ハスター
ハスターもしくはハストゥル、ハストゥール(Hastur)は、アンブローズ・ビアスの著作やクトゥルフ神話などに登場する架空の存在の名称。作品によって、神、人、土地などを指す名称として用いられている。
目次
アンブローズ・ビアスの著作におけるハスター
アンブローズ・ビアスの著作においては、1891年に発表された短編『羊飼いのハイータ(原題:Haita the Shephered)』にハスターの名前が登場している。この作品におけるハスターは羊飼いたちの神であり、恵み深い神として描かれている[1]。
ロバート・W・チェンバースの著作におけるハスター
ロバート・W・チェンバースの著作においては、1895年に発表された短編集『黄衣の王(原題:The King in Yellow)』にハスターの名前が登場する。いくつかの短編にハスターの名前が登場しているが、その名称が具体的に何を指すかは不明である。アルデバランやヒアデスと並べて記されており、星あるいは都市の名前とする解釈がある[2]。また、短編『イスの令嬢(原題:The Demoiselle D'Ys)』には人間の鷹匠としてハスターの名前が登場している。
『黄衣の王』では、ビアスの作品からハスター以外にもいくつかの単語が取り入れられている。ビアスの『カルコサの住民(原題:An Inhabitant of Carcosa)』から取られた「カルコサ」「ハリ」といった単語が『黄衣の王』ではハスターと関連付けられている。
クトゥルフ神話におけるハスター
クトゥルフ神話において、ハスターは神の名前であり、旧支配者(グレート・オールド・ワン)と呼ばれる強大な力を持った存在の一員とされる。四大元素の「風(大気)」に結び付けられる。「名状しがたいもの(The Unspeakable One)」[3]、「名づけざられしもの(Him Who is not to be Named)」[3]、「邪悪の皇太子(Prince of Evil)」[4]とも呼ばれる。
ヨグ=ソトースの息子でシュブ=ニグラスの夫とされる[2]。四大元素の「水」に結び付けられるクトゥルフとは半兄弟とされるが、ハスターとクトゥルフは対立しているという[2]。また、ヴルトゥームもハスターの兄弟とされる[2]。
ハスターはしばしばおうし座にあるヒアデス星団およびアルデバランと関連付けられ、ヒアデス星団に存在する古代都市カルコサの近くにある「黒きハリ湖」に棲んでいる、あるいは幽閉されているとされる。また、プレアデス星団のセラエノ(ケラエノ)もハスターの支配下にあるという説がある[2]。
ハスターの姿がどのようなものであるかは、詳細は不明である。目に見えない力である[3]、触手に覆われた200フィート大の直立したトカゲである[3]、ハリ湖に棲むタコに似た巨大生物と関連している[5]、などの説がある。ハスターが人間に憑依した際には、犠牲者の体は膨らみ鱗のようなものに覆われ、手足から骨が無くなり流動体のように変形してしまった。これはハスターが去った後でも治る事はなかった。
化身
ハスターは本体とは別の姿(化身)として現れることがある。化身の中でもっともよく見られるとされているものが、黄衣の王である[6]。
眷属
ハスターは「風」の神性の首領とされる。「風」の神々には、イタカおよびロイガーとツァールが属している[7]。
その他に、バイアクヘーと呼ばれる有翼生物がハスターに仕えている。黄金の蜂蜜酒(Golden Mead)を飲み、石笛を吹き、ハスターの名を含んだ呪文を唱えることでバイアクヘーを召喚することができる。
また、ミ=ゴと呼ばれる雪男のような生物もハスターに仕えているとされる[7]。
設定の変遷
クトゥルフ神話へのハスターの登場は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが1930年に執筆した『闇に囁くもの(原題:The Whisperer in Darkness)』が最初である。同作品にはビアスやチェンバースの作品からの名称が積極的に取り入れられている。しかし、同作品ではハスターが何を指すかは明示されていなかった。
オーガスト・ダーレスがマーク・スコラーとの合作で『ウィアード・テールズ』1932年8月号で発表した『潜伏するもの(原題:The Lair of the Star-Spawn)』において、ハスターは初めて神として言及され、旧神に反逆してハリ湖に封印されたとの設定が追加された。同作品はハスターと同じく「風」に結び付けられるツァールおよびロイガーが初めて登場した作品でもある。
神話への本格的な登場は、ダーレスが『ウィアード・テールズ』1939年3月号で発表した『ハスターの帰還(原題:The Return of Hastur)』においてであり、同作品においてクトゥルフとの対立が設定され、作品終盤においてはクトゥルフと直接対峙する場面まで描かれた。
一方、同時期に『ウィアード・テールズ』に作品を発表していた作家ヒュー・B・ケイヴの作品でもハスターの名前が登場している。ケイヴが1934年に発表した『暗黒魔術の島(原題:The Isle of Dark Magic)』、1939年に発表した『臨終の看護(原題:The Death Watch)』においてハスターは「邪悪の皇太子」と呼ばれており、それらの作品では悪魔の類のように見える[2]。
ダーレスが1944年から1952年にかけて『ウィアード・テールズ』に発表した連作短編『永劫の探求(原題:The Trail of Cthulhu)』シリーズにおいては、ハスターがクトゥルフと対立しており、クトゥルフへの憎悪のために人類に手を貸すこともあるということが明確に述べられている。また、ハスターに仕えるバイアクヘーが登場したのも同シリーズである。一方、「風」の神性であるはずのイタカが同シリーズにおいてはハスターと敵対しており、設定に混乱が見られる[2]。
ハスターをヨグ=ソトースやシュブ=ニグラスと結びつけたのは、リン・カーターである。カーターが1976年に発表したZoth-Ommogにて、ハスター、クトゥルフおよびヴルトゥームがヨグ=ソトースの息子であるという設定が示されている。
チェンバースの作品に登場する『黄衣の王』をハスターの化身と設定したのは、ケイオシアム社から発売されているクトゥルフ神話TRPGである。同ゲームでは他にもいくつかのハスターの化身が設定されている。