降三世明王

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降三世明王 平安時代の仏像図集『図像抄』(十巻抄)より

降三世明王(ごうざんぜみょうおう、降三世夜叉明王とも呼ばれる)、および勝三世明王は、密教特有の尊格である明王のひとつ。五大明王の一尊としては東方に配される。

降三世のサンスクリット語名とその起源

降三世はサンスクリット語で、トライローキャ・ヴィジャヤ(三界の勝利者 Trailokyavijaya)といい、正確には「三千世界の支配者シヴァを倒した勝利者」の意味。

経典によっては、そのまま、孫婆明王(そんば みょうおう)とも、後期密教の十忿怒尊ではシュンバ・ラージャ (Śumbharāja)とも呼ばれる。 その成立は、古代インド神話に登場するシュンバ(Śumbha)、ニシュンバ (Niśumbha) というアスラの兄弟に関係し、密教の確立とともに仏教に包括された仏尊である。

同体とされる勝三世明王は、降三世と起源を同じくするものの、「一面二臂タイプのトライローキャヴィジャヤ」として近年インドでも出土しており、ヴァジュラ・フーンカーラ菩薩(Vajrahūṃkāra)とも言われる。

曼荼羅における降三世・勝三世(シュンバとニシュンバ)

降三世明王勝三世明王の2尊は胎蔵界曼荼羅に、孫婆菩薩爾孫婆菩薩の2尊としては金剛界曼荼羅に小さく登場する。

その際は2尊とも柔和な童子形である。

金剛界曼荼羅のブロックである「会」に、その名を冠した降三世会と降三世三昧耶会があり、何故か、明王として唯一、大円輪の中に登場する。

インド神話・仏教説話のシュンバ・ニシュンバ

インド神話において、アスラの兄弟シュンバニシュンバとは、殺戮者という意味である。シュンバとニシュンバはあらゆる地上の富を持っていた。シュンバ・ニシュンバはいったん世界を征服しアスラ王となった。ある日部下のチャンダとムンダがガンジス河でアムビカーという女性を見て恋に落ち結婚したいことをシュンバに告げた。シュンバはさっそくアムビカーのところへ行き部下のためにと結婚を迫った。アムビカーは「戦いにおいて自分に打ち勝った者だけが私の妻になる資格がある」と告げた。そしてなんとアムビカーの正体はマヒシャースラアスラ王を倒したかの宿敵女神ドゥルガーであった。

こうして天界は再び戦争に陥った。シュンバ・ニシュンバは尖兵のチャンダを差し向けるなどしてテーヴァ神族を圧倒したが、ドゥルガーはさらに黒き殺戮の女神カーリー(迦利)に化身し兄弟王とその軍勢を滅ぼした。

しかし、仏教の説話では、仏の教えに従わない神々の王大自在天(シヴァ)と、その神妃、烏摩妃(パールヴァティー)を降伏させるため金剛手菩薩(金剛薩埵)は、アスラの兄弟シュンバ・ニシュンバの真言を用い、アスラとしての姿をとったとされる。

その尊格や姿形

明王は人間界と仏の世界を隔てる天界の「火生三昧」(かしょうざんまい)と呼ばれる炎の世界に住し、人間界の煩悩が仏の世界へ波及しないよう聖なる炎によって煩悩や欲望を焼き尽くす反面、仏の教えを素直に信じない民衆を何としても救わんとする慈悲の怒りを以て人々を目覚めさせようとする仏である。三世界の主を、或いは三世を三毒と解釈してこれを降伏するから降三世という。

シヴァは妻のパールヴァティーと共に「過去・現在・未来の三つの世界を収める神」としてヒンドゥー教の最高神として崇拝されていたが、大日如来はヒンドゥー教世界を救うためにシヴァの改宗を求めるべく、配下の降三世明王を派遣し(或いは大日如来自らが降三世明王に変化して直接出向いたとも伝えられる)、頑強難化のシヴァとパールヴァティーを遂に超力によって降伏し、仏教へと改宗させた。降三世明王の名はすなわち「三つの世界を収めたシヴァを下した明王」という意味なのである。

降三世明王は三面八臂の姿をしており、二本の手で印象的な「降三世印」を結び、残りの手は弓矢や矛などの武器を構える勇壮な姿であるが、何より両足で地に倒れた大自在天(シヴァ)と妻烏摩妃(パールヴァティー)を踏みつけているのが最大の特徴である。誰かを踏みつけた仏と言えば四天王がそれぞれ邪鬼を踏みつけているが、降三世明王は「異教とはいえ神を倒して踏みつけている」という点でひと際異彩を放つ仏である。

真言

「オン・ソンバ・ニソンバ・ウン・バザラ・ウン・ハッタ」(oṃ śumbha niśumbha hūṃ vajra hūṃ phat)

参考文献

  • 菅沼晃編 「インド神話伝説辞典」東京堂出版 1985,p183.

関連項目

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