NSシステム
NSシステム(Numerical Simulatorシステム)は航空宇宙技術研究所が研究用に構築した数値シミュレーション向けのスーパーコンピュータシステムである。第2世代以降の名称であるNWT(Numerical Wind Tunnel、数値風洞)としても知られる。
概要
同研究所のコンピュータを年代順に辿ると、1960年8月に、測定部の断面が2m×2mの大型遷音速風洞(YS-11には間に合わなかったという)のデータ処理のために導入されたバロースのDatatron 205、次いで1960年代中頃に導入されたHITAC 5020、5020Fが続く[1]。HITAC 5020(F)は1975年に撤去されたという[2]。
研究所では1960年代以来、風洞実験などの実験を数値計算によるシミュレーション「数値流体力学」でおこなう、数値シミュレーション技術の研究開発に取り組んで来た。1977年に、富士通のベクトル型スーパーコンピュータVPシリーズの原型であるFACOM 230-75 APU(アレイプロセッサの意)を導入しているが、同機は「日本スパコンの父」とも呼ばれる当研究所の三好甫と富士通が協力して建造したものである[3]。
NSの名が付くのは1987年、富士通に特別発注し開発・納入されたFACOM VP-400(FACOM#VPシリーズ)を中核とする第1期数値シミュレータNSI(Numerical Simulator I)からである。
並行して並列ベクトル機の研究開発が開始され、1993年には第2世代数値シミュレータNSIIとして、VPPシリーズがベースの、世界初の分散主記憶型ベクトルスーパーコンピュータ「NWT(Numerical Wind Tunnel、数値風洞)」が稼働を開始し、1993年11月と1994年11月~1995年11月のTOP500で世界一を記録した(その後、SR-2201・CP-PACSにより引き続き日本勢の世界一が続いた)。NSIIでは、100万格子点規模の粘性流計算を10分程度で行うことを可能としたが、それでも導入後3年目以降には稼働率90%という状態が続き、航空宇宙における計算需要を十分に満たせなくなった。NWTは、実用計算機としては数少ないGaAsトランジスタの使用例である。
第3世代数値シミュレータNSIIIは2002年に導入され、128個のCPUを搭載した「富士通PRIMEPOWER」14台を高速インターコネクトInfiniBandで接続することにより、従来システムと比較した演算性能は30倍以上(理論ピーク性能9.3TFLOPS)、主記憶容量は80倍以上(3.6TB)となった。
JAXA統合後、旧各組織の各コンピュータは、情報・計算工学(JEDI)センターによる運用となり、NSシステムは同センターの計算機運用・利用技術チームにより、JAXAスーパーコンピュータ(JSS)ネットワークに接続されて運用されている[4]。NSシステム他、調布航空宇宙センターの計算機は、計算能力的に同システムの主力となっている。
2009年には、クアッドコアCPU SPARC64 VIIを採用した富士通のテクニカルコンピューティングサーバFX1を高機能インターコネクトで3392台接続した新システム(理論ピーク性能135TFLOPS)が導入され、LINPACKベンチマークで110.6TFLOPS(実行効率91.19%)を記録した。これは2008年11月発表のTOP500リストで実行効率世界1位、実行性能日本1位、世界ランキング17位に相当する[5][6]。
脚注
- ↑ http://www.roguewave.jp/company/eNews/yomoyama/30.html
- ↑ http://homepage2.nifty.com/Miwa/7_F230-75/7_7.html#7.7%281%29
- ↑ http://homepage2.nifty.com/Miwa/7_F230-75/7_7.html
- ↑ http://stage.tksc.jaxa.jp/jedi/infla/team01.html
- ↑ JAXAの新スパコンが稼働,110.6TFLOPSを実現し「実行効率で世界1位」、日本経済新聞、2009年4月2日
- ↑ JAXAが新スパコンシステムを公開!富士通の「FX1」を採用、RBB Today、2009年4月2日