フリースタンディング環境
フリースタンディング環境(— かんきょう, freestanding environment)はC言語およびC++の実行環境の一種である。対義語はホスト環境 (hosted environment) 。ISO のC言語の仕様で規定されている。
目次
概要
ホスト環境では、標準Cライブラリによる実行時サポートがあるのに対して、フリースタンディング環境にはそのような物がなく、標準Cライブラリの大半が使えない。ただし、どちらであっても、オペレーティングシステム上で動作している場合は、オペレーティングシステムの機能を呼び出すことは出来る。
組み込みシステムでは、通常、特に実行環境を指定しない場合は、ホスト環境を対象にしていることが多いが、フリースタンディング環境を対象にすることも多い。μITRONはオペレーティングシステムの一種であるが、現実的にはフリースタンディング環境に分類される場合が多い。
制限
フリースタンディング環境では言語仕様に以下の制限を受ける。
- エントリーポイントはmain関数である必要はなく、関数の型および名称は処理系定義となる。GCC の場合、デフォルトは
void _start(void)
。 - 標準ライブラリの大部分がサポートされない。フリースタンディング環境でもサポートされる標準ライブラリを以下に挙げる。
例
この Hello world は GCC と Linux の組み合わせで動作する。gcc -ffreestanding -nostartfiles -static -o freestanding freestanding.c でコンパイルする。exit は各種終了処理を行う stdlib.h の関数のためフリースタンディング環境では使えないが、_exit は unistd.h で定義されたシステムコールを呼び出すだけの POSIX の関数のため GCC の Linux 用フリースタンディング環境でも使える。
#include <unistd.h>
void _start(void)
{
char msg[] = "Hello, world!\n";
write(1, msg, sizeof(msg));
_exit(0);
}
標準Cライブラリなし
類似概念として、コンパイラによっては標準Cライブラリなしでコンパイルすることも可能。例えば GCC の場合、-nostdlib を指定することにより、標準Cライブラリを使わなくなる。さらに制限は厳しくなる。フリースタンディング環境同様、終了処理すら行わないため、コンパイル結果を Linux で動作させる場合、エントリーポイントの最後などで OS のシステムコールの exit を呼び出してプロセスを殺す必要があり、フリースタンディング環境の場合は、GCC と Linux の組み合わせの場合、_exit(0) で終了させられるが、標準Cライブラリがないため、そのコードは OS と CPU 種別依存のアセンブラで書かないといけない。スタックに関しては、Linux の場合、execve システムコールがスタックを準備するため、スタックは正しく準備された状態でエントリーポイントが呼び出される。
例
この標準Cライブラリ未使用の Hello world は GCC, Linux, x86-64 の組み合わせで動作する。gcc -nostdlib -fno-builtin -static -o nostdlib nostdlib.c でコンパイルする。
static void write(long fd, const void *buf, unsigned long count)
{
__asm__ volatile (
"movq %0, %%rax \n\t"
"movq %1, %%rdi \n\t"
"movq %2, %%rsi \n\t"
"movq %3, %%rdx \n\t"
"syscall \n\t"
:
: "i" (1), "r" (fd), "r" (buf), "r" (count)
: "%rax", "%rdi", "%rsi", "%rdx");
}
static void _exit(long status)
{
__asm__ volatile (
"movq %0, %%rax \n\t"
"movq %1, %%rdi \n\t"
"syscall \n\t"
:
: "i" (60), "r" (status)
: "%rax", "%rdi");
}
void _start(void)
{
write(1, "Hello, world!\n", 14);
_exit(0);
}