千日手
千日手(せんにちて)とは、将棋において駒の配置と手番が全く同じ状態が1局中に何回か現れること。
本項目では、将棋と同類のボードゲームにおける千日手に相当する規定についても述べる。
目次
将棋における千日手
ルール
将棋においては駒の配置、両対局者の持ち駒の種類や数、手番が全く同じ状態が1局中に4回現れると千日手になる。千日手になった場合はその勝負をなかったことにする。公式戦では先手と後手を入れ替えて、最初からやり直しとなる。ただし、千日手になるまでの間に一方が王手となる手のみを続けていた場合には、王手をかけていた方が反則負けとなる(指し手すべてが王手でない場合はこの規定にあたらない)。プロの棋戦では、1999年6月3日の泉正樹-川上猛戦(早指し将棋選手権)で、泉がこの規定で反則負けとなった事例がある。
図の左側の盤面で、先手が後手玉に迫るには▲7一銀と打って詰めろをかける。後手は詰みから逃れるためには△7三銀打とするしかない。その後▲8二銀成△同銀と進むと、最初と全く同じ状態になる。この状態を繰り返すと千日手となる。
右側の盤面でも、▲2二龍△2四玉▲3三龍△1三玉と進むと元の局面に戻るが、この場合は連続王手の千日手にあたるため、先手が着手を変えなければならない。
同一局面が4回現れなくても両対局者の合意があれば千日手が成立する。第59期名人戦(丸山忠久-谷川浩司)第3局(2001年5月8日)では、これによる千日手が成立した。一方で千日手に気付かずに終局した場合は投了が優先されるため、さかのぼって千日手とはならない。2006年7月2日に行われた丸山忠久-深浦康市戦(JT将棋日本シリーズ)では、同一局面が4回出現したが、対局者を含め関係者が気づかず[注 1]、そのまま指し継ぎ、千日手とならなかった(丸山が打開し、深浦が勝利)。
ルールの変遷
千日手の概念は江戸時代から存在していたが、終盤で駒を打ち合い、取り合う状況でしか発生しないものと考えられていた。そのためルールとしては「千日手となったときには攻め方が手を変える。どちらが攻め方か不明のときは、仕掛けた側から手を変える。」という曖昧な規定にとどまっていた。[注 2]ところが1927年の対局で、序盤の駒組みの段階で同じ手を繰り返す局面が発生し、対局を中断して連盟に採決をゆだねることとなった。これが局面にかかわらず「同一手順3回」という千日手の規定を明確にした端緒となったと考えられている[1]。
以前は同一局面に戻る同一手順を連続3回というルールであったが、同一局面に戻る手順が複数ある場合、このルールでは無限に指し手を続けることが可能[注 3]であるため、1983年5月に現在の「同一局面・同一手番が4回」に改定された。改定のきっかけになったのは1983年3月8日の米長邦雄-谷川浩司戦(名人戦挑戦者決定リーグ:現在の順位戦A級)であり、この対局では60手以上千日手模様が続き、同一局面が9回出現している(谷川が打開し、米長が勝利)。また改定の際、同一手順の回数が問題になったが、武者野勝巳が独自に研究し、これまでの3回を4回にすれば、如何なる場合においても矛盾が生じない事を見つけ出した。
千日手に関する戦術・戦略
将棋の定跡には、両方が最善の手を指し続けた場合、千日手にならざるを得ない定跡が複数ある。例を挙げれば矢倉戦法における先手後手同型の総矢倉の形では、仕掛けたほうが負けるため千日手を選択せざるを得ない。米長邦雄など、この形でも千日手を打開し、自分が有利な方向に持っていこうとする手を考える棋士もいる。
また、伊藤果が案出した風車戦法では、ひたすら守るばかりで自分からは攻めず、千日手でも構わないという発想が存在している。千日手指し直しの場合は先手と後手がいれかわる為、若干有利である先手番を得るために、後手側が千日手にならざるを得ないような定跡に誘導することがあるのである。
千日手に持ちこむことが可能そうな局面ができた場合、千日手によらなければ劣勢となるならば、意図的に千日手に持ちこんで引き分けとし、次局に期待することを考えることとなる。 他方、千日手に持ちこまなくとも優勢である場合、千日手にして引き分けにするのは損であるため、他の手順で勝つことを模索するのが通例となる。
また、千日手にできる局面は、手数だけが伸びて局面には影響を及ぼさないため、4回に届かない間は持ち時間に追われる対局者の時間つなぎとして用いることも可能である。
千日手を巡る出来事
- かつてテンプレート:いつ、木村義雄は名人戦で千日手を回避し、それが元で敗北してしまった。観戦記者の坂口安吾はこれを厳しく批判し、「千日手を回避すると負けてしまう状況なら、勝負を重んじて千日手にするべきだ」と論じている。
- 第44期(1994年度)王将戦七番勝負最終局では、谷川浩司王将が羽生善治竜王・名人(六冠)を千日手指し直しの末に破り、羽生の七冠制覇を阻止した。
- 第15期(2002年度)竜王戦(羽生善治竜王対阿部隆七段)では、第1局で千日手2回となり、第1局の指し直し局を第2局の日程にずれ込ませる異例の措置が取られた。
- 第51期(2010年度)王位戦七番勝負では、第5局、第6局で、深浦康市王位対広瀬章人六段の対局で、いずれも相穴熊の状態から千日手が成立した。第5局指し直し局は両者穴熊に囲わない対局を広瀬が勝利。第6局指し直し局は、広瀬は振り飛車穴熊、あとがない深浦はテンプレート:要出典範囲(5局終わった時点で2勝3敗のうち、2敗は穴熊に囲って敗れている)銀冠に囲い、激しい攻め合いとなったが、この対局も広瀬が攻め合いを制し、初タイトル・王位を奪取した。
- 第61回NHK杯戦1回戦佐藤康光九段対永瀬拓矢四段(2011年6月5日放送)では同棋戦で史上初[2]となる2回連続千日手が発生し、再指し直し局で永瀬が勝利している(対局内容は最初は先手番永瀬の升田式石田流対後手番佐藤の居飛車での振飛車対抗形、指し直し局は先手番佐藤は、前局同様居飛車での対抗形対後手番永瀬はゴキゲン中飛車、再指し直し局は最初の対局同様先手番永瀬の升田式石田流対後手番佐藤の居飛車での振り飛車対抗形)。
- 2012年10月3日の王座戦第4局の渡辺明対羽生善治では、羽生が122手に6六銀を指した事により、局面が膠着。22時9分まで142手を指した所で千日手となった。22時39分〜深夜2時2分に行われた指し直し局で羽生善治が勝利。渡辺明は「最後は勝ちになったのかと思っていましたが△6六銀とはすごい手があるものです」と感想を述べた[3]。なお、千日手局・指し直し局合わせて2012年度の将棋大賞名局賞を受賞した。
チェスにおける千日手
チェスでは千日手は、スリーフォールド・レピティション (Threefold repetition、同形三復)と呼ばれている。相手の手で同一局面が3回生じたとき、または自分の次の手で同一局面が3回生じるときに引き分けとなる。ただし自動的に引き分けになるのではなく、自分の手番の時に指摘しなければならない。公式戦では、審判員(アービター)に申し立てる必要がある。
連続チェックの千日手は、特にパーペチュアル・チェック (perpetual check)と呼ばれている。終盤戦で不利な側がパーペチュアル・チェックで強制的に引き分けに持ち込むのは、チェスの基本戦術の一つである。一般的にパーペチュアル・チェックは、下図のようなクイーン・エンディングで登場する事が多い。
上図Aで、黒のキングが逃げられるマスはa7だけである。しかし次に白がQc7+(上図B)とすると、また黒キングはa8に戻らなければならない。この動き(図A→図B→図A→図B)は、白が手を変えない限り永遠に終わらない。動きを2回繰り返し、図Aが3度生じた時点で白が黒に指摘すれば、ゲームはスリーフォールド・レピティションとなり引き分けとなる。
その他のボードゲームにおける千日手
- シャンチー
- 連続王手の千日手(長将、チャンジャン)は禁じ手であり、王手をかけている方は3回同じ局面が出現するまでに手を変えなければならない。 その他の千日手は「一方が手を変えなければならない場合」と、引き分けになる場合(和棋、ホーチー)がある。
- チャンギ
- 同一局面が3回現れた場合はどんな場合も引き分けとなる。
- マークルック
- 引き分けとなる。ただし、連続王手の千日手は王手をかけている側が手を変えなければならない。
将棋系のゲームではないが、囲碁でも三コウや長生などによって同一局面が反復されることがあり、日本棋院の公式ルールでは対局者同士の合意によって引き分けとする。
脚注
出典
参考文献
関連項目
外部リンク
- 千日手考(もずいろ 風変わりな将棋の部屋)
- 記憶に残るあの千日手(同上)
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タグがありません- ↑ もずいろ 記憶に残るあの千日手による。同サイトは、この対局については『菅谷北斗星選集 観戦記篇』から情報を得たとしている。
- ↑ 同日の放送で、司会・聞き手の矢内理絵子談。
- ↑ 王座戦第4局。- 渡辺明ブログ