偽ディオニシウス・アレオパギタ

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偽ディオニシウス・アレオパギタ(ぎディオニシウス・アレオパギタ、Pseudo-Dionysius Areopagita)は、5世紀ごろの(おそらく)シリア神学者

『ディオニシオス文書』(Corpus Areopagiticum)といわれる一連の文書の著者と同定されている。この著者は一度『使徒行伝17:34』に現れたアテネの官員「アレオパゴスのディオニシオス」とされ、一連の著書も聖視されていたが、中世以降その文書の成立年代が特定され、著者の区別をつけるため、「偽」という名前をつけて呼ばれるようになった。

古典ギリシャ語読みで偽ディオニュシオス・ホ・アレオパギテース現代ギリシャ語読みで偽ディオニシオス・オ・アレオパギティスともいう。日本正教会ではディオニシイ・アレオパギト

概要

ディオニシウスの著作にはネオプラトニズムの強い影響がうかがえる。特に『ディオニシオス文書』の成立が5世紀以降であることを特定する原因となったプロクロスの著作の影響がみられる。他にもアレクサンドリアのクレメンスカッパドキア三教父オリゲネスなどの影響を受けている。

ディオニシウスは単性説と正統な教義を調和させることを目指した一連の神学者群のグループに属していたようである。彼の著作は5世紀以降現れ、初めは単性説論者によって引用されていたが、東方から始まって徐々に多くの神学者によって受け入れられていった。西方においてもエリウゲナ以降、中世においてさかんに注釈され、研究されたが、ルネッサンス時代に入ってはじめてその真性に疑問が持たれた。

12世紀の神学者ピエール・アベラールはエロイーズとの悲劇の後にベネディクト会に入会し、サン・ドニ修道院に入った。1120年ごろ、サベリウス主義を教えたという疑いで追放されていたが、やがて許され修道院に戻った。やがて戻ったアベラールは自らの修道院の名前の由来である聖人の事跡に疑問を抱くようになる。というのも当時は三人のディオニシウスなる人物が混同されていたのである。それは以下の三人である。

  1. 『使徒行伝』にあらわれ、パウロの説教によって改宗したという1世紀のアテネのディオニシオス
  2. 4世紀の宣教者、パリのディオニシウス
  3. 5世紀の『ディオニシオス文書』の著者。おそらくグルジア出身の神学者イベリアのペトルスと考えられる。

そのため、サン・ドニ修道院では自らの修道院の創設者パリのディオニシウスがアテネのディオニシオスと混同されて考えられていた。ディオニシオスというのはギリシャ人の名前としてはよくある名前であったため、このような混同が起きたのであろう。しかし、アベラールはこの論争のため再び物議をかもすことになる。

ディオニシオス文書群は『天上位階論』、『教会位階論』、『神名論』、『神秘神学』の四つの著作およびいくつかの書簡から成っている。文書の中では己自身の著作として『象徴神学』と『神学綱要』という名も挙げられているが、伝承はしておらず、初めから書かれていないという説もある。 サン・ドニ修道院ではシャルル2世から与えられたという『ディオニシオス文書』のギリシャ語版が継承されていた。これが9世紀に入ってエリウゲナの手でラテン語に翻訳されたのである。このエリウゲナによるラテン語版はヨーロッパで有名になり、特にその『天上位階論』(天使論)はよく知られた。

15世紀に入るとロレンツォ・ヴァラが『ディオニシオス文書』の成立が明らかに5世紀以降で、『使徒行伝』のアテネのディオニシオスとは無関係であることを証明した。しかしヴァラも本当の著者が誰であるかまでは解明できなかった。

偽ディオニシウスの思想

人間の魂がいかにして神に至るかをディオニシオスは終始問題にする。そしてその際決定的となるのが位階(ヒエラルキア)である。位階とは聖なる秩序であり、知識であり、活動である。位階は、到達の段階に応じて、神の姿に似たものになろうとし、神より注ぎ込まれた照明の段階(アナロギア)に応じつつ、神と類似のものに向かって高まってゆく。上の位階は下の位階に対して啓示となり、下の位階にある者は上の位階があることによって神の恵みを受け取ることができるという。

具体的に言えば位階には天使の位階と教会の位階がある。

天使の位階

『天上位階論』に語られるところによれば、天使の位階には三つの階級(父、子、聖霊に対応)があり、ひとつの階級に三つの段階がある。つまり天使の世界には合計九つの位階が存在する。

教会の位階

『教会位階論』によれば、教会の位階も天使の世界と同じく三つの階級とそのなかの三つ、合計九つの位階で構成される。その具体的な内容は、最も神に近い第一の階級が典礼、次の第二階級が聖職者、第三の階級が非聖職者となっている。

  • 香油(附膏、堅信)
  • 結合、聖餐(聖体)
  • 洗礼
  • 主教(司教)
  • 祭司(司祭)
  • 従僕(助祭)
  • 修道士
  • 受洗者
  • 受洗志願者

聖職者は彼の執行する典礼により信徒を神へと導く。これは神聖な力を上から下へと流すことである。いわばこの時位階は光の通路となっており、位階によって最高位のものと最低位のものが結ばれる。また、位階を神との合一との働きという観点から見れば、浄化、照明、完成という三つの段階がある。最高位の完成した者は他者をも完成に導き、中間位の者は上位より照明されつつ他者への照明となり、最下位の者は上位から浄化されるものとして他者を浄化する。

教会の秩序の理論的な支柱として『教会位階論』は大きな役割を果たした。

日本語訳

  • 『中世思想原典集成 (3)』上智大学中世思想研究所 平凡社
  • 『ギリシア教父の神秘主義 キリスト教神秘主義著作集 <1>』教文館

参考文献

  • 高橋亘 『西洋神秘主義思想の源流』 創文社
  • 木田元編 『哲学の古典101物語』 新書館
  • 金子晴勇 『キリスト教思想史入門』 日本基督教団出版局

関連項目

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