光行差
光行差(こうこうさ)(Aberration of light)とは、天体を観測する際に観測者が移動しているために、天体の位置が移動方向にずれて見えるとき、そのずれを指す用語である。
1728年、イギリスの天文学者ジェームズ・ブラッドリーが発見した。
解説
光行差は雨に例えて説明されることが多い。雨が垂直に降るなかを、たとえば自動車に乗って走り抜けると、雨は自分の方に斜めに向かってきたように感じる。つまりこの雨は斜め前方の空からやってきたように思えるのだが、実際は自分の現在いる位置の真上の空からやってきたのである。
これを光行差の話に当てはめてみる(ここでは観測者の移動方向に対して垂直な方向にある天体を考える)。天体の光が垂直に降る中を、観測者が走り抜けているので、天体の光は斜め前方の空から来たように(すなわち天体が斜め前方にあるように)見えるのだが、実際には天体は観測者の真上にあるのである。
一般に、観測者が速さvで移動しており、この移動方向に対して角度θの方向にある天体について考えると、この天体の光行差の角度aは
- <math>a = \frac {v \sin \theta}{c}</math>
という式で示される(cは光速度。本来は左辺はsin aであるべきだが、vに対してcが非常に大きく、aは微小角となるためsin aはaで近似できる)。
年周光行差
光速度は非常に大きいので、観測者もかなりの速度で移動しなければ光行差は観測にかからない。地球上では観測者をもっとも速く移動させるのは地球の公転であり、これによって起こる光行差を年周光行差(ねんしゅうこうこうさ)とよぶ。ブラッドリーが発見したのもこの年周光行差であり、地球が動いているとする地動説を支持する最初の直接証拠となった。
地球の公転速度は平均で約29.76km/sである。これを上の式に当てはめるとaは最大で20.49秒となる。公転面に対して垂直な天体は半径20.49秒の円を描く。公転面上、すなわち黄道上にある天体では40.98秒の距離を往復するように見える。その他の星は長軸40.98秒で、短軸は公転面からの角度に応じた長さの楕円を描くように見える。
日周光行差
もう一つ考えなければならないのが地球の自転による光行差である。赤道上での自転速度は0.465 km/sであり、これを式に当てはめると最大の光行差は0.32秒ほどになる(もちろん緯度の高い地点ほどこの値は小さくなる)。これを日周光行差(にっしゅうこうこうさ)という。観測者は常に東へ向かっているので、天体がそれに対して垂直な方向にあるとき、すなわち南中するときに日周光行差が最も大きくなる。
その他の光行差
この他、太陽系自体の運動によるものを永年光行差、太陽系内の天体について光が到達するまでの動きを補正値として加えたものを惑星光行差という。