ソヴレメンヌイ級駆逐艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

テンプレート:参照方法

ソヴレメンヌイ級駆逐艦
956 「サルィーチ」設計艦隊水雷艇
300px
1989年8月に撮影された1番艦「ソヴレメンヌイ
艦級概観
艦種 ミサイル駆逐艦
運用者 テンプレート:Navy
テンプレート:Navy
テンプレート:Navy
就役期間 1980年 - 現在
性能諸元
排水量 基準: 6,500 t
満載: 7,940 t
全長 156.37 m
全幅 17.19 m
喫水 7.79 m
機関 KVN-98/64型ボイラー(1-6番艦) 4缶
KVG-5型ボイラー(7番艦以降)
蒸気タービン (50,000 shp) 2基
スクリュープロペラ 2軸
電源 ディーゼル発電機(600 kWt) 4基
タービン発動機(1,250 kWt) 2基
速力 最大: 33.4 kt
巡航: 18.4 kt
航続距離 2,400 nmi/32kt
4,500 nmi/18.4 kt
乗員 士官:31 名
水兵:313 名
武装 AK-130 130mm連装両用砲 2基
AK-630M 30mmCIWS 4基
3S90 単装SAM発射機
(956 設計: 9M38 (SA-N-7)×24発
 956A 設計: 9M317 (SA-N-12)×24発)
2基
KT-190 4連装SSM発射機
(956 設計: 3M80モスキート×8発
 956A 設計: 3M82モスキートM×8発)
2基
RBU-1000「スメールチ3」 6連装対潜ロケット弾発射機
(RGB-10ロケット×24発)
2基
DTA-53 533mm連装魚雷発射管 2基
機雷 40個
艦載機 Ka-27PS/PL 1機
C4I 3K90「ウラガーン」 武器システム
「ミネラール」(「モスキート」用) 1基
MR-700「オレーフ」(「ウラガーン」用) 6基
MR-184「レーフ218M」(130 mm砲用) 1基
MR-123「ヴィーンペル」(CIWS用) 2基
レーダー フレガートM 低空警戒/対水上 (1 - 3番艦)
フレガートM2低空警戒/対水上 (4 - 5番艦)
MR-750 フレガートMA 3次元レーダー(6番艦以降)
1基
ヴォールガ 対水上捜索照準 3基
ヴァイガーチ 航法(956A型) 1基
ソナー MGK-335S「プラーチナS」 1基
水中通信システムMG-7 1基
電子戦
対抗手段
MR-405M「スタールト2」 1基
チャフフレア連装発射機PK-2 2基
チャフ・フレア10連装発射機PK-10「スメールイ」 8基
諸装備 光学航法システムDVU-2 1基
電波航法システム 2基
敵味方識別装置 各種

ソヴレメンヌイ級駆逐艦(ソヴレメンヌイきゅうくちくかん)は、ソビエト連邦(以下、ソ連)およびロシア連邦(以下、ロシア)が開発・建造した艦隊水雷艇ミサイル駆逐艦である。ソビエト連邦海軍(以下、ソ連海軍)およびロシア連邦海軍(以下、ロシア海軍)での正式名称は、956 「サルィーチ」設計艦隊水雷艇テンプレート:Lang-ru)設計暗号の「サルィーチ」は、「ヨーロッパノスリ」のこと。ソ連海軍およびロシア海軍における正式分類は、西側諸国などの「駆逐艦」に相当する艦隊水雷艇(эскадренные миноносцы)である(ソ連海軍にもロシア海軍にも、駆逐艦という艦種は存在せず艦隊水雷艇などいくつかの艦種がそれに対応している)。

ソヴレメンヌイ級は中国人民解放軍海軍でも運用されており、中華人民共和国(以下、中国)では「ソヴレメンヌイ」(現代の、最新の)を翻訳した「現代」級、あるいは 1 番艦の艦名から「杭州」級の名で呼ばれる。

概要

建造

ソヴレメンヌイ級は、1950年代に設計された各種艦隊水雷艇と、1960年代に建造された艦隊防空艦である 61 設計大型対潜艦の後継として計画された。船体の基本デザインは 61 設計と同様、艦対空ミサイル発射機と連装砲塔をセットで艦の前部と後部に配置する「ダブルエンダー」方式が踏襲されているが、艦が大型化した事に伴い、艦中央部にヘリコプター格納庫と発着甲板が設けられ、艦橋の両脇には艦対艦ミサイル発射筒が搭載された。この装備は、中射程艦対艦ミサイルを 61 設計派生型に装備したところたいへん評判がよかったことから継承されたものであり、本来ソヴレメンヌイ級の任務は艦隊防空であった。しかし、この装備のため、西側では長らくソヴレメンヌイ級を「空母攻撃艦」であると誤解していた。

本級は、最終的には28隻程度の建造が計画され、1980年 - 1994年にかけてロシア海軍に17隻が就役したが、18番艦以降の建造は、極度の財政難により中断した。1996年には、工事中断中の2隻が中華人民共和国に売却され、1999年 - 2000年に就役した。中国は、2001年に2隻を追加注文したが、これらは大幅に改良が加えられている。なお、当初の計画では、21番艦以降は、艦後部の130 mm連装砲を撤去し、ここに新型の対艦ミサイル(おそらくはP-800「オーニクス」)のVLS(垂直発射機)を搭載する改型となる予定であったが、結局、ロシア海軍向けは20番艦までしか起工されなかったためこの計画は実現していない。

本級は対空・対艦兵装がメインで対潜能力は限定的だが、これは同時期に建造された 1155 設計大型対潜艦とペアを組んで行動する事が前提だったためである。3K90 ウラガーン艦隊防空ミサイルは、最大射程が30 km程度と艦隊防空ミサイルにしては短いが、これはより射程の長い広域防空ミサイルS-300F フォールト(SA-N-6)搭載艦(キーロフ級ミサイル巡洋艦スラヴァ級ミサイル巡洋艦)を補完するのが主要任務であったためで、どのみち本級は、単体で使用する事を前提にした「万能艦」ではなかったのである。

蒸気タービン

本級が出現した頃、西側海軍関係者が驚いた理由の一つに、本級が蒸気タービン機関を採用していた事が有った。本級が就役した1980年代、すでに西側各国の海軍における水上戦闘艦艇はガスタービンエンジンが主流であり、蒸気タービン機関搭載の駆逐艦は既に建造していなかった。起動に時間が掛かり、加速性が非常に鈍く、海中への放射雑音が激しく整備性も悪い蒸気タービンは対潜戦には不適との烙印を押された機関である。一方他ならぬ旧ソ連においても、世界初のオールガスタービン推進水上戦闘艦艇である61型大型対潜艦を西側に先駆けて建造し、その後もガスタービン推進艦を続々と就役させていた。にもかかわらず、「時代に逆行する」かのように、蒸気タービンの駆逐艦を就役させたのである。

この事は、当時から様々な憶測を呼んだが、答えは、極めて単純明快であった。本級を建造したジュダーノフ造船所(現セーヴェルナヤ・ヴェールフィ)は、蒸気タービン機関搭載の水上艦艇を専門にしていたからである。

ガスタービン推進艦を続々と建造していたソ連海軍において、このジュダーノフ造船所は、「流行の最先端」に背を向けるように、依然として、キンダ型ミサイル巡洋艦クレスタ型ミサイル巡洋艦といった蒸気タービン推進艦艇を建造し続けていた。蒸気タービンの製造工場もレニングラートに在った。

もし本級をガスタービン機関にしていたら、レニングラートにある蒸気タービン機関製造工場の生産ラインを閉鎖せねばならなくなり、同時期に 1155 設計大型対潜艦も大量建造する以上、ガスタービン機関の製造供給が追いつかない事態が想定された。更には、ガスタービン用燃料(軽油)が不足し、ボイラー用重油が余ってしまう可能性も懸念された。そこで、蒸気タービン推進艦の建造において豊富な経験と実績を持つジュダーノフには、得意分野である蒸気タービン推進の駆逐艦を建造させる事にしたのである。

だが、ソ連崩壊後の、極度の財政難と人手不足は、「時代に逆らった」蒸気タービン駆逐艦にとって「逆風」となった。ガスタービンに比べて構造が複雑であり、維持整備により多くの手間と人手が掛かる蒸気タービン推進の駆逐艦を大量に保有・維持していく事は、ロシア海軍にとっては、とてつもない重荷になってしまったのである。しかも、蒸気タービン艦の減少により、艦隊における重油(蒸気タービン用燃料)の需要も減り、供給が削減されてしまった。加えて、ほぼ同サイズのウダロイ級に比べて必要な乗員数が多い事も、慢性的な人員不足に悩むロシア海軍にとっては大きな負担となっている。

こうした不運が重なり、多くのソヴレメンヌイ級が本来の任務をまっとう出来ぬまま退役していった。これを以って、西側ではソヴレメンヌイ級が「失敗作」であったと評する風潮が生じた。しかしながら、ロシア海軍では最優秀艦に幾度となくソヴレメンヌイ級を選出していること、中国人民解放軍海軍も2度に亙り発注していること、そして、ソビエト時代には活発に活動しており、大西洋地中海へ遠征していた事などからも明らかなように、ソヴレメンヌイ級の「失敗」は設計時に国家の崩壊とそれに伴う極度の財政難と人手不足を予期できなかったという予想・予防不可能な問題であり、計画や設計自体が失敗であったとは言えない。また、ソ連末期における製造精度低下により、多くの艦が退役を余儀なくされたとする説もあるが、実際に退役したのは、財政難でオーバーホールを受けられなかった初期に建造された艦ばかりであり、ソ連崩壊前後に完成した艦はいずれも活発な活動を継続している。しかし、ソ連崩壊から15年が経過し、情報公開により詳細な情報を容易に入手可能になった現在においても、事実を伴わない中傷は依然として根強く残っている。

現状と今後

ソ連崩壊後も、ロシア海軍は本級の建造継続を試み、1993年春に発表された「艦艇整備十ヵ年計画」においても、本級は最終的に28隻を建造し、これで7隻ずつの駆逐艦旅団を4個編成する計画だった。だが、わずか数年後には、財政難の為、建造隻数は19隻に減らされ、起工済みの20番艦は建造中止された。しかも、ロシア海軍へ就役できたのは1994年竣工の17番艦が最後となった。工事が停滞した18、19番艦は、中国へ売却された。既に竣工していた艦も、上記の理由により、1990年代後半には、次々と動けなくなっていった。

17隻竣工した本級のうち、2008年現在においてロシア海軍籍に留まっているのは9隻である。即時作戦行動可能状態にある艦は、このうちの半数程度と推察されている。なお、この事で、本級の蒸気タービンには欠陥が有ると記述する専門誌もあるが、ソ連が「機関に欠陥が有る」・「信頼性が低い」艦を28隻も建造しようとする計画を立てることは考えにくい点から、本級の活動が不活発なのは、本項蒸気タービンの節にて言及したように、本級の現状に起因するものが理由であると言えよう。

ソ連崩壊後、ロシア海軍は長らく大型水上艦の新規建造を停止していたが、2005年、本級の代替の一翼を担う4,500tクラスのアドミラル・ゴルシコフ級フリゲートの計画を発表した。ソヴレメンヌイ級は対空・対水上重視であったが、アドミラル・ゴルシコフ級は、それに加えて対潜任務もこなす多目的艦となる予定である。1番艦は「アドミラル・フロータ・ソヴィエツコヴォ・ソユーザ・ゴルシコフ」と命名、セーヴェルナヤ・ヴェルフィに発注され、2006年2月2日に起工された。同艦は2011年就役予定であり、建造費は、約3億1,000万ドルと見積もられている。ロシア海軍は、同型を20隻調達する構想である。しかし、ロシア海軍におけるソヴレメンヌイ級代替艦の本命は新しい艦隊水雷艇であり、その設計作業は2011年現在まだ完了していない。

同型艦

956 設計

1 - 14番艦。原型。ただし、1 - 3番艦および4 - 5番艦はレーダーが異なる。

ソヴレメンヌイ(Современный)
「同時代の、現代の、近代的な、最新の」。北方艦隊1989年よりオーバーホールに入るがソ連崩壊後に中断、1998年除籍、2003年6月以降解体。
オッチャーヤンヌイ(Отчаянный)
「絶望的な、向こう見ずの」。北方艦隊、1997年除籍。2003年6月解体。
オトリーチュヌイ(Отличный)
「立派な、優れた」。北方艦隊、1998年除籍。
オスモトリーテリヌイ(Осмотрительный)
「用心深い、慎重な」。太平洋艦隊、1997年除籍。
ベズプレーチュヌイ(Безупречный)
「申し分ない、非の打ちどころのない」。北方艦隊、1993年よりセーヴェルナヤ・ヴェルフィにてオーバーホールに取り掛かるが財政難により工事は進まず、2002年、修理を断念して除籍。
ボエヴォイ(Боевой)
「戦闘の、戦闘的な、大胆な、度胸のある」。太平洋艦隊。1998年よりシュトコヴァ17基地に係留、予備役。
ストーイキイ(Стойкий)
「堅い、持ちの良い、不屈の、頑強な」。太平洋艦隊、1999年に除籍され、シュトコヴァ17基地に係留保管されたが、同年4月8日に浸水し沈没。後に引き揚げられ、スクラップとして中国へ売却。
オクルィリョーンヌイ(Окрыленный)
「鼓舞された」。北方艦隊。1997年除籍。
ブールヌイ(Бурный)
「荒れ騒ぐ、急激な、猛烈な」。太平洋艦隊。2006年7月よりダーリ・ザヴォートにてオーバーホール。
ヴェドゥーシチイ(Ведущий)、
「主動の、先導の、指導的な」。北方艦隊。のちグレミャーシチイ(Гремящий:「轟く」)に改称。2007年12月9日除籍。
ブィーストルイ(Быстрый)
「速い、迅速な、急激な」。太平洋艦隊。 1993年から2002年までダーリ・ザヴォートにてオーバーホール。
ラストロープヌイ(Расторопный)
「敏捷な」。北方艦隊。2002年からセーヴェルナヤ・ヴェルフィにてオーバーホール。
ベズボヤーズネンヌイ(Безбоязненный)
「恐れを知らない、不敵の」。太平洋艦隊。 1999年からダーリ・ザヴォートにてオーバーホール。2002年、シュトコヴァ17基地に移動。2005年、ウラジオストクに移動。
ベズーデルジュヌイ(Безудержный)
「抑え難い、止めることのできない」。北方艦隊。1998年にオーバーホール。2007年12月9日、グレミャーシチイに改名。
ヴヌシーテリヌイ(Внушительный)
「深い感銘を与える、印象的な、でかい」。唯一黒海方面で建造された艦。61コムナール記念工場で起工されるも1987年に建造中止。

956-A 設計

15 - 20番艦。艦対空ミサイルを「ヨーシュ」に換装。対艦ミサイル「モスキート」を射程延長型の「モスキートM」に換装。(ただし、中国海軍に売却された2隻は、「ヨーシュ」ではなく、旧来型の対空ミサイルを搭載)

ベスポコーイヌイ(Беспокойный)
「びくびくした、不安な、面倒な、厄介な」。バルト海艦隊2004年よりカリーニングラード市ヤンターリ造船所でオーバーホール。
モスコーフスキイ・コムソモーレツ(Московский комсомолец)
モスクワコムソモール員」。のちナストーイチヴイ(Настойчивый:「根気強い、粘り強い、執拗な」)に改称。バルト海艦隊旗艦
ベスストラーシュヌイ(Бесстрашный)
「恐れを知らない、豪胆な、勇敢な」。北方艦隊。2004年6月、アドミラール・ウシャコーフ(Адмирал Ушаков)に改名。
テンプレート:要出典範囲
のちヴァージュヌイ(Важный:「重要な、尊大な、地位の高い」)、のちエカテリンブルク(Екатеринбург:「エカテリンブルク」)に改称。建造途中(完成率65%)で中華人民共和国に売却され、1999年12月25日にサンクトペテルブルクで引き渡し後、杭州(Hangzhou)と改称、人民解放軍海軍で使用中。 956E 設計と称す。
ヴドゥームチヴイ(Вдумчивый
「思慮深い」。のちアレクサンドル・ネーフスキイ(Александр Невский:「アレクサンドル・ネーフスキイ」)に改称。建造途中(完成率35%)で中華人民共和国に売却、2000年12月に回航、翌2001年1月に引き渡され福州(Fuzhou)と改称された。 956E 設計と称す。
20番艦[1]
工場番号第880号艦。1992年に第190造船工場で起工、工事進捗率20 %で技術的問題から作業中止。

956-U 設計

21番艦以降。艦後部の130 mm連装砲を廃止し、代わりに対艦ミサイル「オーニクス」の垂直発射機を搭載する改良型。計画のみ。

956-EM 設計

改「杭州」級。中華人民共和国が2001年に2隻追加発注したタイプ。 956EM 設計

艦対空ミサイル及び艦対艦ミサイルを射程延長型に換装。艦後部130 mm連装砲塔を廃止し、近接防空システムを「AK-630」4基に替えて「カシュターン(CADS-N-1)」2基を搭載、艦中央部ヘリコプター格納庫を入れ子式から固定式への変更、など改正が施されている。

泰州(Taizhou)
ロシア海軍名ヴヌシーテリヌイ(Внушительный)。2003年11月15日起工、2004年7月23日進水。2005年12月28日、サンクトペテルブルクにて中華人民共和国に引渡された。
寧波(Ningpo)
ロシア海軍名ヴェーチュヌイ(Вечный:「永久の」)。建造中の2005年4月27日に火災発生、第二甲板が600平米に渡って焼失。2006年7月、公試開始。

登場作品

ユークトバニア海軍の艦艇として登場。
敵艦として登場。
ロシア、中国の駆逐艦ユニットとして組み込まれている。
マルチプレーなどに収録されているシアトル市街戦において、シアトル沖に2隻停泊している。砲門をシアトルに向けているが一切攻撃はしてこない。

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

外部リンク

テンプレート:中国人民解放軍海軍の水上戦闘艦

  1. 参照:Сайт «АТРИНА» • Эскадренный миноносец пр.956 «САРЫЧ» типа «Современный», Sovremenny class テンプレート:Ru icon