ベータ粒子
ベータ粒子(ベータりゅうし、テンプレート:Lang-en-short)は、放射線の一種で、その実体は電子または陽電子である。ベータ粒子の流れを、ベータ線と呼ぶ。普通「ベータ線」という場合は、負電荷を持った電子の流れを指す。
概要
原子核(中性子)がβ崩壊する際に高速で放出される電子、または陽電子のことをベータ粒子という。β-崩壊で発生するベータ粒子は負の電荷を持った電子、β+崩壊で発生するベータ粒子は正の電荷を持った陽電子である。なお、熱電子、光電効果により放出された電子など、中性子のβ崩壊以外の原因で放出された電子は、ベータ粒子とは呼ばれない。また、加速器によって加速された高速な電子は電子線と呼ばれる。
粒子としての性質は、電子または陽電子と全く同じフェルミ粒子であり、スピンや質量についてもそれに従う。β+崩壊で発生した陽電子と遮蔽物の電子が対消滅した際には消滅放射線と呼ばれる0.511MeVの光子が2個発生する。
飛程
β崩壊後、高速で放出されるベータ粒子の流れをベータ線という。ベータ線は、アルファ線や中性子線などと同じ粒子放射線の一種で、アルファ線と同じ電離放射線である。放出されてエネルギーを失うまでの移動距離(飛程)は、β崩壊時に受け取ったエネルギーを使い切るまでであるが、同じ放射性物質から放出されるベータ粒子であっても、常に同じエネルギーを受け取るとは限らず、ほぼ全ての場合において広いエネルギーの幅(連続エネルギースペクトル)を持つ。そのためベータ粒子の飛程を表すときは、放出される最大のエネルギーを持つベータ粒子の飛程とする。
ベータ粒子は電荷を持っているため、その移動過程で物質中の原子核や軌道電子と影響を及ぼしあう。ベータ粒子は電子そのものなので、電子と比べて非常に大きい質量を持つ原子核には影響をほとんど与えないが、ベータ粒子は原子核のクーロン場により大きな加速度を受け制動放射が発生する。
その一方、軌道電子には電離作用や励起作用を起こす。それによりベータ粒子もエネルギーを失うが、アルファ粒子の電離作用や励起作用と比べるとかなり小さく、一気にエネルギーを失うことはない。従って、アルファ粒子と比べてエネルギーを失うまでに長い距離を移動し広範囲に影響を及ぼす。下記の遮蔽対比図でアルファ粒子と比べて厚い板が必要なのはこのためである。
また、電離や励起を起こす際、斥力(電子)や引力(陽電子)の影響で運動の方向を曲げられるため、原子核や電子による影響でベータ粒子は直進できずに曲がりくねりながら進むことになる。
遮蔽
透過力は弱く、通常は数 mm のアルミ板や 1 cm 程度のプラスチック板で十分遮蔽できる。ただし、ベータ粒子が遮蔽物によって減速する際には制動放射によりX線が発生するため、その発生したX線についての遮蔽も必要となる。
遮蔽物に使われる物質の原子番号が大きくなるほど制動放射が強くなることから、ベータ線の遮蔽にはプラスティックなどの低原子番号の物質を使い、そこで発生したX線を鉛などの高原子番号の物質で遮蔽する、という二段構えの遮蔽を行う。
発見
1898年、ニュージーランド出身でイギリスの物理学者アーネスト・ラザフォードにより、天然ウランから2種類の放射線が出ていることを発見し、それぞれアルファ粒子、ベータ線と名付けた。ベータ線の正体である電子は1897年に、陽電子は1932年にそれぞれ発見された。
参考文献
- 多田順一郎 『わかりやすい放射線物理学』 オーム社 1997.12.20 ISBN4-274-13123-8
- 安斎育郎 『放射線と放射能』 ナツメ社 2007.2.14 ISBN978-4-8163-4255-4