ビデオファイル

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ビデオファイルとは、静止画などの映像素材、また音声素材などを光磁気ディスクなどのいわゆる電子媒体に多数保存することのできる収録再生装置で、必要に応じてこれらを自在(ランダム)に収録、再生できるものをいう。「VF」あるいは「VAF」と略されることが多い。テレビジョン放送局では主調整室の設備のひとつとして置かれる。

ビデオファイル以前

例えば民放のテレビCMであれば、そのもっとも基本的なものとして、いわゆる「紙芝居」型のものがあげられる。すなわち数枚の動かない画像(静止画)とコメントから成るものである。

過去このCMの放送には「テレシネ」あるいは「テロップ」すなわちテレビ投射映写機(Television Opaque Projector 略してTELOP)と6ミリあるいはカートリッジテープ録音再生装置などが使われ、例えばテロップに所定の「テロップカード」(はがき程度の大きさの紙に絵や文字が描かれたもの。)を装填、テロップの撮像装置によりこれを映像化、同時に再生する6ミリテープなどからの音声(コメント内容)に合わせてテロップカードを順次差し替えていく方法がとられていた。

また、番組中にスポンサー名などを表示させる必要がある場合、黒紙にスポンサー名などを白色で描いたテロップカードを用い、これを放送映像にオーバーラップさせ(正確にはスーパーインポーズ(superimpose)、略して「スーパー」ただし主調整室では番組素材の編集作業は行わないので、細かな編集方法による分類は行わず、おおまかに「オーバーラップ」「カットイン(アウト)」「フェードイン(アウト)」といった分け方がされるのが一般的である。)、加えて音声も必要な場合には、6ミリテープなどを同時に再生して放送音声にオーバーラップさせる方法がとられていた。

さらに番組の終わりにスタッフ、スポンサー名などが画面の下、右から左に流れる、いわゆる「ロールスーパー」は、横に長い黒紙に白で文字などを描き、これを丸めた「ロール」をテロップにセット、テロップの撮像レンズの前でこの紙を機械的に右から左に送ることにより「流れ」をつくり、これを放送映像にオーバーラップさせる方法がとられていた。

これら一連の作業はその時間が短いにもかかわらず複雑であり、ひとつでもその手順や操作を誤ると直ちに放送事故となる。そこであらかじめこれらについてはVTRにより収録、CMについてはCMバンクシステムにできるだけ収容するが、他のものはそのテープを主調整室のVTRで再生して放送内容にオーバーラップさせるなどという方法がとられるようになった。

ところがこの場合、少しずつ内容の異なる短いテープをVTRに数多く掛け替えて放送することが必要、主調整室でのテープの掛け替え作業が煩雑となり、この手順ミスなどから放送事故が発生する。

このためテロップ、連奏型カートリッジテープ再生装置などを放送本線から簡単に外すことはできず、これらに代わるものの登場が期待されていた。

ビデオファイルの登場

1980年代ラジオ放送局でオーディオファイル(AF)が用いられるようになった。コンピュータの飛躍的進歩、ハードディスク記憶装置の飛躍的な記憶容量の増加、光磁気ディスク記憶装置の登場などにより、その考え方や基本技術をデータ量の多い映像にも適用することが可能となり、1990年代、「静止画ファイル」として登場した。

ビデオファイルの実用

当初、静止画および上述のスーパー用、すなわち従来のテロップの代わりとなるものであったことから「ビデオファイル」(VF)とよばれるようになった。

その後間もなく音声が加わり、「ビデオ・オーディオファイル」(VAF)とも呼ばれるようになった。以降コンピュータのさらなる進歩、ハードディスク記憶装置または光磁気ディスク記憶装置の記憶容量のさらなる増加、データ圧縮技術の向上などにより、急速に、動画、音声、音声つき動画など、様々な組み合わせのものを自在に収録、再生できるものとなっていった。このことから単純に従来のテロップやカートリッジテープ再生装置などの代わりではなく、短時間の番組素材の送出に用いる、いわば小規模なCMバンクシステムあるいは番組バンクシステムとしても利用されるようになった。

2000年代に入ると、CMバンクシステム、番組バンクシステムと機能統合(機能連動)したものが次々に開発され、これらは地上テレビ放送のデジタル化を機に、各局に導入された。

今日、ビデオファイルは主調整室で主に提供やタイトル表示、おことわりなどの各種スーパーに用いられるのみならず、副調整室での番組制作、すなわち、コーナー表示などの各種スーパーに用いられるようになった。ただし副調整室ではリアルタイムに番組内容を構成する必要もあることから、ビデオファイルによらず、コンピュータグラフィックス(CG)生成装置から直接、映像を得る、あるいはCG生成装置内に小規模なビデオファイルの機能を持たせたものとなる方向にある。

現在、ラジオ放送に用いるオーディオファイルは完成されたものになりつつあり、ラジオの番組バンクシステム、CMバンクシステムなどはすべてこれに統合され、1日分以上の放送を全てオーディオファイルから放送することも可能となっているが、データ量の多い映像を扱うテレビ放送に用いるビデオファイルは、今のところ、このように大量の番組素材を収容できるほどのものとはなっておらず、ビデオファイルは、初期のラジオ放送局のオーディオファイルと同様に、現状、番組バンクシステムやCMバンクシステムの補助的な位置にある。また番組バンクシステム、CMバンクシステムとビデオファイルを併せたシステムも、現在のオーディオファイルの機能性に匹敵するものとはなっておらず、初期のオーディオファイルを用いたラジオ放送システムと同様に、その運用上の制約も多い。ビデオファイルが最終的な目標である「映像音声バンクシステム」となるには、まだしばらくかかる状態にある。

参考文献等

  • 社団法人日本民間放送連盟編 『放送ハンドブック』 東洋経済新報社、1992年3月。
  • 社団法人日本民間放送連盟編 『放送ハンドブック改訂版』 日経BP社、2007年4月。