ハダカデバネズミ

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ハダカデバネズミ(裸出歯鼠、Heterocephalus glaber)は、動物界脊索動物門哺乳綱ネズミ目(齧歯目)デバネズミ科ハダカデバネズミ属に分類される齧歯類。本種のみでハダカデバネズミ属を構成する。

分布

エチオピアケニアジブチソマリアソマリランド

形態

体長8-9cm、尾長3-4.5cm、体重30ー80gとデバネズミ科最小種。体表には接触に対して感度の高い細かい体毛しか生えていない。種小名glaberは「無毛の、毛のない」の意で、和名や英名(naked=裸の)とほぼ同義。口唇が門歯の後ろで閉じるようになっており、穴を掘るときに土が口内に侵入するのを防いでいる。

体毛が無いことや環境の変動が少ない地中で生活するためか、体温を調節する機能がなく体温も低い。

生態

ファイル:Nacktmull.jpg
正面から撮影
ファイル:Naked Mole Rats-cropped.jpg
地中の巣で集団生活を営む

完全地中棲。平均80頭、最大300頭もの大規模な群れを形成し生活する。後述するように本種は哺乳類では数少ない真社会性の社会構造を持つ。群れの中で1つのペアのみが繁殖を行い、群れの多くを占める非繁殖個体のうち小型個体は穴掘りや食料の調達を、大型個体は巣の防衛を行う。門歯で穴を掘り、後肢を使い掘った土を後ろへ掻き出す。地表へ土を排出する際も、後肢を使い勢いよく土を蹴り出す。また複数の個体により穴掘り、トンネル内の土の運搬、地表への土の排出を分担して行う。長さ1kmにもなる巣穴も確認されている。地中は温度の変動が少ないが体温が低くなると密集したり、逆に体温が高くなるとトンネルの奥へ避難する。

植物食で、地下植物や植物のを食べる。幼獣は成獣の排泄物も食べる。

繁殖形態は胎生。群れの中でもっとも優位にある1頭の雌(「女王」)と、1頭または数頭の雄のみが繁殖に参加する。飼育下では80日の間隔を空けて幼獣を産み、1回に最大27頭の幼獣を生んだ例がある。妊娠期間は約70日。「女王」が死んだ場合、別の雌がその地位を引き継ぎ、繁殖を行う。「女王」が尿をメスにかけ、それにより他の個体の繁殖が抑制されていると考えられている。授乳は「女王」のみが行うが、幼獣の世話は群れの他個体も参加して行われる。

巣の中で産まれた個体は同じ巣に留まってワーカーや繁殖個体になることが多いので、巣内で近親交配が繰り返されることになる。そのため巣内の個体間の血縁度が非常に高くなる。これが本種の真社会性の進化を促したとする説がある(血縁選択による血縁利他主義の進化)一方で、親による操作説のほうが上手く説明できる証拠も示されており(女王による監視など)、議論が続いている。

寿命

ハダカデバネズミは、同じサイズの齧歯類としては極端に長い28歳に至る寿命を持ち、齧歯類の最長寿記録を有している興味深い生き物である[1][2]老化に対して耐性があり、健康な血管機能を維持できる[3]。 その長寿の理由は議論されているところではあるが、生活環境が厳しい時に代謝を低下させる能力があり、それが酸化による損傷を防いでいると考えられる[4]。その驚異的な長寿ゆえ、ハダカデバネズミのゲノム解析に努力が払われている[5]

ハダカデバネズミでは、25-ヒドロキシビタミンDが血中で検出されないように元来コレカルシフェロール(ビタミンD)を欠損しているように見える[6]。 完全に地中で生活しているので、太陽光にあたることはなく、体内でコレステロールからビタミンDが合成されることはない。

がんに対する耐性

ハダカデバネズミはがんに対して高い耐性を示し、ハダカデバネズミにがんが発見されたことはない。このメカニズムは、一定のサイズに達した細胞群に新たな細胞を増殖させない「過密」遺伝子として知られているp16という遺伝子が、がんを防いでいるものである。ハダカデバネズミも含めたほとんどの哺乳類は、P16が活動するよりもかなり遅れた時期に活動する細胞の再生を阻害するp27と呼ばれる遺伝子を持っている。ハダカデバネズミにおいては、p16とp27の共同作用が、がん細胞の形成の阻害としての二重防壁を形成している[7][8]

ハダカデバネズミの産生するヒアルロン酸がんに対する耐性の一因であるという報告もある。ハダカデバネズミのヒアルロン酸はヒトやマウスなどの他の哺乳類に比べ5倍以上高分子でさらに密度が高く、High-Molecular-Mass Hyaluronan(HMM-HA)と名付けられた。このHMM-HAのノックアウト、もしくはヒアルロン酸分解酵素の過剰発現によりがん感受性になることから、HMM-HAのがん耐性に対する関与が実証されている[9]

関連項目

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脚注

  1. テンプレート:Cite journal
  2. テンプレート:Cite journal
  3. テンプレート:Cite journal
  4. テンプレート:Cite web
  5. テンプレート:Cite web
  6. テンプレート:Cite journal
  7. テンプレート:Cite web
  8. Seluanov A, Hine C, Azpurua J, Feigenson M, Bozzella M, Mao Z, Catania KC, Gorbunova V. (2009).Hypersensitivity to contact inhibition provides a clue to cancer resistance of naked mole-rat. Proc Natl Acad Sci U S A. 106:19352–19357. テンプレート:Doi PMID 19858485
  9. テンプレート:Cite journal

参考文献

外部リンク

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