国家補償
国家補償(こっかほしょう)とは、国又は公共団体の行為に起因して生じた損害又は損失を、原因者としての国又は公共団体が填補することを指す、憲法学や行政法学上の用語である。国家補償というときの国家には、地方公共団体(日本でいう都道府県や市町村、都の特別区など)その他の地方政府も含めて論じられる。
国家の行為に起因して損害又は損失が生じた場合を扱う制度としては、大きく分けると、国家賠償と損失補償に分かれる。国家補償は、この二つの制度を包括してとらえる試みから生まれた概念であるが、この二つの制度にカバーできない領域(国家補償の谷間)も存在するため、それらの問題を含めた意味で国家補償という概念を使うこともある。
国家賠償
国家賠償(こっかばいしょう)とは、公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うにつき違法に加えた損害や、公の営造物の設置管理の瑕疵に基づく損害について、国又は公共団体が国家賠償法(昭和22年法律第125号)の規定に基づいて行う賠償のことである。
上記の場合において、その公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する(国家賠償法1条2項)。
国家賠償制度は、日本においても外国においても他の近代的法制度と比較して整備が遅れていたが、これには、「国家無答責の法理」や違法な行為は国家に帰属しないという法思想上の理由があった。明治憲法下においても、国家の私法行為に基づく損害については民法の不法行為の規定により国家が損害賠償責任を負うとされていたが、公権力の行使に伴う損害については民法の適用がなく、国家も官吏も損害賠償責任を負わないとされていた(国家無答責・官吏無答責の法理)。
しかし、日本国憲法第17条が公権力の行使による国又は公共団体の損害賠償責任を認めたため、国家無答責の法理は排斥されることになり、この規定を受けて国家賠償法が制定された。
損失補償
損失補償(そんしつほしょう)とは、適法な公権力の行使により加えられた財産上の特別の犠牲に対し、公平の見地から全体の負担において財産的補償をする制度であり、日本では憲法第29条(財産権)3項に基礎をもつという見解が一般的である。つまり、適法な公権力の行使により特定の者に何らかの犠牲が生じても、それは犠牲者において甘受すべきであるというのが法律上の大原則であるが、こうした犠牲が看過できないものであるときは、国民全体又は住民全体の負担(要するに、税金からの支出、国庫・地方公共団体の負担)において、その犠牲を補償するのである。
近代国家においては、損失補償も税金からの支出である以上、議会の意思に基づく、つまり法律に根拠のあるものでなければならず(法律が定められていなくても憲法29条3項に基づいて直接請求できる場合は存在する)、行政機関が恣意的に独断でなすことは許されない。このことが、逆に後述する国家補償の谷間が生まれる原因の一つともなる。
- 法律上の根拠
国家補償の谷間
国家賠償と損失補償のいずれかに割り切れない領域や、これらの制度ではカバーできない領域があることが指摘されている。例えば、公務員の行為が違法ではあるが無過失であるために国家賠償が認められない場合(予防接種を受けた者に未知の機序による重篤なショック症状が現れ、死亡に至った場合などが考えられる。)や、行為自体は正当であるとしても結果的に意図しなかった損失(補償する旨の法律が存在しないような損失)を加えてしまった場合である。法律で個別に対応している場合もあるが、法律に不備がある(法の欠缺(けんけつ))等の理由により解釈論で解決を迫られる場合もある。
なお、憲法40条に基づいて制定された刑事補償法(昭和25年法律第1号)による刑事補償は、このカテゴリーに属するとされている。