電子書籍
電子書籍(でんししょせき)とは、紙とインクを利用した印刷物ではなく、 文字、記号、図画に加え音声、動画を、紙、金属、樹脂、磁性体等の素材に、電磁的、または、レーザー光等で記録した情報や、ネットワークで流通させた情報をいう。再生には電子機器のディスプレイやスピーカーが必要である。電子書籍はソフトウェアであるコンテンツだけを指すが、ハードウェアである再生用の端末機器(電子ブックリーダー)も重要な要素であり、本記事ではコンテンツと端末機器の両方について記述する。
呼称については電子書籍の他、電子ブック、デジタル書籍、デジタルブック、Eブック、オンライン書籍といった呼称が存在する。
コンテンツの流通と再生の方式の違いにより、以下の形式が存在する。
- 携帯電話や携帯情報端末などで携帯電話ネットワークやインターネットからダウンロードして閲覧する
- PC等でインターネットからダウンロードして閲覧する
- PC等でインターネットからダウンロード後、さらに再生用小型機器にダウンロードして閲覧する[1]
目次
概要
電子書籍のコンテンツの多くは、既に出版された印刷書籍の情報を、デジタルな文字情報や必要ならばさし絵をデジタル画像情報へ変換して電子ファイルにすることで、印刷、製本、流通の経費削減や省スペースを図ったものである。コンテンツは有料と無料のものがあり、その多くが無線/有線のネットワークからダウンロード完了後に読むことになる。紙の書籍では不可能な、ハイパーリンク・動画・音声・振動(バイブレーション)などを併用したコンテンツも存在する。
読者が無線や有線によってインターネットに接続すれば、書籍の購入が即時に行えて本棚に場所を占めずにすみ、出版社に相当するコンテンツ・プロバイダ側でも在庫確保と資産コスト、絶版による販売機会の喪失が避けられる。環境の観点からは、紙・在庫・流通・店舗などの負荷軽減の側面と、電力消費や機器の陳腐化や廃棄などの負荷発生の側面がある。また著作権や課金などの課題が存在する。
歴史
前史
新聞・雑誌・書籍という従来型の出版形態に代わって携帯型の電子装置の表示画面でこれらを読むという考えは古くから存在し、1990年から小型の専用機器が販売され、電子書籍の普及に向けた事業がはじまった[1]。最初の電子書籍用リーダーは1990年に発売された8cm CD-ROMを記録メディアに使った日本のソニー製電子ブックプレイヤー「データディスクマン」である。その後、1993年にNECが3.5インチ・フロッピー・ディスクを使用した「デジタルブックプレーヤー」を発売した。5.6型モノクロ液晶画面と数個のボタンで操作する点はサイズなど含めて今日のAmazon Kindleと似た形態だった。また電子辞書も広義では電子書籍用リーダーの一種であるとみなされることがある。
WWWの普及期
元々World Wide Web(WWW)は電子ネットワーク上で学術論文同士を容易に結びつける合うように作られ、論文だけでなくブログに代表される多様な形態の無料コンテンツの拡大でインターネットは今では巨大に成長したが、この成長過程では有料コンテンツの販売も試みられ、一定の需給関係を作っているが課金の手間などによって比較的限定的なものにとどまっている。
著作権切れ著作配布の開始
インターネット利用が一般化した2000年前後より、テキストファイルによるコンテンツの提供がプロジェクト・グーテンベルクや青空文庫などで著作権切れ作品の有志によるテキスト化や著作者自身によるコンピュータ・ネットワーク上での配布も存在する。
2000年代
2000年以降ではコンテンツへの課金方法が整備され、利益を創出する有料メディアとして、小説以外にコミックや雑誌または写真集などの電子書籍も登場している。
コンテンツ形態
テンプレート:See テンプレート:節stub 大きく分けてダウンロード型とオンラインで閲覧するストリーミング型の2つの形態が存在し、ファイル形式やデータ形式もさまざまで、世界的に使われているPDFやEPUBの他、シャープのXMDFやボイジャーの.bookなど20種類以上のファイルフォーマットが存在する。これは日本の書物特有のルビ振りや段組をレイアウト崩れ無く、異なる端末媒体で忠実に再現できるようにする点、音楽配信と同じく強固な著作権保護技術(コピーガード/デジタル著作権管理)が求められた点、参入したソフトウェア開発会社が複数存在したことが挙げられる。このため、多くは世界水準として認められているとは言えない。
今日のネットワーク経由の電子書籍は、印刷と製本などの有形物のコスト負担がないために価格が安く出来ると一般に考えられるが、実際にはコンテンツの複雑な権利関係のため、印刷物より高価格のものが存在する(フランス書院が該当)。日本では、Amazon.comの「Kindle Store」とは異なり、話題の新作がすぐに電子書籍として発売されるケースは少ないとされてきた。しかし2010年に入ると潮流が変わり、小説やタレント本などの単行本・雑誌などが書籍発売と同時に配信される事例が増加している。
電子書籍は書籍出版の一形態と考えられ、そのページ内の情報はインターネット・ウェブと同様にコンテンツと呼ばれる。コンテンツそのものが多様な種類があり、これを提供する側もさまざまな関係者が存在する。
電子ブック
テンプレート:Main 書籍をテキストデータ化させた形式の電子書籍の商品としては、1990年7月にソニーが発売したData Discman DD-1向けのソフトまで遡れる[2]。1990年代にはWindows PCなどで電子ブック規格(EB,EBXAなど)の電子書籍(8cm CD-ROM)を閲覧出来るキットが発売された。
PDA・PC
電子書籍をコンテンツとして販売する形式は、1999年にシャープのISP兼ポータルサイトのSharp Space Townでザウルス向けに開始された「ザウルス文庫(現:インターネットの本屋さん)」がはしりとされている。このコンテンツにおいてXMDFフォーマットを初採用した。 また、同時期にはWindows PC上の専用閲覧ソフト(リーダー)を利用する電子書店パピレスやeBookJapanなどが営業開始となった。 2002年にはNTTドコモによる「M-stage Book」がInfogate接続のPC・PDA向けに、ソニースタイルがCLIE向けにコンテンツ数は少ないものの電子書籍コンテンツの販売を行っていた。ソニーは2004年にLIBRIeの展開に合わせて出版業界との共同出資という布陣でパブリッシングリンクを設立し、同社による電子書籍配信サイト「Timebook Town」を開始したが、2009年2月にサービス終了となった。 ポータルサイトのYahoo! JAPANは、2003年9月にコミック(単行本)の配信に特化した「Yahoo!コミック(現:Yahoo!ブックストア)」を開設し、現在まで配信作品を増加させている。 このように新規参入と撤退の動きが比較的激しい。
電子書籍に近い業態として、同人誌(原稿)を著者側がPDFやJPEGなどのデータ化させたものをコンテンツとして受託販売する「DLsite.com」のようなサイトも存在する。
電子書籍をコンテンツとして販売する以前は、前出の電子ブックしか無い状況であったが、辞書用途についてはマイクロソフトからBookshelf・Encarta、マイペディア、広辞苑などのCD-ROMによるPCソフト(辞書ソフト)が存在している。また、1997年には手塚治虫漫画全集をDVD-ROM収録したものが市販されている。
携帯電話
日本では青空文庫と同様、(自作の)文章をテキスト記述した勝手サイト(HTML)をWWW上に公開し、口コミで評判が広がるケータイ小説という形で電子書籍に近い形態のものが普及した。
2003年11月にauが売り出したWIN10シリーズの機種と、2004年前半にNTTドコモが売り出したFOMA 900iシリーズ(どちらもフィーチャー・フォンの先陣である)において実現したJavaアプリ(EZアプリ・iアプリ)のリッチ化により、PC向けの電子書籍サイトで採用されていた.bookフォーマットのリーダーであるT-timeのアプリ版リーダーがセルシスとボイジャーによって開発されたことで、ビットウェイがプラットフォーム供給者となり、供給を受けたNTTソルマーレ(コミックシーモア)などのコンテンツプロバイダがコミック配信のメニューサイトを開設した。その後着うたサイトと同じく徐々に同業者や供給者である出版社自社も参入した。これらは特に携帯コミックと形容されている。現在はウェブコミックの勝手サイトを含めると1000サイト以上存在する。
携帯コミックの黎明期は単行本(またはその原稿)をスキャンしたものを1話単位で販売課金・配信するだけであったが、2006年頃からは本に掲載せず直にサイト上で描き下ろしを配信する形態のものが現れ、次第に「ウェブコミック」と称されるようになる。
日本での有料携帯電話用コンテンツの市場規模は、2005年から伸び始め、2007年には300億円にもなったというデータもあるが、多くが携帯コミックであり、利用者層が限られている。
auグループは2009年6月から電子書籍コンテンツの閲覧に最適化した高解像度液晶を搭載したフィーチャー・フォン「ブックケータイ biblio」を発売したが、大きさ・重さなどが災いしヒットにならず2010年春に後継機種を出さずに終売した。(2010年末に登場したbiblio leafは電子ブックリーダーである。)
スマートフォン
欧米ではスマートフォンのiPhoneが画面が大きく操作性も向上し、Amazon.comのKindle向けのコンテンツを購入できるなど充実したことで電子書籍の普及が始まっている。
日本でもiPhoneは普及しているが、ケータイ小説を除けばコンテンツ整備が遅れていた[1]。これは配信サイトに当たるApp Storeにおけるコンテンツの立ち上げとiOS用のリーダーの開発が必要であった為であるが、その中で日本のApp Store上で2008年12月から産経デジタルが産経新聞紙面を配信するサービスが開始され、当時は先駆的な試みとして話題となった。
2010年に大きく潮流が変わり、多くのコンテンツプロバイダが参入するようになっている。
2010年はAndroidOS搭載のスマートフォンが本格的に発売されたことで、それに対応した電子書籍サイトの開設も進められている。これに関してはNTTドコモと大日本印刷の2Dfacto、シャープのGALAPAGOSなど、端末のベンダー側からもコンテンツ供給のアプローチが行われている。
電子ブックリーダー
出版側の立場・動向
既存物の権利
コンテンツの多くは紙媒体での出版を前提とした契約下で関係者が製作に携わったものであり、その電子化と公開ではそれら関係者の利権がからみあい、デジタル情報ゆえに新たな契約が対象とする配布媒体・データ形態の範囲がわかりにくい、コンテンツの電子化にも技術面以外の様々なハードルが存在している。
著作権切れの無料物
プロジェクト・グーテンベルクや青空文庫のような著作権切れコンテンツも存在するが、そういった過去の作品だけでは電子書籍の利用者のニーズを満たせない。著作権切れの書籍などをデジタル情報による無料コンテンツへ加工する作業は、ボランティアか無償提供目的の公益の事業などが行なっている。日本では国立国会図書館や複数の大学図書館、美術館などが著作権適用期間を過ぎた古い書物や古文書の電子化を行なっているが、これらは互いに異なるファイル形式で記述しているために、利用者には不便である[3]。また、逆に商業的な電子書籍の流通網は基本的に使用できないために、閲覧者の利便性を損なう面もある。
大手IT企業の動き
オンライン書店最大手のAmazonや検索サイトのGoogleの2社は、これまで紙媒体で存在するメディアの電子書籍化を大規模に進めている。Google社は著作権者に無断で電子書籍化を進めてそれらをネットワーク上で公開することで権利を侵害したとして、米国内で著者・出版社団体から訴えられ、2年以上にもわたる係争の結果、多額の和解料の支払いとユーザーに対する課金および著作権料徴収を徹底するという条件を飲むことでようやく和解に至っている。
新聞・出版社などの立場
世界的に日刊新聞の発行部数は下降しており、日本では出版業界も1990年中頃から後半にかけて販売が減少し、これらの電子書籍への参入を後押ししている。"Wall Street Journal"や"FOX"を保有する米Newsグループでは2009年から2010年に電子書籍への参入するとされる。"San Francisco Chronicle"や"ESPN"を保有する米Hearstも2009年に電子書籍への参入するとされる。米最大手の書店"Barnes & Noble"も2009年内に電子書籍販売サイトを立ち上げる。
図書館
公立図書館では、2002年北海道岩見沢市立図書館が電子書籍の閲覧サービスを始めたが、需要が少なかったため、書店の指定した2カ月の無償での試行の後、取り止めとなった。 大学図書館では、紀伊國屋書店が手がけるOCLC[4]の学術教養系和書・洋書の電子書籍配信サービス、ネットライブラリー(NetLibrary)が、早くから普及している。特に2009年10月、凸版印刷と紀伊國屋書店の協業後、学術教養系和書電子書籍のコンテンツ数が増えている。
端末機器
専用端末
テンプレート:Main 電子書籍を閲覧するための専用端末は電子ブックリーダーとも呼ばれ、書籍に比較していくつもの課題が求められる。
- 読みやすい画面
- 小型で書籍より軽いか同等
- 長時間動作
- コンテンツの購入が容易
- 初期コストとなる専用端末の価格が廉価である
他にも、耐衝撃性や簡易な耐水性、複数の電子書籍フォーマット対応、盗難防止の工夫などが求められる。
また、携帯型情報端末ゆえに類似機器の機能の対応も可能な限り求められる。
- 画面のカラー化
- 動画、静止画、音楽の再生機能
- インターネット接続機能
向上した技術
特に電子書籍専用端末に向いた最新技術には新たな種類の電子ペーパーがあり、これまで以上に省電力で高コントラストの表示が実現するとされる[1]。米Pixel Qi社は電子ペーパーと液晶の2つのモードを持つものがある。
端末本体価格は依然高いことが挙げられる。この辺りは普及による量産効果や共通規格の策定も絡んでコモディティ化などによる低価格化競争も期待されるが、現時点でそういった電子書籍データフォーマットの共通化などといった動向はみられず、依然として紙媒体を置き換えるほどの普及を見せるかどうかは未知数である。
専用端末の例
- シグマブック・ワーズギア
- 松下電器産業(現パナソニック)が2003年7月に発表した電子書籍専用端末。電子書籍独自のファイルフォーマットに対応し、eBookJapanのebi-jファイルに対応する。この機器は単三の乾電池2本で3〜6カ月使用でき、また電源を切っていても内容は表示されたままという電子ペーパーディスプレイ(モノクロ)を採用して重量は300gという事である[5]。
- 大きな特徴は見開きの画面であることが挙げられる。漫画は見開きを一つのページ単位で描画する作家が多く、見開きを一つページにして迫力あるシーンを描画する作家もいれば、片方のページに描いた内容をもう片方のページで説明するなど見開きで見ることができるというのは作家(特に漫画家)にとって非常に重要な要素の一つである。ただし、同端末はモノクロしか表示できないにもかかわらず価格が3万円台という事もあり、出版業界を大変革させるに至らなかった。
- 2006年にはシグマブック後継のカラー液晶ディスプレイを採用した単ページ仕様のWords Gear(ワーズギア)[6]が発表されたがやはり普及せず、2008年3月に電子書籍端末の製造を終了、同年9月30日には配信サービスも終了した。
- リブリエ
- ソニーが発表した電子書籍専用端末。対応する電子書籍のファイルフォーマットは独自形式を主体とするが、シグマブックとの違いはその多機能性である。電子辞書を使用することができ、また朗読機能も有している。しかし、書籍に対して本体価格が高くモノクロ表示しかできないこと・書籍は閲覧期間を制限されたレンタルのみという制限もあり、電子書籍の普及に貢献するには至らなかった。その後、ソニー・リーダーを海外で登場させた。端末の製造は2007年5月に終了、配信サービスも2009年2月に終了した。
- Amazon Kindle
- Amazon.comによる電子書籍端末。電子書籍のファイルは独自形式(.AZW)を採用。
- nook(ヌック)
- Nook(Barnes & Noble Nook)は、Barnes & Nobleが開発した電子ブックリーダー。OSはAndroidベース。2009年10月20日に米国で発表され、11月30日に259米ドルの値段で発売。
- GALAPAGOS(ガラパゴス)
- シャープ製ブックリーダー。通常の電子書籍フォーマット+日本の雑誌などのリッチテキストコンテンツに対応したブックリーダー。OSはメーカーWebページにて「Linuxベースを採用」と記載。またNTTドコモよりFOMAハイスピードの3G通信機能を搭載された機種で、ブックリーダー(SH-07C)(シャープ製)という機種も発売されている。
- ソニー・リーダー
- ソニー製ブックリーダー。電子ペーパーを使っている。画面はモノクロ表示である。2006年9月に米国で販売が開始され、2010年12月10日に日本でも発売された。
- 楽天 kobo Touch
- カナダのKobo社が開発したブックリーダー。日本では2012年7月19日から楽天より7980円で発売された。さらに、2012年11月15日からkobo gloが7980円で、2012年12月20日からkobo miniが6980円で発売された。
電子辞書
「書籍一般の電子化としての電子書籍」より一足先に印刷物から電子媒体へと変化して普及しつつあるのが電子辞書とその専用端末である。電子辞書も国語辞典や英和・和英辞書といった特定の辞書1冊だけを含んだものから、多数の辞書情報を含んだ上にクイズやゲーム、辞書拡張用の専用メモリカード対応など付加的機能を備えた上級機種が登場しており、メモリーカードで外部からテキストファイル等を取り込んで読む事のできる機種では電子書籍に近い利用方法が可能になっている[1]。2009年2月にカシオ計算機は、「XD-GF10000」で文庫本を開くように本体を横位置にすると液晶画面にページ片側だけだが文庫本のような縦並び文章の表示が可能になっている。電子辞書が電子書籍の再生機能を公式に含んで販売される事は2009年6月現在まだ無い。カシオとシャープの電子辞書担当者はともに将来の展開について明言しないが、カシオでは出版社の協力が得やすいと言い、シャープでは電子辞書が今後そなえる低消費電力表示や通信機能などの技術は電子書籍機能の実現でも求められると言っている。
携帯電話
通信機能と液晶表示部を備え、アプリケーション(iアプリ・EZアプリ・S!アプリなどのJavaアプリ)をダウンロードできるフィーチャー・フォンは電子書籍コンテンツに対応した閲覧ソフトウェアさえ搭載すればすぐに電子書籍端末になる。普及台数や小型であること、すでにメールなどで小さな画面に違和感が少なくダウンロードも一般化していること、課金システムがすでにあることなど、多くの点で携帯電話機が電子書籍の端末として広範に普及する可能性は十分にある。
スマートフォン
スマートフォンは日本において大きく普及した2008年頃から注目を集め、その一種であるiPhoneが2009年時点の北米では電子書籍の端末としての認識が広がり始めている[1]。iPhoneは日本でも好評を博し、その流れを汲む製品であるiPadはスマートフォンではないが2010年初夏より「電子書籍端末」として日本のマスコミでもよく取り上げられるようになった。
デジタル・オーディオ・プレーヤー
デジタルオーディオプレーヤーの中には、テキスト・ファイルを表示できる機種が存在する。本来は歌詞を表示させる目的のようだが、利用者はテキスト形式の電子書籍を自分で入れて利用する使い方も見られる。
パーソナルコンピュータ
パーソナルコンピュータは、ソフトウェアを選ぶことで多様な使用法が行なえ、電子書籍の再生もその1つとなる。デスクトップPCからネットブック、そして携帯情報端末までは、可搬性や用途の面で少しずつ異なりながら連続的に並んでおり、大きいものは画面が大きく動画表示などでも能力に余裕があるが可搬性・携帯性は損なわれる。小さいものは画面が小さく動画再生をはじめ処理性能が求められる機能は備えず、使用時間も制約を受けるが携帯性がある。 PCに分類される前者3つは電子書籍の再生にPC用ソフトが必要になる。
PC用ソフト
PCにダウンロードして実行することで、電子書籍コンテンツを再生するものがある。多くが独自の電子書籍ファイル・フォーマットに対応する電子書籍再生ソフトである。HTMLやPDFのような広く利用されているフォーマットの電子書籍コンテンツでは電子書籍専用の再生ソフトは必要としない。なお、商品カタログや広告物など、ウェブ上に存在する無数のHTMLやPDFフォーマットのダウンロード・コンテンツを電子書籍と呼んでよいかはあいまいである。
タブレットPC
2010年4月3日にまず米国から販売が始まり、その後、5月28日には世界各国でも販売が開始された iPadは、動画や音楽の再生機能やゲーム機能だけでなく、電子書籍閲覧機能も注目された。このような「タブレットPC」と呼ばれる平板状の携帯型PCは、高機能な携帯電話である「スマートフォン」では画面が小さすぎるがノートブックPCでは電子書籍を読むだけの用途には大きく重すぎて不便である読者層に適したものとして歓迎され、複数のメーカーから同様の製品が販売されて新たな携帯型情報端末のカテゴリを形成しはじめている。
問題点
著作権保護と可搬性
紙の出版物をデジタル情報化すれば、なんらかの複製制御の仕組みを配布方法や再生機器内に備えないと、デジタル情報は容易に複製物が作られるようになり、P2P型共有ソフトなどの違法な情報複製によって本来の著作物の販売が阻害されるなど著作権者の権利が侵害される可能性が高い。これを避けるために、電子書籍では当初からオンラインによる認証機能を設けたり、ダウンロードした端末以外で閲覧できないようにするといったハードウェア・キーを導入したりすることで、広範な複製は行なわれないようになっている。著作権者の権利はこれでほとんど保護されるが、利用者にとっては購入したコンテンツが特定の機器に縛られて可搬性が制限されたり、閲覧キーが損壊してしまえばまったく再生できず最悪では再購入する以外に手段がないなど、利便性が大きく失われることになる。これらが電子書籍の普及を阻害する一要因になっているとの指摘もある[7]。2010年にはApp Storeで紙の出版物をスキャンした電子書籍の海賊版が多数見つかり、問題となった[8]。2010年には、不足する電子書籍を利用者が手元の書籍等をスキャンして自ら電子情報化する「自炊」という作業が顕在化したが、その手法の派生として専門業者が登場し、スキャンデータの不法なコピーが流通する危険性に加えて、自炊作業によって本来は破棄される裁断済みの書籍束が他者のスキャンに幾度も利用されかねないという別の著作権侵害の問題を引き起こすと危惧されている[9]。
電子化権利問題
コンテンツの提供者側の課題の1つは電子書籍に関わる複雑な権利関係をどのように処理するか、ということである。現在の電子書籍は、主にこれまで紙媒体で流通していた作品を電子化したものが大多数である。また、そのような作品が一番人気があり市場でも売れている。しかし、過去に出版された作品を電子化によって再版する場合に、権利を誰が所有しているのか明らかではないことが多い。なお、電子化を行う手段としては紙媒体をスキャンする方法と近年主流になっている印刷用に用意したDTPデータを電子書籍用のデータに変換することで電子化する方法がある。スキャンする方法では紙媒体のレイアウトもスキャンすることになるが、このレイアウトの権利(版面権)は著者ではなく、出版社が保持しているとの見解もあり、このような非常に複雑な権利関係の処理が出版業界に電子化を躊躇させている。また、収益性からオリジナルの電子書籍作品が流通しにくい事も電子書籍が普及しない一因とも言える。従来の紙による出版物であれば、書店取次ぎに出版物を卸した段階で(実際には数カ月のタイムラグがある)出版社に収入があり、それを原資に著者や制作に関する費用を支払うことができるが、電子書籍ではこのようなシステムを構築するのが難しい。一部の電子書籍書店ではアドバンス(売上げの前払い)で対応しているが、上手く機能しているとは言い難い。
デジタルデバイド
専用端末の有無がデジタルデバイド(情報格差)を生じる可能性がある。特に米国では、政府は公的な発表をインターネットのような電子的な手段で行なうのに積極的だが、国民の全てがパソコンを持って閲覧できる環境に在るとは限らない。この点が米政府の完全電子公報化の足枷となっている。この問題は開発途上国ではさらに深刻であり、本来は社会を豊かにするための知識を提供する書籍が、電子化によるデジタルデバイドで、それら書籍に親しむべき貧困層の手に届かない危険性を生む。開発途上国でのデジタルデバイド問題を緩和するために、例えば100ドルPCという安価だが十分な性能を備えたパソコンの計画[10]などもあるが、どこまで普及できるか、普及後のサポートが行なえるのかなど、すぐに答えは出せない。
出版社・書店の影響
テンプレート:See also 電子書籍が流通すれば電子書籍出版社が直接著作者から出版権を購入し販売することになる。そうなれば出版社や書店は大打撃を受けると予想されている。 日本国内の大手出版社は2010年2月に日本電子書籍出版社協会(仮称)を発足させアマゾンなど大手ネット書店に対抗している[11]。
電子機器としての弱点
このほか、これら電子書籍と閲覧端末が何らかの形で電子機器に依存するため、これら機器に固有の問題も含んでいる。例えば、電力がなければそもそも利用できないため、発展途上国など停電が常態化している場所や電源が得がたい地域での利用が難しいこと、また繊細な電子機器は精密機器の例に漏れず故障しやすく衝撃や浸水などによってたやすく壊れてしまうこと、電子機器の操作が必要なこと、そして何より端末自身が旧態化することで、端末そのものの商品価値が損なわれるだけではなく、新機種への乗り換えに際して互換性の問題から旧来機種向けのデータを移行する手間がかかるか、あるいは旧機種向けデータをあきらめるしかないなどの懸念も存在する。
事業者側による電子書籍削除
紙の出版物とことなり、代金支払後であってもサービス提供元の都合等により一方的に電子書籍が削除され、利用できなくなることがある[12][13][14][15]。
普及状況
日本国内
日本では電子書籍の取次事業者として、パピレス、イーブックイニシアティブジャパン、ビットウェイ、BookWay(ブックウェイ)、WOOK、DL-market、デジタル書籍、forkNなど数多く存在する。中でも、コミックレンタルサイト「電子貸本Renta!」を手掛けるパピレスは日本の電子書籍の配信・販売の草分け的な存在。他にも漫画取り扱い点数世界最大級を誇るイーブックイニシアティブジャパンや、個人で投稿できるパブーや、iPhoneアプリに掲載できるこみおんがある。 2010年後半に入ると Reader の発売元であるソニー、biblio leafの発売元の一社であるKDDIと凸版印刷・朝日新聞社の合弁による「ブックリスタ」、NTTドコモと大日本印刷の合弁による「2Dfacto」、シャープとTSUTAYAらの協業によるGALAPAGOSコンテンツの拡充と、それぞれスマートフォン・電子ブックリーダー向けの電子書籍コンテンツ供給のプラットフォームの事業化を立ち上げた。2010年10月28日には2Dfactoの前段階として、XperiaやGALAXY SといったNTTドコモのスマートフォン向けの電子書籍のトライアルが開始されている[16]。
また、漫画 on WebやJコミなど出版社を介さず著作者が自ら電子書籍のシステムを作り上げるケースも出てきている。その一方でサイトが閉鎖するとそれに伴って、購入した書籍が読めなくなってしまうというリスクも存在する[17]。
諸外国
AmazonのAmazon Kindle を筆頭に、電子書籍大手ルルや、文書のyoutubeと言われるスクリブド[18]、Barnes&Nobleが展開する電子書籍向け自費出版サイト pubit![19]などが特に有名だが、他にも多数のサイトが存在している。
電子書籍大手のルルでは、高橋留美子の『めぞん一刻』や、高橋よしひろの『銀牙伝説WEED』など、多数のコミックスが英語化されて販売されている。特に海外では個人出版が流行しており、売上ランキングの上位を無名の新人が占めている例もある。
韓国では「低炭素・グリーン成長」を掲げる李明博大統領が積極的に後押ししており、2008年頃からサムスン電子、アイリバー、ネオラックス、LGディスプレイといった大企業が参入するなど電子書籍市場が急成長し株価が高騰している。サムスン電子とアイリバーは韓国最大書店の教保文庫と提携し店頭価格の6割程度で販売している。ネオラックスは朝鮮日報と提携し月額の新聞購読料の半額程度でニュースを配信している。2011年度からは小・中・高校で全ての教科書を電子書籍で提供する「電子教科書」を導入する見通しである[20]。
利用形態
全データをダウンロードする
インターネット上の電子書籍販売サイトから、必要なデータを全て端末にダウンロードして読む形式である。これは常時接続を前提とするデスクトップPCではあまり利便性は無いが、通信量で課金が発生する携帯電話や、回線との接続を外して持ち歩くノートパソコンや携帯情報端末では意味を持つ。反面、データとして完結している必要性から、これらデータの複製を作る行為がネックとなる。
データ形式は各書店サイトが利用するリーダーソフトによって多くの種類が存在し、AdobeReaderで閲覧するPDF形式やシャープのXMDF、携帯電話でコミックを読むためのセルシスのコミックサーフィン(現在では、ボイジャー社のドットブック形式ファイルが利用できるブックサーフィン)などがある。
現在、パソコンへの配信はデジタルコミックを中心に配信が行われている。ボイジャーが提供するT-timeが閲覧用アプリケーションとしてシェアが高い。イーブックイニシアティブジャパンやマンガノベルのように独自にアプリケーションを提供している配信元もある。
ダウンロードストリーミング方式
携帯電話の場合は、キャリア毎の端末機の仕様のため、実際には、KDDI(au)、ソフトバンクモバイルがダウンロード方式で、NTTドコモはストリーミング方式である。2003年11月に、はじめて携帯電話でダウンロード方式のコミック配信をビットウェイ社が開始した。携帯電話のコミック用ビューワーは、当初ベクター形式のコミックサーフィンとラスター方式のビットウェイ・ビューワーの2方式で始まった。その後、コミックサーフィンにラスター形式の機能が実装された。現在ではラスター方式が主流である。
著作権保護を優先し認証を必要とする
電子書籍データを端末に一部、またはすべてダウンロードするが、閲覧するためにはインターネットに接続していることが必要な形式である。サーバから情報をダウンロードして、キャッシュとしては記憶されるが、この一時ファイルは閲覧中は開かれたままで、静的なデータとしては基本的に保存できない。インターネット上のサーバに接続していないと閲覧できないため、提供側はかなり確実な著作権保護を得られるが、閲覧者には利便性が損なわれる。基本的には一般のウェブブラウザにプラグインと呼ばれる機能拡張プログラムをインストールして閲覧できるようになっているが、ウェブブラウザとは別に動作するものもある。
主な電子書籍フォーマット
- EPUB
- 米国の電子書籍標準化団体IDPFが推進するXMLベースのオープン規格。普及は北米で始まったが、テンプレート:要出典範囲
- XMDF
日本のシャープ株式会社が開発した電子書籍コンテンツのフォーマットである。大手出版社21社が参加する日本電子書籍出版社協会運営の「電子文庫パブリ」などで利用されている。専用リーダーソフトとして「ブンコビューア」でZaurus、PalmOS、PocketPC、HandheldPC、Windows向けが無料で公開されている。 テンプレート:Main
- .book(ドットブック)
- 日本のボイジャーが1990年代に開発した「エキスパンドブック (EBK)形式」の後継フォーマットである。縦書きやルビをサポートしており、文芸作品や漫画単行本の電子書籍・携帯コミック化に採用されている。ビューワーソフトとして「T-time」が公開されており、有償版ではファイルの自作も可能である。2005年頃に携帯コミックのビューワーがセルシスの「ComicSurfing」と統合され「BookSurfing Reader」となり、2013年現在も携帯アプリを用いる携帯コミックでは主流フォーマットとなってる。ビットウェイが供給するウェブコミックサイトでも多く採用されており、日本の漫画においては主要なプラットフォームである。
- AZW
- Amazon Kindle用の電子書籍フォーマットである。元は仏Mobipocket社の開発した「Mobipocket」フォーマット(MOBIフォーマット)がベースとなっており、Amazonによる同社の買収でKindle用の電子書籍フォーマットに転用された。なおDRM保護のされていないMOBIフォーマットの電子書籍はKindleで読むことが可能である。
他にもプレーンテキスト、PDFといった汎用文書フォーマットが商業電子書籍販売に利用されることもあり、JPEGやPNGといった標準的な画像フォーマットで書面を保持すれば静止画閲覧ソフトがそのまま電子書籍閲覧ソフトとして利用できる。
脚注
関連項目
参考文献
- ヒュー・マクガイア,ブライアン・オレアリ著 『マニフェスト 本の未来』ボイジャー、2013年2月20日(電子書籍版)
- ヒュー・マクガイア,ブライアン・オレアリ著 『マニフェスト 本の未来』ボイジャー、2013年2月20日(立ち読み版)
- 小島孝治著 『電子書籍のつくり方・売り方』日本実業出版社、2010年10月
外部リンク
- 平成21年度コンテンツ取引環境整備事業(デジタルコンテンツ取引に関するビジネスモデル構築事業)報告書(PDF) - 経済産業省,2010年3月31日付
- ITmedia eBook USER(電子書籍に関するニュースサイト)