クラウス・フーバー

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テンプレート:Portal クラシック音楽 テンプレート:参照方法 クラウス・フーバーKlaus Huber, 1924年11月30日 ベルン - )は、スイス現代音楽作曲家

年表

作風

初期

デビュー作以後、原則的には音列主義の作曲家である。総音列主義以降の流行に安易に乗らなかったことで、フーバーはずいぶん時流からは出遅れた。ルイジ・ノーノと同じように「テクスト付き音列主義」というレッテルを貼られ、1960年代末までは、シュトックハウゼンブーレーズなど、戦後前衛音楽の主唱者の陰に隠れた存在だった。その状況についてフーバーは「60年代は如何に書くかばかりが追究され、作家性が消滅した」と述べている。当時の作品は、「弦楽四重奏曲第1番 Moteti-Cantiones」、オーボエとチェンバロのための「からし種」、フルートハープヴィオラのための「サバト」など、この時代の主流であった前衛的な作風で書かれている。ソロ歌手とオーケストラと合唱のための「Soliloquia sancti aurelii augustini」が初期の総決算であると本人も語っているように、キリスト教神秘主義のテーマは生涯を通じて消えることはなかった。ベーレンライター社に所属していたが、程なくしてショット社に移籍。

中期

フーバーが真に自己の個性に開眼し、なおかつ作曲家として認められるようになったのは、1970年代に前衛が停滞して「作家性」が求められる時代に入ってからである。この間フーバーは、教職に就きながら状況の打開を辛抱強く待っていた。フーバーは、新しいリズム語法や音空間をたゆむことなく開拓し続け、前衛的な姿勢を突き崩すことがなかった。多くの音楽家のための「Erniedrigt - Geknechtet - Verlassen - Verachtet」は中期の頂点であると絶賛された。ブライトコップフから散発的に出版した後、RICORDI(ミュンヘン)に移籍。以後は変わっていない。

古今の音楽文化からの引用やトランスクリプションも多く、合唱と室内アンサンブルのための「回転鎖の歌 - Cantiones de Circulo Gyrante」では、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの作品がそのまま引用される。演奏家の多音源化、多空間化は現代音楽で非常に流行したが、これを受け入れたのも流行が過ぎ去った後である。「回転鎖の歌」も2度CD化された。「現代音楽のパサージュ(松平頼暁)」ではクラウス・フーバーはキリスト教神秘主義の文献を参照していることが述べられている。

全盛期と称される1980年代は作曲に方眼紙を用いて、弦楽四重奏曲第2番「...Von Zeit Zu Zeit...」では緻密にパルス感覚を設計している。このパルス感覚はオーケストラのための「20世紀末への哀歌」でも効果的に用いられ、きわめて難解な時間感覚を生成している。また非常に遅いテンポから完全な停滞にいたることも多く、弦楽三重奏のための「詩人の鍬」では、ロシア語を唱える演奏家は冒頭完全にフェルマータで静止する。

後期

非西洋楽器を使い始める。1980年代より顕著であった「静止した時間」へのリサーチが顕著となり、拍節を横断するため拍ごとに鉛筆で縦線が引かれるのが特徴になってきた。その典型的な室内協奏曲「Intarsi」では例外的に、モーツァルトを「非合理時価込み」で引用したことがある。この縦線は1970年代末期には使用例があるものの、1990年代に至ると「4分音符五つと、12分音符五つを足したものを11分割する」というリサーチへ展開した。通常連符はかなり速い単位で区切られるのが一般的だが、フーバーは遅い単位で区切るため奏者への配慮として縦線を記している。日本の楽器も微分音で調律しなおされる。

4分音よりも6分音を好んでアラビアの抑揚を個人的に解釈したヨーロッパでも中近東でもない新たなメロディー、民俗音楽の研究から五線譜ではなく三線譜を使う、音価の非合理等分、打楽器奏者が金属板に文字を書く、など、発明家としての側面も老齢になってからの方が際立っている。「やみのなげき=打楽器と笙の為の=」では井伏鱒二のTEXTから広島原子爆弾の事が語られる。かつてから興味のあった中近東の楽器や音楽語法を参照した旋法は、楽譜上には3分音と6分音で「マカーム」と記されている。中近東の楽器と衣装がそのまま西洋楽器と混用されることもある。

2000年代以後は数こそ少ないが創作活動は放棄しておらず、80歳を過ぎてからライブ・エレクトロニクスをはじめて用いた。ヨーロッパのみならず世界中に彼を慕う音楽家や指導を受けた人物は多い。その高い評価に比べて音源化はかなり遅れており、「Von Zeit Zu Zeit」ですら、いまだに再録音が存在しない。CD化されても、オペラの「Schwarzerde」すら、瞬く間に絶版になった。

指導

フライブルク音大の作曲の教授以降師事する者も数多く、その弟子達の多くはフライブルク楽派の中心人物として活躍している。フライブルク音大が2010年代既に前衛のメッカであることも全くないのだが、今日のドイツの新聞やラジオでもかつてのメンバーが「フライブルク楽派」と呼ばれる辺りは、フーバーの指導力の大きさを示している。

「確かに特殊奏法は現代音楽に不可欠だが、それは〈個人的な〉物である方が良い。本に載ってるものがそのままでてくるというのを何度も見る」、「解答はない、自分で考えなさい」、「ブラッハーに師事したときね、『オーケストレーションを勉強したい』って言ったら、『それは私の仕事じゃないからオーケストラの演奏会のゲネプロでも見に行け』って言われた、でもねそれが良かったんだよ」、「リゲティは『ベルリオーズの幻想交響曲以上の発明が出来ないオーケストラ曲はいらん』って言ったそうだが、言いすぎだと思うけど、その言には一理ある」など、効果的にアドヴァイスを与えていく(しかし、リゲティは武満との対談で自分のオーケストレーションに不備があることを認めている)。「これではヨーロッパ人の新作となんら変わらないではないか、雅楽を勉強しなさい今すぐに![1]」という辛い意見もあった。

レッスンでは弟子のスコアの間違いや矛盾点を抜け目なく指摘するが、決して強制的に直させるのではなく本人に再考させそのまま放って置くことが特徴である。彼に師事した作曲家、ミカエル・ジャレル細川俊夫ヴォルフガング・リームブライアン・ファーニホウタデウシュ・ヴィエレツキヨンギー・パグパーンカイヤ・サーリアホなどは何らかのかたちで独自の道を歩んでいる。

参考文献

  • クラウス・フーバー80歳記念カタログ・RICORDI・ISBN 3-931788-95-4
  • 70歳記念カタログ(RICORDI)も参照しているが、80歳記念カタログとかなり内容が重複する。
  • Klaus Huber: Umgepflügte Zeit. Gesammelte Schriften, hrsg. von Max Nyffeler. Verlag MusikTexte, Köln 1999.
  • Klaus Huber: Von Zeit zu Zeit. Das Gesamtschaffen. Gespräche mit Claus-Steffen Mahnkopf. Hofheim 2009.
  • Martin Demmler: Komponisten des 20. Jahrhunderts. Reclam, Stuttgart 1999, ISBN 3-15-010447-5, S. 201 ff.
  • Jean-Noel von der Weid: Die Musik des 20. Jahrhunderts. Von Claude Debussy bis Wolfgang Rihm. Insel-Verlag, Frankfurt am Main u. a. 2001, ISBN 3-458-17068-5, S. 432 ff.
  • Ulrich Tadday (Hrsg.): Klaus Huber. edition text + kritik, München 2007, ISBN 978-3-88377-888-4, (Musik-Konzepte (Periodikum)|Musik-Konzepte NF 137/138).
  • Hanspeter Renggli: Klaus Huber. In: Andreas Kotte (Hrsg.): Theaterlexikon der Schweiz. Band 2. Chronos, Zürich 2005, ISBN 3-0340-0715-9, S. 880 f.
  • Klaus HUBER・Écrits・Genève・Contrechamps Éditions・1991.

出典

  1. EXMUSICA・MUSCISCAPE発行

外部リンク