「労働安全衛生法」の版間の差分
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労働安全衛生法(ろうどうあんぜんえいせいほう;昭和47年6月8日法律第57号)は、労働者の安全と衛生についての基準を定めた日本の法律である。
目次
構成
- 第1章:総則(第1条~第5条)
- 第2章:労働災害防止計画(第6条~第9条)
- 第3章:安全衛生管理体制(第10条~第19条の3)
- 第4章:労働者の危険又は健康障害を防止するための措置(第20条~第36条)
- 第5章:機械等及び有害物に関する規制(第37条~第58条)
- 第6章:労働者の就業に当たつての措置(第59条~第63条)
- 第7章:健康の保持増進のための措置(第64条~第71条)
- 第7章の2:快適な職場環境の形成のための措置(第71条の2~第71条の4)
- 第8章:免許等(第72条~第77条)
- 第9章:安全衛生改善計画等(第78条~第87条)
- 第10章:監督等(第88条~第100条)
- 第11章:雑則(第101条~第115条)
- 第12章:罰則(第115条の2~第123条)
- 附則
- 別表第一~別表第二十二
概説
本法は、労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成と促進を目的とする法律である(1条)。労働者の安全と衛生についてはかつては労働基準法に規定があったが、これらの規定を分離独立させて作られたのが本法である。したがって、本法と労働基準法とは一体としての関係に立つ。一方で、本法には労働基準法から修正・充実された点や新たに付加された特徴など、独自の内容も少なくない。
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない(3条1項)。機械、器具その他の設備を設計し、製造し、若しくは輸入する者、原材料を製造し、若しくは輸入する者又は建設物を建設し、若しくは設計する者は、これらの物の設計、製造、輸入又は建設に際して、これらの物が使用されることによる労働災害の発生の防止に資するように努めなければならない(3条2項)。建設工事の注文者等仕事を他人に請負わせる者は、施工方法、工期等について、安全で衛生的な作業の遂行をそこなうおそれのある条件を附さないように配慮しなければならない(3条3項)。事業者のみならず、設計者や注文者等についても一定の責務を課している。さらに、労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない(4条)。労働基準法が「最低基準の確保」を目的としているのに対し、本法は最低基準を確保するだけでなく、より進んで適切なレベルの職場環境を実現することを目指している。
2以上の建設業に属する事業の事業者が、一の場所において行われる当該事業の仕事を共同連帯して請負った場合においては、厚生労働省令で定めるところにより、そのうちの一人を代表者として定め、これを都道府県労働局長に届け出なければならない(5条1項)。届出がないときは、都道府県労働局長が代表者を指名する(5条2項)。複数の事業者が関わる現場では責任の所在があいまいになりがちであるため、事業者のうち一人の代表者のみをその事業の事業者とみなして本法に基づく義務を負わせるためである。
なお、本法には労働契約を直接規制する効力を持つ規定は存在しない。しかし労働者の安全・衛生に関する事項は労働条件の明示事項(労働基準法第15条)、就業規則の記載事項(労働基準法第89条)となっていて、その解釈基準については当然に本法が機能する。
前述のような条文との関係上、関連する法律や規則を含めると条文数は1500条を超える[1]。本法を主体に、労働安全衛生法施行令(施行令、令)で細かな部分を規定する。実際の仕様等は「労働安全衛生規則」(安衛則(あんえいそく))で決められる。参照の上確認が必要。
安全衛生管理体制に関する用語
(定義等)
- 労働災害(2条1項)
- 労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。
- 労働者(2条2項)
- 労働基準法第9条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。
- 事業者(2条3項)
- 事業を行う者で、労働者を使用するものをいう。その事業における経営主体のことをいい、会社などの法人については、法人の代表者個人ではなく、法人そのものをいう。したがって、労働基準法第10条でいう「使用者」とは必ずしも一致しない。
- 化学物質(2条3項の2)
- 元素及び化合物をいう。
(一般的な体制)
- 総括安全衛生管理者(10条)
- 事業者が、業種・規模に応じて事業場ごとに選任し、安全管理者、衛生管理者の指揮や労働者の安全、衛生または健康に関する業務の統括管理を行う。
- 安全管理者(11条)
- 一定の業種において、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに選任される。安全にかかる技術的事項の管理を職務とする。
- 衛生管理者(12条)
- 業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに選任される。衛生にかかる技術的事項の管理を職務とする。
- 安全衛生推進者・衛生推進者(12条の2)
- 常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場ごとに選任される。安全管理者を選任すべき業種には安全衛生推進者、衛生管理者のみを選任すればよい業種には衛生推進者が選任される。
- 産業医(13条)
- 業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに選任される。労働者の健康管理等を職務とする。
- 作業主任者(14条)
- 事業者が作業の種類により有資格者のうちから選任し、職務の分担、氏名を事業所内に周知させる。
- 安全委員会(17条)
- 一定の業種において、業種により常時50人または100人以上の労働者を使用する事業場ごとに設置される。労働者の危険防止に関する事項等を調査審議する。
- 衛生委員会(18条)
- 業種を問わず、業種により常時50人の労働者を使用する事業場ごとに設置される。労働者の健康障害に関する事項等を調査審議する。
- 安全衛生委員会(19条)
- 事業者は安全委員会及び衛生委員会を設けなければならないときには、それぞれに委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置することができる。
(建設業等における体制)
- 統括安全衛生責任者(15条)
- 特定元方事業者が、労働者50人以上(一定の仕事については30人以上)の事業場で選任し、事業場の総括管理を行う。
- 元方安全衛生管理者(15条の2)
- 特定元方事業者が、統括安全衛生責任者を選任した場合に、統括安全衛生責任者を技術的管理面で支援する。
- 店社安全衛生管理者(15条の3)
- 特定元方事業者が、統括安全衛生責任者を選任しない労働者20人以上の事業場で選任し、安全衛生管理を行う者に指導等を行う。
- 安全衛生責任者(16条)
- 下請負業者が選任し、統括安全衛生責任者との連絡、関係者への連絡、当該請負人の管理等を行う。
事業者等の講ずべき措置
- 事業者の責務(23条、28条の2、65条、68条、69条)
- 事業者は、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉塵等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等を調査し、その結果に基づいて、本法又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。
- 事業者は、労働者を就業させる建設物その他の作業場について、通路、床面、階段等の保全並びに換気、採光、照明、保温、防湿、休養、避難及び清潔に必要な措置その他労働者の健康、風紀及び生命の保持のため必要な措置を講じなければならない。
- 事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない。
- 事業者は、次のいずれかに該当する労働者については、あらかじめ産業医その他専門の医師の意見を聴いて、その就業を禁止しなければならない。
- 病毒伝播のおそれのある伝染性の疾病にかかった者(伝染予防の措置をした場合を除く)
- 心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかった者
- 事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない。
- 元方事業者の責務(29条、29条の2)
- 元方事業者は、関係請負人及び関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、本法又はこれに基づく命令の規定に違反しないよう必要な指導を行なわなければならない。これらに違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行なわなければならない。
- 建設業に属する事業の元方事業者は、土砂等が崩壊するおそれのある場所、機械等が転倒するおそれのある場所その他の厚生労働省令で定める場所において関係請負人の労働者が当該事業の仕事の作業を行うときは、当該関係請負人が講ずべき当該場所に係る危険を防止するための措置が適正に講ぜられるように、技術上の指導その他の必要な措置を講じなければならない。
- 特定元方事業者の責務(30条、30条の2)
- 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため、次の事項に関する必要な措置を講じなければならない。統括安全衛生責任者を選任した特定元方事業者は、その者に次の事項を統括管理させなければならない。
- 協議組織の設置及び運営を行うこと。
- 作業間の連絡及び調整を行うこと。
- 作業場所を巡視すること。
- 関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に対する指導及び援助を行うこと。
- 関係請負人の労働者に対して特定元方事業者が直接、安全衛生教育を行う義務はない。
- 建設業の特定元方事業者にあっては、仕事の工程に関する計画及び作業場所における機械、設備等の配置に関する計画を作成するとともに、当該機械、設備等を使用する作業に関し関係請負人がこの法律又はこれに基づく命令の規定に基づき講ずべき措置についての指導を行うこと。
- 前各号に掲げるもののほか、当該労働災害を防止するため必要な事項。
- 製造業(特定事業を除く)の元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため、作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置その他必要な措置を講じなければならない。
- 注文者の責務(31条、31条の2、31条の4)
- 注文者は、その請負人に対し、当該仕事に関し、その指示に従って当該請負人の労働者を労働させたならば、本法又はこれに基づく命令の規定に違反することとなる指示をしてはならない。化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物を製造し、又は取り扱う設備で政令で定めるものの改造その他の厚生労働省令で定める作業に係る仕事の注文者は、当該物について、当該仕事に係る請負人の労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
- 特定事業の仕事を自ら行う注文者は、建設物、設備又は原材料を、当該仕事を行う場所においてその請負人(当該仕事が数次の請負契約によって行われるときは、当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む。)の労働者に使用させるときは、当該建設物等について、当該労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
- 機械等貸与者の責務(33条)
- 機械等で、政令で定めるもの(移動式クレーン、車両系建設機械等)を他の事業者に貸与する者(機械等貸与者)は、当該機械等の貸与を受けた事業者の事業場における当該機械等による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。機械等貸与者から機械等の貸与を受けた者は、当該機械等を操作する者がその使用する労働者でないときは、当該機械等の操作による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
- 建築物貸与者の責務(34条)
- 建築物で、政令で定めるもの(事務所又は工場の用に供されるもの)を他の事業者に貸与する者(建築物貸与者)は、当該建築物の貸与を受けた事業者の事業に係る当該建築物による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。ただし、当該建築物の全部を一の事業者に貸与するときは、この限りでない。
機械等
特定機械等
特に危険な作業を必要とする機械等(特定機械等)を製造しようとする者は、あらかじめ都道府県労働局長の許可を受けなければならない(37条)。「特定機械等」とは、以下の物である(別表第一)。
- ボイラー(小型ボイラーを除く)
- 第1種圧力容器(小型圧力容器等を除く)
- クレーン(つり上げ荷重3トン以上(スタッカー式クレーンにあっては1トン以上))
- 移動式クレーン(つり上げ荷重3トン以上)
- デリック(つり上げ荷重2トン以上)
- エレベーター(積載荷重1トン以上(簡易リフト及び建設用リフトを除く))
- 建設用リフト(ガイドレールの高さが18メートル以上(積載荷重が250キロ未満の物を除く))
- ゴンドラ
太字の特定機械等については、製造・輸入・再設置・再使用時に登録製造時等検査機関による製造時等検査を受けなければならない(38条1項)。この検査に合格すると、移動式の物については検査証が交付される(39条1項)。
特定機械等を設置(移動式の物を除く)したとき、特定機械等の主要構造部分に変更を加えたとき、特定機械等(建設用リフトを除く)で使用を休止したものを再び使用しようとするときには、労働基準監督署長の検査を受けなければならない(38条3項)。この検査に合格した場合、検査証の交付又は既に交付されている検査証に裏書が行われる(39条2項、3項)。
検査証の有効期間の更新を受けようとする者は、登録性能検査機関が行う性能検査を受けなければならない(41条2項)。なお、建設用リフトについては、検査証の有効期間が設置から廃止までとされるため、性能検査は行われない。
検査証を受けていない特定機械等は、使用してはならず、また検査証とともにするのでなければ譲渡・貸与してはならない(40条)。
42条機械等
特定機械等以外の機械等で、危険若しくは有害な作業を必要とするもの、危険な場所において使用するもの又は危険若しくは健康障害を防止するため使用するもの(42条機械等)は、厚生労働大臣が定める規格又は安全装置(規格等)を具備しなければ、譲渡し、貸与し、又は設置してはならない(42条)。「42条機械等」とは以下の物である(別表第二)。
- ゴム、ゴム化合物又は合成樹脂を練るロール機及びその急停止装置(電気的制動方式の物、電気的制動方式以外の制動方式の物)
- 第2種圧力容器
- 小型ボイラー
- 小型圧力容器
- プレス機械又はシャーの安全装置
- 防爆構造電気機械器具
- クレーン又は移動式クレーンの過負荷防止装置
- 防じんマスク
- 防毒マスク
- 木材加工用丸のこ盤及びその反発予防装置又は歯の接触予防装置(可動式の物)
- 動力により駆動されるプレス機械(スライドによる危険を防止するための機構を有するもの)
- 交流アーク溶接機用自動電撃防止装置
- 絶縁用保護具
- 絶縁用防具
- 保護帽
太字の物を製造・輸入した者は、登録個別検定機関が行う個別検定(機械等を個々に検定する)を受けなければならない(44条)。この検定に合格した機械等には、その旨の表示(個別検定合格標章を付す、刻印を押す、刻印を押した銘板を取り付ける等)を付さなければならない。斜体の物を製造・輸入した者は、登録型式検定機関が行う型式検定(サンプル抽出したものを検定する)を受けなければならない(44条の2)。この検定に合格した機械等には、当該機械等の見やすい場所に型式検定合格標章を付さなければならない。
これらの表示が付されていない機械等は、使用してはならない。また、厚生労働大臣又は都道府県労働局長が、42条機械等を製造・輸入した者が、規格等を具備していない、検定に合格していない機械に合格した旨の表示がされている等と認められるものを譲渡・貸与した場合に、その者に対し当該機械等の回収・改善を図ることその他必要な措置を取るよう命ずることができる。
危険物及び有害物
黄りんマッチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で、政令で定めるものは、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならない(55条)。ただし、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で、製造、輸入または使用について、あらかじめ所轄都道府県労働局長の許可を受け、厚生労働大臣が定める基準に従って製造、使用するときは、この限りでない。
ジクロルベンジジン、ジクロルベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずるおそれのある物で、政令で定めるものを製造しようとする者は、あらかじめ、厚生労働大臣の許可を受けなければならない(56条)。
爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は上記厚生労働大臣の許可を必要とする物を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあっては、その容器)に、所定事項(名称、成分、人体に及ぼす作用、貯蔵又は取扱い上の注意等)を表示しなければならない。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない。容器又は包装を用いないで譲渡し、又は提供する者は、所定事項を記載した文書を、譲渡し、又は提供する相手方に交付しなければならない(57条)。
化学物質による労働者の健康障害を防止するため、既存の化学物質として政令で定める化学物質以外の化学物質(新規化学物質)を製造し、又は輸入しようとする事業者は、あらかじめ、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣の定める基準に従って有害性の調査(当該新規化学物質が労働者の健康に与える影響についての調査)を行い、当該新規化学物質の名称、有害性の調査の結果その他の事項を厚生労働大臣に届け出なければならない(57条の3)。有害性の調査を行った事業者は、その結果に基づいて、当該新規化学物質による労働者の健康障害を防止するため必要な措置を速やかに講じなければならない。
安全のための教育
本法の精神を具体化するために、各事業活動において必要な資格を有する業務を免許や技能講習、安全衛生教育といった形で取得することを義務付けている。
安全衛生教育
以下の教育(安全衛生教育)時間は、労働基準法上の労働時間として扱われるので、教育が法定労働時間外に実施された場合は、事業者は割増賃金を当該労働者に支払わなければならない。なお、事業者は、教育科目・教育事項の全部又は一部に関し十分な知識及び技能を有していると認められる労働者については、当該科目・事項についての教育を省略することができる。
- 雇い入れ時・作業内容変更時の教育
事業者は、労働者(常時・臨時・日雇を問わない)を雇い入れたとき・労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対し、遅滞なく、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない(59条1項・2項)。具体的には以下の項目である。ただし労働安全衛生法施行令第2条(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場)において「その他の業種」とされている事業場の労働者については、1~4については省略することができる。派遣労働者については、雇い入れ時の教育は派遣元の事業者が、作業内容変更時の教育は派遣元及び派遣先の事業者が行わなければならない。
- 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること。
- 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること。
- 作業手順に関すること。
- 作業開始時の点検に関すること。
- 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること。
- 整理、整頓及び清潔の保持に関すること。
- 事故時等における応急措置及び退避に関すること。
- 前各号に掲げるもののほか、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項。
- 特別教育
事業者は、危険又は有害な業務(労働安全衛生規則第36条に定める51業務)に労働者をつかせるときは、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない(59条3項)。事業者は、特別教育を行なったときは、当該特別教育の受講者、科目等の記録を作成して、これを3年間保存しておかなければならない。特別教育を社外で行う場合の講習会費・講習旅費については、事業者が負担しなければならない。派遣労働者については、派遣先の事業者が行わなければならない。
- 職長教育
職長#職長教育を参照(60条)。
技能講習
事業者は、クレーンの運転その他の業務で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の当該業務に係る免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う当該業務に係る技能講習を修了した者その他厚生労働省令で定める資格を有する者でなければ、当該業務に就かせてはならない。この有資格者が当該業務に従事するときは、これに係る免許証その他その資格を証する書面を携帯していなければならない(61条)。
技能講習は、登録講習機関により、学科講習又は実技講習によって行い、当該技能講習を修了した者に対しては遅滞なく、技能講習修了証を交付しなければならない(76条)。
作業環境測定
作業環境測定とは、作業環境の実態を把握するため空気環境その他の作業環境について行うデザイン、サンプリング及び分析(解析を含む。)をいう。(2条4項)
事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働大臣の定める作業環境測定基準に従って、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない(65条)。都道府県労働局長は、作業環境の改善により労働者の健康を保持する必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、作業環境測定の実施その他必要な事項を指示することができる。
事業者は、厚生労働大臣の定める作業環境測定基準に従って行う作業環境測定の結果の評価に基づいて、労働者の健康を保持するため必要があると認められるときは、施設又は設備の設置又は整備、健康診断の実施その他の適切な措置を講じなければならない(65条の2)。事業者は、作業環境測定の結果の評価を行ったときは、その結果を記録しておかなければならない。
対象作業場と記録保存期間は以下のとおりである。
- 粉塵を著しく発散する屋内作業場については7年間。
- 特定化学物質を製造し、もしくは取扱う屋内作業場又は石綿等を取扱い、若しくは試験研究のため製造する屋内作業場等については、3年間。但し、ベリリウム等は30年間、石綿等は40年間。
- 有機溶剤を製造し、又は取扱う屋内作業場、鉛業務を行う屋内作業場については、3年間。
監督機関等
労働者は、事業場に本法又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。事業者は、申告したことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(97条)。 違反した事業者は6月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる(119条1項)。
労働基準監督官は、本法を施行するため必要があると認めるときは、事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿、書類その他の物件を検査し、若しくは作業環境測定を行い、又は検査に必要な限度において無償で製品、原材料若しくは器具を収去することができる。ただし、この立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。医師である労働基準監督官は、68条(病者の就業禁止)の疾病にかかった疑いのある労働者の検診を行なうことができる(91条1項、2項、4項)。労働基準監督官は、本法の規定に違反する罪について、刑事訴訟法の規定による司法警察員の職務を行なう(92条)。
- 監督官の交付する是正勧告書・指導票は行政指導であり、法的な強制力はない。しかしそれゆえ、行政不服審査法、行政事件訴訟法により争うことはできない。また指摘されている以上、それを繰り返し是正しない場合や、あまりにも悪質だと判断された場合は、書類送検される可能性もある。実際には、例え行政指導だとしても、従わざるを得ない。
都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、危害防止措置基準に違反する事実があるときは、その違反した事業者、注文者、機械等貸与者又は建築物貸与者に対し、作業の全部又は一部の停止、建設物等の全部又は一部の使用の停止又は変更その他労働災害を防止するため必要な事項を命ずることができる(98条1項)。労働基準監督官は、労働者に急迫した危険があるときは、98条1項の権限を即時に行うことができる(98条3項)。危害防止措置基準に違反する事実がない場合においても、労働災害発生の急迫した危険があり、かつ、緊急の必要があるときは、必要な限度において、事業者に対し、作業の全部又は一部の一時停止、建設物等の全部又は一部の使用の一時停止その他当該労働災害を防止するため必要な応急の措置を講ずることを命ずることができる(99条)。
- 労働基準監督署長が交付する使用停止等命令書は行政処分であり、当然に法的強制力がある。ただしそれゆえ、命令内容に不服があれば、行政不服審査法・行政事件訴訟法により争うことはできる。命令に従わない場合は、6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる。
事業者は、本法及びこれに基づく命令の要旨を常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けることその他の厚生労働省令で定める方法により、労働者に周知させなければならない(101条)。
報告
厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる(100条)。
- 事業者は、一定の事故が発生した場合には、遅滞なく、事故報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない(規則96条)。
- 当該事故によって労働者が負傷等したか否かを問わず、提出しなければならない。
- 事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、労働者死傷病報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない(規則97条)。
- 当該死傷病が労働災害に該当したか否かを問わず、提出しなければならない。
- 休業の日数が4日未満の場合は、1月~3月、4月~6月、7月~9月、10月~12月の各期間における最後の月の翌月末までに提出すれば足りる。
- 事業者は、労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う作業場において、労働者を当該物のガス、蒸気又は粉じんにばく露するおそれのある作業に従事させたときは、厚生労働大臣の定めるところにより、当該物のばく露の防止に関し必要な事項について、翌年1月~3月までの間に有害物ばく露作業報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない(規則95条の6)。
関連文献・記事
脚注
関連項目
- 健康診断
- 安全衛生改善計画
- 禁止物質
- 日本の免許一覧
- 日本の資格一覧
- 技能講習による資格一覧
- 特別教育による資格一覧
- 労働安全衛生法による免許証
- 労働安全衛生法による技能講習修了証明書
- 化学品の分類および表示に関する世界調和システム
- 化学物質安全性データシート
- 船員法 - 本法律と並立する、船舶における安全衛生を規定する法律
外部リンク
テンプレート:就業- ↑ 労働安全衛生関係法令集 平成23年度版