのとれた美しさを秘めている。顔は精悍な印象で下顎が太い。
ポリプテルス・ポーリー P. palmas polli Gosse, 1988
独立した種 P. polli とする見解もある。体長30cmほどの小型種。ギニアおよびコンゴ川流域に分布。上顎のかなり長い個体も見られる。
ポリプテルス・セネガルスP. senegalus senegalus Cuvier, 1829
最大体長50cmほど。飼育下では20-30cmくらいにしかならないことが多い。小離鰭は8-11本。安価で市場流通量は最も多い。
ポリプテルス・セネガルス・メリディオナリスP. senegalus meridionalis Poll,1941
詳細不明。
ポリプテルス・デルヘッツィ(デルヘジイ) P. delhezi Boulenger, 1899
灰褐色の地に複数の黒色の横帯が入る。コンゴ川流域に分布。
ポリプテルス・トゥジェルシー P. teugelsi Britz, 2004
2004年に記載された新種。カメルーンクロス川の固有種で、体長は60cmを超えることも多い。ブティコフェリーに似て、黄色地に褐色、緑褐色などの斑模様が入る体色が特徴。
ポリプテルス・モケレンベンベ P. mokelembembe Schliewen&Schafer, 2006
2006年に再記載された新種で、学名は未確認動物モケーレ・ムベンベに由来する。体長25cmほどとポリプテルス中最小種。ザイールに生息。小離鰭は4-5本と少ない。胸ヒレの付け根部分に比較的目立つ黒斑がある。旧レトロピンニス。

アミメウナギ属

アミメウナギ属はアミメウナギ1種のみが知られている。

アミメウナギ Erpetoichthys calabaricus Smith, 1865
通常は最大60cm程度。「ウナギ」とは全く別の魚だが、和名のとおり極端に細長い体型をしている。

出典・脚注

  1. ダンクルオレステス、ディニクティスとも呼ばれる。
  2. 多くの生物が一度に絶滅することは大量絶滅と呼ばれ、デボン紀以降では4回起こっている。

関連項目

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