ローマ字かな変換
ローマ字かな変換(ローマじカナへんかん)とは、コンピュータへの日本語入力において、文章の読みを入力する方式の一つである。読みに対応するローマ字綴りをキーボード等から入力すると、かなに変換されて画面上に表示される。かな漢字変換の前段階として使用されるほか、一部の漢字直接入力(「風」など)でも利用されている。
訓令式・ヘボン式との相違
おおむね、訓令式・ヘボン式のどちらでも入力できるようになっている。ただし、ヘボン式における "tcha" 「っちゃ」などは使えないことが多い("ccha"と入力する)。また、ほとんどの場合、"mma" はヘボン式の「んま」ではなく「っま」になる(「ほんま」と入力しようとして"homma"と打つと、「ほっま」になる)。
発音ではなく文字に対応させるため、本来のローマ字綴りでは同じ綴りとなる「おう」("ou") と「おお」("oo")、「お」("o") と「を」("wo")、 「じ」("zi"または"ji")と「ぢ」("di") 、「じゃ」("zya") と「ぢゃ」("dya")、 などは区別しなければならない。「わ」「え」と発音する助詞の「は」「へ」は、文字に従って "ha", "he" と入力する。長音「ー」は "-"(マイナス、あるいはハイフン。日本語キーボードでは「ほ」が刻印されているキー) で入力する。
ほとんどのシステムでは、「ん」は "n", "n'" だけでなく "nn" でも入力できるようにしている。「ん」の次がn, y以外の子音字である場合は "n" 単独で「ん」となるが、「ん」を入力するのに常に "nn" と打鍵している人も少なくない。
ローマ字綴りでは規定されていない特殊音の入力方法も発達している。本来は子音を自由に使うが、ファ行の子音はFで統一されている。これのみ発音に対応させる。「ぁ」「ゅ」「っ」などの小書きする文字を単独で出す場合は、"x" や "l" を前置するのが一般的である(例: "a" → あ, "xa" → ぁ、"tsu" → つ, "xtsu" → っ)。外来語の表記でよく使われる「ティ・トゥ・デュ・ウォ」などは、一文字ずつ入力する"texi", "toxu", "dexyu", "uxo"だけでなく"thi", "twu", "dhu", "who"などでも入力できるようになっているシステムが多いものの、規則性がないうえにシステム間でも統一されていない。「ゐ」「ゑ」「ゎ」「ヵ」「ヶ」は入力できないシステムも一部にあり、入力できてもその方式は統一されていない("w(H)i", "w(H)e"が「ゐ」「ゑ」になるものと「うぃ」「うぇ」になるもの(外した)、また変換候補中に出てくるものとがある)。
- Windows標準のMS-IMEでは、「ゐ」「ゑ」は直入力不能("wi"や"we"と打って「うぃ」「うぇ」を出した後、変換をかけると「ゐ」「ゑ」が候補に出るぃ、ぇの入力が4つあるため。)。「ゎ」「ヵ」「ヶ」は"xwa"("lwa")、"xka"("lka")、"xke"("lke")で入力できる。
かな入力法との比較
ローマ字かな変換法は、かな入力(キーボードに刻印された仮名文字をそのまま打鍵する入力法)と比べて、以下のような長所・短所・指摘がある。
長所
- 覚えるべきキーの数はかな入力・英字入力の両者よりも少ないため、キー位置の学習は容易である。また、同時に大部分のアルファベットキー位置を覚えることができる
- ただし指運びはローマ字かな変換に特化したものである
- QWERTY配列を除くほとんどの配列は子音と母音が分離しているため比較的学習が容易である
- とくに子音の位置さえ分かれば、その子音を持つ行は簡単に見つけられる
- 比較的ホームポジションに近いキーだけで打てるので、指を大きく伸ばして打たなくても済む
- ほとんどのインプットメソッドでは、ローマ字かな変換のルールをカスタマイズすることができる。
- 撥音をシフトキー操作なし、または少ない打鍵数で入力出来る場合がある
- 拗音をシフトキー操作なし、または少ない打鍵数で入力出来る場合がある
- かな入力では清音の入力が一打鍵で済むのに対し濁音・半濁音の入力には二打鍵となり打鍵数が変化するが、ローマ字かな変換では清音・濁音・半濁音を同じ打鍵数で入力することができる
- かな直接入力不能な日本語非対応のキーボード(101キーボードなど)でも、ローマ字読みを打つことで、間接的にかな文字の入力が可能となる。
短所
- かな入力法では多くの場合1打鍵に対して1文字入力されるのに対し、ローマ字かな変換では1.5~3打鍵必要になる場合が多い。総じて打鍵数が増える
- 頻度の低い拗音綴りを含めて学習する場合、覚えるべき手順の数はかな入力と英字入力の両者を合わせた数よりも多いため、打鍵手順からかなを想起するための学習は、必ずしも容易とは言い切れない部分がある。
- ローマ字かな変換という名の通り「綴りをかなに変換する」方式であるため、文字入力の初心者向けには「ローマ字かな変換表」を用意しなければならない場合がある
- ローマ字かな変換を効率的に用いるためには拗音綴りを含めたかな変換表全域を覚える必要があり、これを怠ると出現頻度の低い拗音の綴りを思い出せずに入力作業を妨害される恐れがある
- かなローマ字変換には、訓令式とヘボン式が採用されているが、独自に拡張されている部分があり、ローマ字かな漢字変換システム毎に異なる部分がある。特に特殊な拗音においてその傾向が著しい。
- ローマ字かな変換表においては小書き文字である「ぁぃぅぇぉゃゅょっ」などの捨て仮名を単独で入力する方法が何ら示されていない場合がある。そのため、ユーザが捨て仮名の入力する方法があることを知らないままのことがある。
その他
主観的な問題として、以下の指摘がなされることがある
- 入力したい読みを頭の中でローマ字に変換してからタイプする必要があるため思考が中断される、もしくは頭の中の変換プロセスが消えてストレスなくローマ字かな変換ができるようになるまで習熟するにはかなりの練習が必要である
- かな入力では多くの場合1打鍵に対し1文字入力されるのに対し、ローマ字かな変換では打鍵数と入力文字数とが異なることが多いため、入力途中(仮名になる前)で修正しようとする場合何打鍵戻せばよいかが直感的にわからない
- 英文字を入力したい場合にも勝手にかな変換してしまうので、それを修正するのにストレスがある
- アルファベットと共通の配列を使用していると、欧文に慣れてくるにしたがって外来語を原語のつづりのままで入力しがち
- 例えば「システム」を入力するには「sisutemu」と打鍵する必要があり、「system」と打鍵して戸惑う、あるいは不便に思えることがある。
- かな入力法の支持者からは「日本語にはかな文字という優れた表音文字があるのに、なぜわざわざ外国の文字を使用しなければならないのか」という批判も存在する。
打鍵数が増えるという問題については、登場する頻度の高い文字列(二重母音、母音+ん、ヤ行母音など)を少ない打鍵数で入力できるようにする拡張がいくつか考案されている(キー配列のローマ字規則拡張型と左右分離型を参照)。
標準規格
ローマ字かな変換の方式は様々なものが試みられていたが、1980年代末にはどれもほぼ同じようなものになった。
JIS規格として、JIS X 4063:2000 「仮名漢字変換システムのための英字キー入力から仮名への変換方式」が2000年に制定されたが、2010年1月20日には廃止された。
Qwerty鍵盤を用いたローマ字入力 (JIS X 4063: 2000) についてはローマ字入力を参照のこと。