沸騰水型原子炉
沸騰水型原子炉(ふっとうすいがたげんしろ、テンプレート:Lang-en-short)は、核燃料を用いた原子炉のうち、純度の高い水が減速材と一次冷却材を兼ねる軽水炉の一種である。
目次
概要
核分裂反応によって生じた熱エネルギーで軽水を沸騰させ、高温・高圧の蒸気として取り出す原子炉であり、発電炉として広く用いられている。炉心で取り出された汽水混合流の蒸気は汽水分離器、蒸気乾燥機を経てタービン発電機に送られ電力を生ずる。原子炉としては単純な構造ということもあり、日本国内で運転可能な原子炉の中では、最も多いタイプであるが、原子炉炉心に接触した水の蒸気を直接タービンに導くため、放射性物質に汚染されることにより、耐用年数終了時に放射性廃棄物が、加圧水型原子炉 (PWR) より多く発生し廃炉コストが嵩む可能性が高い。また、その汚染のため作業員の被曝量が加圧水型原子炉よりも多い[1]。
発電に利用された蒸気は放射能を帯びている為、蒸気を回収し再循環させるだけでなく、タービン建屋(たてや)など、これに関わる全ての系を堅牢に遮蔽することで、放射線が外部に漏れることを防いでいる。遮蔽の方法としては蒸気によるシールであるが、その蒸気は重油を燃焼させる事により発生させている。電気を利用して蒸気を発生させる場合もある。 外部からの核分裂反応の制御は主に制御棒や、冷却材流量の増減で行われ、冷却材喪失事故時には非常用炉心冷却装置 (ECCS) を動作させる。
日本における商用炉では、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、中国電力各社の全原子力発電所、および日本原子力発電の東海第二発電所と敦賀発電所の1号機(2号機は加圧水型)で、沸騰水型を採用している[2]。
戦後の技術導入の経緯から、東京電力は沸騰水型原子炉(BWR)を、関西電力は加圧水型原子炉(PWR)を、それぞれ原子力発電所の基本設計として採用し現在に至る。
BWRの自己制御性
BWRにおいて、何らかの原因で核分裂反応が増大すると、それに伴って発生する熱エネルギーも増大する。BWRの冷却材は原子炉内で沸騰しているので、増大する熱エネルギーに比例して冷却材中の蒸気の泡(ボイド)の量も増えてゆく。これは結果として冷却材の密度を低下させるが、軽水炉の冷却材は減速材でもあるため、冷却材の密度が減ると減速される中性子が少なくなり、そのため核分裂反応が減少していく。逆に核分裂反応が減少すると熱エネルギーが減って蒸気泡が減り、減速される中性子量が増えていくため、核分裂反応が増えていく。このような現象は負の反応度係数によるフィードバックといい、BWR固有の自己制御性であり、核分裂反応の極端な増減を自ら抑えている。
BWRでは、この自己制御性を利用して原子炉出力の短期的な制御を行っている。すなわち原子炉出力を上げたい時は冷却材再循環ポンプの出力を上げる。すると原子炉内を循環する冷却材の流量が増え、運び出される熱量が多くなる結果として蒸気泡の量が少なくなり、原子炉出力が上昇する。逆に原子炉出力を下げたい時は再循環ポンプの出力を下げると蒸気泡が多くなって原子炉出力が低下する。
ちなみに、負荷が増えると原子炉の温度が下がり、泡が減るため核分裂が増加するので、負荷追従運転が可能であるが、日本国内では行われていない。
尚、主蒸気隔離弁が誤閉鎖し、主蒸気の流れが遮断され原子炉圧力が急上昇した場合等には蒸気の流出が減るため原子炉圧力が上昇し、ボイドがつぶれて正の反応度が添加され中性子束が上昇する事がある[3]。
しかし、実際の原子炉は、正の反応度係数によるフィードバックの影響を抑制し、最大出力時に主蒸気隔離弁を急閉しても暴走しないよう設計されている[4]。具体的には主蒸気隔離弁が10%位置まで閉鎖されると、原子炉保護系が原子炉の自動停止信号を発し、原子炉がスクラム停止するようになっている[3]。また、主蒸気管のヘッダーにこの急な圧力上昇を防ぐため逃し安全弁が数多く取り付けられている。
BWRの構成要素
改良
日本は大型化を目指すためBWRを改良して「改良型沸騰水型軽水炉」(Advanced BWR) を製作した。
- 東芝、日立GEニュークリア・エナジー(日立製作所とゼネラル・エレクトリック(GE)両社の原子力事業統合会社)
アメリカ、ドイツは単純化を目指すためBWRを改良して「単純型沸騰軽水冷却水炉」(Simplified BWR) を設計した。
日本の改良点
- インターナルポンプ…これは、以前より欧州のBWRで採用されている。
- 改良型制御棒駆動(水圧駆動→水圧+電動駆動)…これも以前より欧州のBWRで採用されている。
- 上記の2設備については、以前より欧州のBWRで採用されており、ABWRでは単にこれらを組み合わせただけである。
- 主蒸気流量制限器
- 非常用炉心冷却装置 (ECCS)
- 鉄筋コンクリート製原子炉格納容器
- タービンの大型化
- 湿分分離加熱器
- デジタル技術及び新型中央制御盤
- 燃料に全てMOX燃料が使用できる
米国の改良点
日本の成果
日本にあるABWR
- 柏崎刈羽原子力発電所(6・7号機)
- 浜岡原子力発電所(5号機)
- 志賀原子力発電所(2号機)
日本からの輸出
- 台湾世論を二分する反対運動の中で台湾へ(台湾第四原子力発電所)[5]
当初2004年7月運転開始予定だったが何度も延期。2012年開始を目指していたが、福島第一原子力発電所事故を受け安全性を再確認することとなり、さらに遅れる見通し[6]
脚注
- ↑ 参考文献『放射線と放射能』198ページ
- ↑ 参考文献『わかりやすい放射線物理学』149ページ
- ↑ 3.0 3.1 ATOMICA 運転時の異常な過渡変化 - 2011年3月28日閲覧
- ↑ 日刊工業新聞社『原子炉の暴走 ―SL-1からチェルノブイリまで―』(石川迪夫 著) ISBN 4-526-03845-8
- ↑ 風媒社『台湾への原発輸出』(伊藤孝司 著) ISBN 978-4833154017
- ↑ 「稼働中原発6基順次廃炉の方針」『毎日新聞』 2011年5月24日朝刊13版8面
参考文献
- 多田順一郎 『わかりやすい放射線物理学』オーム社 1997.12.20 ISBN4-274-13123-8
- 安斎育郎 『放射線と放射能』ナツメ社 2007.2.14 ISBN978-4-8163-4255-4
関連項目
外部リンク
- 沸騰水型軽水炉(BWR)のしくみ - 東北電力
- 沸騰水型原子力発電所のしくみ - 北陸電力
- PWR型発電所 - 三菱原子燃料
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