セレン

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テンプレート:Elementbox セレンテンプレート:Lang-en-short)は原子番号34の元素元素記号Seカルコゲン元素の一つ。セレニウムとも呼ばれる。

性質

いくつかの同素体が存在するが、常温で安定なのは六方晶系で鎖状構造をもつ灰色セレン(金属セレン)である。灰色セレンの融点は217.4 テンプレート:℃(異なる実験値あり)で、比重は4.8である。他の同素体として、赤色で単斜晶系のα, β, γセレン、ガラス状の無定形セレンなどがある。-2, 0, +2, +4, +6価の酸化状態を取り得る。水に不溶だが、二硫化炭素 (CS2) には溶ける。また、熱濃硫酸と反応する。燃やすと不快臭のある気体(二酸化セレン)が発生する。硫黄に性質が似ている。

セレンは自然界に広く存在し、微量レベルであれば人体にとって必須元素であり、抗酸化作用(抗酸化酵素の合成に必要)があるが、必要レベルの倍程度以上で毒性があり摂取し過ぎると危険であり、水質汚濁土壌汚染に係る環境基準指定項目となっている。これはセレンの性質が硫黄にきわめてよく似るため、高濃度のセレン中では含硫化合物中の硫黄原子が無作為にセレンに置換され、その機能を阻害されるためである。

克山(クーシャン)病(Keshan disease:中国の風土病)やカシンベック病 (Kashin-Beck disease) の原因としてセレン欠乏が考えられている。

産出

セレンを主成分とする鉱物は、銅或いは銀との化合物のセレン銀鉱やセレン銅銀鉱が知られるが、産出量の少ない鉱物で有るため鉱石として利用はされない。硫黄化合物として産出する事が多いため工業的には、硫酸製造の際の沈殿物や銅精錬時の副産物を精錬し得る。

主な産出国は、日本28%、カナダ26%、アメリカ18%などとなっている。産出量は2.15×103トン、予想埋蔵量は70×103トンである[1]

用途

金属セレンは、半導体性、光伝導性がある。これを利用してコピー機の感光ドラムに用いられる。またセレンは整流器セレン整流器)に使われたり、光起電効果によりカメラ露出計ガラス着色剤[2]脱色剤に使われる。毒性がある為、現在は使用が制限され多くの用途において代替物質が使用されている。

歴史

1817年スウェーデン化学者イェンス・ベルセリウス (Jöns Jakob Berzelius) によって、テルルと共に発見された。

セレンはギリシャ神話の女神セレネから命名されている。これは、周期表上でひとつ下に位置するテルル(ラテン語で地球を意味する Tellus から命名)より後に発見され、性質がよく似ていたためである。あるいは地球の「上」に位置するためとも言われる。

セレンのように、周期表上で並ぶ元素が天体の配置になぞらえて命名された例は、ウランネプツニウムプルトニウムにも見られる。

セレンの化合物

酸化物とオキソ酸

セレンのオキソ酸は慣用名をもつ。次にそれらを挙げる。

オキソ酸の名称 化学式 構造式 オキソ酸塩の名称 備考
亜セレン酸
(selenious acid)
H2SeO3 亜セレン酸塩
( - selenite)
セレン酸
(selenic acid)
H2SeO4 セレン酸塩
( - selenate)
強酸である。
ペルオキソ一セレン酸
(peroxomonoselenic acid)
H2SeO5 ペルオキソ一セレン酸塩
( - peroxomonoselenate)
三酸化セレンと過酸化水素から作られる。

オキソ酸塩名称の '-' にはカチオン種の名称が入る。

ハロゲン化物

有機セレン化合物

テンプレート:Main セレンに有機基が結合した化合物として、セレノール (RSeH)、セレニド (RSeR') など多くの種類の化合物が知られる。

鉱物

  • セレン銀鉱 (Ag2</sup>Se)
  • セレン銅銀鉱 (CuAgSe)

その他

生体内のセレン

セレンはセレノシステインとしてタンパク質に組み込まれ、主にセレノプロテインとして働く。セレンはビタミンEビタミンCと協調して、活性酸素ラジカルから生体を防御すると考えられている。

セレノプロテインには抗酸化に関与するグルタチオンペルオキシダーゼチオレドキシン還元酵素甲状腺ホルモンを活性化するテトラヨードチロニン-5'-脱ヨウ素化酵素、セレンを末梢組織に輸送するセレノプロテインPなどがある。

セレンは欠乏量と中毒量の間の適正量の幅が非常に狭い。セレン過剰症として、悪心吐き気下痢食欲不振頭痛免疫抑制高比重リポ蛋白 (HDL) 減少などの症状がある。一方、欠乏症は貧血高血圧精子減少、ガン(特に前立腺ガン)、関節炎早老筋萎縮多発性硬化症などが知られている。ただし、ヒトにおいて、セレン単独の欠乏では、これらの症状が認知されていない(動物実験レベルではセレン単独の欠乏症状が認められている)。

セレンは肉や植物など日常で摂取する食材に含まれており、欠乏症はさほど多くはないが、食品、特に植物性のものに含まれるセレン含量は生育する土壌中のセレン含量に左右される。そのため、セレン含量の乏しい土地の住人にセレン欠乏が見られる。そのような土地として中国黒竜江省克山県があり、うっ血性心不全を特徴とする克山病が知られている。患者にセレンを補給することにより改善するため、セレンが深く関与すると考えられている。また、中国河南省林県もセレン含量の低い土壌で、この土地では胃癌の発生頻度が高いことが知られているが、こちらにはニトロソ化合物が影響しているという説もある。

また、血液中のセレン濃度と前立腺ガンの相関性が指摘されており、血液中セレン濃度の低下は前立腺ガンのリスクファクターと言われる。セレンの補充は前立腺ガンのリスクを軽減するとの報告もある。ただし、取り過ぎは前立腺ガンのリスクを軽減しないどころか、皮膚がんのリスクを高めると言われる。

前述のように、ヒトではセレン単独の欠乏症状が見られない。したがって、セレン欠乏は、欠乏症の二次的な要因となると考えられている。すなわち、ビタミンEなどと協調してはたらくため、両栄養素の欠乏症状の相乗作用により現れると考えられる。また、克山病ではセレン欠乏が、コクサッキーウィルスの変異を促し、病原性の獲得および増大をもたらすと考えられている。

摂取量

人体には体重1 kgあたり、約0.17 mg程度含まれると言われ、1975年にヒトでの必須性が認められた。セレンの食事摂取基準は2005年版の日本人の食事摂取基準[3]によると、推定平均必要量が25 (20) µg、推奨量が30 (25) µg、上限量が450 (350) µgである(数値は成人男性、かっこ内は成人女性)。ただし、30〜49歳の男性の推定平均必要量が30 µg、推奨量が35 µgとなっている。日本人の平均的なセレンの摂取量は100 µg/日とされ、中毒を起こす摂取量は800 µg以上とされている。

東京都は、日本人の摂取量は推奨量をすでに超えている為、「通常はサプリメントとして摂取する必要は無いと考えられる」。更に、「一日許摂取量が上限量に近い栄養補助食品が存在し、上限量を超える可能性がある、この様な物は栄養補助食品として販売されることが問題である」としている[4]

過剰摂取は健康に影響を及ぼし、次の症状を引き起こすことがある。下痢、胃腸障害、脱毛、爪の変形、疲労感、焦燥感、末梢神経障害、心筋梗塞、急性の呼吸困難、腎不全など[5][6]。実際に過剰な含有量のダイエット食品を摂食し、健康被害を生じた例がある。

関連法規

脚注

テンプレート:Reflist

関連項目

テンプレート:Sister

外部リンク

テンプレート:元素周期表 テンプレート:セレンの化合物 テンプレート:抗酸化物質テンプレート:Link GA

  1. 日本化学会編『第6版 化学便覧 応用化学編』丸善出版社 p.46
  2. インドではガラスの腕輪の着色に好んで使われるインドは「自分の写し鏡」(中村繁夫(アドバンスト マテリアル ジャパン社長)、Wedge Infinity 2012年9月4日掲載)
  3. 日本人の食事摂取基準 厚生労働省
  4. ミネラル補給用サプリメントの含有量調査 セレンの分析 東京都健康安全研究センター 研究年報 2007年
  5. 「健康食品」の安全性・有効性情報 セレン 独立行政法人 国立健康・栄養研究所
  6. 過剰のミネラルを含むダイエタリーサプリメントについて (PDF) 東京都食品安全情報評価委員会