健康診断

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健康診断けんこうしんだん)とは、診察および各種の検査で健康状態を評価することで健康の維持や疾患予防・早期発見に役立てるものである。健診健康診査とも呼ばれる。

概要

学校や職場、地方公共団体で行われるなど『法令により実施が義務付けられている』ものと、受診者の意思で『任意に』行われるものがある。任意に行われる健康診断は診断書の発行を目的とした一般的評価のことが多いが、全身的に詳細な検査を行い多種の疾患の早期発見を目的としたサービスも広く普及しており、船舶オーバーホール施設になぞらえて人間ドックと呼ばれる。

危険物・特定の化学物質などを扱う職業の従事者はそれに応じた健康診断を定期的に受けることが義務づけられており、この健康診断は重大な職業病の発生を未然に防ぐことが目的という点で一般的なものとはやや性格を異にする。

なお、特定の疾患の発見を目的としたものは検診(たとえばがん検診)とよばれる。

健診5項目

厚生科学研究班が一般向けに作成したガイドライン(Minds医療情報サービス)に受診すべき健診5項目と対象疾患について解説がある。

  1. 喫煙に関する問診(対象疾患:喫煙行為)
  2. 身長体重(対象疾患:肥満、その結果として生じる疾患)
  3. 血中脂質(対象疾患:脂質異常症)
  4. 血圧(対象疾患:高血圧症、高血圧症に続発する疾患)
  5. 空腹時血糖・グリコヘモグロビンHbA1c(対象疾患:糖尿病)

種類

労働者

テンプレート:Ambox 労働者の健康診断は、労働安全衛生法第66条以下および労働安全衛生規則[1]によって定められている。

一般健康診断

労働安全衛生規則44条に定める以下の11項目(一般項目)について行われる健康診断のことを一般健康診断という。派遣労働者については、派遣元が実施しなければならない。

  1. 既往歴、業務歴の調査
  2. 自覚症状、他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力、聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査、喀痰検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査
  7. 肝機能検査
  8. 血中脂質検査
  9. 血糖検査
  10. 尿検査
  11. 心電図検査

一般健康診断に含まれるのは、以下の健康診断である。

  • 雇入時健康診断(労働安全衛生規則第43条)

事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、一般項目(喀痰検査を除く)について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、3か月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については省略できる。

パートタイム労働者については、以下の1,2いずれにも該当する場合には、「常時使用する労働者」に該当する(定期健康診断、特定業務従事者の健康診断においても同様)。

  1. 1週間の所定労働時間が当該事業場の同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3以上であること
  2. 期間の定めのない労働契約により使用される者、又は有期労働契約により使用される者であって「当該有期労働契約の契約期間が1年(特定業務従事者は6か月)以上である者」「契約の更新により1年(特定業務従事者は6か月)以上使用されることが予定されている者及び1年(特定業務従事者は6か月)以上引き続き使用されている者」のいずれかに該当する者
  • 定期健康診断(労働安全衛生規則第44条)

事業者は、常時使用する労働者(特定業務従事者を除く)に対し、1年以内ごとに1回、定期に、一般項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、雇い入れ時の健康診断・海外派遣労働者の健康診断・特殊健康診断を受けた者については、当該健康診断の実施日から1年間に限り、その者が受けた当該健康診断の項目に相当する項目を省略できる。

以下の場合は、該当する検査項目を省略できる。

  1. 20歳以上の者については、身長の検査を省略できる。
  2. 40歳未満の者(35歳の者を除く)、妊娠中の女性等で腹囲が内臓脂肪の蓄積を反映していないと診断された者、BMIが所定値未満の者については、腹囲の検査を省略できる。
  3. 40歳未満の者(35歳の者を除く)については、貧血検査肝機能検査血中脂質検査血糖検査及び心電図検査を省略できる。
  4. 40歳未満の者(20歳、25歳、30歳及び35歳の者を除く。以下同じ。)で、以下のいずれにも該当しないものについては、医師が必要でないと認めるときは、胸部エックス線検査を省略することができる(平成22.1.25厚労告25号)。また、胸部エックス線検査を省略できるものについては、医師が必要でないと認めるときは、喀痰検査を省略することができる。
  • 特定業務従事者の健康診断(労働安全衛生規則第45条)

事業者は、特定業務に常時従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際及び6か月以内ごとに1回、定期に、一般項目について医師による健康診断を行わなければならない。この場合において、胸部エックス線検査、喀痰検査については、1年以内ごとに1回、定期に、行えば足りる。ただし、雇い入れ時の健康診断・海外派遣労働者の健康診断・特殊健康診断を受けた者については、当該健康診断の実施日から6か月間に限り、その者が受けた当該健康診断の項目に相当する項目を省略できる。

省略できる検査項目は胸部エックス線検査、喀痰検査を除き、定期健康診断と共通である。

「特定業務」とは、その業務に常時500人以上の労働者を従事させる場合に、産業医の専属が義務付けられる有害業務(労働安全衛生規則第13条2項)のことをいう。なお、産業医の選任義務のある事業場においては、事業者は、当該事業場の労働者の健康管理を担当する産業医に対して、健康診断の計画や実施上の注意等について助言を求めることが必要であるとされる(平成20.1.31公示7号)。

  • 海外派遣労働者の健康診断(労働安全衛生規則第45条の2)

事業者は、労働者を本邦外の地域に6か月以上派遣しようとするときは、あらかじめ、当該労働者に対し、一般項目及び以下の項目のうち医師が必要であると認める項目について、医師による健康診断を行わなければならない。事業者は、本邦外の地域に6か月以上派遣した労働者を本邦の地域内における業務に就かせるとき(一時的に就かせるときを除く。)は、当該労働者に対し、一般項目及び以下の項目のうち医師が必要であると認める項目について、医師による健康診断を行わなければならない。

  1. 腹部画像検査
  2. 血液中の尿酸の量の検査
  3. B型肝炎ウイルス抗体検査
  4. ABO式及びRh式の血液検査(派遣前のみ)
  5. 糞便塗抹検査(帰国後のみ)

派遣前の健康診断においては、雇い入れ時の健康診断・定期健康診断・特定業務者の健康診断・特殊健康診断を受けた者については、当該健康診断の実施日から6か月間に限り、その者が受けた当該健康診断の項目に相当する項目を省略できる。また派遣前・帰国後とも、医師が必要ないと認めるときは、20歳以上の者についての身長の検査と、胸部エックス線検査で病変の発見されなかった者についての喀痰検査は省略できる。

ビザの申請の際に、健康診断(またはその証明書)が必要とされる場合がある。

  • 給食従業員の健康診断(労働安全衛生規則第47条)

事業者は、事業に附属する食堂又は炊事場における給食の業務に従事する労働者に対し、その雇入れの際又は当該業務への配置替えの際検便による健康診断を行なわなければならない(事業者によっては一般健康診断に分類しないところもある)。

特殊健康診断

一定の有害業務に従事する労働者を対象として行う。派遣労働者については、派遣先が実施しなければならない。

  • 有害業務従事者の健康診断(労働安全衛生法第66条2項)

事業者は、一定の有害業務に従事する労働者に対し、その業務の区分に応じ、雇入れ又は当該業務への配置替えの際及びその後所定の期間以内ごとに1回、定期に、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。一定の有害業務に従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、労働者が常時従事していた業務の区分に応じ、6か月以内ごとに1回(一定項目については1年以内ごとに1回)、定期に、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。

  • 歯科医師による健康診断(労働安全衛生法第66条3項)

事業者は、歯又はその支持組織に有害なものを発散する場所における業務に常時従事する労働者に対し、その雇入れの際、当該業務への配置替えの際及び当該業務についた後6か月以内ごとに1回、定期に、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。

その他の健康診断等

一般健康診断、特殊健康診断のいずれにも属さないもの、及び医師による指導を取り上げる。

  • 臨時健康診断(労働安全衛生法第66条4項)

都道府県労働局長は、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、事業者に対し、臨時の健康診断の実施その他必要な事項を指示することができる。

事業場において特定の疾病が流行した場合や、有害物質が多量に流出した場合等が想定されている。

  • 深夜業従事者の自発的健康診断(労働安全衛生法第66条の2)

深夜業に従事する労働者であって、常時使用され、自ら受けた健康診断を受けた日前6か月を平均して1か月当たり4回以上深夜業に従事した者は、自ら受けた健康診断の結果を証明する書面を事業者に提出することができる。ただし、この書面の提出は、当該健康診断を受けた日から3か月以内にしなければならない。

提出すると、法定の健康診断としての扱いを受ける。

労働安全衛生法の規定による一般健康診断等のうち直近のもの(一次健康診断)において、血圧検査、血液検査その他業務上の事由による脳血管疾患及び心臓疾患の発生にかかわる身体の状態に関する検査であって、厚生労働省令で定めるもの(血圧測定、血中脂質検査、血糖検査、肥満度(腹囲の検査又はBMIの測定)の4項目)が行われた場合において、当該検査を受けた労働者がそのいずれの項目にも異常の所見があると診断されたときに、当該労働者(当該一次健康診断の結果その他の事情により既に脳血管疾患又は心臓疾患の症状を有すると認められるものを除く)に対し、その請求に基づいて行う。労災保険法における保険給付として行われる。

二次健康診断とは、脳血管及び心臓の状態を把握するために必要な検査であって厚生労働省令で定めるものを行う医師による健康診断(1年度につき1回に限る)をいう。特定保健指導とは、二次健康診断の結果に基づき、脳血管疾患及び心臓疾患の発生の予防を図るため、面接により行われる医師又は保健師による保健指導(二次健康診断ごとに1回に限る)をいう。二次健康診断の結果その他の事情により既に脳血管疾患又は心臓疾患の症状を有すると認められる労働者については、当該二次健康診断に係る特定保健指導は行われない。

二次健康診断及び特定保健指導は、社会復帰促進事業として設置された病院・診療所もしくは都道府県労働局長の指定する病院・診療所において行われる。これらを受けようとする者は、所定の事項を記載した請求書を、病院等を経由して所轄都道府県労働局長に提出しなければならない。また、これらの請求は、天災その他やむをえない事由があるときを除き、一次健康診断を受けた日から3か月以内に行わなければならない。

事業者は二次健康診断の対象となる労働者を把握し、当該労働者に対して二次健康診断の受診を勧奨するとともに、診断区分に関する医師の判定を受けた当該二次健康診断の結果を事業者に提出するよう働きかけることが適当であるとされる(平成20.1.31公示7号)。

二次健康診断等給付は、労働者が一次健康診断の結果を了知しうる日の翌日から起算して2年の時効にかかる。ただし給付の請求は一次健康診断を受けた日から3か月以内に行わなければならないことから、時効が問題となるのは特定保健指導を受ける場合に限られる。

事後措置

事業者は、上記の健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者については、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない(労働安全衛生法第66条の4)。この意見聴取は、原則として当該健康診断実施の日から3か月以内(自発的健康診断の場合は提出日から2か月以内)に行わなければならない。なお、健康診断において、その雇用する労働者が要再検査又は要精密検査と診断された場合であっても、当該再検査・精密検査の実施は特に有害物質等に係る規則で定められている場合を除き、一律には事業者にその実施が義務付けられているものではない(平成20.1.31公示7号)。

  • 就業場所変更等の措置(労働安全衛生法第66条の5)

医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。派遣労働者については、派遣元・派遣先双方が行わなければならない。

  • 保健指導(労働安全衛生法第66条の6、66条の7)

事業者は、健康診断を受けた労働者に対し、遅滞なくその結果を通知しなければならず、一般健康診断・自発的健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。派遣労働者については、派遣元が実施しなければならない。労働者は、通知された健康診断の結果及び保健指導を利用して、その健康の保持に努めるものとする。

その他の措置

  • 面接指導(労働安全衛生法第66条の8、第66条の9)

面接指導とは、問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。

事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者(月100時間超の残業により疲労の蓄積が認められる労働者。ただし算定期日前1月以内に面接指導を受けた労働者その他面接指導の必要がないと医師が認めた者を除く)に対し、当該労働者の申出により、医師による面接指導を行わなければならない。面接指導を行う労働者以外の労働者であって健康への配慮が必要なものについては、必要な措置を講ずるように努めなければならない。また面接指導が行われた後、遅滞なく当該医師から意見を聴かなければならない。派遣労働者については、派遣元が実施しなければならない。管理監督者(労働基準法第41条)等、労働時間等に係る規定の適用について特段の定めのある労働者については、労働者自らが「疲労の蓄積が認められる」と判断して申し出れば、面接指導を実施する。

医師は、面接指導により当該労働者の勤務の状況、疲労の蓄積の状況、及び心身の状況を確認する。事業者は、医師の意見他所定の事項を記載した面接指導の結果を作成し、これを5年間保存しなければならない。産業医は、所定の要件に該当する労働者に対し、面接指導の申出を行うよう勧奨することができる。

  • 離職後の健康診断(労働安全衛生法第67条、労働安全衛生規則第55条、第57条)

都道府県労働局長は、ガンその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務で、政令で定めるものに従事していた者のうち、厚生労働省令で定める要件に該当する者に対し、離職の際に又は離職の後に、当該業務に係る健康管理手帳を交付するものとする。政府は、健康管理手帳を所持している者に対する健康診断に関し、必要な措置を行なう。

都道府県労働局長は、健康管理手帳を交付するときは、交付を受ける者に対し、厚生労働大臣が定める健康診断を受けることを勧告するものとする。交付を受けた者は、勧告に係る健康診断を受けるときは、健康管理手帳を健康診断を行う医療機関に提出しなければならない。健康診断を行った医療機関は、その結果を健康管理手帳に記載しなければならず、また、遅滞なく報告書を都道府県労働局長に提出しなければならない。

健康管理手帳の交付を受けた者は、当該健康管理手帳を他人に譲渡し、又は貸与してはならない。

法的義務

健康診断の実施は事業者の義務であり(労働安全衛生法第66条1項)、使用者による健康診断の不実施は法違反となり、50万円以下の罰金に処せられる(労働安全衛生法第120条)。また、事業者の講ずる上記の措置は、労働安全衛生法に定める危険有害要因除去のための各種の措置とは異なり、その性質上労働者の努力なくしては予期した効果が期待できない。それゆえ事業者の実施する健康診断の受診は原則として労働者の義務であり(労働安全衛生法第66条5項)、労働者による健康診断の受診拒否は、就業規則等によって定める懲戒処分の対象となりうる(愛知県教委事件、最判平成13.4.26等)。

事業者は、健康診断の結果に基づき、健康診断個人票を作成して、以下の期間保存しなければならない(労働安全衛生規則第51条)。自発的健康診断の提出を受けた場合であっても、その提出された書面に基づいて、健康診断個人票を作成しなければならない。

  • 一般の労働者:5年間
  • ベンゼン等の特別管理物質の製造・取扱業務従事者に係るもの:30年間
  • 石綿の粉じん発散場所における業務等従事者に係るもの:40年間

常時50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断を行なったときは、遅滞なく、定期健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない(労働安全衛生規則第52条)。産業医が選任されている事業場においては、健康診断を産業医でなく健診機関が行った場合でも、報告書には産業医の記名押印がなされなければならない。

健康診断の実施費用を労使いずれが負担すべきかについて法律の定めはないが、法で事業者に健康診断の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものであるとされる(昭和47年9月18日、旧労働省労働基準局長名通達602号)。労働者へ費用負担を強いると、健康診断を受けない労働者が発生するおそれがあり、使用者の健康診断実施義務が果たせないからである。ただし、事業主が実施する健康診断を受けず、労働者本人の都合により各自で受ける場合には、本人負担としてもよく、実際には就業規則等で定めることになる。

受診時の賃金に際しては、特殊健康診断は、受診に要する時間が労働基準法上の労働時間と算定されるため(昭和47年9月18日、旧労働省労働基準局長名通達602号)、健診が法定労働時間外に行われた場合は割増賃金を支払わなければならない。一般健康診断については、受診に要した時間の賃金を支払うことが望ましいとされるが(昭和47年9月18日、旧労働省労働基準局長名通達602号)、当然には労働時間とはならないため、労使の協議により労働時間となるか否かを定めることになる。

規模の大きい事業者では、通常の勤務時間内に事業者指定の病院(事業者自身が経営する病院のこともある)や健診センターで一般定期健康診断を受診させることが多く、その間の時間は有給であるのが一般的である。規模が小さい事業者では、勤務時間外に各労働者が選択した病院等で一般定期健康診断を受けさせ、後日、その費用を会社が支給していることもある。この場合は受診時間は無給となる。

なお、50人未満の労働者を使用する事業場の事業者は、特定の要件を満たせば、健康診断の費用として小規模事業場産業保健活動支援促進助成金を受けることができる(新規の申込みの受付は停止中)。

学校

学校保健安全法により、毎学年6月30日までに(学校保健安全法施行規則第5条[2])健康診断を行うことが定められている(学校保健安全法11条~18条)。項目は学校保健安全法施行規則第6条[2]に定められている。

学校の幼児・児童・生徒・学生の健康診断(○=受診 △=省略可能 ×=省略)
幼稚園 小学校 中学校 高等学校高等専門学校 大学 備考
1年 2年 3年 4年 5年 6年 1年 2年 3年 1年 2年 3年 4年 5年 1年 2年以降
1 身長体重 胸囲1994年度まで
座高
2 栄養状態
3 脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無 脊柱検査など
4 視力
聴力
5 眼の疾病及び異常の有無
6 耳鼻咽頭疾患及び皮膚疾患の有無
7 及び口腔の疾病及び異常の有無
8 結核の有無 × × × 問診・胸部エツクス線検査・喀痰検査・聴診・打診など
9 心臓の疾病及び異常の有無(心電図検査以外) 心電図検査・臨床医学的検査など
心臓の疾病及び異常の有無(心電図検査)
10 尿(糖以外)
尿(糖)
11 寄生虫卵の有無
12 その他の疾病及び異常の有無
  • 以下の項目は各学校の任意で検査の項目に加えることができる

2003年度から色覚検査が削除されている。

就職活動などに健康診断証明書が必要とされるため、大きな大学ではその発行を迅速・正確に行うための自動発行機が普及しつつある。

就学時の健康診断に関しては学校保健安全法施行規則第3条[2]に定められている。詳細は就学時健康診断を参照。

なお、学校保健安全法では学校職員の健康診断についても定めている。毎年度始めから6月30日までの間に受診し、項目は学校保健安全法施行規則第13条[2]に定められており次の通りである。

学校職員の健康診断(○=受診 △=省略可能 ×=省略)
20歳未満 20-34歳 35歳 36-39歳 40歳以上
1 身長
体重
腹囲 ○(35歳未満及び36-39歳、妊娠中の女性その他であつて腹囲が内臓脂肪の蓄積を反映していないと診断されたもの、ボディマス指数が20未満である職員並びに自ら腹囲を測定し、その値を申告した職員(ボディマス指数が22未満である職員に限る)は△)
2 視力及び聴力
3 結核の有無 ○(20・25・30・35歳以外であつて感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行令第十二条第一項第一号 又はじん肺法 第八条第一項第一号 若しくは第三号 に掲げる者に該当しないものは△)
4 血圧
5 尿
6 胃の疾病及び異常の有無 △(妊娠中の女性は×) ○(妊娠中に女性は×)
7 貧血検査
8 肝機能検査
9 血中脂質検査
10 血糖検査
11 心電図検査
12 その他の疾病及び異常の有無

児童福祉施設

児童福祉施設の入所者に対し、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準[3]第12条により入所時及び少なくとも年2回の定期健康診断が学校保険安全法に準じて行われる。

家庭用

健康診断に出かける手間を省くため、または特定の項目について頻度の高い検査を行うため、家庭で簡単に健康診断を行うための検査キットが市販されている。また、検査キットを郵送することにより健康診断を行っている機関がある。次のような検査項目がある。

被爆者

原子爆弾による被爆者に対する健康診断として、毎年2回の定期健康診断と、年2回を限度とする希望による健康診断(うち1回はがん検診を受診可)がある。

病院

病院診療所において、各種の健康診断が行われている。一般的な健康状態評価および人間ドックサービスの他、労働安全衛生法で義務付けられている健康診断の振り替えとして行われる場合がある。

自治体

保健所では、健康診断の簡略なものとして老人保健法による基本健康診査(住民検診)を行っている。自治体によっては、健康診断受診奨励金や、交通手当を支給しているところもある。

また、乳幼児を対象とする乳幼児健康診査があり、受診の年齢(4か月、1歳6か月、3歳)や診察項目が決められている。

受診時の注意

  • 脱衣が必要な検査では厚着をせず、着脱しやすい衣服を着用する。
    • 検査項目によっては裸足になって検査の必要があるために靴下を脱いでおく必要があったり、心電図検査では足首にも電極を装着する関係で長ズボンを着用している場合はめくりあげておく必要がある。
    • 女性はニプレスなどが必要であれば貼り付けておく(検査項目によっはニプレスなどを貼り付けて受診できない場合もある)。
  • X線撮影では、上半身は無地の下着を着用し、金属類は身から外しておく。
  • 食事の摂取などの条件が指定されている場合には、それに従う。例えば、内視鏡検査の場合、米食ならば10時間、パン食ならば6時間以上の絶食が求められる。

問題点

検診の有効性の保証

健康診断の究極の目的は、対象者にできるだけ健康で長生きしてもらうことであり、つまりマクロで見れば対象の平均寿命の延長である。病気を早期発見でき早めに対処できるのは無条件に良いことと簡単に考えられがちであるが、実際には以下に挙げる様々な要因のため、健康診断はマクロ的に無効で資源の無駄であるばかりか、健康に逆効果となる可能性すらある。実施主体が多くの金銭的負担を抱えるものである以上、その有効性がコストに見合うだけのものであることは統計的、疫学的に証明されなければならないが、多くの場合はそれらの証明には非常に長い歳月を要するため、不十分なエビデンスや予想によって検診を行わざるを得ないこともある。このような点で論争を生じている代表例としてメタボリックシンドロームも参照。

  • 「健康診断による害」は、「健康診断による利益」よりも先に出現する。無症状の患者に対する採血内視鏡をはじめとする侵襲や放射線被曝によって、稀ながら合併症が生じる。また無症状の段階で病気を早期発見し、内服手術による治療を行えば、それによる合併症も一定の割合で生じる。たとえば肺癌CT検診については、あまりに小さな肺癌をCTで発見できても手術の合併症リスクが高すぎるとして、有効性を疑問視する意見がある。
  • 健康診断によって疾病を早く発見しても、5年生存率などの指標は上がるが、それが必ずしも最終目的である寿命を延ばしたことを意味しない。ステージI(早期・無症状)で切除すれば平均余命が5年、ステージIV(末期・症状出現)なら平均余命が1年、というがある場合、検診でステージIの患者をたくさん見つければ「この癌を持った患者全体の5年生存率」は確実に上昇する。しかし仮にこの癌が、放置してもステージIからIVまで進行して症状が出るのに平均4年かかるのだとすれば、実際には検診は全く寿命を延長しておらず、総合的には、単に患者に早期から不安と侵襲を与えただけになってしまう。見かけ上は癌の治療成績が良くなるので、これをリード・タイム・バイアス lead time biasと呼ぶ。前立腺癌PSA検診や乳癌検診などではこのような仕組みにより、寿命の延長に繋がらないのではないかという意見がある。
  • 極端な場合、寿命そのものにほとんど影響しない進行の遅い病気や、そもそも健康に悪影響のない疾患を誤って拾い上げて無用な治療を施し、却って害をなしてしまうことすらあり、前者をlength bias、後者をoverdiagnosis biasと呼ぶ。成人の甲状腺癌や新生児の神経芽細胞腫で実際にこのような事態が起こったため、現在これらの疾患において集団検診はなされていない。脳ドックによる動脈瘤の発見についてもこの種のバイアスが存在する可能性が指摘されている。

なお、この節で挙げた例はいずれも専門家でも意見の一致がないものや現在進行形で評価中のものが含まれており、検診が無効であると主張しているわけではないことに注意。テンプレート:要出典

その他の問題点

  • 定期健康診断の検査方法は、簡単、迅速を主旨としているので、健康状態の判定の目的に対して最良のものとは限らない。例えば、糖尿病の検査としては、定期健康診断等の項目である尿糖検査よりも、血糖検査の方が精度等の点で優れているとされる。
  • 大量の受診者に対応するので、場合によっては検査の精度が劣ったり、疾病を見落とす危険性が指摘されている。また、検査項目によっては受診しなかったり、受診頻度が少ないために、疾病の早期発見ができず、疾病が悪化してしまう危険性も指摘されている。
  • 学校で女子児童生徒などに脱衣して受診する際に、思春期以降の女子児童生徒などを中心に男子児童生徒などと同時に受診したり、男性の教師や医師に健康診断を担当されることで苦痛になると問題になることがある。
    • 思春期以降の女子児童生徒などに対しては、ニプレスなどを貼り付けて受診したり(検査項目によっはニプレスなどを貼り付けて受診できない場合もある)、視診・触診による脊柱検査では背中部分が細いブラジャー[4](ただし、初経の1年以上前を中心にノーブラの者が多い[5])を着用したまま検診し、心電図検査では上半身にタオルを掛ける[6]などの配慮がされることがある。
    • 体重測定時、以前は脱衣して測定することが多かったが、近年は着衣のまま体重測定が行われる(着衣の重量を差し引いて測定する)ことが多くなっている。
    • 1995年度以降、学校で胸囲の測定が廃止されたので、思春期を迎えた女子児童・生徒の胸(乳房)の発育を教諭が把握する機会が減少し、思春期のバスト形成期にノーブラだったり、大人用のブラジャーを着けてしまう問題が起きている[7][5]
  • 一部の企業において、義務付けられている社員への健康診断を実施しないケースが散見される。
  • 日本の無認可の外国人学校は日本の法律の対象外であり、健康診断が義務づけられていない。

事件

  • 2008年に、神奈川県相模原市労働者派遣会社が、請負社員に健康診断を受けさせなかった上、健康診断書を偽造して、結核患者をゼネコンの建設現場へ派遣し、その結果、結核の二次感染が発生していたことが発覚している[8]。この会社は、常習的にこうした行為を行っていた事実も明らかになっている。
  • 神戸市外郭団体の予防医学協会が2010年7月に実施した健康診断において、検査用試薬の配備を忘れて尿検査を実施しないまま、血液検査での検診結果を「正常」と捏造していた事実が判明している[9]

脚注

  1. 労働安全衛生規則
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 学校保健安全法施行規則
  3. 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準
  4. 静岡県医師会・学校脊柱検診(一次検診)の手引き
  5. 5.0 5.1 ワコール探検隊|「少女」から「おとな」へ約4年間で変化する成長期のバストブラジャー着乗率はstep1(初経の1年以上前)で31%、step2(初経の1年前後)で56%、step3(初経の1年後以降)で90%(大人用のブラジャー57%)
  6. [1]
  7. ワコール探検隊|実は…お母さんも自信がないはじめてのブラ
  8. 神奈川の業者、請負労働者の診断書偽造…結核2次感染招く 読売新聞 2008年12月29日
  9. 捏造:試験紙忘れ、健診記録を 神戸の予防医学協会、尿検査96人分「正常」 毎日新聞 2010年7月15日

関連項目