非常用炉心冷却装置

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非常用炉心冷却装置(ひじょうようろしんれいきゃくそうち、テンプレート:Enテンプレート:En緊急炉心冷却装置)は、水を冷却材として用いる原子炉炉心で冷却水の喪失が起こった場合に動作する工学的安全施設である。炉心に冷却水を注入することで水位を保ち核燃料を長期に渡って冷却し燃料棒の損壊を防止する。この作動は原子炉の停止を意味する。

概要

冷却材に水を使う動力炉では、炉心の熱密度が高いため、スクラムと呼ばれる制御棒の一斉挿入による原子炉の緊急停止を行なっても、運転状態直後の核燃料の持つ高いレベルの余熱[1][2]量に加えて、それに加算的に追加される崩壊熱によって原子炉圧力が上昇し、そのもたらす結果として炉心が破損・溶解する危険性がある。非常用炉心冷却装置は、炉心に繋がる配管系(原子炉系配管)の破断により低下した水位の回復をも含めて、予期せぬ原子炉緊急停止時に原子炉圧力容器への水の循環を利用して、炉心から外部へ熱を移動して炉心を冷却し破損を防止する。

機能

非常用炉心冷却装置は、炉心の水位を保ち炉心を冷却することによって原子炉圧力容器内を減圧するという機能を備えている。

例示

非常用炉心冷却装置は幾つかの系統より構成される。以下に例を示す。

従来型沸騰水型軽水炉の非常用炉心冷却装置[3]

高圧装置 テンプレート:Enとして

この進化型の原子炉隔離時冷却系もこの分類に含まれる。
単独で稼動させると水位が低下する。

低圧装置 テンプレート:Enとして

崩壊熱除去運転モードでテンプレート:En を稼動させて冷却材を循環。
炉圧低下後に稼動が可能になる。
改良型沸騰水型軽水炉

基本構成

以下に改良型沸騰水型軽水炉での基本構成に沿いつつ概要を示す。

低圧注水系

低圧注水系は、圧力制御プールのプール水や外部給水経路の水を低圧モードで炉心シュラウド外側に注水する。残留熱除去系の一部となる。所内電源と非常用ディーゼル発電機のバックアップを含む交流モーターポンプで駆動される。沸騰水型軽水炉における低圧炉心スプレイ系である。

高圧炉心注水系

高圧炉心注水系は、初期水源は復水貯蔵槽から、その後、最終水源には圧力制御プールからの水を高圧モードで炉心上部のノズルからシュラウド内側の燃料集合体に向けて注水する。所内電源と非常用ディーゼル発電機のバックアップを含む交流モーターポンプで駆動される。沸騰水型軽水炉においては高圧炉心スプレイ系と低圧炉心スプレイ系の多重構成となっている。

原子炉隔離時冷却系

本来の意味での原子炉隔離時冷却系とは、原子炉隔離時冷却を実現するために用意される装置のことである。これは炉の運転をシャットダウンする作業工程において、主蒸気隔離弁 テンプレート:En が閉鎖された直後にとられる最初の過程で、炉内部を高温高圧の運転状態から低圧注水が可能化する程度の状態へ移行させるために行われる継続的な作業である。

沸騰水型の原子炉でこの作業に使用される装置としては、

  1. 大気を最終ヒートシンク テンプレート:En として設定する型の非常用復水器と、
  2. 海水を最終ヒートシンクとして設定する型で、海水冷却系と自動減圧系と、蒸気タービン駆動の給水装置が連携して働く組み合わせのものの、2種類のものがある。

原子炉隔離時冷却系と一般に称されているものは、この蒸気タービン駆動の給水装置のことで、改良型沸騰水型軽水炉については以下のように理解されている。

主蒸気隔離弁が作動され原子炉が隔離・閉鎖された場合に、初期水源は復水貯蔵槽から、その後、最終水源には圧力制御プールからの水を炉心シュラウド外側に注水する。所内電源と非常用ディーゼル発電機による電力のすべてが失われた事態を考慮して、炉心の崩壊熱による蒸気を使用したタービンによってポンプは駆動される。常に待機状態に置かれ、非常時には30秒で定格回転速度に達する必要があり、暖機運転がなく湿度の高い蒸気にも対応するなど、厳しい条件での運転が求められるため、特殊なタービンが使用される。

非常用復水器

非常用復水器 テンプレート:En は、大気を最終ヒートシンクとして設定する型の、炉心隔離直後に使用される炉心冷却装置で、下位の諸システムに依存することなく、単独で冷却機能を実現する。

純水のプール中に通した配管によって熱交換させる仕組みで、圧力容器から導き出された蒸気を冷却凝縮し水にして再び圧力容器に重力で戻す装置で、初期の沸騰水型軽水炉(BWR2型、BWR3型の一部)に、非常用復水器が実装されている。

蒸気管を浸す、熱を受け取る側の非常用復水器の純水プールには、水の蒸発減少に対応した純水タンクからの給水装置が備えられているが、緊急時には流路切り替えによる消火系からの水供給のオプションも設定されていて、その場合ディーゼル駆動の消火ポンプがバックアップする。

福島第一原発の一号機では、冷却能力がとびぬけて大きな装置が2系統実装されていたことが仕様書の数値から読み取れる。

この装置の有利な点は、圧力容器からの熱移動先が格納容器サプレッションプール水ではないことから、格納容器温度圧力を上げずに隔離時炉心冷却が可能であるところ。

自動減圧系・主蒸気自動減圧系

自動減圧系は、主蒸気管に接続されている複数の蒸気逃がし弁 テンプレート:En と圧力抑制プール テンプレート:En 底部に至る蒸気配管によって構成される。(蒸気逃がし弁は手動で開けることも可能)

高圧注水系が健全に機能して原子炉水位を保持できるような条件下で、起動圧力設定値と作動保持時間設定値に従って自動作動するように構成されている。

自動減圧系が作動すると、蒸気逃がし弁より出た炉心冷却水の蒸気は圧力抑制プールへと導かれ凝縮し、原子炉圧力容器内の圧力を下げ、炉心から圧力抑制プール水への熱移動がなされる。

原子炉格納施設

原子力発電施設では、炉心と原子炉格納容器内部、冷却系の工学的安全施設である非常用炉心冷却装置とは別に、原子炉格納施設の機能として1次格納施設である原子炉格納容器と、2次格納施設である原子炉建屋のそれぞれに工学的安全施設を備えている。

非常用炉心冷却装置に関わる事象

スリーマイル島原子力発電所事故

テンプレート:Main

1979年3月28日にスリーマイル島原子力発電所で発生した原子力事故では、一次冷却系の冷却水が大量に消失する中作業員が誤った判断により非常用炉心冷却装置を停止してしまい、結果として炉心溶融を起こした。

関西電力美浜発電所2号機事故

テンプレート:Main 1991年2月9日に発生。日本国内で非常用炉心冷却装置が動作した初の事例である。

福島第一原子力発電所事故

テンプレート:Main 2011年3月に福島第一原子力発電所で発生した原子力事故では、同月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に起因して運転中の原子炉が全交流電源を喪失、冷却機能を喪失した結果、最終的にすべての炉で燃料棒の溶融が起こった。

また同発電所における非常用炉心冷却装置に関わる別の事象として、2007年12月3日に4号機の高圧炉心注水系が故障する事象があった[4]

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

参考文献

  • 神田誠、他著 『原子力プラント工学』 オーム社  2009年2月20日第1版第1刷発行 ISBN 9784274206603

外部リンク

  • ECCS 原子力百科事典
テンプレート:原子炉
  1. ATOMICA 軽水炉燃料の炉内挙動(通常時)「原子炉運転中の被覆管温度は約550Kから700Kである。」
  2. ATOMICA 燃料棒内温度分布(典型例)
  3. テンプレート:PDFlink The Nuclear Regulatory Commission, USA
  4. テンプレート:PDFlink 東京電力