パニック障害

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パニック障害(パニックしょうがい、テンプレート:Lang-en)とは、定期的なパニック発作に特徴付けられる不安障害の一種である。それはまた、少なくとも一ヶ月は継続している意味のある行動上の変化と、新たな発作に対する不安やその影響への絶え間ない心配を含んでいる。

パニック障害は、強い不安感を主な症状とする精神疾患のひとつとして、不安神経症と呼ばれていた疾患の一部である(不安神経症の方が広い疾患概念であり、不安神経症と呼ばれていたものの全てがパニック障害には当たらない)。パニック障害の原因として複数のルートが存在すると考えられているが、近年の研究によってその多くは心理的葛藤によるものではなく、脳機能障害として扱われるようになってきている(ただし、純心理学的問題に起因するものもある)。かつては全般性不安障害とともに不安神経症と呼ばれていたが、1980年に米国精神医学会が提出したDSM-IIIで診断分類の1つに認められ、1992年には世界保健機関(WHO)の国際疾病分類ICD-10)によって独立した病名として登録された[1]

主な症状

定型的なパニック障害は、突然生じる「パニック発作」によって始まる。本能的な危険を察知する扁桃体が活動しすぎて、必要もないのに戦闘体制に入り、呼吸や心拍数を増やしてしまう[2]。続いてその発作が再発するのではないかと恐れる「予期不安」と、それに伴う症状の慢性化が生じる。さらに長期化するにつれて、症状が生じた時に逃れられない場面を回避して、生活範囲を限定する「広場恐怖症」が生じてくる。

パニック発作

パニック障害患者は、日常生活にストレスを溜め込みやすい環境で暮らしていることが多く、発作は、満員電車などの人が混雑している閉鎖的な狭い空間、車道や広場などを歩行中に突然、強いストレスを覚え、動悸、息切れ、めまいなどの自律神経症状と空間認知(空間等の情報を収集する力)による強烈な不安感に襲われる。症状や度合は、患者によって様々だが軽度と重度症状がある。しかし軽・重度患者ともに発作が表れる時に感じる心理的(空間認知など)印象としては、同じような傾向が見られ、漠然とした不安と空間の圧迫感や動悸、呼吸困難等でパニックに陥り、「倒れて死ぬのではないか?」などの恐怖感を覚える人が少なくない。先に挙げた自律神経症状以外にも手足のしびれやけいれん、吐き気、胸部圧迫のような息苦しさなどがあるが、それ自体が生命身体に危険を及ぼすものではない。

予期不安

患者は、パニック発作に強烈な恐怖を感じる。このため、発作が発生した場面を恐れ、また発作が起きるのではないかと、不安を募らせていく。これを「予期不安」という。そして、患者は神経質となりパニック発作が繰り返し生じるようになっていく。

広場恐怖

パニック発作の反復とともに、患者は発作が起きた場合にその場から逃れられないと妄想するようになる。さらに不安が強まると、患者は家にこもりがちになったり、一人で外出できなくなることもある。このような症状を「広場恐怖(アゴラフォビア)」という。広場恐怖の進展とともに、患者の生活の障害は強まり、社会的役割を果たせなくなっていく。そして、この社会的機能障害やそれに伴う周囲との葛藤が、患者のストレスとなり、症状の慢性化を推進する。広場恐怖の記事も参照。

うつ病等の併存

50~65%に生涯のいつの時点かにうつ病が併存し、また全般性不安障害25%、社交恐怖15~30%、特定の恐怖症10~20%、強迫性障害8~10%の併存があるといわれている。[1]

原因

原因についてはそれぞれ異なるが、当人のそれまでの経験から心理的あるいは身体的に危険だと察知した状態の場合、潜在意識が「発作」を起こす事で顕在意識に再認識させるために起こす症状。 その要因としては、脳の病気や心の病などではなく「思い込み」や「思い違い」による発作であるために投薬では寛解までは可能でも完治する事は不可能だと言える。

原因についてはまだ完全に解明されていないが、脳内不安神経機構の異常によって起きるものだと考えられている。ヒトの脳には無数の神経細胞ニューロン)があり、その間を情報が伝わることで、運動、知覚、感情、自律神経などの働きが起きる。パニック発作や予期不安、恐怖などもこの脳の機能のあらわれで、そこに何らかの誤作動が生じるために起こっていると考えられている。神経細胞間の情報を伝える化学物質(神経伝達物質)や、それを受けとめる受容体(レセプター)の機能の異常が関係しているのではないか、という研究が進められている。

セロトニン仮説
ノルアドレナリンにより引き起こされる不安感がいきすぎないように抑える働きのあるセロトニンという神経伝達物質が不足したり、またはレセプターが鈍くなっているためではないか、という説。また、セロトニンの過剰によるという説もある。

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薬物原因

喫煙

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カフェイン

カフェインのような覚醒作用を持つ物質の摂りすぎは、パニック発作の一般的な原因である[3]。パニック障害を持つ人は、カフェインの不安誘導作用に敏感である[4]

アルコールと鎮静薬

パニック障害の30%がアルコールを摂取し、17%がその他の向精神薬を使用している[5]。 これは一般的に61%がアルコールを使用し、[1] 7.9%がその他の向精神薬 [2]を使用していることと比較してである。 薬物の娯楽的な使用やアルコールの使用は症状を悪化させる[6]。 カフェイン、ニコチン、コカインなどの覚醒作用を持つ薬物は心拍数などのパニック症状を増加させるので症状を悪化させる。

アルコールは初期のパニック症状を緩和させる一方、中長期のアルコール使用はパニック障害を引き起こしたり悪化させ、とりわけアルコール離脱症候群では顕著である。[7] この効果はアルコールだけに限らず、同様の作用機序を持つ薬物でも同じである。とくにベンゾジアゼピンはアルコール問題のある患者に精神安定剤として多く処方されている[7]。 慢性的なアルコール乱用が症状を悪化させるのは、脳内化学機能の変化のためである[8][9][10]

ベンゾジアゼピンの断薬時に患者の10%が長期離脱症候群を経験し、それにはパニック障害も含まれる。長期離脱症候群は、離脱時の最初の数ヶ月間の間に見られるものと似ている傾向にあり、たいてい離脱当初の2-3ヶ月の間に見られる症状に比べて亜急性レベルの重症度である。 [11]

精神保健サービスに参加する患者について、パニック障害、社会恐怖などの不安障害は、アルコールまたは鎮静剤乱用の結果であった。アルコールや鎮静薬はもともとの不安を維持したり悪化させる。アルコール乱用や慢性的な鎮静薬の使用または乱用者は、その他の治療や薬物によって利益を得られていない可能性がある。それが根底にあるため、彼らは症状の根本原因に対応していない。 鎮静状態からの回復は、アルコール離脱症候群やベンゾジアゼピン離脱症候群のため一時的に悪化する[12][13][14][15]。 世界不安評議会は、ベンゾジアゼピンによる長期の不安治療については、耐性、精神機能障害、認知や記憶障害、身体的依存、ベンゾジアゼピン離脱症候群のために推奨していない[16]

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疫学

疫学的には、生涯有病率1.6%–2.2%と言われる。日本では0.8%であった。[1]日本の患者数の少なさについては、受診率の低さが上げられる。[17]

従来は心理的な葛藤が根本にあると思われてきた。しかし近年、認知行動療法の有効性が明確となり、心理的「原因」よりも、症状に対する患者の対処が症状進展のメカニズムとしては重視されるようになった。また薬物療法の有効性も確認されており、生物学的因子があるという意見も強くなっている。

パニック障害の重症度は様々であり、軽度の患者もいれば重度の患者もいる。重症例では、適切な治療を受けないまま経過すると、数年間にわたって外出できないなど、日常生活や社会生活に大きく支障をきたす場合もある。

なお、パニック障害にうつ病が併発する場合が少なくはなく、日本では約5–6割[1]、欧米では約5–6割といった統計も出されている。

診断

「予期しないパニック発作」が繰り返し発生し、それらに対する予期不安が1か月以上続く場合、パニック障害の可能性が疑われる。突然のパニック発作で始まり、予期不安を生じ、症状が持続するようになり、広場恐怖に進んでいくという経過の確認も、臨床診断においては、重要であるとされる。実際の臨床場面では、パニック障害は、広場恐怖を伴う慢性化したものと、広場恐怖を伴わない軽症例の2つに区分される。

診断基準としてはアメリカ精神医学会『DSM-IV 精神障害の診断と統計の手引き』が用いられることが多い。

なお、PTSDうつ病強迫性障害などの精神疾患の症状の一つとしてパニック発作を併発する場合があるが、この場合は、これらの病気の症状の一つとして扱われ、パニック障害とは診断されない。また身体疾患が原因になっている場合もパニック障害とは診断しない。

治療

治療的には、薬物療法と精神療法があり、様々な治療が有効性を認められている。

精神療法において最も基礎的で重要なものが、「疾患に対する医師の説明」「心理教育」である。パニック障害は、発作の不可解さと、発作に対する不安感によって悪化していく疾患であり、医師が明確に症状について説明し、心理教育を行うことが全ての治療の基礎となる。

精神療法の中で、有効性について最もよく研究されているのが、認知行動療法である。認知行動療法では、「恐れている状況への暴露」「身体感覚についての解釈の再構築」「呼吸法」などの訓練・練習が行われ、基本的には不安に振り回されず、不安から逃れず、不安に立ち向かう練習を行う。系統的な認知行動療法を行う施設は日本には多くはないが、臨床医は、認知行動療法的な患者指導を行っている場合が多い。

薬物療法

薬物療法では、発作の抑制を目的に抗うつ薬SSRI三環系抗うつ薬スルピリド)が用いられ、不安感の軽減を目的にベンゾジアゼピン抗不安薬が用いられる。これらの薬物には明確な有効性があり、特に適切な患者教育と指導を併用した場合の有効性は極めて高い。また最近は、新型抗うつ薬であるSSRIの有効性が語られることが多い。しかし、SSRIの代表とされるパロキセチン(パキシル)では、飲み忘れ等で服用を中止した数日後に起きる激しいめまい・頭痛などの離脱(禁断)症状が問題となり、パニック障害に対する安全性・有用性に疑問も呈されている。一方、米国ではベンゾジアゼピン系の抗不安薬の依存性が問題とされることが多いが、日本では、パニック障害の治療ではSSRIベンゾジアゼピン系の抗不安薬の両方が使用されている。[18][1] アメリカ精神医学会(APA)では、ベンゾジアゼピンはパニック障害の治療に対し効果的であり、ベンゾジアゼピン、抗パニック作用を持つ抗うつ薬、心理療法のうちどれを使うかは患者の病歴と体質を元に決めるべきだと勧告している。APAではパニック障害ではある治療を進めるには証拠が乏しいと報告している。またAPAではベンゾジアゼピンには速攻作用というアドバンテージがあるが、ベンゾジアゼピン依存症のリスクが存在すると付記している[19]

英国国立医療技術評価機構(NICE)では[20]、パニック障害の治療に対しベンゾジアゼピンは長期的に良い結果をもたらさないために処方すべきでない(should not)、抗ヒスタミン剤抗精神病薬は処方すべきではない(should not)と勧告している。

認知行動療法

暴露反応妨害法(暴露療法)
不安が誘発される状況に想像的、または体験的に身を置き、回避しないことで徐々に慣れる。不安や恐怖のために避けている場所や状況に少しずつ慣らし、克服した経験を積んで自信をつけていく方法。「自分が避けている場所はパニック発作とは関係がない」ことを身をもって確かめていく。最初の目標がクリアできたら、少しずつ段階的に目標のレベルを上げていく。

イノシトールの有効性

イノシトールは、パニック障害や強迫性障害の患者が服用することで、その症状を緩和する作用が報告されており、不安感の発生頻度とや、その程度を顕著に低下させる効果があるとされる。また、イノシトールの高用量摂取が、フルボキサミンより症状の軽減に効果があったとする論文報告もある。[21][22]

著名人

  • Kinki Kids堂本剛は、自身の苦しんだ過去を公表している。ライブ中に過呼吸等で突然倒れたり、控え室に戻ったりしている。また、1stソロアルバムの中には「Panic Disorder」という楽曲を本人作詞作曲で収録している。
  • プロ野球選手の小谷野栄一は「同病者を勇気づけたい」とパニック障害であったことを公表[23]現在も疾患を抱えながらプレーを続けている。
  • 女優の田中美里が、2002年8月28日放送の『わたしはあきらめない』(NHK)で、2000年末に発作に襲われパニック障害と診断されたと語った[24]。また、その日の放送で、番組の司会者の長島一茂が、自身も1996年以来、パニック障害を患っていると明かした。
  • タレントの安西ひろこは著書「バルドーの告白」の中で、2001年から2008年まで休業した理由がパニック障害であったことを明らかにした。
  • 演歌歌手の大江裕は、2010年11月の中頃に突発的体調不良から2012年2月まで休業していたが、2012年3月7日の新曲発表を兼ねた復帰会見でパニック障害を発症していた事を明らかにした。
  • イギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンは若い頃からパニック障害を患っていたとされている[25]

脚注

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参考文献

関連項目

外部リンク

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  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 パニック障害・不安障害 厚生労働省
  2. 史上最強図解これならわかる!精神医学(ナツメ社)
  3. テンプレート:Cite journal
  4. テンプレート:Cite journal
  5. テンプレート:Cite web
  6. テンプレート:Cite journal
  7. 7.0 7.1 テンプレート:Cite journal
  8. テンプレート:Cite journal
  9. テンプレート:Cite journal
  10. テンプレート:Cite journal
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  13. テンプレート:Cite journal
  14. テンプレート:Cite journal
  15. テンプレート:Cite journal
  16. テンプレート:Cite journal
  17. うつ病、不安障害..「経験」25%、受診は3割未満 川上 熊本日日新聞2008年3月8日付朝刊
  18. パニック障害の治療法
  19. テンプレート:Harvnb
  20. テンプレート:Harvnb
  21. テンプレート:Cite journal
  22. テンプレート:Cite journal
  23. テンプレート:Cite web
  24. テンプレート:Cite web
  25. パニック障害 貝谷久宣編著 不安・抑うつ臨床研究会編 日本評論社 P.3-22 ISBN 9784535981539