トノト
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概要
アイヌ文化における祭事・カムイノミ、イチャルパなどで、トノトは神への供物として重要な役割を果たす。ピヤパ(稗)を原料にして醸造するのが本式だが、ムンチロ(粟)など他の穀物が使用される場合もある。
名前の由来
トノトというアイヌ語を直訳すれば、tono(殿)to(乳汁)となる。トノは日本語からの移入語であり、文字通りの松前藩などの殿様を始め、蝦夷地における有力な和人などを意味した。トノトとはそれらの人物より下賜された、乳汁のように白濁した飲み物、といった意味であると推測される。
醸造手順
静内地方における醸造手順を以下に記す。
- サケカラシントコ(醸造用の容器)を清める。
- 鍋に水を張り、稗を煮たたて粥に炊く。硬さは、上に僅かに重湯が浮く程度にする。
- 炊けた粥を広げて、人肌程度に冷ます。
- 稗と同量のカムタチ(麹)をほぐす。
- サケカラシントコの中で粥と麹を合わせて練る。
- 炉から熾き火を2かけら取り出し、アペフチ(火の女神)への祈りの言葉を述べつつサケカラシントコの中に入れる。これは、醸造の成功のため神の加護を願う儀礼である。
- サケカラシントコにござを巻きつけ、上部を縛る。
- 1週間から10日放置し、その後は時折攪拌する。
- 祭事の前日にござを解き、燠を取り出して炉に返す。
- このとき再びアペフチカムイに祈りをささげる。
- 別の容器(シントコ)を用意して上にざる(イチャリ)を乗せ、ここにもろみを入れて漉す。
参考文献
- 萩中美枝 他/著『聞き書アイヌの食事・日本の食生活全集48』(農文協,1992年)ISBN 4-540-92004-9