分子動力学法
テンプレート:出典の明記 分子動力学法(ぶんしどうりきがくほう、英語:molecular dynamics method、MD法、単にMD、古典MDとも言う):2体(あるいはそれ以上)の原子間ポテンシャルの下に、古典力学におけるニュートン方程式を解いて、系の静的、動的安定構造や、動的過程(ダイナミクス)を解析する手法。
いろいろなアンサンブル(統計集団)の計算が可能である:定温、定圧、定温・定圧、定エネルギー、定積、定ケミカルポテンシャル、グランドカノニカル。また、結合長や位置の固定など様々な拘束条件を付加することも可能である。計算対象は、バルク、表面、界面、クラスターなど多様な系を扱える。
扱える系の規模としては、最大で数億原子からなる系の計算例がある。通常の計算規模は数百から数万原子(分子、粒子)程度である。
通常、ポテンシャル関数は、原子-原子の二体ポテンシャルを組み合わせて表現し、これを計算中に変更しない。そのため化学反応のように、原子間結合の生成・開裂を表現するには、何らかの追加の工夫が必要となる。また、ポテンシャルは経験的・半経験的なパラメータから求められる。
こうしたポテンシャル面の精度の問題を回避するため、ポテンシャル面を電子状態の第一原理計算から求める手法もある。このような方法は、第一原理分子動力学法(量子(ab initio)分子動力学法)と呼ばれる。この方法では、ポテンシャル面がより正確なものになるが、扱える原子数は格段に減る(スーパーコンピュータを利用しても、最大で約千個程度)。
また第一原理分子動力学法の多くは、電子状態が常に基底状態であることを前提としているものが多く、電子励起状態や電子状態間の非断熱遷移を含む現象の記述は、こうした手法であってもなお困難である。
分子動力学法の簡単な歴史
- 1957年:剛体球の分子動力学法(Alder and Wainwright←最初のMD)
- 1964年:質点系への拡張(Rahman)
- 1971年:剛体系への拡張(Rahman and Stillinger)
- 1977年:拘束系への拡張(Rychaert等)
- 1980年:定圧条件の導入(Andersenの方法、Parrinello-Rahman法)
- 1983年:非平衡系への拡張(Gillan and Dixon)
- 1984年:定温条件の導入(能勢‐フーバーの方法)
- 1985年:第一原理分子動力学法(→カー・パリネロ法)
- 1991年:大正準集団(集合)系への拡張(Cagin and Pettit)