油冷エンジン
油冷エンジン(ゆれいエンジン)とは、エンジンオイルを冷却媒体として積極的に活用するエンジンである。潤滑に必要とする以上の大量のエンジンオイルをシリンダーヘッドやピストンの裏に噴射して熱を奪い、大型のオイルクーラーなどを用いて放熱することにより冷却効果を得る。しかし基本的には空冷エンジンの派生的存在であり、明確に区別すべきかどうかは意見の分かれるところである。
解説
油冷システムとして特に有名なものにスズキのSACS(Suzuki Advanced Cooling System)が挙げられる。これはシリンダーヘッド内部にオイルを噴射するノズルとそのオイルを送るための通路が潤滑系とは別に設けられており、ここから燃焼室側へオイルを勢い良く吹き付けることにより熱境界層を破壊しつつ、効率的に冷却を行うものである。水冷エンジンのように別個独立した冷却装置を必要としないため、簡略かつ軽量に作れるのが利点。オイルによる冷却は全体の冷却量の50%以上を担っている。しかし、潤滑油は冷却水に比べて比熱が劣ることから、極限状態での油冷エンジンの冷却効率は水冷エンジンに劣る。
水冷システムが発達した現在ではあまり見られなくなってきたが、軽量さと冷却による効率とのバランスがとれる事から、オートバイの一部車種では、今でも油冷エンジンが採用されている。2010年1月現在においては、スズキ[1]とS&TモータースのV型2気筒および単気筒エンジンに油冷機構が用いられているが、環境問題の観点から水冷に劣ることが明確な多気筒エンジンについては、それが搭載されていたバンディット1200/S及びGSX1400が“油冷ファイナルエディション”という特別仕様車の発売をもって姿を消すことになった。
なおポルシェ・911の空冷モデルは、ドライサンプによる大量のエンジンオイルで燃焼室温度をコントロールしており、広義の意味で空油冷エンジンに該当すると言える。
BMWの“4バルブRシリーズ”は空冷エンジンであるが、排気ポート周辺に冷却専用のオイル通路を持ち、“オイルヘッド”と呼ばれている。
また、現代ではCB1100やスーパーカブ110など、空冷エンジンでありながらピストン裏にオイルを噴射するなど、積極的にオイルを冷却に利用しようとする動きが出ている。スズキが目指した軽量化とは異なり、主に環境対策と空冷を両立するための技術だが、油冷エンジン的なアプローチと言える。
脚注
- ↑ 一部の日本国外仕様の車両において現在もSACS機構が用いられているが、諸元では「空冷」と記されていることがある。 スズキの油冷エンジン(SACS)搭載モデルは大排気量車でGSX-R750/1100、GSF750/1200、BANDIT1200/1250、GS1200SS、INAZUMA1200、GSX1400などが挙げられる。