サソリモドキ

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テンプレート:生物分類表 サソリモドキ蠍擬)は、クモ綱サソリモドキ目に属する節足動物の総称。英名からムチサソリビネガロンとも呼ばれる。

"Uropygi" はギリシャ語 οὐροπύγιον (ouropugion)[1]に由来し、οὐρά (oura) は"尾"・πυγή (puge) は"尻"を意味する。これは尾節末端の3節が伸び、鞭のような尾となっていることに由来する。

分布

ヨーロッパオーストラリア大陸を除く世界各地の熱帯亜熱帯に分布する[2]

日本では伊豆諸島八丈島(人為分布)、九州南部から沖縄にかけてアマミサソリモドキ Typopeltis stimpsonii が、八重山諸島にタイワンサソリモドキ Typopeltis crucifer が分布する。どちらも外見はよく似ており、以前は同一種と考えられていた。

形態・生態

ファイル:Mastigoproctus giganteus 0008 L.D.jpg
卵を守るジャイアント・ビネガロン (Mastigoproctus giganteus) の雌

名前の通りサソリに似た特徴があり、ハサミと後端のにその共通点が見いだせる。またクモにも似ており、両者を掛け合わせたような外見を持つ。全身はほぼ黒褐色で丈夫な堅い外皮を持つ。頭胸部腹部はそれぞれ楕円形でやや偏平、その間は少しくびれる。ハサミを頭胸部の前に曲げた状態では、握りこぶしを口元に寄せたようにも見える。腹部の後端に細い紐状の尾があり、whip scorpion=ムチサソリという別名はここから来ている。

全長は 25–85 mm程度、30 mmを超える種は少ない。テンプレート:Snamei 属が最大である[2]

頭胸部には付属肢として1対の鋏角、触肢、4対の歩脚をもつ。 鋏角は鋏状で極小さく目立たない。 触肢は発達し太く短い鋏状になっており、獲物を捕獲するほか巣穴を掘るなどの用途に用いられる[2]。 歩脚の第一脚は細長く、体の前方にのばし、昆虫の触角のような感覚器官として用いられる。他の3対は歩行用の足になっている。眼は頭胸部の前方に1対、側面に3対の単眼をもつ[2]。 腹部には体節があり、付属肢はなく、呼吸器官として腹面に2対の書肺をもつ。後端には頭胴長とほぼ同長の尾があり、紐状で、サソリ類のように自在に屈曲はせず毒腺もないが、付け根に肛門腺をもち、 酢酸カプリル酸の混合物を噴射する[2]。英名 "vinegaroon" は、この物質が酢 (vinegar) のような臭いを持つことに由来する。 強い刺激があり、これが皮膚に触れたり目に入ると、火傷様の皮膚炎や角膜炎等を起こすことがある。

夜行性肉食性で、各種昆虫やヤスデ等を捕食し[2]、ゴキブリ・コオロギなどの個体数の制御に有用であると考えられる。またミミズ・ナメクジなども餌とすることがあり、Mastigoproctus 属の大型種に至っては小型の脊椎動物を食べるケースも確認されている[2]。これらの捕獲された獲物は触肢の転節が変形した”歯”と鋏角で砕いて、口外で一部消化しながら摂食する。

倒木・岩の下など湿った暗い場所を好む。共食い習性があるため、通常、一つの石の下に単独で生息しているケースが多い。

クモ・サソリと同じように、雄が雌に精包を受け渡すことで交接が行われる。産卵数は35個以下の場合が多く、粘膜によって乾燥から保護されている。雌は孵化するまで絶食して卵を守る。孵化した幼体は白く吸盤で母体の背に吸着して過ごす。最初の脱皮を終えると成体と同じような姿となり、幼体が母体を離れた後に雌は寿命を終える。幼体の成長は遅く、3年で3回の脱皮を経て成体となり、成体となった後も4年程度生きると考えられている。[2]

人間との係わり

通常家屋内に侵入することはなく、日常生活で見掛けることはない。 野外活動中に偶然出会った場合、肛門腺から噴出する液で皮膚炎を起こすおそれがあり有害な生物として認識されるが、ハチ・アブのように積極的に人間を襲う事はないので、注意して取扱いあえて捕まえたりしなければ問題はない。

この他は農業など産業上の加害性も有用性もなく、同じクモ型類のクモやサソリに対し、民俗文化的な事物として注目される事もなく人間の生活との係わりはほとんどない生物だが、外国産の大型クモ類や甲虫類同様に観賞用に飼育されることがある。

飼育

成体はテラリウムで飼育できるが、湿度を保つことが重要である。水分補給のために、基材の一角を濡らしておくか、溺れない程度の深さの水入れが必要となる。温度は 20–25 テンプレート:℃、基材はココヤシ繊維など、体表に付着しない素材が望ましい。基材に潜る性質があるため、重い物を入れる際は注意すべきである[3]

餌は Eublaberus 属・Blaberus 属などのゴキブリや、後脚を除去したコオロギが用いられる。幼体には、コオロギの幼虫や無翅ショウジョウバエが利用できる。餌は週に数回食べる[3]

餌の与え過ぎなどでコナダニが発生し、気門を塞ぐことがある。 外骨格は傷つきやすく、傷口からノミバエやダニが侵入することがあるため、丁寧に扱うことが推奨される[3]

分類

ファイル:WhipscorpLyd.png
Thelyphonus doriae hosei

2006年の時点で100を超える種が知られている[4]

  • Hypoctoninae Pocock, 1899
    • Etienneus Heurtault, 1984 - Etienneus africanus 1種のみ。アフリカに分布する唯一のサソリモドキで、ゴンドワナ種であると考えられる[5]
    • Hypoctonus Thorell, 1888 - 19種。主にミャンマー。
    • Labochirus Pocock, 1894 - 4種。インド・スリランカ。
    • Thelyphonellus Pocock, 1894 - 3種。中南米。
  • Mastigoproctinae Speijer, 1933
    • Mastigoproctus Pocock, 1894 - 約16種。主に中南米。
    • Mimoscorpius Pocock, 1894 - フィリピンに分布する Mimoscorpius pugnator のみ。
    • Uroproctus Pocock, 1894 - インド・バングラデシュに分布する Uroproctus assamensis のみ。
  • Thelyphoninae Lucas, 1835 - 南-東南アジア・メラネシア。
    • Abaliella Strand, 1928 - 6種
    • Chajnus Speijer, 1936 - 1種
    • Ginosigma Speijer, 1936 - 2種
    • Glyptogluteus Rowland, 1973 - 1種
    • Minbosius Speijer, 1933 - 2種
    • Tetrabalius Thorell, 1888 - 6種
    • Thelyphonus Latreille, 1802 - 約30種
  • Typopeltinae Rowland & Cooke, 1973
  • 化石種
    • Geralinura Scudder, 1884 - ヨーロッパ・石炭紀後期より6種。
    • Mesoproctus Dunlop, 1998 - ブラジル・白亜紀前期より1種。
    • Proschizomus Dunlop & Horrocks, 1996 イギリス・石炭紀後期より1種。

ヤイトムシ目と近縁であり、同じ目とされていたこともある。Rowland & Cooke (1973)[6]は本目を2科 (Thelyphonidae・Hypoctonidae) に分けたが、Weygoldt (1979)[7]、Haupt & Song (1996)[8]は Hypoctonidae の単系統性は不確かであるとし、Hypoctonidae を亜科として1科に統合した。Dunlop & Horrocks (1996)[9] では Hypoctonidae はヤイトムシ+†Proschizomus の姉妹群とされているが、この際に用いられた化石種 Proschizomus の特徴は非常に不確かなものである[10]

脚注

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外部リンク

テンプレート:Sister

  • Found in Aristoteles' work: De Anim. Hist., Lib: IV Cap: I.
  • 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 2.7 テンプレート:Cite book
  • 3.0 3.1 3.2 Orin McMonigle (2008). Whipscorpions and Whipspiders: Culturing Gentle Monsters. Elytra and Antenna Insect Books. 40pp.
  • テンプレート:Cite web
  • テンプレート:Cite journal
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