予算
予算(よさん)とは、ある一定の期間(例えば1年間や半年間など)に掛かる収入および支出についてあらかじめ見積もりを立てること、またその内容のことを言う。特に、国や地方公共団体等の政府の予算については、憲法・法律(財政法等)で定められている。
概説
予算の意義
政府、特にそれぞれの執行機関にあたる内閣や首長等の行政責任者にとって、予算は施政のために不可欠であり、行政責任者が実現させる政策は予算の数字となって反映され、予算無くしてはあらゆる政策も執行不可能である。このため、予算の承認は議会が政府の行政を統制する大きな手段であり、特に議院内閣制の議会においては、その否決は内閣の不信任を意味する。
- 統制的意義(民主的統制機能)
- 管理的意義(必要性の確認機能)
- 経済政策実現意義(経済的国家目標の表示機能)
予算原則
財政民主主義に基いた理想的な予算制度を実現するための原則。
- 公開性の原則
- 予算の内容は全ての国民・住民に公開されなければならない。
- 明瞭性の原則
- 予算の内容は明瞭でなければならないという原則。
- 事前議決・事前承認の原則
- 予算の執行は、国会・地方公共団体の議会で事前に議決を受けることを要するという原則。
- 限定性の原則
- 予算の執行は一定の期間において議決された予算の範囲内で執行しなければならない。
- 単一の原則
- 全ての収入・支出は1つの予算に計上され、特定の収入と特定の支出との間に特別の関係を作ってはならないという原則。
- 完全性の原則
- 予算には全ての収入と支出を計上するという原則。
- 厳密性の原則
- 予算の内容は可能な限り厳密に作成される必要があるという原則。
予算過程
予算の編成
- 事業別予算制度
- 行政目的の効果的な達成の観点から、事業目的に従い管理する。
- ゼロベース予算(ZBB(Zero-Base Budgeting))
- 全ての計画を、会計年度ごとに新規事業とみなしてゼロから査定する方式。
- 増分主義
- 承認された歳出項目に関して、「前年度比○%増の範囲」という方式で予算を組むこと。
- シーリング方式(概算要求基準)
- 財政規模抑制の必要性から採用され、予算全体としての規模を一定の基準におさめる方式。
- 計画事業予算制度((PPBS(Planning-Programming-Budgeting System))
- アメリカで費用便益分析の手法を導入し、政策に対して、効果を同一の基準で複数の代替的な政策の効果を比較測定し、それに基づき予算の削減・増額を決定する方式。
- サンセット(時限)方式
- 全ての予算項目を例外なく時限措置とし、必要性が認められた支出だけ継続される方式。
裁量予算制度(行政需要予算制度)
航空/陸上運送量や隣国の軍事力等、客観的・統計的基準によって各行政部局の担当する行政サービス需要の前年対比伸長率を算定し、それを元に各行政部局への予算配分枠を決定し、部局予算枠内で内部留保と各部局の裁量権を許容する制度を言う。
実際問題として各部局への配分予算枠は歳出化経費を割り込む事はできないので、歳出化経費予算と新規事業予算を分け、基準年度歳出化経費と行政需要伸長率に基いて当該年度の歳出化経費枠ガイドラインを定め、行政需要が縮小して歳出化経費がガイドラインを超過している部局については、超過額に応じた法定率での人員削減や耐用年数延長を行い削減した上で超過を認め、残額を新規事業予算として基準年度新規事業費と行政需要伸長率に応じて各部局に配分する事になる。
- 長所
- 予算配分が財務部局の裁量ではなく、客観的・統計基準によってなされるため、既得権益や政治圧力の影響が弱まり、必要な部局に予算を重点配分できる。
- 現行予算制度では各部局が節約しても内部留保が認められず、却って次年度より予算が減らされるので各部局側で節約動機が働きにくいが、内部留保が認められることによって各部局の節約意欲が高まる。
- 行政需要縮小部局での人員削減が自動的になされる。
- 問題点
- 財務部局の裁量権縮小に繋がるので財務部局の協力を得るのが困難
- 各部局会計(特会)の赤字が全体予算の歳出化経費化すると、有効性を減じる。
- 行政需要算定基準策定や、同基準策定の有識者委員会人選で公平性の確保が問題。
複数年度予算制度
複数年度で予算を策定し、各部局が単年度で使い残した予算を当該部局の次年度の新規事業に充当する事を認める制度である。
- 長所
- 内部留保が認められる事により各部局で節約動機が働く。耐用年数見直しと併用すれば、同額予算で多くの新規事業が可能になる。
- 裁量予算制度(行政需要予算制度)に比べれば、財務部局の予算認否権が残存する分だけ財務部局等の協力が得られる可能性がある。
- 問題点
- 各省庁間の予算配分が固定化・既得権益化している現状は変えられない。例えば周辺国の軍拡に応じて防衛予算への配分を増やす事が実際上不可能な一方、必要性の疑わしいダム等は作られ続ける。
- 行政需要縮小部局の人員削減が政治問題化して進まない
- 各部局(特会)の赤字が全体予算の歳出化経費化すると、有効性を減じる。
- 単年度予算制度より作成に手間が掛かり、特に財務部局の負担が大きく、人員増強が必要。
- 財務部局の予算作成の負担が激増する。
予算の審議
通常、国家予算の審議は立法府によって行われる。 テンプレート:節stub
予算の議決
通常、国家予算の議決は立法府によって行われる。 テンプレート:節stub
予算の執行
通常、国家予算の執行は行政府によって行われる。 テンプレート:節stub
日本の国家予算(現行制度)
概要
予算の内容
予算は、予算総則、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為とする(財政法第16条)。
予算の法的性格
現行法下での予算の法的性格について学説は分かれている。
予算行政説、予算承認説:旧通説
- 国会は内閣の予算支出に事前に承認を与えているものとする。
- 根拠-
- 内閣の権限の強化
- 批判-
- 「財政立憲主義に反する」
- 国会の修正権
- 国会による増額修正-可能
- 国会による減額修正-不可能
予算法律説
- 予算は法律形式で制定されるべきであるとする。
- 根拠-
- 「財政立憲主義の強化」
- 批判-
- 日本国の憲法では法律と予算の規定に差異が認められる。
- 国会の修正権
- 国会による増額修正-可能
- 国会による減額修正-可能
予算法形式説、予算法規範説、予算国法形式説:通説
- 予算は、「財政立憲主義」の趣旨から、法律と異なる特殊の国法の一形式とする。
- 根拠-
- 批判-
- 予算と法律の不一致が生ずる
- 国会の修正権
- 国会による増額修正-可能
- 国会による減額修正-可能
会計区分
予算の期間(会計年度)は、基本的に4月1日~翌年の3月31日である。
単一予算主義に基き、全ての歳入や歳出は単位の会計において処理するのが原則である(一般会計予算)。例外的に独立した会計を有するものとして、特別会計予算と政府関係機関予算がある。
予算の種類
単年度予算の種類は以下の通り。
予算の編成
内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。(憲法86条)
予算を国会に提出する権利は、内閣にあり(憲法73条第5号)、財務省が各省庁と協議の上作成し、閣議決定された後、1月中に国会に提出される(財政法第27条)。
予算の審議
予算は、衆議院に先に提出しなければならない(日本国憲法第60条第1項)。
予算の議決
衆議院の優越
参議院で衆議院と異なった議決をした場合に両院協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が衆議院の可決した予算を受け取った後に国会休会中の期間を除いて30日以内に議決しないときは、衆議院の議決が国会の議決となる(日本国憲法第60条第2項)。 つまり、衆議院で予算が議決されてしまえば、参議院の審議が終了しなくとも30日後には自動的に成立する。予算が3月初めに衆議院を通過してしまえば、暫定予算を策定する必要もないので、政府と与党にとっては予算の衆議院通過が重要視される。
予算と予算案
一般的には、「法律案→可決→法律」の例に倣い国会議決前の状態を予算案と、議決後のものを予算と呼ぶことが多いが、法律上は、議決の前後にかかわらず「予算」という。国会の審議においても、「一般会計予算ほか2案」のように議案の単位としては「案」を用いるが個別の題名は議決前でも「予算」と呼び「案」は付さない。
これは
のに対し、
- 内閣は予算を作成し、国会の審議を受け議決を経なければならない。(憲法86条)
との規定となっていることによる。
予算の執行
予算が成立したときは、内閣は、国会の議決したところに従い、各省各庁の長に対し、その執行の責に任ずべき歳入歳出予算、継続費及び国庫債務負担行為を配賦する(財政法第31条)。
法律
- 財政法(昭和22年3月31日法律第34号)
- 2 前項の規定により歳入歳出予算及び継続費を配賦する場合においては、項を目に区分しなければならない。
- 予算決算及び会計令(昭和22年4月30日勅令第165号)
- 第14条 歳入歳出予算、継続費及び国庫債務負担行為の部局等の区分、歳入予算の部款項目並びに歳出予算及び継続費の項の区分は、財務大臣がこれを定める。
- 2 歳出予算及び継続費の目の区分及び各目の細分は、各省各庁の長が財務大臣に協議して、これを定める。
備考
予算科目
予算については部局・予算の性質などにより項目(予算科目)が設けられる。
よくある誤解
日本の国家予算は、一般会計の歳出(2008年度83.1兆円)だけを国家予算と呼ぶ場合があるが、これは誤りであり、特別会計も加えて、一般会計・特別会計で重複する部分を除外した数値が日本の全ての歳出となる。
その他
テンプレート:Main 戦後、特に旧大蔵省時代は政府予算案の公開とともに、予算総額の数字の並びを用いて、旧大蔵省が語呂合わせを発表するのが恒例行事であった。好印象の言い回しで希望的な意味合いを持たせ、予算の広報と話題作りを狙ったものである。さらに、このニュースに合わせて報道機関各社が別途独自に語呂合わせを作ることもある。こちらの場合は、皮肉を込めたものが多い。現在でも、地方自治体のなかには、予算決定とともに語呂合わせを発表する所がある。
日本の地方予算
地方公共団体の予算の考え方については、国の予算とほぼ同じである。
- この節で、地方自治法は条数のみ記載する。
概要
- 総計予算主義
- 予算の提案等
- 長は、毎会計年度予算を調製し、年度開始前に、議会の議決を経なければならない。この場合において、長は、遅くとも年度開始前、都道府県及び指定都市にあつては30日、その他の市及び町村にあつては20日までに当該予算を説明書と共に議会に提出するようにしなければならない(211条)。
- 議会は、予算について、増額してこれを議決することが出来るが、長の予算の提出の権限を侵すことはできない(97条2項)。
- 予算を議会に提出する権限は、地方公共団体の長に専属し、議会及び他の執行機関(教育委員会、選挙管理委員会などの委員会)は、予算の提案権はない。
- 地方公営企業については、公営企業の管理者が予算原案を作成し、地方公共団体の長が予算を調製し、議会に提案する(地方公営企業法第24条)。
- 予算の内容(215条)
- 事故繰越し
- 歳出予算の経費の金額のうち、年度内に支出負担行為をし、避けがたい事故のため年度内に支出を終わらなかつた経費で、翌年度に繰り越して使用するもの(220条3項)。
予算の執行
- 歳入予算の執行には、調定、納入の通知、収納の3段階がある。また、調定と納入の通知とを併せて、徴収ともいう。なお、歳入予算の執行は、予算に拘束されない(つまり、歳入予算として計上された額より多く収入することが許される)点で、歳出予算と異なる。
- 調定 - 地方公共団体が、当該歳入について、所属年度、歳入科目、納入すべき金額、納入義務者等を誤っていないかどうか、その他法令又は契約に違反する事実がないかどうかを調査して、納入すべき金額等を決定することをいう。
- 納入の通知 - 納入義務者に、納入すべき金額等を通知することをいう。その際には、所属年度、歳入科目、納入すべき金額、納期限、納入場所及び納入の請求の事由を記載した納入通知書によって行うこととされる。
- 収納 - 地方公共団体の会計管理者が、納入義務者から金銭を受け取って、地方公共団体のものとすることをいう。
- 歳出予算の執行には、支出負担行為、支出命令、支払の3段階がある。なお、歳出予算の執行は、予算に拘束される(つまり、歳出予算として計上された額より多く支出することを許されない)。
- 支出負担行為 - 支出の原因となるべき契約その他の行為をいう。この行為が、法令に違反するようなもの、予算より多額のものであってはならない。
- 支出命令 - 地方公共団体の長が、会計管理者に対し、支出を命令することをいう。この命令がなければ、会計管理者は、支出をすることはできない。また、会計管理者は、当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認したうえでなければ、支出をすることができない。
- 支出 - 会計管理者が、契約その他の行為の相手方に、金銭を手渡したり、小切手を交付したりすることをいう。
- 普通地方公共団体の長は、特別会計のうちその事業の経費を主として当該事業の経営に伴う収入をもつて充てるもので条例で定めるものについて、業務量の増加により業務のため直接必要な経費に不足を生じたときは、当該業務量の増加により増加する収入に相当する金額を当該経費に使用することができる。この場合においては、普通地方公共団体の長は、次の会議においてその旨を議会に報告しなければならない(218条4項)。
日本の国家予算(旧憲法下)
以下、第二次世界大戦前、特に大日本帝国憲法下における日本の予算について述べる。
概要
沿革
明治6年、大蔵大輔井上馨、大蔵省出仕渋沢栄一が財政制度改革建議書を提出したのに対して、大蔵省事務総裁大隈重信が歳入出見込会計表を公表したが、これが日本の予算の最初であるとされる。 明治14年に会計法が制定され、22年に憲法が発布されるなどして、予算制度が確立した。
種類
収入支出の総括的協賛主義がとられ、したがって収支はまとめて協賛を求める。
予算としては、総予算、特別予算、追加予算があり、総予算とは一般会計の予算である。 予算分割主義が行われ、後に国庫統一主義が採られた。 特別予算とは特別会計の予算で、その目的は次の通りであり、
- 植民地財政独立のため。例えば、台湾総督府特別会計、朝鮮特別会計など。
- 鉄道その他の官業、大学、社会政策などの特別施設のため。例えば、帝国鉄道、専売局、帝国大学、官立大学、健康保険など。
- 各種の基金整理のため。例えば、大蔵省預金部、国債整理基金など。
追加予算とは他の予算の協賛の後またはその審議中に追加として提出される。
純計予算または予算の純計とは、国の全ての予算を総合したものであるが、しかし総予算、特別予算、追加予算の合計が直ちに予算の純計にはならない。 例えば、一般会計から朝鮮特別会計に補助金が支給されるが、この金額は双方の会計の収入および支出の欄に現れるから、両会計の金額を機械的に合計すると、重複が起こる。 このような重複を控除して計算されるのが予算の純計である。
会計期間
会計期間は1箇年(4月1日から翌年3月31日まで)である。 ただし、戦時に限り、臨時軍事費の特別会計に限り、閉戦までを1会計期間とし、日清戦争のとき1年10か月間、日露戦争のとき3年4か月間、日独戦争のとき7年9か月間である。
予算組織
予算は歳出と歳入に、それぞれがさらに経常部と臨時部に区分される。 歳出は各省予算に区分される。 皇室費は別項目であり、また内閣費、帝国議会費は大蔵省所管に編入される。 歳入は大蔵省が統轄し、各省は雑収入を取り扱う。 歳入は省別されない。
予算は款、項、目、節に区分される。 一例を挙げると次のとおり。
- 文部省歳出経常部
- 第一款 文部本省<
- 第一項 俸給
- 第一目 勅任俸給
- 第一節 大臣
- 第二節 政務次官
- 等々
- 第二目 奏任俸給
- 等々
- 第一目 勅任俸給
- 第二項 事務費
- 第一項 俸給
- 第二款 気象台
- 第三款 緯度観測所
- 等々
- 第一款 文部本省<
帝国議会は款および項の金額について議定する。 款および項を議決項目または法律科目と言い、予算の執行にあたって款と款、項と項との間の金額の流用は禁止されている。
目、節の金額の流用は許可されている。 上の例で言えば奏任俸給の金額を減じてこれを勅任俸給に流用してもよいが、事務費を減じてこれを俸給に流用することは許可されていない。
予算の編成
総予算は、各省から歳出概算書および歳入概算書が作成され、これらが大蔵大臣に送付される。 うち歳入のは主として大蔵省が作るが、過去3箇年の実収の平均を求め、これに増減の傾向率が加味されて推算される。 うち歳出のは各省で作られるが、諸般の理由から各省からは多額の要求が行われることが多く、大蔵大臣は全ての省の要求を認容することは不可能であるから、査定によって各省からの要求額を削減して収支の均衡を図り、歳入歳出概算書を作成し閣議に提出し、確定されて、各省において改めてこの決定を基礎として歳入は歳入予定計算書、歳出は予定経費費要求書をそれぞれ作成し、大蔵大臣に提出する。
これは前年の9月30日までに提出するべきであることとなっているが、実際は2ヶ月余、遅れる。 大蔵大臣はこれをまとめて歳入予算明細書および歳入歳出総予算を作って、閣議に提出し、決定の上議会に提出する。
特別会計は歳入歳出予定計算書に基いて、大蔵大臣は直ちに各特別会計の予算を作成する。
予算の審議
予算提出権は政府のみが有する。 議会は、希望する予算を政府が提出するよう建議するのにとどまる。 議会では政府提出の予算案について数字だけでなく政府の政策について審議する。 議会は予算の削減をすることができるが、増加する権能は無い。
議会の協賛を要しない経費
- 皇室費 ただし増額の場合、協賛を必要とする。
- 継続費 あらかじめ年限を定めて協賛を求める。その後は各年度の相当割当高をその年度の予算に編入する。これについてはいちいち毎年協賛を要しない。
政府の同意無くして議会が廃除または削減し得ない経費
- 憲法上の大権に基づく既定の歳出 例えば文武官の俸給その他。
- 法律の結果による歳出 例えば帝国議会費その他。
- 法律上政府の義務に属する歳出 例えば公債元利金の支払その他。
予算外の国庫負担となるべき契約
予算外の国庫負担となるべき契約については政府はあらかじめ議会の協賛を必要とする。 例えば会社に政府が利益保証の契約をする場合その他である。
予算の議決
国家の歳出歳入は毎年予算をもって帝国議会の協賛を経ることとなっていた(大日本帝国憲法第64条1項)。 他の議案とは異なって予算について衆議院は先議権を有する(大日本帝国憲法第65条1項)。 衆議院を通過した予算は貴族院で議定される。 貴族院が、衆議院を通過した予算をそのまま承認する場合に、両院の意見の一致となり、上奏裁可を経て予算案は確定予算となる。 この協賛を経た予算を成立予算または決定予算という。 貴族院、衆議院両院の意見が不一致であるときは両院協議会が開かれ、協議会の案の全体を一括して、まず衆議院で可否を問い、可決したときは貴族院に回付する。 この際いずれもその案の全体について可否を決するのであり、一部修正あるいは一部承認は許されない。 両院の意見が不一致であるときは予算は不成立となる。 なお、衆議院では1891年の第一議会において、第六十七条関連の予算削減を審議する際には事前に政府の了解を得るとする趣旨の決議が採択されている、これは予算修正の範囲を衆議院自らが狭める一方で、合意された修正予算案は実質的には政府と衆議院による共同提案の形となり、貴族院における異論の提示を困難にすることになった。
総予算は成立し、特別予算または追加予算の一部が不成立であるときは問題が無いが、総予算が不成立となり、特別予算、追加予算が成立した場合、この成立予算が有効であるかどうか疑義があるとされた。 各個の予算は別個の法律案であり、予算の不可分の原則は各予算別々について行われるという形式的立場から、成立予算は全て有効であるという議論があって、これは大正3年(1914年)以降、日本で慣例として認められた。 しかし、特別予算および追加予算は総予算を基礎として運営されるのだから総予算が不成立であるにもかかわらず、他の予算が成立するのは事務の執行の上で不便が多いという実質的な立場から反対する議論がある。
予算が不成立である場合
両院の意見の不一致、議会の解散その他によって、予算が不成立である場合は前年度の予算が踏襲される(大日本帝国憲法第71条)。 この予算を成立予算に対して施行予算という。 この場合、既定の継続費に対してはその年度割当高について変更を加えることが認められている。 施行予算の範囲内で実際に施行するべき予算を標準予算または実行予算という。 実行予算という用語は、ほかに、議会を通過した決定予算があるにもかかわらず政府が行政上成立予算の範囲内で自制的に実行するために作る予算についても用いられる。 例えば浜口内閣の成立直後に井上蔵相が作った実行予算はこれである。
予算の執行
国庫金の取扱は収入機関として日本銀行の本支店、代理店、税務署、出納官吏その他があり、支出は各省大臣またはこれから委託代理を受けたものが行う。
国庫委託金制度が行われていたが、後に国庫金預金制度が行われ、日本銀行は国庫金を預金として取り扱い、これに利子を付すると共にこれを他に貸付運用することが認められる。
予算外の支出
予算に不足がある場合の処置は次のようなものがある。
- 第一予備金 予算金額を超過する支出の場合に使用する。
- 第二予備金 予算外の新事項の支出に充当する。
- 財政上の緊急処分 緊急の場合すなわち公共の安全を保持する必要のある場合、内外の情勢によって議会を召集することができないとき、憲法70条の規定によって勅令によって支出するのであり、議会の事後承諾を必要とする。
- 責任支出 (1)、(2)の予備金を支出し尽くしたときおよび緊急支出によることができないとき、予備金の延長として国庫剰余金を政府の責任で支出する。明治24年濃尾地震のとき250万円の国庫剰余金を支出して議会の事後承諾を求めたのが最初で、以来、慣例として認められる。政府から見ると便利な方法であるが、議会から見ると監督が困難となり、違法とする説がある。
- 一般会計所属の第一予備金は各省大臣が大蔵大臣の承認を得て支出する。
- 特別会計所属のもの、または植民地特別会計所属のものは所管大臣または植民地長官が支出し、大蔵大臣に通告する。
- 後者の場合、所管大臣から大蔵大臣に通告する。
- 第二予備金は各省大臣の要求により大蔵大臣から勅裁を経て支出する。
- いずれの場合でも予備金の支出は議会の事後承諾を必要とする。
予算の繰越および整理
実際3月31日までに歳出入を完了することは不可能であるため、会計法においては7月31日までを整理期間として、これまでにすべてを決済させることになっている。 ただし会計規則においては、行政各部における実際の取扱期間をなおいっそう短縮する。
予算外の収入
予算外の収入は、財政上の緊急処分、非常税の徴収、公債の募集その他によって、また過年度の歳入が現年度に入ることによって、起こることがある。 これらはいずれも現年度の歳入として取り扱われる。 ただし過払または誤払によってひとたび支出された金が返納される場合、すなわち支出済歳出の返納金はただちにその年度の歳入としないで、かつてこれを支払った経費の部に戻り入れる規定である。
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国では予算は法律として定められる。憲法の規定上、下院の先議が定められている他は通常の法律案と同様の手続きで審議される(支出権限法案という扱いとなる)。したがって大統領は提出権を持たないものの教書による勧告権および拒否権を有し、上院による法案可決も必須となる。