フィラリア

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テンプレート:生物分類表 フィラリア (filaria) は、線形動物門双腺綱旋尾線虫亜綱旋尾線虫目糸状虫上科に属する動物の総称で、寄生虫の1種。フィラリアの寄生による疾患をフィラリア症 (filariasis) と呼ぶ。

今日の日本ではイヌ心臓右心房肺動脈に寄生する犬糸状虫 Dirofilaria immitis (Leidy, 1856) がよく知られ、これこそがフィラリアのように見られているが、他にも人体寄生性で感染後遺症として象皮症を引き起こすバンクロフト糸状虫 Wuchereria bancrofti (Cobbold, 1877) など、多くの脊椎動物に固有の寄生虫が多数知られている。

その名の通り線虫類の典型的な形である細長い糸状の姿をしており、成虫の寄生箇所は種によってリンパ系(リンパ管リンパ節)、血管系、皮下組織眼窩、など様々である。卵胎生で、成熟した雌の子宮内にはミクロフィラリア (microfilaria) 又は被鞘幼虫と呼ばれる幼虫が薄い卵膜にくるまれた状態で充満し、これが産出後活発に運動して血管に移動し、さらに毎日種固有の一定の時刻に末梢血管に移動してブユといった吸血昆虫に摂取される。ミクロフィラリアは吸血昆虫の体内で胸筋に移動し、脱皮を繰り返して感染幼虫に発育し、口吻で待機する。再度の吸血時に感染幼虫は口吻の外に出、口吻によって作られた皮膚の刺入孔から体内に侵入することで感染する。

バンクロフト糸状虫

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バンクロフト糸状虫 Wuchereria bancrofti

バンクロフト糸状虫 Wuchereria bancrofti (Cobbold, 1877) は、ヒトのみに寄生する少宿主性のフィラリアであり、寄生箇所はリンパ管リンパ節といったリンパ系である。雌は体長65〜100mm、体幅0.3mm。雄は体長40mm前後、体幅0.1mm。

雌の子宮内の卵から、鞘をかぶったミクロフィラリアが孵化する。ミクロフィラリアは体長244〜296μm、体幅8-10μm。最初リンパ管に現れ、リンパ液の流れに乗って血管に移動する。かつて日本にも見られた東アジア個体群のミクロフィラリアは昼間は肺の毛細血管に潜んでいるが、夜10時頃になると末梢血管に現れる。末梢血中でもっとも多くなるのは午前0時から4時の間で、夜が明けると肺に戻ることを繰り返す。ただし、南太平洋諸島からは昼間に末梢血中に出現する個体群も知られているし、個体群によってはこうした周期性を示さないものある。

末梢血中に出現したミクロフィラリアが中間宿主であるイエカ属やハマダラカ属などのの吸血により摂取されると、中腸内で鞘を脱ぎ、第1期幼虫となって胸筋に移行する。第1期幼虫はここで2回脱皮して感染幼虫である第3期幼虫にまで発育する。感染幼虫は胸筋から血体腔を経て口吻の根元に集まり、蚊の吸血時に口吻から脱出して蚊の刺し口から人体に進入する。感染幼虫がヒトに感染すると3ヶ月から1年後に成熟し、ミクロフィラリアを産出するようになる。成虫は4〜5年間生存すると推測されている。

感染者はしばらくは無症状であるが、感染後平均約9ヶ月ほどでリンパ管炎リンパ節炎が引き起こされ、数週、数ヶ月ごとに熱発作が繰り返されるようになる。この発作は成虫やミクロフィラリアの代謝産物や、蚊に移行することができずに死滅したミクロフィラリアの死体が免疫応答を引き起こすためと推定されており、九州ではかつてこれを「クサフルイ」と呼んだ。

成虫が寄生する箇所がリンパ管のため、宿主のリンパ管は次第に閉塞する。これは最終的にリンパ管の破壊にまで至り、体内のフィラリアが死滅した後でも後遺症として残ることになる。リンパ管が破壊されると末梢組織の組織液がリンパ管を経て血管系に回収される循環が阻害されるようになって陰嚢水腫やむくみを来たし、この慢性刺激で象皮症を引き起こすことになる。

アフリカ大陸アラビア半島南部、インド亜大陸東南アジア東アジアの沿岸域、オセアニア中南米と世界の熱帯亜熱帯を中心に広く分布し、日本でもかつては九州全域や南西諸島を中心に、北は青森県まで広く患者が見られた。西郷隆盛が罹患していたことが知られている。

マレー糸状虫

マレー糸状虫 Brugia malayi (Brug, 1927) は、ヒトに寄生するフィラリアであり、バンクロフト糸条虫と同様にリンパ系寄生性である。そのため、同様に感染後遺症としての象皮症の原因となるが、バンクロフト糸条虫の場合と異なりひざから先の脚部や腕のひじから先の部位に限られる。中間宿主ヌマカ属の蚊である。

熱帯アジアの東南アジアインドバングラデシュスリランカに分布する。

日本でも、かつては伊豆諸島八丈小島に特異的に存在していることが知られていた。しかし、1969年(昭和44年)に八丈小島住民の集団離村が行われて無人島になったため、現在では存在しないものと思われる。

オンコセルカ

オンコセルカ(回旋糸状虫) Onchocerca volvulus (Leuckart, 1893) に寄生されると成人になるにつれ失明していく。世界中に1700万人の感染者がいて、ほとんどはアフリカに住んでいる。この病気は中南米にも奴隷貿易と共に持ち込まれた。虫が住み着くと瘤(こぶ)が出来る。 ノッディングディジーズの原因とみられる。

ロア糸状虫

ロア糸状虫 Loa loa (Cobbold, 1864) テンプレート:節スタブ

犬糸状虫

主にイヌ科動物に寄生する。人体寄生例も少数(世界で80例程度)知られている。中間宿主であるトウゴウヤブカ Aedes togoi の吸血によりミクロフィラリアが血中に侵入する。成虫は右心室に存在するが、心臓の左右短絡奇形が存在する場合は、末梢の動脈へ移行し塞栓することがある(奇異性塞栓症)。

定期出現性

ミクロフィラリアは媒介する昆虫の吸血時間にあわせて宿主の末梢血に出現する性質がある。これを定期出現性という。

治療

治療には、場合によって外科手術と内科療法に分かれる。 感染による副産物としての心不全などに対処するために血管拡張剤や血圧降下剤などを用いて深刻な病状になるのを防ぎつつ、ミクロフィラリアやフィラリアを駆除する。

この際問題になるのは駆除方法で、場合によっては薬剤で駆除されたミクロフィラリアが血管を詰まらせるなどの危険性があり、積極的に使われる方法では無いといわれている。ミクロフィラリアは白血球にどんどん食べられるので、主に問題になるのは成虫のフィラリアである。

これに関しては薬剤駆除の他、外科手術で物理的に取り除く方法がとられる。特に心臓の三尖弁などに寄生された急性の場合は早急に取り除かなければ危険である。

沖縄県におけるフィラリアの撲滅

沖縄地方がフィラリアの浸淫地であることは、1936年の沖縄県下一斉調査により、県民の3分の1が保虫者であることからわかっていたが、防圧の予算が確保できずそのままになっていた。戦後初の調査は、1949年に沖縄県宜野座村でおこなわれ、このときの保虫率は13%であった。1964年に米国立法院でフィラリア防圧事業案が成立、宮古島より防圧事業が始まった。宮古島住民の99%が検査に応じたところ、結果は19%が陽性であり、特効薬スパトニンの投与でミクロフィラリアは82%消滅した。2回目は1966年に、3回目は1967年に実施された。沖縄諸島の日本返還を挟んで、作戦開始から13年後の1978年には、沖縄県全体で保虫率が0となった。1988年11月、宮古保健所(現宮古福祉保健所)にフィラリア防圧記念碑が建てられた[1]。スパトニンは、クエン酸ジエチルカルバマジン錠(英名 Supatonin)で商品名である。回虫に有効なサントニンの名称の前にスーパーという名前をつけた商品名。

出典

脚注

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関連項目

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外部リンク

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  1. 「風土病との闘い - フィラリア防圧」、『沖縄20世紀の光芒』琉球新報社、那覇市、2000年